化学式等の物性

エチレンオキシドとは?構造式やsdsや用途等を解説!【エチレンオキサイド】

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エチレンオキシドは、化学工業において極めて重要な中間原料でありながら、一般にはあまり知られていない化合物でしょう。この物質は年間世界で3,000万トン以上が生産され、私たちが日常使用する繊維製品、ペットボトル、洗剤、不凍液など、無数の製品の出発物質となっているのです。

しかし、エチレンオキシドは単に有用な化学品というだけではありません。高い反応性を持つため取り扱いには細心の注意が必要であり、可燃性、爆発性、毒性といった危険性も併せ持っています。SDS(安全データシート、Safety Data Sheet)には、これらのリスクと適切な取り扱い方法が詳細に記載されているのです。

本記事では、エチレンオキシドの化学構造と物性から、SDS記載の安全性情報、製造方法、主要な用途、さらには滅菌用途での特殊な使い方まで、包括的に解説していきます。化学の基礎知識から実用的な安全管理まで、この重要な化合物を深く理解していきましょう。

 

エチレンオキシドの基本的な化学構造と物性

それではまず、エチレンオキシドの化学構造と基本的な性質について解説していきます。

 

化学式・構造式と分子の特徴

エチレンオキシド(ethylene oxide、略称EO)は、最も単純なエポキシド化合物です。分子式はC₂H₄Oで表され、構造式は三員環のエーテル構造を持ちます。

【エチレンオキシドの表記】

分子式:C₂H₄O

構造式:CH₂−CH₂(酸素原子が2つの炭素を架橋)

\O/

分子量:44.05

CAS番号:75-21-8

エチレンオキシドの最大の構造的特徴は、三員環エポキシド構造です。通常、炭素-酸素-炭素の結合角は約109.5°(四面体角)が安定ですが、三員環では約60°に歪められています。この大きな環ひずみが、エチレンオキシドの高い反応性の源なのです。

三員環は熱力学的に不安定であり、容易に開環反応を起こします。この性質により、エチレンオキシドは様々な求核剤(水、アルコール、アミン、カルボン酸など)と反応し、多様な化学品の原料となるでしょう。

エポキシドの環ひずみエネルギーは約113 kJ/molと非常に大きな値です。これは、通常の炭素-酸素単結合(約85 kJ/mol)よりも高いエネルギー状態にあることを意味します。この蓄えられたエネルギーが、開環反応の駆動力となり、エチレンオキシドを有用な化学品へと変換することを可能にしているのです。

 

物理的性質と基本物性データ

エチレンオキシドは、常温常圧では無色透明の気体です。わずかにエーテル様の甘い臭いを持ちますが、低濃度では無臭に近いでしょう。主要な物理的性質を以下にまとめます。

物性項目
沸点 10.4℃(1気圧)
融点 -111.3℃
密度(液体、20℃) 0.882 g/cm³
蒸気圧(20℃) 約146 kPa
水への溶解度(20℃) 完全混和
引火点 -20℃
自然発火温度 429℃
爆発範囲(空気中) 2.6~100 vol%

沸点が10.4℃と低いため、常温では気体として存在します。しかし、蒸気圧が高いため、加圧することで容易に液化できるのです。工業的には、加圧液化状態(約0.2~0.5 MPa)で貯蔵・輸送されます。

水に対して完全混和性を示すことも重要な特性です。この性質により、水との反応によるエチレングリコール製造が容易に行えます。一方、有機溶媒(アルコール、エーテル、芳香族炭化水素など)にも自由に溶解するでしょう。

 

化学的性質と反応性

エチレンオキシドの化学的性質は、その高い反応性に特徴づけられます。三員環構造の歪みにより、求核剤との開環反応が容易に進行するのです。

主要な反応として、以下のものがあります。第一に、水との反応によるエチレングリコール生成。第二に、アルコールとの反応によるグリコールエーテル生成。第三に、アンモニアとの反応によるエタノールアミン生成。第四に、カルボン酸との反応によるグリコールエステル生成でしょう。

