機械設計・製造の現場で欠かせない知識の一つが「寸法公差」です。
「公差ってどういう意味?」「はめあいの公差等級ってどう決めるの?」「幾何公差と寸法公差はどう違うの?」という疑問を持つ方に向けて、この記事では寸法公差の基礎から実務的な応用まで詳しく解説します。
この記事では、寸法公差の定義・公差等級(ISO・JIS規格)・はめあいの種類・幾何公差との違い・品質保証での活用方法まで、わかりやすく実践的に解説していきます。
機械設計・製造技術・品質管理・調達業務に携わるすべての方に役立つ内容をまとめています。
寸法公差を正しく理解し活用することで、機能的で信頼性の高い製品設計と品質保証が実現できます。
寸法公差とは何か?定義と基本概念を解説
それではまず、寸法公差の定義と基本概念について解説していきます。
寸法公差(dimensional tolerance)とは「設計上の基準寸法(nominal dimension)に対して許容できる寸法のずれの範囲」のことです。
寸法公差の基本用語
① 基準寸法(nominal size):設計上の理想的な寸法(例:φ50mm)
② 上の許容寸法(maximum limit):許容される最大の寸法値
③ 下の許容寸法(minimum limit):許容される最小の寸法値
④ 上の許容差(upper deviation):上の許容寸法 – 基準寸法
⑤ 下の許容差(lower deviation):下の許容寸法 – 基準寸法
⑥ 公差(tolerance):上の許容寸法 – 下の許容寸法(常に正の値)
⑦ 公差域(tolerance zone):許容される寸法の範囲
具体的な例で理解しましょう。
「φ50 +0.025/0(プラス0.025・マイナス0)」という公差表記の場合、基準寸法は50mm・上の許容差は+0.025mm・下の許容差は0mmで、許容される寸法範囲は50.000〜50.025mmとなります。
この場合の公差(許容差の幅)は0.025mmです。
なぜ公差が必要かというと、いかに精密な加工機械を使っても完全に同じ寸法の部品を作ることは不可能であり、加工に必ず誤差が生じるためです。
その誤差がどの範囲内であれば機能的に問題ないかを設計段階で決めたものが寸法公差です。
寸法公差の表記方法の読み方
図面上の寸法公差の表記方法にはいくつかのパターンがあります。
| 表記例 | 意味 | 許容寸法の範囲 |
|---|---|---|
| 50 ±0.1 | 基準50mm、±0.1mmの公差 | 49.9〜50.1mm |
| 50 +0.05/0 | 基準50mm、プラス方向のみ公差 | 50.000〜50.050mm |
| 50 0/-0.05 | 基準50mm、マイナス方向のみ公差 | 49.950〜50.000mm |
| 50 +0.025/-0.015 | 基準50mm、プラスマイナス非対称 | 49.985〜50.025mm |
| φ50H7 | 基準φ50mm、穴の公差クラスH7 | ISO/JIS規格の公差等級による |
公差の大きさと製造コストの関係
公差を小さく(精度を高く)設定するほど製造コストが上がります。
公差と製造コストの関係は一般的に指数関数的であり、公差を10分の1にすると製造コストが数倍〜数十倍になることもあります。
設計者は「機能的に必要な最小の精度」を見極めて公差を設定することが、コストと品質のバランスをとる上で非常に重要です。
「不必要に厳しい公差を指定しない」という原則は、機械設計の基本的なコスト意識として広く共有されています。
ISO・JISの公差等級(IT等級)の仕組み
続いては、国際規格ISO・日本規格JISで定められた公差等級(IT等級)の仕組みを確認していきます。
公差等級を理解することで、標準化された公差の指定と管理が可能になります。
IT(International Tolerance)等級とは何か
IT等級(ITグレード)とは、ISO 286・JIS B 0401で規定された寸法公差の等級体系です。
