機械部品や建築構造物を安全に設計するうえで、材料がどこまでの力に耐えられるかを判断する基準が許容応力です。
強度が高い材料を選べばよいように見えても、実際には荷重の種類、材料のばらつき、使用環境、加工状態などを考慮しなければ安全な設計にはつながりません。
この記事では、許容応力の意味から計算方法、安全率の決め方、単位、材料別の目安までをわかりやすく解説します。
許容応力の意味と基本的な求め方

それではまず許容応力の意味と、設計で用いる基本的な求め方について解説していきます。
許容応力と材料強度の違い
許容応力とは、部材が通常の使用条件で受けてもよいと判断される応力の上限値です。
材料試験で得られる引張強さや降伏点そのものではなく、そこから安全率を考慮して低く設定した数値を使います。
たとえば鋼材に大きな引張強さがあったとしても、設計上はその限界まで使い切りません。
荷重の変動、寸法誤差、腐食、傷、温度変化、想定外の衝撃などがあるためです。
許容応力は材料の限界値ではなく、安全に使うための設計用の基準値と考えると理解しやすいでしょう。
この値を超えないように断面積や板厚、ボルト径、軸径を決めることで、破損や大きな変形のリスクを抑えられます。
応力を求める基本式
応力は、部材に加わる力を受ける面積で割ることで求めます。
応力 = 荷重 ÷ 断面積
引張応力 σ = F ÷ A
σは応力、Fは荷重、Aは荷重を受ける断面積を表します。
たとえば断面積が100平方ミリメートルの丸棒に、10,000ニュートンの引張荷重がかかる場合を考えます。
10,000を100で割ると、引張応力は100ニュートン毎平方ミリメートルです。
この値が採用する材料の許容引張応力以下であれば、基本的には断面強度を満たしていると判断できます。
ただし、穴やねじ部、段差、溶接部がある場合は応力が一様に分布しないため、単純な断面積計算だけで終わらせないことが重要です。
許容応力を使う設計の流れ
設計では、最初に部材へ加わる荷重を整理します。
自重、積載荷重、締結力、風圧、振動、回転による遠心力、温度による変形などを洗い出す工程です。
次に、引張、圧縮、せん断、曲げ、ねじりのうち、どの応力が支配的になるかを確認します。
求めた発生応力と許容応力を比較し、発生応力が低ければ設計上の余裕があります。
設計の基本は、発生応力が許容応力を超えないことです。
ただし、許容応力にわずかに収まるだけでは、製作誤差や長期使用による変化への余裕が不足する場合があります。
余裕が小さい場合は、材料を変更するだけでなく、断面積を増やす、荷重経路を見直す、補強リブを追加するなどの方法も検討します。
許容応力の計算式と安全率
続いては許容応力の計算式と、安全率を反映する考え方を確認していきます。
降伏点から求める計算方法
延性材料では、破断より先に大きな塑性変形が始まる降伏を重視することが一般的です。
鉄鋼材料やアルミニウム合金などでは、降伏点または耐力を基準に許容応力を設定します。
許容応力 = 降伏点 または 耐力 ÷ 安全率
たとえば降伏点が240ニュートン毎平方ミリメートルで、安全率を2とする場合の許容応力は120ニュートン毎平方ミリメートルです。
この方法では、部材が恒久的に変形し始める領域に入らないよう、余裕を持って使用できます。
繰り返し使う機械部品では、破断よりも先に起きる塑性変形が性能低下につながることも少なくありません。
ただし、材料規格の強度値は板厚や熱処理状態によって異なるため、必ず対象材料の規格表やミルシートを確認しましょう。
引張強さから求める計算方法
脆性材料では、降伏が明確に現れず、破断強さを基準にする場合があります。
鋳鉄、セラミックス、一部の樹脂材料などでは、引張強さや圧縮強さを安全率で割って許容応力を定める考え方が用いられます。
許容応力 = 引張強さ ÷ 安全率
引張強さが300ニュートン毎平方ミリメートルで、安全率を3とする場合の許容応力は100ニュートン毎平方ミリメートルです。
脆性材料は、見かけ上は強くても、傷や欠けを起点として突然破壊するおそれがあります。
そのため、延性材料より大きめの安全率を設定することが多い傾向です。
表面状態や切欠きの有無によって実際の強度が変わるため、カタログ値だけで判断せず、形状係数も含めて確認する必要があります。
安全率を設定する判断基準
安全率は、材料強度をどれだけ余裕を持って使うかを示す数値です。
安全率が2であれば、基準強度の半分程度までを許容範囲として扱うイメージになります。
| 使用条件 | 安全率の考え方 | 確認したい要素 |
|---|---|---|
| 荷重が安定している静的部材 | 比較的小さめに設定しやすい | 材料証明、寸法精度、荷重の確実性 |
| 人が近づく設備や支持部材 | 余裕を大きく取る | 落下、倒壊、第三者への影響 |
