ラダー図を学んだり、実際のPLC制御プログラムを設計・検証したりするためには、適切なツールやソフトウェアを使うことが非常に重要です。
しかし「どのツールを選べばよいか」「無料で使えるものはあるのか」「メーカーの純正ソフトと学習用ツールはどう違うのか」という疑問を持つ方は多いでしょう。
近年ではウェブブラウザ上でラダー図を作成・シミュレーションできるオンラインツールや、学習に特化した無料ソフトウェアも充実してきており、PLCを所持していなくてもラダー図の学習・設計・検証が可能な環境が整っています。
この記事では、ラダー図作成に使えるサイト・ツール・無料ソフトについて、メーカー純正ソフト・汎用ラダー作成ツール・オンラインシミュレーター・学習環境まで体系的に解説していきます。
ラダー図作成ツールは「メーカー純正ソフト」と「汎用・学習用ツール」の2種類に大別される!
それではまず、ラダー図作成ツールの全体像と種類の分類について解説していきます。
ラダー図作成ツールの全体的な分類
ラダー図の作成・編集・シミュレーションに使えるツールは大きく以下の3カテゴリーに分類されます。
| カテゴリー | 代表的なツール | 特徴 | 費用 |
|---|---|---|---|
| PLCメーカー純正ソフト | GX Works(三菱)・Sysmac Studio(オムロン)・TIA Portal(シーメンス) | 対応PLCへの直接書き込み・高機能・メーカー公式サポート | 有料(一部無料版あり) |
| 汎用ラダー作成・シミュレーションツール | CODESYS・OpenPLC・Logicator等 | 特定メーカーに依存しない・IEC 61131-3準拠・学習向け | 無料〜有料 |
| オンライン・ウェブツール | ladder.io・PLC Fiddle等 | インストール不要・ブラウザで即利用・学習・共有に便利 | 無料(機能制限あり) |
実際のPLC機器を持っている場合はメーカー純正ソフトが必須ですが、ラダー図の学習や概念の理解を目的とする場合は汎用ツールやオンラインツールが非常に効果的です。
特に初学者にとっては「実機なしでシミュレーションできるツール」を選ぶことで、PLCを購入する前にラダー図の書き方・動作原理を安全に体験できるという大きなメリットがあります。
ツール選びの基準と目的別の選択指針
どのツールを選ぶかは「使用目的」によって決まります。
学習・入門目的では実機への書き込みは不要なため、無料のオンラインツールや汎用シミュレーターが最適です。
特定のPLCメーカーの実機を使う実務目的では、そのメーカーの純正プログラミングソフトが必須です。
資格・検定試験の学習目的では試験で使用される言語仕様(IEC 61131-3)に準拠したツールを使うことで実際の試験環境に近い練習ができます。
研究・教育目的では複数のメーカーに対応し、多言語(ラダー・ST・FBDなど)での実験ができるCODESYSのような汎用ツールが適しています。
オペレーティングシステムと動作環境の確認
ラダー図作成ツールを選ぶ際は動作するオペレーティングシステムの確認も重要です。
多くのPLCメーカー純正ソフトはWindows専用であり、MacOSやLinuxでは動作しないものがほとんどです。
一方CODESYSやOpenPLCはWindows・MacOS・Linuxの複数プラットフォームに対応しており、Mac環境でのラダー図学習に適しています。
オンラインツールはウェブブラウザ上で動作するためOS依存がなく、ChromeやFirefox等の対応ブラウザさえあれば環境を選ばずに使用できます。
主要なPLCメーカー純正プログラミングソフトの詳細
続いては、主要なPLCメーカーが提供するラダー図作成ソフトウェアの特徴について確認していきます。
三菱電機のGX Works(ジーエックスワークス)
三菱電機のPLC(MELSECシリーズ)向けプログラミングソフトウェア「GX Works」は国内で最も広く使われているPLCプログラミング環境のひとつです。
現行の最新版は「GX Works3」であり、三菱電機のiQシリーズPLC(iQ-R・iQ-F・iQ-Lシリーズ)に対応しています。