IT01・IT0・IT1〜IT18の合計20段階があり、数字が小さいほど精度が高く(公差が小さく)、数字が大きいほど精度が低い(公差が大きい)ことを示します。
| IT等級の範囲 | 精度レベル | 主な用途 |
|---|---|---|
| IT01〜IT4 | 超精密 | 測定器・ゲージの製造 |
| IT5〜IT7 | 精密 | 精密機械・軸受け・はめあい部品 |
| IT8〜IT11 | 一般機械精度 | 一般的な機械部品・はめあい |
| IT12〜IT14 | 粗い精度 | 板金・プレス・鋳造品 |
| IT15〜IT18 | 極めて粗い精度 | 構造材・建設部材 |
IT等級の公差値の計算方法
IT等級の公差値は基準寸法の区分ごとに決められており、JIS B 0401の規格表に詳細が記載されています。
IT等級の公差値は「i(基本公差単位)」という概念を使って以下の式で計算されます。
基本公差単位 i の計算式(基準寸法D(mm)に対して)
i = 0.45 × D^(1/3) + 0.001 × D(μm単位)
Dは寸法区分の代表値(幾何平均)
IT等級ごとの倍数:
IT5 = 7i、IT6 = 10i、IT7 = 16i、IT8 = 25i、IT9 = 40i、IT10 = 64i
計算例:基準寸法φ50mm(寸法区分30〜50mmの代表値D=√(30×50)≈38.7mm)
i = 0.45 × 38.7^(1/3) + 0.001 × 38.7 ≈ 0.45 × 3.38 + 0.0387 ≈ 1.56μm
IT7の公差 = 16i = 16 × 1.56 ≈ 25μm = 0.025mm(概略値)
はめあい:軸と穴の公差の組み合わせ
続いては、機械設計で最も重要な寸法公差の応用である「はめあい(fit)」について確認していきます。
はめあいとは「互いに組み合わさる軸と穴の公差の組み合わせ」であり、組み合わせた際の隙間または締め代を設計的に決定するものです。
はめあいの3種類:すきまばめ・中間ばめ・しまりばめ
はめあいには組み合わせ後の状態によって3種類があります。
はめあいの3種類
① すきまばめ(clearance fit)
軸の寸法が常に穴の寸法より小さく、必ず隙間(すきま)が生じる組み合わせ。
回転・摺動する軸受け・スライド機構に使用。
② 中間ばめ(transition fit)
軸と穴の寸法関係によってすきまになる場合もしまりになる場合もある組み合わせ。
繰り返し着脱が必要で位置精度が要求される場面に使用。
③ しまりばめ(interference fit)
軸の寸法が常に穴の寸法より大きく、必ず締め代(しめしろ)が生じる組み合わせ。
圧入・焼きばめによる永続的な固定に使用。
穴基準はめあいと軸基準はめあい
JIS B 0401のはめあい方式には「穴基準はめあい」と「軸基準はめあい」の2種類があります。
穴基準はめあいは穴の下の許容差を0(下の許容差 = 0)に固定し、軸の公差クラスを変えることで各種はめあいを実現する方式です。
穴の加工(リーマ仕上げ・内径研削など)は外径加工より工具の種類が少ないため、穴基準が一般的に採用されます。
軸基準はめあいは軸の上の許容差を0に固定する方式で、市販品の精密軸(研削軸・転がり軸受けの外輪)に穴を合わせる場合などに使われます。
| はめあいの種類 | 穴の公差クラス例 | 軸の公差クラス例 | 用途 |
|---|---|---|---|
| すきまばめ(緩い) | H7 | f6, g6 | 回転軸・摺動部 |
| すきまばめ(普通) | H7 | h6 | 精密摺動・位置決め |
| 中間ばめ | H7 | js6, k6, m6 | キー溝・精密位置決め |
| しまりばめ(軽い) | H7 | n6, p6 | 軽圧入・ピン固定 |
| しまりばめ(強い) | H7 | r6, s6 | 圧入・焼きばめ |
幾何公差(形状・位置公差)と寸法公差の違い
続いては、寸法公差とともに機械設計で重要な「幾何公差(geometrical tolerances)」との違いと関係を確認していきます。
