化学反応

サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの化学反応式を徹底解説!加水分解の仕組み

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サリチル酸メチルは湿布薬や塗り薬に含まれる成分として知られており、独特の香りを持つエステル化合物です。消炎鎮痛作用があることから、スポーツ選手のケアにも広く使われているでしょう。

このサリチル酸メチルに炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えると、興味深い化学反応が起こります。エステル結合が切断され、新しい物質が生成されるのです。

本記事では、サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの化学反応について、反応式の詳細から加水分解のメカニズム、実験方法まで徹底的に解説していきます。高校化学で学ぶエステルの加水分解を理解する上で重要な反応ですので、しっかりと学んでいきましょう。

サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの化学反応式の基本

それではまず、サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの化学反応式の基本について解説していきます。

サリチル酸メチルの構造と性質

サリチル酸メチルは、化学式C₈H₈O₃で表される芳香族エステル化合物です。別名「サロメチール」とも呼ばれ、医薬品や香料として広く利用されています。

サリチル酸メチルの主な特徴を以下の表にまとめました。

項目 内容
化学式 C₈H₈O₃
分子量 152
外観 無色または淡黄色の液体
香り 特有の芳香(湿布薬の香り)
用途 湿布薬、塗り薬、香料

サリチル酸メチルの構造を見ると、ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)とエステル結合(-COOCH₃)が結合しています。このエステル結合の部分が、化学反応の鍵を握っているのです。

エステル化合物の特徴として、酸や塩基によって加水分解される性質があります。この性質を利用して、サリチル酸メチルから別の物質を合成できるでしょう。

炭酸水素ナトリウムの特徴と役割

炭酸水素ナトリウムは、化学式NaHCO₃で表される物質です。一般的には「重曹」や「ベーキングソーダ」として知られているでしょう。

炭酸水素ナトリウムは弱塩基性を示す物質であり、水溶液は弱いアルカリ性になります。この塩基性が、エステルの加水分解反応において重要な役割を果たすのです。

炭酸水素ナトリウムの主な性質は以下の通りになります。

水に溶けると、わずかに電離してナトリウムイオン(Na⁺)と炭酸水素イオン(HCO₃⁻)に分かれます。炭酸水素イオンは弱い塩基として働き、酸性物質と中和反応を起こすことができるでしょう。

また、炭酸水素ナトリウムは加熱すると分解し、炭酸ナトリウム、水、二酸化炭素を生成します。この性質は、パンやケーキを膨らませる膨張剤として利用されています。

重要ポイント

炭酸水素ナトリウムは、強塩基である水酸化ナトリウムと比べて穏やかな反応性を持っています。そのため、実験や日常生活で安全に扱うことができるのです。

エステルの加水分解とは何か

エステルの加水分解とは、エステル結合が水分子と反応して切断され、元のカルボン酸とアルコールに戻る反応のことです。

エステルは、カルボン酸とアルコールが脱水縮合することで生成されます。加水分解は、この反応の逆反応に相当するでしょう。

一般的なエステルの加水分解は、次のように表されます。

RCOOR’ + H₂O → RCOOH + R’OH

ここで、RとR’は任意の炭化水素基を表しています。

エステルの加水分解には、大きく分けて二つの方法があります。酸性条件下で行う「酸性加水分解」と、塩基性条件下で行う「塩基性加水分解(けん化)」です。

サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの反応は、塩基性加水分解に分類されます。塩基性条件下では、生成したカルボン酸が塩基と中和反応を起こすため、反応が完全に進行しやすいという特徴があるのです。

反応のメカニズムと化学反応式

続いては、反応のメカニズムと化学反応式を確認していきます。

塩基性加水分解の化学反応式

サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの反応は、次の化学反応式で表されます。

化学反応式

C₈H₈O₃ + NaHCO₃ → C₇H₅O₃Na + CH₃OH + CO₂↑

サリチル酸メチル + 炭酸水素ナトリウム → サリチル酸ナトリウム + メタノール + 二酸化炭素

この反応では、サリチル酸メチルのエステル結合が切断され、サリチル酸ナトリウムとメタノールが生成されます。同時に、炭酸水素ナトリウムから二酸化炭素が発生するのです。

反応物と生成物を整理すると、次のようになるでしょう。

分類 物質名 化学式 状態
反応物 サリチル酸メチル C₈H₈O₃ 液体
炭酸水素ナトリウム NaHCO₃ 固体(水溶液)
生成物 サリチル酸ナトリウム C₇H₅O₃Na 水溶液
メタノール CH₃OH 液体
二酸化炭素 CO₂ 気体

サリチル酸メチルの構造式を詳しく見ると、ベンゼン環にヒドロキシ基とエステル基が結合した形をしています。このエステル基の部分(-COOCH₃)が、加水分解によって-COONaとCH₃OHに分かれるのです。

