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アンモニア燃料と発電の仕組み|次世代エネルギーを徹底解説

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気候変動への対応が世界的な課題となる中、カーボンニュートラルを実現する次世代エネルギーとして、アンモニア燃料が注目を集めています。

「肥料の原料」というイメージが強いアンモニアですが、実は燃料として、そして発電の分野で大きな可能性を秘めています。「なぜアンモニアが燃料になるの?」「どうやって発電するの?」「本当に環境に優しいの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。

本記事では、アンモニア燃料と発電の仕組みについて、基礎から最新の技術動向まで、わかりやすく徹底解説していきます。次世代エネルギーとして期待されるアンモニアの可能性を、ぜひ一緒に探っていきましょう。

アンモニアが燃料として注目される理由

それではまず、アンモニアが燃料として注目される理由について解説していきます。なぜ今、アンモニアが次世代エネルギーとして脚光を浴びているのでしょうか。

カーボンニュートラルとアンモニア燃料

アンモニアが燃料として注目される最大の理由は、燃焼してもCO₂を排出しないという特性です。

CO₂を排出しない燃焼の仕組み

アンモニアの化学式はNH₃で、炭素原子(C)を含みません。そのため、燃焼しても二酸化炭素(CO₂)が発生しないのです。

従来の化石燃料(石炭、石油、天然ガス)は、すべて炭素を含む炭化水素です。燃焼すると必ずCO₂が発生し、温室効果ガスとして地球温暖化の原因となります。

従来燃料の燃焼:

CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O(メタン)

→ CO₂を排出

アンモニアの燃焼:

4NH₃ + 3O₂ → 2N₂ + 6H₂O

→ CO₂を排出しない

生成されるのは窒素ガス(N₂)と水(H₂O)だけです。窒素は大気の約78%を占める無害な気体です。

気候変動対策への貢献

世界各国が2050年カーボンニュートラル実現を目指す中、アンモニア燃料はその達成に大きく貢献できます。特に日本は、火力発電でのアンモニア利用を重点戦略に位置づけています。

発電部門は日本の全CO₂排出量の約4割を占めるため、火力発電のカーボンニュートラル化は極めて重要です。アンモニア燃料はその鍵を握る技術として期待されています。

ポイント:アンモニアは炭素を含まないため、燃焼してもCO₂が発生しません。カーボンニュートラル実現の鍵となる燃料です。

水素キャリアとしての役割

アンモニアは、水素エネルギーを運ぶ「水素キャリア」としても注目されています。

水素の貯蔵・輸送の課題

水素(H₂)は究極のクリーンエネルギーとして期待されていますが、常温では気体で、液化するには-253℃という極低温が必要です。そのため、貯蔵・輸送が非常に困難でコストがかかります。

また、水素分子は非常に小さく、タンクから漏洩しやすいという問題もあります。金属を脆化させる性質もあり、専用の高価な材料が必要です。

アンモニアによる解決策

一方、アンモニア(NH₃)は水素を多く含みながら、-33℃で液化します。常温でも約8気圧で液化するため、水素よりもはるかに貯蔵・輸送が容易です。

項目 水素(H₂) アンモニア(NH₃)
液化温度 -253℃ -33℃
常温での液化 約700気圧必要 約8気圧で可能
体積あたりの水素量 基準 液体水素の1.5倍

アンモニアから水素を取り出すには、分解反応を利用します。

2NH₃ → N₂ + 3H₂

(アンモニアの分解)

ポイント:アンモニアは水素を効率的に運ぶキャリアとして機能します。液化しやすく、既存のインフラで輸送可能です。

既存インフラの活用可能性

アンモニアが燃料として有望な理由の一つは、既存のインフラを活用できる点です。

製造・輸送インフラの現状

アンモニアは、すでに肥料原料として世界中で年間約2億トンが生産・流通しています。製造プラント、貯蔵タンク、輸送船、パイプラインなど、充実したインフラがすでに存在します。

日本は年間約100万トンのアンモニアを輸入しており、受け入れ港や貯蔵設備も整備されています。この既存インフラを活用することで、新たな巨額投資を抑えながら、燃料としての利用を拡大できます。

発電所での活用

火力発電所においても、石炭や天然ガスにアンモニアを混ぜて燃焼させる「混焼」技術を使えば、既存の発電設備を大幅に改造することなく、CO₂排出を削減できます。

燃焼器やボイラーの一部改造で対応可能なため、数十億円程度の投資で混焼を開始できると試算されています。これは、発電所を全面的に建て替える場合(数千億円)と比べて、はるかに低コストです。

