化学反応

エタノールの分子内脱水反応の式や機構を徹底解説!

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エタノールを濃硫酸とともに加熱すると、水が取れてエチレンが生成する反応をご存知でしょうか。これは「分子内脱水反応」と呼ばれる重要な有機化学反応の一つです。

エタノール1分子から水分子が取れることで、二重結合を持つエチレン(エテン)が生成されます。一方、温度条件を変えると分子間脱水が起こり、ジエチルエーテルが生成する場合もあるのです。

分子内脱水反応は、アルコールから不飽和炭化水素を合成する基本的な方法であり、有機化学や工業化学において非常に重要な反応でしょう。

本記事では、エタノールの分子内脱水反応の化学反応式、反応機構、温度による反応の違い、工業的な応用まで、徹底的に解説していきます。

エタノールの分子内脱水反応の基本

それではまず、エタノールの分子内脱水反応の基本について解説していきます。

分子内脱水反応とは何か

分子内脱水反応とは、1つの分子内から水分子(H2O)が脱離する化学反応のことです。アルコール類において、ヒドロキシ基(-OH)と隣接する炭素に結合した水素原子(-H)が取れて、水が生成されます。

この反応の結果、炭素原子間に二重結合が形成され、アルケン(不飽和炭化水素)が生成するのです。

分子内脱水:1分子内から H と OH が取れて H2O が生成分子間脱水:2分子間から H と OH が取れて H2O が生成

エタノールの場合、分子内脱水によってエチレン(エテン)が生成されます。この反応には触媒として濃硫酸が使用され、加熱条件下で進行するでしょう。

濃硫酸は強い脱水作用を持ち、反応を促進する重要な役割を果たします。また、濃硫酸自体は反応で消費されないため、触媒として機能するのです。

分子内脱水反応は、E1反応(一段階脱離反応)またはE2反応(二段階脱離反応)の機構で進行します。エタノールの場合、通常はE1機構で反応が進むと考えられています。

反応式と生成物エチレンの構造

エタノールの分子内脱水反応は、次の化学反応式で表されます。

C2H5OH → C2H4 + H2O(エタノール → エチレン + 水)

構造式:CH3CH2OH → CH2=CH2 + H2O

反応条件として、濃硫酸の存在下で約170℃に加熱することが一般的です。この温度が分子内脱水と分子間脱水を区別する重要なポイントとなるでしょう。

生成されるエチレン(C2H4)は、炭素原子2つが二重結合で結ばれた最も単純なアルケン。化学式はC2H4、構造式はCH2=CH2で表されます。

エチレンは常温常圧で無色の気体であり、わずかに甘い臭いを持っています。炭素-炭素二重結合を持つため、付加反応など様々な化学反応に参加できるのです。

この反応では、エタノールのC-C単結合とC-O結合が、エチレンのC=C二重結合に変化します。同時に、ヒドロキシ基の酸素と隣の炭素の水素が結合して水分子となって脱離するわけです。

分子内脱水と分子間脱水の違い

エタノールの脱水反応には、分子内脱水と分子間脱水の2種類があり、反応温度によって生成物が異なります。

分子内脱水は高温(約170℃)で起こり、1分子のエタノールから水が取れてエチレンが生成します。一方、分子間脱水は比較的低温(約130-140℃)で起こり、2分子のエタノールから水が取れてジエチルエーテルが生成するのです。

分子間脱水(約130-140℃):2C2H5OH → C2H5-O-C2H5 + H2O

(エタノール → ジエチルエーテル + 水)

分子間脱水では、一方のエタノール分子のヒドロキシ基(-OH)と、もう一方のエタノール分子の水素(-H)が結合して水が生成されます。残った2つのエチル基(C2H5-)が酸素原子を介して結合し、エーテル結合を形成するでしょう。

温度が高いほど分子内脱水が優先され、温度が低いと分子間脱水が起こりやすいという特徴があります。

反応の種類 反応温度 生成物 反応式
分子内脱水 約170℃ エチレン C2H5OH → C2H4 + H2O
分子間脱水 約130-140℃ ジエチルエーテル 2C2H5OH → C2H5OC2H5 + H2O

この温度による生成物の違いは、反応機構の違いに基づいています。高温では脱離反応(E1反応)が有利となり、低温では置換反応(SN反応)的な機構でエーテルが生成されるのです。

分子内脱水反応の詳しい機構

続いては、エタノールの分子内脱水反応の詳細な機構を確認していきます。

濃硫酸の役割とプロトン化

エタノールの分子内脱水反応において、濃硫酸は複数の重要な役割を果たします。まず、強いブレンステッド酸として、エタノールのヒドロキシ基にプロトン(H+)を供与するのです。