反応が進行する理由と中和反応

なぜこの反応は進行するのでしょうか。その理由は、中和反応による生成物の安定化にあります。

エステルの加水分解が起こると、まずサリチル酸(C₇H₆O₃)とメタノール(CH₃OH)が生成されます。サリチル酸はカルボン酸の一種であり、酸性を示す物質です。

ここで炭酸水素ナトリウムが重要な役割を果たします。生成したサリチル酸は、すぐに炭酸水素ナトリウムと中和反応を起こすのです。

C₇H₆O₃ + NaHCO₃ → C₇H₅O₃Na + H₂O + CO₂↑

この中和反応により、サリチル酸はサリチル酸ナトリウム(塩)に変化します。サリチル酸ナトリウムは水に非常によく溶ける物質であり、安定な状態となるでしょう。

生成物が安定化することで、反応は右側に進みやすくなります。これが、塩基性加水分解が完全に進行する理由なのです。

また、二酸化炭素が気体として系外に放出されることも、反応を右側に進める要因になっています。発生した二酸化炭素は泡となって観察できるでしょう。

生成物の構造と性質

反応で生成するサリチル酸ナトリウムは、水溶性が高く医薬品として重要な物質です。

サリチル酸ナトリウムの構造を見ると、ベンゼン環にヒドロキシ基とカルボン酸ナトリウム塩(-COONa)が結合しています。カルボン酸がナトリウム塩になることで、イオン性が増し、水への溶解度が大幅に向上するのです。

サリチル酸ナトリウムの主な性質は以下の通りになります。

水に溶けやすく、溶液は弱アルカリ性を示します。解熱鎮痛作用や抗炎症作用があり、医薬品として利用されているでしょう。また、防腐剤や消毒剤としても使われています。

もう一つの生成物であるメタノールは、最も単純な構造を持つアルコールです。工業用溶剤として広く使われていますが、毒性があるため取り扱いには注意が必要でしょう。

安全上の注意

メタノールは有毒物質です。少量でも摂取すると失明や死亡の危険性があります。実験で生成した場合は、適切に処理する必要があります。

実験方法と観察できる現象

続いては、実験方法と観察できる現象を確認していきます。

実験の手順と必要な器具

サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの反応実験は、比較的簡単に行うことができます。

必要な器具と試薬は以下の通りです。

試験管またはビーカー、ガラス棒、加熱器具(湯浴)、サリチル酸メチル、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩酸、塩化鉄(III)水溶液などが必要になるでしょう。

基本的な実験手順は次のようになります。

まず、試験管にサリチル酸メチル約1mLを入れます。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液を約5mL加え、よく振り混ぜてください。

すると、二酸化炭素の泡が発生し始めます。反応を促進するために、試験管を60℃程度の湯に入れて加温すると良いでしょう。

10〜15分ほど加温を続けると、サリチル酸メチルの層が徐々に減少していきます。反応が完全に進むと、溶液は透明になるのです。

反応後の溶液を冷却し、少量を別の試験管に取ります。これに塩酸を加えてpHを酸性にすると、サリチル酸が遊離して白い沈殿が生じるでしょう。

反応中に起こる変化の観察

実験中には、いくつかの特徴的な現象を観察できます。

最も顕著な変化は、二酸化炭素の気泡が連続的に発生することでしょう。この気泡は、炭酸水素ナトリウムとサリチル酸の中和反応によって生じるものです。

また、サリチル酸メチル特有の香りが徐々に弱まっていきます。これは、サリチル酸メチルが加水分解されて別の物質に変化していることを示しているのです。

加温を続けると、次のような変化が観察されるでしょう。

二層に分かれていた液体が、徐々に混ざり合って均一になっていきます。これは、サリチル酸メチルが水溶性のサリチル酸ナトリウムに変化したためです。

溶液の色も、わずかに変化することがあります。透明だった溶液が、やや黄色味を帯びることがあるでしょう。

時間 観察される現象
反応開始直後 気泡が激しく発生、湿布薬の香りが強い
5分後 気泡の発生が穏やかに、二層が混ざり始める
10〜15分後 気泡がほぼ止まる、溶液が透明に
反応完了後 均一な透明溶液、香りがほとんどない

生成物の確認方法

反応で生成したサリチル酸ナトリウムを確認するには、いくつかの方法があります。

最も一般的な方法は、塩酸を加えてサリチル酸を遊離させることでしょう。

確認実験:サリチル酸の遊離

反応後の溶液に塩酸を滴下していくと、次の反応が起こります。

C₇H₅O₃Na + HCl → C₇H₆O₃ + NaCl

サリチル酸ナトリウムがサリチル酸に変化すると、水に溶けにくいため白い沈殿として析出します。

もう一つの確認方法として、塩化鉄(III)水溶液を使った呈色反応があります。サリチル酸やサリチル酸ナトリウムは、塩化鉄(III)と反応して紫色の錯体を形成するのです。

反応後の溶液に塩化鉄(III)水溶液を1〜2滴加えると、溶液が鮮やかな紫色に変化します。この色の変化により、サリチル酸骨格を持つ物質が存在することを確認できるでしょう。