GX Works3の主な特徴を説明します。
ラダー言語・ST・SFC・FBD/LDの4種類のプログラミング言語に対応しており、同一プロジェクト内での混在使用が可能です。
シミュレーション機能(GX Simulator3)がGX Works3に統合されており、実機なしでラダープログラムの動作確認ができます。
ただしGX Works3は有償ソフトウェアであり、購入には相当のコストが必要です。
学習目的で低コストで始めるには「FR Configurator2」など三菱電機の一部の無料ツールや、GX Works2の体験版(機能制限あり)を活用する方法もあります。
オムロンのSysmac Studio(シスマックスタジオ)
オムロンのPLC(NX・NJシリーズ)向けの統合開発環境「Sysmac Studio」はIEC 61131-3への準拠度が高く、ラダー言語・ST・SFC・FBD・ILの全言語に対応しています。
Sysmac StudioはモーションコントロールとPLCシーケンス制御を同一環境で統合管理できることが大きな特長であり、高精度な位置決め制御が必要なシステムにも対応します。
体験版・試用版が提供されており、期間限定での機能制限なしの試用が可能なため、購入前に機能の確認ができます。
シーメンスのTIA Portal(ティアポータル)
シーメンス(Siemens)のSIMATIC PLC向け統合開発環境「TIA Portal(Totally Integrated Automation Portal)」は欧米を中心に広いシェアを持つプラットフォームです。
TIA PortalはPLCプログラミング・HMI設計・インバーター設定・通信設定を単一の環境で統合管理できることが最大の特長です。
TIA Portalには試用版「TIA Portal Trial(V18 TRIAL)」が提供されており、21日間の機能制限なし試用が可能です。
また「STEP 7 MicroWIN SMART」というシーメンスの小型PLC(S7-200 SMART)向けの軽量な開発ツールも提供されており、より小規模な学習環境として利用できます。
無料で使えるラダー図作成ツールとシミュレーター
続いては、無料で利用できるラダー図作成・シミュレーションツールについて確認していきます。
CODESYSの特徴と活用方法
CODESYS(コードシス)は3S-Smart Software Solutions社が開発した産業用PLC向けのIEC 61131-3準拠の統合開発環境であり、PCにインストールして使用するタイプのツールです。
CODESYS Development System(開発環境)は基本機能が無料で提供されており、ラダー言語・ST・FBD・SFC・ILの全IEC 61131-3言語でのプログラミングとシミュレーションが可能です。
CODESYSの大きな特徴は「CODESYSランタイム」と呼ばれるソフトウェアPLCを使って、Windows PC上で実際のPLCのように動作させることができる点です。
これにより実機のPLCなしでも本格的なラダープログラムの動作確認・デバッグが可能となっています。
また多くのPLCメーカー(Beckhoff・B&R・Lenze・Boschrexrothなど)がCODESYSをベースにした開発環境を採用しているため、CODESYSを習得することで複数のメーカーのPLCに応用できるという大きなメリットがあります。
OpenPLC Editorの特徴と活用方法
OpenPLC(オープンPLC)はオープンソースのPLCプロジェクトであり、OpenPLC EditorとOpenPLC Runtimeの2つのコンポーネントから構成されています。
OpenPLC Editorはラダー言語・ST・FBD・SFCに対応した無料のプログラミング環境であり、Windows・MacOS・Linuxのすべてで動作します。
OpenPLC Runtimeは作成したプログラムをRaspberry PiやArduinoなどの安価なシングルボードコンピュータ上で実行できる環境であり、低コストでPLC的な制御システムを構築できます。