濃硫酸(H2SO4)は、エタノール分子のヒドロキシ基の酸素原子にプロトンを付加します。これにより、ヒドロキシ基がプロトン化され、良好な脱離基となるでしょう。

CH3CH2OH + H2SO4 → CH3CH2OH2+ + HSO4-(エタノールのプロトン化)

プロトン化されたエタノール(CH3CH2OH2+)では、酸素原子に正電荷が発生します。このプロトン化により、ヒドロキシ基が水分子(H2O)という良好な脱離基に変換されるのです。

もしプロトン化が起こらなければ、脱離基は水酸化物イオン(OH-)となりますが、これは非常に塩基性が強く、脱離基としては不適切。プロトン化によって中性の水分子となることで、脱離が容易になるわけです。

また、濃硫酸は脱水剤としても機能し、生成した水を吸収して反応を平衡から生成物側に押し進めます。さらに、高い沸点(約338℃)を持つため、反応に必要な高温を維持する役割も果たすでしょう。

カルボカチオンの生成と安定性

プロトン化されたエタノールから水分子が脱離すると、カルボカチオン(炭素陽イオン)が生成されます。これがE1機構における律速段階です。

CH3CH2OH2+ → CH3CH2+ + H2O(カルボカチオンの生成)

生成されるエチルカチオン(CH3CH2+)は、炭素原子に正電荷を持つ不安定な中間体。この中間体の安定性が、反応の進行に大きく影響します。

カルボカチオンの安定性は、置換基の数によって決まります。一般的に、第三級カルボカチオン>第二級カルボカチオン>第一級カルボカチオンの順で安定性が高くなるのです。

エタノールから生成されるエチルカチオンは第一級カルボカチオンであり、比較的不安定。そのため、反応には高温と強酸触媒が必要となります。

カルボカチオンが不安定である理由は、電子不足の炭素原子が正電荷を持つためです。アルキル基は電子供与性を持ち、正電荷を分散させることで安定化に寄与します。置換基が多いほど、正電荷の分散効果が大きくなるでしょう。

エチルカチオンでは、メチル基(CH3-)が1つだけ結合しているため、安定化効果は限定的。それでも濃硫酸の強い酸性と高温条件により、十分な量のカルボカチオンが生成されるのです。

脱離反応によるエチレンの生成

カルボカチオンが生成されると、次の段階として脱離反応が起こります。カルボカチオンの隣接する炭素原子から水素イオン(H+)が脱離し、二重結合が形成されるのです。

CH3CH2+ → CH2=CH2 + H+(エチレンの生成)

この段階では、硫酸水素イオン(HSO4-)や硫酸イオン(SO42-)などの塩基が、カルボカチオンのβ位(隣接する炭素)の水素を引き抜きます。この水素の引き抜きと同時に、炭素-炭素二重結合が形成されるのです。

引き抜かれた水素イオンは、塩基と結合して再び硫酸を再生します。これにより、硫酸は触媒として機能し、反応の前後で消費されないわけです。

H+ + HSO4- → H2SO4(硫酸の再生)

エチレンが生成されると、気体として反応系から離脱します。エチレンは常温で気体であるため、加熱条件下では速やかに反応容器から出ていくでしょう。

この気体の離脱により、反応平衡が生成物側に移動し、さらなるエタノールの脱水反応が促進されます。ルシャトリエの原理に従い、生成物が系から除かれることで反応が右向きに進行するのです。

E1機構全体を通して、最も遅い段階(律速段階)はカルボカチオンの生成です。そのため、反応速度はエタノールとプロトンの濃度に依存し、一次反応となります。

反応条件と温度による生成物の違い

続いては、反応条件、特に温度による生成物の違いを確認していきます。

高温条件(約170℃)での分子内脱水

エタノールの分子内脱水反応は、濃硫酸存在下で約170℃に加熱することで効率的に進行します。この高温条件が、分子内脱水を優先させる重要な要因となるのです。

高温では、分子の熱運動エネルギーが増大し、カルボカチオンの生成に必要な活性化エネルギーを超えやすくなります。また、脱離反応はエントロピー増大を伴うため、高温ほど熱力学的に有利となるでしょう。

実験的には、エタノールと濃硫酸の混合物を加熱し、発生するエチレンガスを水上置換法などで捕集します。エチレンは水に溶けにくい気体であるため、この方法が有効です。

高温(170℃)での反応条件:・濃硫酸を触媒として使用

・約170℃に加熱

・エチレンガスが発生

・分子内脱水が優先的に進行

反応速度は温度に大きく依存します。170℃付近では分子内脱水が速やかに進行しますが、温度が低すぎると反応速度が遅くなり、また分子間脱水との競争も起こるのです。

逆に、温度が高すぎると、エタノールの炭化や硫酸の分解などの副反応が起こる可能性があります。そのため、適切な温度管理が高純度のエチレンを得るために重要となるでしょう。