また、未反応のサリチル酸メチルが残っていないかを確認することも重要です。サリチル酸メチルは水に溶けにくいため、完全に反応していれば溶液は透明になります。

化学反応式を使った計算問題

続いては、化学反応式を使った計算問題を確認していきます。

反応に必要な物質量の計算

化学反応式を使えば、必要な試薬の量を正確に計算できます。

サリチル酸メチル1.52gを完全に反応させるには、何gの炭酸水素ナトリウムが必要でしょうか。

計算例1:必要な炭酸水素ナトリウムの質量

まず、サリチル酸メチルの物質量を求めます。

サリチル酸メチルの分子量 = 152

1.52g ÷ 152g/mol = 0.01mol

化学反応式より、サリチル酸メチル1molに対してNaHCO₃ 1molが必要なので、

0.01molのサリチル酸メチルには0.01molのNaHCO₃が必要

炭酸水素ナトリウムの式量 = 84

0.01mol × 84g/mol = 0.84g

答え:0.84gの炭酸水素ナトリウムが必要

実際の実験では、反応を完全に進行させるために、計算値よりもやや過剰の炭酸水素ナトリウムを使用することが一般的です。通常、1.2〜1.5倍程度の量を用いるでしょう。

生成物の収量を求める

次に、生成する物質の量を計算してみましょう。

サリチル酸メチル3.04gから、サリチル酸ナトリウムは何g生成するでしょうか。

計算例2:サリチル酸ナトリウムの生成量

サリチル酸メチルの物質量を求めます。

3.04g ÷ 152g/mol = 0.02mol

化学反応式より、サリチル酸メチル1molからサリチル酸ナトリウム1molが生成するので、

0.02molのサリチル酸ナトリウムが生成

サリチル酸ナトリウムの式量 = 160

0.02mol × 160g/mol = 3.2g

答え:理論上3.2gのサリチル酸ナトリウムが生成

ただし、実際の実験では反応が完全に進まなかったり、生成物の回収時に損失が生じたりするため、理論収量よりも少ない量しか得られないことが多いでしょう。

実験で得られた実際の収量を理論収量で割った値を「収率」といい、パーセントで表します。

収率(%)= (実際の収量 ÷ 理論収量)× 100

例えば、上記の実験で2.88gのサリチル酸ナトリウムが得られた場合、収率は(2.88 ÷ 3.2)× 100 = 90%となります。

実践的な計算例題

最後に、より実践的な計算問題を解いてみましょう。

計算例3:総合問題

サリチル酸メチル7.6gと炭酸水素ナトリウム5.04gを反応させた。次の各問いに答えよ。

(1)サリチル酸メチルは何molか。

7.6g ÷ 152g/mol = 0.05mol

(2)炭酸水素ナトリウムは何molか。

5.04g ÷ 84g/mol = 0.06mol

(3)どちらの物質が過剰に存在するか。

化学反応式より、両者は1:1の物質量比で反応する。サリチル酸メチルが0.05mol、炭酸水素ナトリウムが0.06molなので、炭酸水素ナトリウムが0.01mol過剰。

答え:炭酸水素ナトリウムが過剰

(4)生成するメタノールの質量は何gか。

反応を制限するのはサリチル酸メチルなので、0.05molが反応。

化学反応式より、0.05molのメタノールが生成。

メタノールの分子量 = 32

0.05mol × 32g/mol = 1.6g

答え:1.6gのメタノールが生成

このような計算を通じて、化学反応における量的関係を正確に理解できるようになります。実験を計画する際には、こうした計算が不可欠なのです。

また、発生する二酸化炭素の体積を計算することもできるでしょう。標準状態では、気体1molは22.4Lの体積を占めます。上記の例では0.05molのCO₂が発生するので、0.05mol × 22.4L/mol = 1.12Lとなります。

まとめ

本記事では、サリチル酸メチルと炭酸水素ナトリウムの化学反応について詳しく解説してきました。

この反応は、エステルの塩基性加水分解の典型例として重要です。化学反応式C₈H₈O₃ + NaHCO₃ → C₇H₅O₃Na + CH₃OH + CO₂↑に示されるように、サリチル酸メチルのエステル結合が切断され、サリチル酸ナトリウムとメタノールが生成されます。

反応が進行する鍵は、生成したサリチル酸が炭酸水素ナトリウムと中和反応を起こし、水溶性の高いサリチル酸ナトリウムになることでしょう。この生成物の安定化により、反応は完全に右側に進むのです。

実験では二酸化炭素の気泡発生や、溶液が均一になる様子を観察できます。また、塩化鉄(III)を使った呈色反応により、生成物を確認することも可能です。

化学反応式を使った計算では、必要な試薬の量や生成物の収量を予測できます。こうした定量的な理解は、実験を成功させる上で極めて重要でしょう。サリチル酸メチルの加水分解を通じて、エステル化学の基礎をしっかりと身につけてください。