ポイント:アンモニアは既存インフラを活用できるため、新たな巨額投資を抑えながら、カーボンニュートラルへ移行できます。

アンモニア燃料の特徴と燃焼の仕組み

続いては、アンモニア燃料の特徴と燃焼の仕組みを確認していきます。アンモニアがどのように燃焼し、どんな特性を持つのかを理解しましょう。

アンモニアの燃焼反応

アンモニアは可燃性気体で、酸素と反応して燃焼します。

化学反応式と生成物

燃焼反応の化学式は以下の通りです。

4NH₃ + 3O₂ → 2N₂ + 6H₂O + 熱

(アンモニア + 酸素 → 窒素 + 水 + 熱エネルギー)

この反応で生成されるのは、窒素ガス(N₂)と水(H₂O)だけです。窒素は大気の約78%を占める無害な気体で、水も環境負荷がありません。炭素を含まないため、CO₂は一切発生しません。

ただし、燃焼条件によっては窒素酸化物(NOx)が発生する可能性があります。これは後ほど詳しく説明します。

発熱量の比較

燃焼時の発熱量は以下の通りです。

燃料 発熱量(MJ/kg) 比較
水素 120 最高
天然ガス(メタン) 50 高い
ガソリン 44 高い
石炭 25-35 中程度
アンモニア 18.6 やや低い

アンモニアの発熱量は従来燃料より低めですが、CO₂フリーという大きなメリットがこれを上回ります。

ポイント:アンモニアの燃焼では窒素と水のみが生成され、CO₂は発生しません。発熱量は従来燃料よりやや低めです。

燃料としてのメリット

アンモニア燃料には、CO₂排出ゼロ以外にも複数のメリットがあります。

貯蔵・輸送の容易さ

前述の通り、液化しやすく、常温でも比較的低圧(約8気圧)で液体として保存できます。既存のタンクやタンカーを利用できるため、インフラ整備コストが抑えられます。

液体アンモニアのエネルギー密度は、体積あたりで液体水素の約1.5倍です。同じ体積でより多くのエネルギーを運べます。これは、輸送コストの削減につながります。

その他の利点

製造技術が確立していることも大きなメリットです。ハーバー・ボッシュ法による大規模製造技術は100年以上の歴史があり、世界中で実用化されています。

また、肥料原料として長年使用されており、取り扱いの安全基準やノウハウが蓄積されています。新しい燃料を一から導入する場合と比べて、リスクが低いと言えます。

ポイント:アンモニアは環境性、実用性、経済性のバランスが取れた次世代燃料として評価されています。

燃料としての課題

一方で、アンモニア燃料にはいくつかの課題も存在します。

着火性と燃焼速度

アンモニアは着火しにくい燃料です。自己着火温度は約651℃で、ガソリン(約300℃)や軽油(約220℃)と比べて高温が必要です。そのため、補助燃料(天然ガスなど)と混焼するか、特殊な燃焼技術が必要になります。

また、アンモニアの火炎伝播速度は遅く、完全燃焼させるには時間と工夫が必要です。不完全燃焼すると、未燃アンモニアが排出される可能性があります。

NOx発生と対策

燃焼時に窒素酸化物(NOx)が発生する可能性があります。NOxは大気汚染物質であり、酸性雨の原因にもなるため、排出抑制技術が必要です。

4NH₃ + 5O₂ → 4NO + 6H₂O

(高温・酸素過剰条件での反応)

対策として、二段燃焼技術(燃料過剰条件で一次燃焼後、二次燃焼でNOxを窒素に還元)や、選択触媒還元(SCR)などの排ガス処理技術が開発されています。

ポイント:アンモニア燃料には課題もありますが、技術開発により克服可能と考えられています。特にNOx対策が重要です。

アンモニア発電の技術と方法

続いては、アンモニア発電の技術と方法を確認していきます。アンモニアを使った発電には、いくつかのアプローチがあります。

火力発電への混焼技術

最も実用化が近いのが、既存の火力発電所でアンモニアを混ぜて燃やす「混焼技術」です。

混焼の原理と方法

混焼とは、石炭や天然ガスなどの従来燃料に、アンモニアを一定の割合で混合して燃焼させる方法です。アンモニアの混焼率を高めるほど、CO₂排出量を削減できます。

混焼の利点は、既存の発電設備を大幅に改造せずに導入できることです。燃焼器やボイラーの一部改造で対応可能なため、コストを抑えながらCO₂削減が実現できます。

具体的には、アンモニア供給配管の追加、燃焼器の改造、制御システムの更新などが必要ですが、発電所全体の建て替えと比べて大幅に低コストです。

CO₂削減効果と実用化時期

混焼によるCO₂削減効果は、混焼率に比例します。

混焼によるCO₂削減効果:

・アンモニア混焼率20% → CO₂約20%削減

・アンモニア混焼率50% → CO₂約50%削減

日本では、石炭火力発電所でのアンモニア混焼実証試験が進められています。2024年時点で、20%混焼の実証に成功しており、2020年代後半には商業運転が開始される見込みです。

混焼率 CO₂削減効果 実用化時期
20% 約20%削減 2020年代後半
50% 約50%削減 2030年頃
100%(専焼) 100%削減 2040年以降

ポイント:混焼技術は既存設備を活用でき、段階的にCO₂削減を進められます。最も早く実用化される技術です。

アンモニア専焼発電

混焼の先にあるのが、アンモニアのみを燃料とする「専焼発電」です。

専焼技術の課題

専焼発電は、アンモニア100%で発電を行うため、化石燃料由来のCO₂排出を完全にゼロにできます。ただし、専焼には技術的なハードルがあります。

主な課題は、着火性の低さ、燃焼速度の遅さ、そしてNOx対策です。補助燃料なしでの着火・安定燃焼を実現するために、特殊な燃焼器の開発が進められています。

例えば、燃焼器内に旋回流を作り出して火炎を安定化させる技術や、段階的燃焼によりNOx発生を抑える技術などが研究されています。

開発状況と目標

日本の重工業メーカー(IHI、三菱重工など)は、アンモニア専焼ガスタービンの開発を進めています。小型実証機での燃焼試験に成功しており、2030年代の実用化を目指しています。

専焼発電の実現は、火力発電のカーボンニュートラル化という大きな目標達成につながります。2040年以降、専焼発電が商業ベースで稼働することが期待されています。

ポイント:専焼発電はCO₂排出完全ゼロを実現しますが、技術的課題があり、2040年以降の実用化が目標です。

燃料電池での発電

もう一つの発電方法として、燃料電池を使った発電があります。

燃料電池の種類と仕組み

燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置で、燃焼を伴わないため高効率です。アンモニアを燃料電池で利用する方法は2つあります。

方法1:アンモニア直接型燃料電池
アンモニアを直接燃料電池に供給して発電します。固体酸化物形燃料電池(SOFC)などで研究が進められています。

方法2:水素取り出し型
アンモニアを分解して水素を取り出し、その水素を燃料電池に供給します。

2NH₃ → N₂ + 3H₂(アンモニア分解)

2H₂ + O₂ → 2H₂O + 電気(燃料電池での反応)

利点と課題

燃料電池の利点は、発電効率が高い(40〜60%)ことと、NOxなどの大気汚染物質がほとんど発生しないことです。静音性にも優れています。

一方、課題としては、燃料電池自体のコストが高いこと、耐久性の向上が必要なこと、大規模発電には向いていないことなどがあります。

そのため、燃料電池は分散型電源(家庭用、業務用、小規模コジェネレーション)として期待されており、2030年代の実用化を目指しています。

ポイント:燃料電池は高効率でクリーンな発電が可能ですが、コストが高く、大規模発電には課題があります。分散型電源として期待されています。

実用化の現状と今後の展望

続いては、実用化の現状と今後の展望を確認していきます。アンモニア燃料と発電は、どこまで実用化が進んでいるのでしょうか。

世界と日本の取り組み

アンモニア燃料と発電の実用化に向けて、日本が世界をリードしています。

日本の具体的プロジェクト

日本政府は、2050年カーボンニュートラル実現の柱の一つとして、アンモニア燃料を位置づけています。2030年までに火力発電でのアンモニア混焼を実用化し、2050年には専焼を実現する目標を掲げています。

具体的なプロジェクト:
– JERA(日本最大の発電事業者)は、石炭火力発電所でのアンモニア混焼実証を進めています
– IHIは、アンモニア専焼ガスタービンの開発を進めています
– 日本郵船など海運会社は、アンモニア燃料船の開発に取り組んでいます

2030年には年間300万トンのアンモニアを燃料として利用し、2050年には3000万トンまで拡大する計画です。

海外の動向

海外でもアンモニア燃料への関心が高まっています。

欧州では、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造プロジェクトが進行中です。ドイツ、オランダ、デンマークなどが積極的です。

中東諸国は、豊富な天然ガスを活用したブルーアンモニア製造に取り組んでいます。サウジアラビアは日本向けのブルーアンモニア輸出プロジェクトを開始しました。

オーストラリアも、再生可能エネルギーを活用したグリーンアンモニア製造と日本への輸出を計画しています。

ポイント:日本はアンモニア燃料・発電技術で世界をリードしており、2030年の実用化を目指して官民一体で取り組んでいます。

グリーンアンモニアとブルーアンモニア

アンモニアの製造方法によって、グリーンアンモニアとブルーアンモニアに分類されます。

ブルーアンモニアの製造

ブルーアンモニアは、従来のハーバー・ボッシュ法(天然ガス由来の水素を使用)で製造し、製造過程で発生するCO₂を回収・貯留(CCS)する方法です。

ブルーアンモニア製造:

天然ガス → 水素 + CO₂

水素 + 窒素 → アンモニア

CO₂ → 回収・貯留(CCS)

既存技術の延長線上にあり、比較的早期の実用化が可能です。2020年にサウジアラビアから日本へ、世界初のブルーアンモニア輸送が実施されました。

グリーンアンモニアへの移行

グリーンアンモニアは、再生可能エネルギー(太陽光、風力など)で発電した電気を使って水を電気分解し、得られた水素でアンモニアを製造する方法です。製造過程全体でCO₂を排出しません。

グリーンアンモニア製造:

再生可能エネルギー → 電気

水 + 電気 → 水素 + 酸素

水素 + 窒素 → アンモニア

CO₂排出ゼロ

種類 製造方法 CO₂排出 コスト 実用化時期
従来型 天然ガス由来 多い 低い 現在
ブルー 天然ガス+CCS 少ない 中程度 2020年代後半
グリーン 再エネ+水電解 ゼロ 高い 2030年代以降

当面はブルーアンモニアで実用化を進め、再生可能エネルギーのコスト低下に伴い、長期的にはグリーンアンモニアへ移行することが想定されています。

ポイント:当面はブルーアンモニアで実用化を進め、長期的にはグリーンアンモニアへ移行することが想定されています。

実用化に向けた課題と展望

アンモニア燃料・発電の本格的な実用化に向けて、いくつかの課題が残されています。

技術的・経済的課題

技術的課題としては、NOx排出削減技術の確立、専焼燃焼技術の開発、大型燃焼器の実証、長期運転時の信頼性確認などがあります。

経済的課題としては、グリーン/ブルーアンモニアの製造コスト低減、既存燃料との価格競争力、国際サプライチェーンの構築、インフラ整備投資の回収などが挙げられます。

現在、グリーンアンモニアのコストは従来型の約2〜3倍と推定されています。再生可能エネルギーのコスト低下と技術革新により、2030年代には競争力を持つと期待されています。

2050年に向けたロードマップ

日本政府と産業界が描くロードマップは以下の通りです。

2020年代後半:アンモニア混焼(20%)の商業運転開始
2030年頃:混焼率50%達成、年間300万トンの燃料用アンモニア利用
2035年頃:専焼技術の実証完了
2040年以降:専焼発電の商業運転開始
2050年:年間3000万トンの燃料用アンモニア利用、火力発電のカーボンニュートラル達成

ポイント:技術、経済、社会の各面で課題がありますが、2030年の実用化、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、解決への道筋が見えています。

また、発電だけでなく、船舶燃料、航空燃料、産業用燃料としてもアンモニアの利用が広がる可能性があります。アンモニア燃料船は2020年代後半の就航を目指して開発が進んでいます。

まとめ

アンモニア燃料と発電の仕組みについて、基礎から最新動向まで詳しく解説してきました。

アンモニアは燃焼してもCO₂を排出しない次世代エネルギーとして、カーボンニュートラル実現の鍵を握っています。水素キャリアとしての役割も果たし、既存インフラを活用できる実用性の高さが特徴です。

燃焼反応は4NH₃ + 3O₂ → 2N₂ + 6H₂Oで、窒素と水のみを生成します。貯蔵・輸送が容易で製造技術も確立していますが、着火性の低さやNOx発生などの課題もあります。

重要ポイント総まとめ:

【アンモニア燃料の特徴】

・CO₂排出ゼロ

・水素キャリアとして機能

・既存インフラ活用可能

・燃焼反応:4NH₃ + 3O₂ → 2N₂ + 6H₂O

【発電技術】

・混焼発電:2020年代後半実用化

・専焼発電:2040年以降

・燃料電池:高効率、中小規模向け

【実用化への道】

・日本が世界をリード

・ブルー → グリーンアンモニアへ移行

・2030年混焼、2050年専焼が目標

日本は世界に先駆けてアンモニア燃料・発電技術の開発を進めており、2030年の実用化、2050年のカーボンニュートラル実現を目指しています。技術的、経済的課題は残されていますが、解決への道筋が見えつつあります。

アンモニア燃料は、化石燃料から脱炭素エネルギーへの移行を実現する現実的な選択肢として、今後ますます注目されるでしょう。次世代エネルギーとしてのアンモニアの動向に、ぜひ注目してください。