工業的には、より効率的な触媒や反応条件が開発されています。例えば、アルミナ(Al2O3)触媒を使用した気相脱水反応では、300-400℃でエチレンを製造できるのです。

低温条件(約130-140℃)での分子間脱水

エタノールを濃硫酸と共に約130-140℃で加熱すると、分子内脱水ではなく分子間脱水が優先的に起こります。この反応では、ジエチルエーテル(C2H5OC2H5)が生成されるのです。

2C2H5OH → C2H5-O-C2H5 + H2O(約130-140℃、分子間脱水)

構造式:2CH3CH2OH → CH3CH2-O-CH2CH3 + H2O

分子間脱水の機構は、求核置換反応(SN反応)に近いメカニズムで進行します。一方のエタノール分子がプロトン化されて良好な脱離基となり、もう一方のエタノール分子が求核剤として攻撃するのです。

低温では脱離反応よりも置換反応が有利となるため、2分子間での反応が進行しやすくなります。

生成されるジエチルエーテルは、エーテル結合(C-O-C)を持つ化合物。常温で無色の液体であり、揮発性が高く、特有の甘い香りを持っています。

ジエチルエーテルは、かつて医療用の麻酔薬として広く使用されていました。また、有機溶媒としても重要であり、現在でも化学実験や工業プロセスで利用されているでしょう。

温度 優先される反応 主生成物 物理状態
約130-140℃ 分子間脱水 ジエチルエーテル 液体
約170℃ 分子内脱水 エチレン 気体

この温度による反応選択性は、アルコールの脱水反応における重要な特徴です。目的の生成物に応じて、適切な温度条件を選択することが必要なのです。

温度制御の重要性と反応選択性

エタノールの脱水反応において、温度制御は生成物の選択性を決定する最も重要な要因です。わずか30-40℃の温度差が、全く異なる生成物をもたらすことになります。

温度と生成物の関係は、反応の活性化エネルギーとエントロピー変化に基づいています。分子内脱水はエントロピー増大を伴う反応であり、高温ほど自由エネルギー変化(ΔG)が負の値となって有利になるのです。

ΔG = ΔH – TΔS(ΔS > 0 の場合、T が大きいほど ΔG は負になる)

一方、分子間脱水は2分子が1分子になる反応であり、エントロピー変化は比較的小さくなります。したがって、温度の影響が分子内脱水ほど大きくないのです。

実際の反応では、両方の反応が同時に起こる可能性があります。130℃付近では分子間脱水が優勢ですが、少量のエチレンも生成されることがあるでしょう。同様に、170℃でも微量のジエチルエーテルが副生する場合があります。

高純度の目的生成物を得るためには、温度の精密な制御が不可欠です。工業的な製造プロセスでは、温度センサーとフィードバック制御システムを用いて、±2℃程度の精度で温度を管理します。

また、反応時間も重要な要因となります。反応時間が長すぎると、生成物の分解や二次反応が起こる可能性があるため、適切な反応時間の設定も必要なのです。

触媒の種類や濃度も反応選択性に影響を与えます。濃硫酸以外にも、リン酸やアルミナなどの固体酸触媒が使用されることがあり、触媒の選択によって反応条件を最適化できるでしょう。

エチレンの性質と工業的利用

続いては、分子内脱水反応の生成物であるエチレンの性質と利用を確認していきます。

エチレンの物理的・化学的性質

エチレン(C2H4)は、最も単純な構造を持つアルケンであり、多くの重要な化学的性質を示します。分子式はC2H4、構造式はCH2=CH2で、炭素-炭素二重結合を特徴とする化合物です。

物理的性質として、エチレンは常温常圧で無色の気体。融点は-169.2℃、沸点は-103.7℃と非常に低く、液化には高圧または極低温が必要となります。

エチレンの物理定数:分子量:28.05

融点:-169.2℃

沸点:-103.7℃

密度:0.568 g/L(0℃、1気圧)

エチレンはわずかに甘い臭いを持ち、水にはほとんど溶けませんが、有機溶媒には比較的よく溶解します。また、空気よりわずかに軽いという性質を持つでしょう。

化学的性質として最も重要なのが、炭素-炭素二重結合の反応性です。二重結合は電子密度が高く、求電子試薬との付加反応を起こしやすい性質を持っています。

代表的な反応として、臭素水との付加反応があります。エチレンに臭素水を加えると、赤褐色の臭素水が脱色され、1,2-ジブロモエタンが生成するのです。

CH2=CH2 + Br2 → CH2Br-CH2Br(エチレンと臭素の付加反応)