幾何公差の種類と記号
幾何公差は「形状の偏差(曲がり・傾き・ずれなど)」を制御するための公差で、ISO 1101・JIS B 0021で規定されています。
| 幾何公差の種類 | 記号 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| 真直度 | — | 直線の直しさ | 軸の曲がり |
| 平面度 | □ | 面の平らさ | 取り付け面の歪み |
| 真円度 | ○ | 円形断面の丸さ | 軸・穴の断面 |
| 円筒度 | ⌭ | 円筒形状の正確さ | シリンダーボア |
| 平行度 | ∥ | 基準面との平行性 | 取り付け基準面 |
| 直角度 | ⊥ | 基準面との直角性 | 組み立て基準 |
| 位置度 | ⊕ | 指定位置との正確さ | 穴位置・ボルト穴 |
| 振れ(全振れ) | ↗ | 回転時の振れ量 | 回転軸・プーリー |
寸法公差だけでは制御できない形状のズレ
寸法公差はある断面の寸法のズレを制御しますが、形状そのものの偏差(真円でない・曲がっている・傾いているなど)は制御できません。
たとえば「φ50 ±0.025」という公差を満たしながら、実際の断面が楕円形になっている場合も寸法公差上は合格になります。
しかし回転機械の軸受け部など、真円度が重要な部位では「真円度 0.01」のような幾何公差を追加指定することで、形状の偏差も管理します。
寸法公差と幾何公差を組み合わせて使うことで、製品の機能を確保するための完全な公差指定が実現します。
品質保証における寸法公差の管理
続いては、製造・品質管理の実務での寸法公差の管理方法を確認していきます。
設計で決めた公差を確実に管理することが、製品の品質保証の根幹です。
工程能力指数(Cp・Cpk)による公差管理
製造工程が設計公差を安定して満たせるかを評価する指標として「工程能力指数(Cp・Cpk)」があります。
工程能力指数の計算
Cp(工程能力指数)= 公差幅 / (6σ) = (USL – LSL) / (6σ)
USL:上の許容限界、LSL:下の許容限界、σ:工程の標準偏差
Cpk(片寄りを考慮した工程能力指数)
Cpk = min[(USL – μ) / (3σ), (μ – LSL) / (3σ)]
μ:工程の平均値
工程能力の評価基準
Cp(Cpk)≥ 1.67:非常に優れた工程(不良率 0.6ppm以下)
1.33 ≤ Cp < 1.67:良好な工程(不良率 64ppm以下)
1.00 ≤ Cp < 1.33:工程改善が望ましい
Cp < 1.00:公差を満たせない不良品が発生する工程
測定システム解析(MSA)と公差管理
寸法公差の管理において、測定システム自体の誤差(測定不確かさ)を評価する「測定システム解析(MSA:Measurement System Analysis)」も重要です。
測定誤差(ゲージR&R:繰り返し性と再現性)が公差幅の10%以下であれば良好な測定システムとされており、公差が厳しいほど高精度な測定器が必要になります。
公差 0.01mmの管理には分解能 0.001mm(1μm)以上の測定器が必要であり、適切な測定器の選定が品質保証の基盤となります。
まとめ
この記事では、寸法公差の定義・公差の表記方法・IT等級の仕組み・はめあいの種類・幾何公差との違い・工程能力指数による品質管理まで幅広く解説しました。
寸法公差の核心は「基準寸法に対する許容差の範囲を設計意図に基づいて設定し、製造工程でその範囲を確実に守ることで機能的な製品を安定供給すること」です。
はめあいではH7/g6(すきまばめ)・H7/k6(中間ばめ)・H7/p6(しまりばめ)などの標準的な公差クラスの組み合わせを覚えておくことで、実務での図面読みと設計が大きくスムーズになります。
工程能力指数Cpk≥1.33を目標とした工程管理と適切な測定システムの運用が、高品質な機械製品の安定製造を支えます。
ぜひこの記事の知識を設計・製造・品質管理の実務に積極的に役立ててください。