| 振動や繰り返し荷重がある軸 | 疲労を考慮して大きく取る | 応力振幅、表面粗さ、応力集中 |
| 高温や腐食環境の部材 | 環境劣化分を見込む | クリープ、酸化、腐食減肉 |
| 品質のばらつきが大きい製品 | 不確実性を反映する | 加工誤差、組立誤差、検査方法 |
安全率に万能の正解はなく、事故時の影響と不確実性を踏まえて決めることが大切です。
法規、業界規格、社内基準がある場合は、それらを優先して設計してください。
応力の種類と計算時の注意点
続いては許容応力を比較する前に押さえたい、応力の種類と計算上の注意点を確認していきます。
引張応力と圧縮応力
引張応力は、材料を両側へ引っ張るときに発生する応力です。
ボルト、吊り材、ワイヤー、タイロッドなどでは、引張応力が主な検討対象になります。
圧縮応力は、材料を押しつぶす方向に力がかかるときの応力です。
柱、支柱、スペーサー、プレス部品などでは圧縮応力を確認します。
短く太い部材なら圧縮強度で判断しやすい一方、細長い部材では座屈が先に起きる可能性があります。
圧縮部材は材料の強さだけでなく、長さと形状による座屈にも注意が必要です。
せん断応力とボルト接合
せん断応力は、部材をはさみで切るように、面に沿ってずらす力で発生します。
ボルト接合部、ピン、キー、リベット、パンチ加工部などで重要になる応力です。
せん断応力も荷重をせん断面積で割って求めますが、ボルトではねじ山部分を断面として使うのか、軸部を使うのかで結果が変わります。
また、ボルトが一面せん断か二面せん断かによって有効断面積も異なります。
接合部では、ボルト自身のせん断だけでなく、板の面圧、引張破断、縁端破断も併せて検討しましょう。
複数本のボルトで荷重を受ける場合も、すべてに均等に荷重がかかるとは限りません。
曲げ応力とねじり応力
梁やフレーム、シャフトには曲げ応力が発生します。
曲げモーメントが大きいほど、また断面係数が小さいほど、曲げ応力は高くなります。
回転軸やドライバー軸では、ねじりモーメントによるせん断応力も重要です。
実際の軸では曲げとねじりが同時に発生することが多く、単独の許容応力比較では不十分な場合があります。
複数の荷重が重なる部材では、最大応力だけを見るのではなく、組み合わせ荷重として評価することが必要です。
特に回転軸、アーム、偏心機構、搬送装置の支持部では注意しましょう。
応力集中が起こりやすい段差、キー溝、穴、ねじ部では、計算値より実際の局所応力が高くなることがあります。
許容応力の単位と材料別の目安
続いては許容応力の単位と、材料ごとの数値を確認するときの見方について解説していきます。
メガパスカルとニュートン毎平方ミリメートル
許容応力の単位には、メガパスカルとニュートン毎平方ミリメートルがよく使われます。
この二つは数値が同じになるため、単位換算で混乱しにくい関係です。
1メガパスカル = 1ニュートン毎平方ミリメートル
100メガパスカル = 100ニュートン毎平方ミリメートル
ミリメートル単位で寸法を計算し、荷重をニュートンで扱う場合は、ニュートン毎平方ミリメートルを使うと計算がまとまりやすいでしょう。
一方で、材料データシートや構造計算書ではメガパスカル表記が多いため、同じ数値で読み替えられることを覚えておくと便利です。
代表的な材料の強度目安
材料の許容応力は、材質記号だけで一律には決まりません。
板厚、熱処理、調質、製造方法、温度、規格条件によって基準強度が変わります。
| 材料の例 | 特徴 | 許容応力を考える際の注意点 |
|---|---|---|
| 一般構造用圧延鋼材 | 入手性が高く、構造部材に広く使われる | 降伏点、板厚、溶接部、腐食代を確認 |
| 機械構造用炭素鋼 | 軸やボルト、機械部品に使われる | 熱処理状態と疲労強度を確認 |
| ステンレス鋼 | 耐食性に優れる | 鋼種ごとの耐力、温度、応力腐食を確認 |
| アルミニウム合金 | 軽量で加工しやすい | 熱処理、接合部、剛性不足を確認 |
| 鋳鉄 | 圧縮に強く、振動減衰性がある | 引張側の脆性破壊と欠陥を確認 |
| 樹脂 | 軽量で絶縁性がある | 温度、クリープ、吸水、経年劣化を確認 |
一覧表の数値をそのまま設計に転用せず、対象材料の規格値と使用条件を必ず照合することが欠かせません。
単位換算で起こりやすいミス
許容応力の計算では、荷重と断面積の単位をそろえないことによるミスが多く見られます。
たとえば荷重をキロニュートンで入力したのに、ニュートンとして計算すると、結果は千分の一になってしまいます。
断面積も平方ミリメートルと平方メートルでは、桁が大きく異なります。
計算前に荷重、長さ、面積、応力の単位を一つずつ確認する習慣が、設計ミスの予防につながります。
キログラム重を使う古い資料もありますが、現在の計算ではニュートン系へ統一したほうが管理しやすいでしょう。