また、水素との付加反応(水素化)により、エタン(C2H6)を生成します。触媒存在下で水を付加させれば、エタノールを合成することも可能でしょう。

エチレンは植物ホルモンとしても機能し、果実の成熟を促進する作用を持っています。バナナやトマトなどの果実から自然に発生し、追熟を促進する効果があるのです。

ポリエチレンの製造とプラスチック産業

エチレンの最も重要な用途は、ポリエチレンの製造です。ポリエチレンは世界で最も大量に生産されているプラスチックであり、私たちの日常生活に欠かせない材料となっています。

エチレンの重合反応により、数千から数万のエチレン分子が連結してポリエチレンが生成されます。

nCH2=CH2 → (-CH2-CH2-)n(エチレンの重合反応)

n は重合度(数千~数万)

ポリエチレンには、製造条件によって複数の種類があります。高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが代表的でしょう。

高密度ポリエチレンは、分子が規則正しく配列した結晶性の高い構造を持ち、硬くて強度が高い性質を示します。容器、パイプ、タンクなどの用途に使用されるのです。

低密度ポリエチレンは、分岐構造を持つため結晶性が低く、柔軟性に優れています。レジ袋、ラップフィルム、包装材料などに広く利用されているでしょう。

ポリエチレンの種類 特徴 主な用途
高密度ポリエチレン(HDPE) 硬い、強度が高い 容器、パイプ、タンク
低密度ポリエチレン(LDPE) 柔軟、透明性が高い レジ袋、ラップ、包装材
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE) 強度と柔軟性のバランス フィルム、農業用シート

世界のポリエチレン生産量は年間約1億トン以上に達し、プラスチック産業の中核を担っています。その原料であるエチレンの需要も膨大であり、石油化学工業において最も重要な基礎化学品なのです。

石油化学工業における重要性

エチレンは石油化学工業における最も基本的で重要な化合物の一つです。「石油化学の米」とも呼ばれ、様々な化学製品の出発原料となっています。

工業的には、エタノールの脱水よりも、ナフサ(粗製ガソリン)の熱分解(スチームクラッキング)によって大量生産されます。この方法では、800-900℃の高温で炭化水素を分解し、エチレンを主生成物として得るのです。

エチレンから製造される主な化学製品:・ポリエチレン(プラスチック)

・エチレングリコール(不凍液、PET樹脂原料)

・酢酸ビニル(接着剤、塗料)

・スチレン(ポリスチレンの原料)

・エタノール(溶剤、燃料)

エチレンの世界生産量は年間約2億トンに達し、化学工業製品の中で最大規模となっています。この膨大な需要を支えるため、大規模な石油精製プラントと化学コンビナートが世界中で稼働しているのです。

日本においても、千葉、川崎、四日市、水島、大分などの臨海部に大規模な石油化学コンビナートが立地しています。これらの施設では、原油からナフサを精製し、さらにエチレンや他の基礎化学品を製造しているでしょう。

エチレンの価格は国際市場で取引され、石油価格や需給バランスによって変動します。エチレン価格の動向は、プラスチック製品や各種化学製品の価格にも影響を与える重要な経済指標なのです。

環境への配慮から、近年ではバイオマス由来のエタノールから製造するバイオエチレンも注目されています。サトウキビなどから得られるバイオエタノールを脱水することで、化石燃料に依存しないエチレン製造が可能となるでしょう。

まとめ

エタノールの分子内脱水反応は、濃硫酸触媒の存在下で約170℃に加熱することにより、エチレンと水を生成する重要な化学反応です。反応式は C2H5OH → C2H4 + H2O で表され、1分子のエタノールから水分子が脱離して炭素-炭素二重結合が形成されます。

反応機構は、まずエタノールのプロトン化により良好な脱離基が形成され、次にカルボカチオン中間体を経て、最後に脱離反応によりエチレンが生成されるE1機構で進行するのです。濃硫酸は触媒として機能し、プロトン供与と脱水作用により反応を促進します。

温度条件によって生成物が異なり、高温(約170℃)では分子内脱水によりエチレンが、低温(約130-140℃)では分子間脱水によりジエチルエーテルが主生成物となるでしょう。この選択性は、反応のエントロピー変化と温度の関係に基づいています。

生成されるエチレンは、ポリエチレンをはじめとする多くの化学製品の原料として石油化学工業で極めて重要な位置を占めています。エタノールの分子内脱水反応は、実験室レベルでの学習だけでなく、工業的にも意義のある反応ですので、その機構と条件をしっかりと理解してください。