教育目的・研究目的・プロトタイプ開発などに非常に適したツールであり、特にPC環境でのラダー図学習・シミュレーション・実験に活用できます。
オンラインツールの特徴と代表的なサービス
ウェブブラウザ上でラダー図を作成・シミュレーションできるオンラインツールは、インストール不要ですぐに使い始められるという大きな利便性を持っています。
代表的なオンラインラダー図ツールの特徴
PLC Fiddle(plcfiddle.com)
特徴:ウェブブラウザ上で動作するラダー図エディターとシミュレーター。基本的な接点・コイル・タイマー・カウンターに対応。作成したラダー図をURLで共有可能。
用途:学習・概念理解・簡単なシミュレーション・共有
費用:無料
ladder.io(またはLadderLogic.io)
特徴:直感的なUIのオンラインラダー図エディター。ドラッグアンドドロップでの回路作成が可能。PNG・PDF形式でのエクスポート機能あり。
用途:ラダー図の図面作成・文書化・教育資料作成
費用:基本機能は無料、高度機能は有料プランあり
その他の学習向けWebツール
特徴:基礎的なAND/OR/NOT/タイマー動作を体験できるシンプルなシミュレーター
用途:初心者向けの最初のラダー図体験
オンラインツールは機能が限定されており実機へのダウンロードはできませんが、学習の入り口として非常に有効です。
各ツールの使い方の基本とシミュレーションの手順
続いては、主要なツールを使ってラダー図を作成・シミュレーションする際の基本的な手順について確認していきます。
CODESYSを使ったラダー図作成の基本手順
CODESYSでラダー図を作成する基本的な手順を説明します。
CODESYSでのラダー図作成手順(概略)
ステップ1:インストールと起動
CODESYS公式サイト(codesys.com)からCODESYS Development Systemをダウンロードしてインストールする
ステップ2:新規プロジェクトの作成
「File」→「New Project」→「Standard project」を選択してプロジェクトを作成。デバイスに「CODESYS Control Win V3(ソフトPLC)」を選択
ステップ3:プログラムの作成
「POUs(プログラム編成ユニット)」内の「PLC_PRG」をダブルクリック。言語選択で「LD(Ladder Diagram)」を選択
ステップ4:ラング(回路)の追加
ラダー図エディター上でツールバーの接点・コイルボタンをクリックして配置。各記号の下の「???」部分をクリックしてデバイス名(変数名)を入力する
ステップ5:変数の宣言
プログラムの上部の変数宣言部分でデバイス名の型を宣言する(BOOL型:ビットデバイス)
ステップ6:シミュレーションの実行
「Build」でコンパイルし「Online」→「Login」でソフトPLCに接続。「Start(Run)」でプログラム実行開始。変数をON/OFFして動作を確認する
PLC Fiddleを使ったオンラインシミュレーションの手順
PLC Fiddleはインストール不要でブラウザ上で即座にラダー図を試せる便利なツールです。
使い方の基本手順を説明します。
ブラウザでPLC Fiddleのウェブサイト(plcfiddle.com)にアクセスします。
画面左側の「Toolbox(ツールボックス)」から接点やコイルの記号をドラッグアンドドロップしてラダー図を組み立てます。
接点・コイルをクリックしてデバイス名(変数名)を入力します。
「Run(実行)」ボタンをクリックしてシミュレーションを開始します。
左側のデバイス一覧でデバイスのON/OFFを切り替えて、ラダー図の動作を確認します。
作成したラダー図はURLとして保存・共有できるため、学習仲間との回路共有や質問の際の回路添付に便利です。
GX Worksのシミュレーション機能の活用方法
三菱電機のGX Works3を使っている場合は、統合されたシミュレーション機能(GX Simulator3)を活用することでPLC実機なしでのデバッグが可能です。
GX Works3のシミュレーション手順の概略を説明します。
ラダープログラムを作成した後「Debug」タブの「Start Simulation」を選択するとシミュレーターが起動します。
