電子機器の小型化・高性能化が進む現代において、熱管理はエンジニアにとって避けられない課題のひとつです。
その解決策として注目を集めているのが、グラファイトシートと呼ばれる熱拡散材料です。
しかし「熱伝導率がどのくらいなのか」「種類によってどんな違いがあるのか」といった点を、正確に把握している方は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、グラファイトシートの熱伝導率はどのくらいなのか、W/m・Kの数値と種類別の違い・用途も解説していきます。
選定に迷っている方や、これから導入を検討している方にとっても、役立つ内容をまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
グラファイトシートの熱伝導率は面方向で最大700W/m・K以上に達する
それではまず、グラファイトシートの熱伝導率について解説していきます。
グラファイトシートの最大の特長は、面方向(XY方向)の熱伝導率が非常に高い点にあります。
一般的な合成グラファイトシートでは、面方向の熱伝導率が700〜1,500W/m・Kに達するものも存在しており、金属材料と比較しても際立った性能を誇ります。
たとえば、アルミニウムの熱伝導率は約205W/m・K、銅でも約400W/m・K程度です。
グラファイトシートはこれらをはるかに上回る熱拡散性能を持ちながら、軽量で薄型という優位性も兼ね備えています。
グラファイトシートの面方向熱伝導率は最大1,500W/m・Kに達する製品も存在しており、アルミニウムや銅を大幅に上回る熱拡散性能を持つ点が最大の特長です。
ただし、注意が必要なのは厚み方向(Z方向)の熱伝導率です。
Z方向の熱伝導率は3〜10W/m・K程度にとどまることが多く、面方向との異方性が非常に大きい材料として知られています。
この異方性を理解して設計に活かすことが、グラファイトシートを最大限に活用するためのポイントといえるでしょう。
面方向(XY)熱伝導率 700〜1,500 W/m・K
厚み方向(Z)熱伝導率 3〜10 W/m・K
アルミニウム 約205 W/m・K
銅 約400 W/m・K
グラファイトシートの種類別に熱伝導率の違いを確認しよう
続いては、グラファイトシートの種類と、それぞれの熱伝導率の違いを確認していきます。
グラファイトシートには大きく分けて「天然グラファイトシート」と「合成グラファイトシート(人工グラファイトシート)」の2種類があります。
それぞれ製造方法や原材料が異なるため、熱伝導率の数値にも明確な差が生じます。
天然グラファイトシートの熱伝導率
天然グラファイトシートは、天然黒鉛を圧延・加工して製造されたシートです。
面方向の熱伝導率は150〜500W/m・K程度のものが多く、合成タイプと比べると数値はやや控えめです。
ただし、コストパフォーマンスに優れており、一般的な電子機器の放熱対策として広く使われています。
柔軟性や加工性も高く、複雑な形状への対応がしやすいという点も天然タイプの魅力のひとつでしょう。
合成グラファイトシートの熱伝導率
合成グラファイトシートは、ポリイミドフィルムなどの高分子材料を高温で炭化・黒鉛化して製造します。
この製法によって、炭素原子が高配向に配列するため、面方向の熱伝導率は700〜1,500W/m・Kという非常に高い値を実現できます。
スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなど、薄型・軽量が求められるデバイスへの採用が進んでいる素材です。
熱拡散性能が特に重視される用途では、合成グラファイトシートが第一選択肢となるケースが多いでしょう。
種類別の熱伝導率比較表
以下の表に、グラファイトシートの種類別の熱伝導率と主な特徴をまとめました。
| 種類 | 面方向熱伝導率(W/m・K) | 厚み方向熱伝導率(W/m・K) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 天然グラファイトシート | 150〜500 | 3〜5 | 低コスト・柔軟性高い |
| 合成グラファイトシート | 700〜1,500 | 5〜10 | 高性能・薄型対応 |
| アルミニウム(参考) | 約205 | 約205 | 等方性・軽量 |
| 銅(参考) | 約400 | 約400 | 等方性・高熱伝導 |
このように、種類によって熱伝導率の数値は大きく異なります。
用途や求められる性能に応じて、適切な種類を選択することが重要です。
グラファイトシートの熱伝導率が高い理由とその仕組み
続いては、グラファイトシートがなぜ高い熱伝導率を持つのか、その仕組みを確認していきます。
炭素原子の層状構造が熱伝導を高める