許容応力計算の実例と確認方法
続いては許容応力計算の実例と、設計結果を確認するためのポイントを見ていきます。
引張部材の計算例
断面積が80平方ミリメートルの部材に、12,000ニュートンの引張荷重がかかるケースを考えます。
発生する引張応力は、12,000を80で割った150ニュートン毎平方ミリメートルです。
対象材料の許容引張応力が180ニュートン毎平方ミリメートルなら、単純引張の条件では許容範囲に入ります。
一方で、許容応力が120ニュートン毎平方ミリメートルなら、断面積の増加や荷重低減が必要になります。
発生応力が許容応力以下であっても、余裕が小さい設計では荷重の見積もり漏れがないかを再確認してください。
特に停止時の衝撃や作業者による過荷重は、定常荷重より大きくなることがあります。
ボルトの許容応力を考える例
ボルトでは、締付力による軸力と外力による追加荷重の両方を考える必要があります。
引張荷重を受けるボルトは、ねじ谷径を基準にした有効断面積で応力を評価することが一般的です。
せん断荷重を受ける場合は、荷重の向きとせん断面の位置を確認します。
穴のクリアランスが大きい接合部では、最初に一部のボルトへ荷重が集中することもあります。
ボルト径を太くするだけではなく、本数、配置、締付管理、座面の剛性まで含めて判断することが重要です。
重要な締結部では、ボルトメーカーの技術資料や設計基準も参照すると安心でしょう。
計算後に確認したいチェック項目
許容応力計算が終わったら、計算式の正しさだけでなく、前提条件を確認します。
荷重が偏っていないか、部材の向きが正しいか、穴や切欠きによる断面欠損を見落としていないかを見直してください。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 荷重条件 | 静荷重、衝撃荷重、繰り返し荷重を区別できているか |
| 断面積 | 有効断面積、穴控除後の断面積を使えているか |
| 材料値 | 材質、板厚、熱処理状態に対応した強度値か |
| 安全率 | 使用環境と事故時の影響に見合っているか |
| 変形 | 強度だけでなく、たわみや伸びが許容範囲か |
強度計算は壊れないかを確認する作業であり、使いやすさまで保証するものではありません。
精度が必要な装置では、たわみ、振動、位置ずれも別途評価する必要があります。
許容応力を扱う際の実務上の注意点
続いては許容応力を実務で扱う際に知っておきたい注意点を解説していきます。
疲労強度を考慮する場面
同じ大きさの荷重でも、一度だけかかる場合と何万回も繰り返される場合では、部材への影響が異なります。
繰り返し荷重では、許容応力以下の応力でも疲労破壊が起こる可能性があります。
回転軸、ばね、プレス金型、搬送装置、車両部品などでは疲労強度の検討が重要です。
繰り返し荷重がある設計では、静的な許容応力だけで安全と判断しないようにしましょう。
応力振幅、平均応力、表面仕上げ、腐食環境、応力集中部の有無を踏まえ、疲労設計の基準を適用します。
温度と腐食による強度低下
高温環境では、金属の降伏強さが下がったり、長時間荷重によるクリープが起きたりすることがあります。
低温環境では、材料によって靭性が低下し、衝撃に弱くなる場合があります。
海岸地域、薬品を扱う設備、屋外設備では、腐食による断面減少も無視できません。
設計時に十分な強度があっても、数年後には板厚が減って応力が高くなる可能性があります。
腐食代を見込む、防食処理を行う、点検周期を決めるといった対策が有効です。
規格と専門家への確認
建築、圧力容器、クレーン、配管、航空、医療機器などでは、独自の規格や法令に基づく設計が求められることがあります。
許容応力の一覧は便利ですが、適用範囲を外れた数値を使うと危険です。
荷重条件が複雑な場合や、人命に関わる部材を設計する場合は、構造設計者や材料の専門家へ確認することをおすすめします。
許容応力は計算の出発点であり、最終的な安全性は規格、製造品質、検査、保守を含めて決まります。
許容応力計算のまとめ
許容応力は、材料の降伏点や引張強さに安全率を反映し、安全に使用できる応力の上限として設定する数値です。
基本的には荷重を断面積で割って発生応力を求め、許容応力以下であるかを確認します。
引張、圧縮、せん断、曲げ、ねじりでは計算方法と注意点が異なるため、荷重の種類を正しく把握することが重要です。
単位はメガパスカルとニュートン毎平方ミリメートルが同じ数値で扱えるため、単位の統一を徹底しましょう。
さらに、疲労、座屈、温度、腐食、応力集中、製造誤差まで考慮することで、より信頼性の高い設計につながります。
許容応力の一覧や計算式を活用しつつ、必要に応じて規格と専門的な検討を組み合わせることが、安全なものづくりへの近道です。