シミュレーター起動後はラダー図上に接点・コイルのON/OFF状態がリアルタイムで表示されます。
「Device/Buffer Memory Batch Monitor」を使って特定のデバイスの状態を強制的にON/OFFして動作確認ができます。
タイマー・カウンターの動作・自己保持の動作・インターロックの動作など複雑なロジックの検証もシミュレーションで可能です。
学習に最適なツールの選び方と活用のコツ
続いては、学習目的でツールを選ぶ際の基準と効果的な活用方法について確認していきます。
初心者に最適なツールの選択基準
ラダー図を初めて学ぶ初心者に最も適したツールの選択基準を説明します。
第一の基準は「すぐに始められること(インストールの手間が少ないか無料のオンラインツールか)」です。
PLC Fiddleのようなオンラインツールはアクセスするだけで即座に使えるため、最初の入門に最適です。
第二の基準は「シミュレーション機能があること」です。
書いたラダー図が実際にどのように動くかを確認できなければ、学習の効果が半減します。
第三の基準は「日本語の学習資料・チュートリアルが豊富なこと」です。
三菱電機やオムロンの純正ソフトは日本語の教材・YouTube動画・書籍が充実しているため、独学での習得が比較的容易です。
ツールを使った効果的な学習方法
ラダー図作成ツールを使って効率よく学習するための実践的な方法を紹介します。
ラダー図ツールを使った効果的な学習ステップです。
ステップ1(最初の1週間):オンラインツール(PLC Fiddleなど)でAND・OR・NOT・自己保持の4つの基本回路を実際に組んでシミュレーションで動作を確認する
ステップ2(2〜3週目):タイマーとカウンターを使った回路を作成し、フリッカー回路・遅延起動回路・カウント停止回路をシミュレーションで確認する
ステップ3(1か月目以降):CODESYSやOpenPLC Editorなどの本格的なツールをインストールして、より複雑な工程制御(3工程シーケンス・インターロック付き回路)を設計する
ステップ4(目標が実機の場合):使用するメーカーの純正ソフト(GX Works・Sysmac Studioなど)の試用版または体験版を入手して、実機に近い環境での設計・デバッグを体験する
各ステップで「設計→シミュレーション→問題修正」のサイクルを繰り返すことが最速の習熟法です
ツール活用における注意点と落とし穴
ラダー図作成ツールを使う際の注意点と避けるべき落とし穴を説明します。
汎用ツール(CODESYSなど)とメーカー純正ソフトでは記号の表記・命令名・デバイスの体系が異なる場合があります。
汎用ツールで学んだ後に特定のメーカーの純正ソフトに移行する際は、そのメーカー固有の仕様を再学習する必要があります。
シミュレーションは完璧ではなく、実機特有の動作(スキャンタイムの変動・ノイズの影響・物理的な入出力の応答遅れなど)はシミュレーションでは再現されない場合があります。
シミュレーションで正常に動作しても実機では問題が生じることがあるため、最終的な確認は必ず実機で行う必要があります。
まとめ
ラダー図作成ツールはメーカー純正ソフト・汎用ツール・オンラインツールの3種類に大別されており、目的に応じて適切なものを選択することが重要です。
初学者にはPLC Fiddleなどのオンラインツールが即座に使えて学習の入り口として最適であり、より本格的な学習にはCODESYSやOpenPLC Editorなどの無料汎用ツールが有効です。
実際のPLC機器を使う実務目的では三菱電機のGX Works・オムロンのSysmac Studio・シーメンスのTIA Portalなどのメーカー純正ソフトが必須となりますが、試用版・体験版を活用することで購入前に学習を進めることができます。
ツールの活用では「設計→シミュレーション→問題修正」のサイクルを繰り返すことが最速の習熟法であり、基本回路から始めて段階的に複雑な回路へと進む学習計画が効果的です。
適切なツールを選んで積極的に手を動かすことが、ラダー図のスキルを着実に高めていく最善の方法となるでしょう。