グラファイト(黒鉛)は、炭素原子が六角形の蜂の巣状(ハニカム構造)に配列した層が重なり合った構造を持っています。
この層状構造(グラフェン層)において、炭素原子間の共有結合が非常に強く、フォノン(格子振動)が面方向に効率よく伝わります。
結果として、面方向の熱伝導率が飛躍的に高くなる仕組みです。
一方、層と層の間はファンデルワールス力という弱い結合で保たれているため、厚み方向への熱伝達は限定的になります。
この構造的な特性こそが、グラファイトシートの大きな異方性を生み出している理由といえるでしょう。
高配向度が性能を左右する
合成グラファイトシートの熱伝導率が特に高い理由のひとつが、炭素結晶の配向度の高さにあります。
製造工程で高温処理(2,000〜3,000℃)を施すことにより、炭素原子が規則正しくシート面方向に配向します。
配向度が高いほど、熱を運ぶフォノンが散乱されにくくなり、熱伝導率の向上につながります。
この点が、天然グラファイトシートと合成グラファイトシートの性能差を生む主要因のひとつです。
密度と厚みも熱性能に影響する
グラファイトシートの熱伝導率は、材料自体の性質だけでなく、密度や厚みによっても影響を受けます。
密度が高いほど炭素層が緻密に重なり、熱伝導に寄与するパスが増えるため、一般的に高密度品ほど熱伝導率は高くなる傾向があります。
また、薄いシートほど熱拡散速度が速くなる特性があり、スマートフォンなどの薄型デバイスへの適合性も高まります。
製品を選定する際には、熱伝導率の数値だけでなく、密度や厚みのスペックも合わせて確認することをおすすめします。
グラファイトシートの主な用途と熱伝導率が活きる場面
続いては、グラファイトシートが実際にどのような用途で使われているかを確認していきます。
スマートフォン・タブレットの熱対策
グラファイトシートの最も代表的な用途のひとつが、スマートフォンやタブレット内部の放熱対策です。
これらのデバイスでは、プロセッサーやバッテリーが発生する熱を素早く広範囲に拡散させることが求められます。
高い面方向熱伝導率を持つグラファイトシートは、発熱源から熱を迅速に引き離し、デバイス全体に均一に分散させる役割を果たします。
薄型・軽量というデバイスの設計要件にも合致するため、多くのメーカーが採用している素材です。
ノートパソコン・ウェアラブルデバイスへの応用
ノートパソコンやウェアラブルデバイスの分野でも、グラファイトシートの需要は着実に拡大しています。
特に薄型ノートパソコン(ウルトラブック)では、ヒートスプレッダやサーマルパッドの代替として使われるケースが増えています。
また、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスでは、非常に限られたスペースの中で効率よく放熱する必要があり、グラファイトシートの薄型・高性能という特性が特に活きる場面といえるでしょう。
車載・産業機器・LED照明への展開
グラファイトシートの用途は民生用電子機器にとどまらず、車載機器や産業用機器、LED照明といった分野にも広がっています。
車載分野では、電動化(EV・HEV)の進展に伴いパワーエレクトロニクス部品の発熱管理がより重要になっており、高耐久・高熱伝導のグラファイトシートへの期待が高まっています。
LED照明においては、発光素子の温度上昇を抑えることで、輝度の維持や寿命の延長に貢献します。
さらに、5G基地局や通信機器のような高発熱デバイスへの採用も進んでおり、今後もグラファイトシートの活躍の場は拡大し続けるでしょう。
グラファイトシートはスマートフォンや車載機器、LED照明など幅広い分野で採用が進んでいます。高い面方向熱伝導率と薄型軽量という特性が、現代の熱管理ニーズに合致しているためです。
まとめ
本記事では、グラファイトシートの熱伝導率はどのくらいなのか、W/m・Kの数値と種類別の違い・用途も解説しました。
グラファイトシートは、面方向で最大1,500W/m・Kという非常に高い熱伝導率を持つ一方、厚み方向では3〜10W/m・K程度にとどまる異方性素材です。
天然タイプは150〜500W/m・K程度でコストパフォーマンスに優れ、合成タイプは700〜1,500W/m・Kという高性能を発揮します。
この高い熱伝導率の背景には、炭素原子の層状構造・高配向度・高密度という材料特性があります。
用途はスマートフォンやノートパソコンから車載機器・LED照明まで多岐にわたり、今後も電子機器の高性能化とともに需要が拡大することが見込まれます。
グラファイトシートを選定する際は、熱伝導率の数値だけでなく、種類・厚み・密度・用途との適合性を総合的に判断することが大切です。
本記事がグラファイトシートの理解と活用に向けた一助となれば幸いです。