【代表的な反応例】

水との反応:C₂H₄O + H₂O → HO-CH₂-CH₂-OH(エチレングリコール)

メタノールとの反応:C₂H₄O + CH₃OH → CH₃O-CH₂-CH₂-OH(エチレングリコールモノメチルエーテル)

アンモニアとの反応:C₂H₄O + NH₃ → HO-CH₂-CH₂-NH₂(モノエタノールアミン)

これらの反応は、酸触媒や塩基触媒の存在下で加速されます。また、エチレンオキシド自体が重合して、ポリエチレングリコールを生成することもあるのです。この重合反応は制御が難しく、貯蔵中の重合による発熱・圧力上昇が安全上の懸念となります。

 

SDS記載の安全性情報と危険性

続いては、エチレンオキシドのSDS(安全データシート)に記載される安全性情報を確認していきます。

 

健康有害性と毒性データ

エチレンオキシドは、複数の健康有害性を持つ化学物質です。SDS(安全データシート)では、GHS分類に基づき、以下のような危険有害性が表示されます。

【急性毒性】
エチレンオキシドの吸入による急性毒性は、中程度です。LD₅₀(半数致死量)やLC₅₀(半数致死濃度)は以下の通りでしょう。

急性毒性データ

経口LD₅₀(ラット):約330 mg/kg

吸入LC₅₀(ラット、4時間):約1,460 ppm

経皮LD₅₀(ウサギ):約270 mg/kg

高濃度の蒸気を吸入すると、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。さらに高濃度では、中枢神経系の抑制、意識喪失、呼吸困難を引き起こす可能性があるのです。

【刺激性と腐食性】
エチレンオキシドは、皮膚、眼、呼吸器に対して刺激性を示します。液体との接触は凍傷を引き起こす可能性があり(沸点が低いため)、長時間の蒸気暴露は気道刺激を引き起こすでしょう。

【発がん性】
エチレンオキシドは、IARC(国際がん研究機関)によってグループ1(ヒトに対する発がん性がある)に分類されています。長期の職業暴露により、リンパ腫や白血病のリスクが増加することが疫学調査で示されているのです。

エチレンオキシドの発がん性は、DNA損傷作用に起因します。エチレンオキシドはDNAの塩基と反応してアルキル化し、遺伝子変異を引き起こす可能性があります。このため、職業暴露限界値(OEL)は非常に厳しく設定されており、多くの国で1 ppm(8時間加重平均)以下とされているのです。

【生殖毒性と変異原性】
動物実験において、エチレンオキシドは生殖毒性と変異原性を示すことが確認されています。妊娠中の暴露は避けるべきであり、作業環境での厳格な管理が必要でしょう。

 

物理的危険性(可燃性・爆発性)

エチレンオキシドは、極めて可燃性が高く、爆発性も持つ危険な物質です。SDSでは最高レベルの警告が記載されます。

【可燃性】
引火点が-20℃と非常に低く、常温で容易に引火します。蒸気は空気より重く(蒸気密度1.52)、低所に滞留して遠方の着火源に到達する可能性があるのです。

【爆発性】
爆発範囲が2.6~100 vol%と異常に広いことが最大の危険性です。ほぼすべての濃度範囲で爆発性混合気を形成するため、取り扱いには極めて高度な注意が必要でしょう。

項目 エチレンオキシド 参考(プロパン)
引火点 -20℃ -104℃
自然発火温度 429℃ 450℃
爆発下限 2.6 vol% 2.1 vol%
爆発上限 100 vol% 9.5 vol%
爆発範囲の幅 97.4 vol% 7.4 vol%

爆発上限が100%という特性は、純粋なエチレンオキシド蒸気でも爆発の可能性があることを意味します。これは、エチレンオキシド自体が分解爆発を起こしうるためです。

【重合危険性】
エチレンオキシドは、触媒や不純物の存在下で、または高温・高圧条件で、激しい発熱を伴う重合反応を起こす可能性があります。この重合は制御不能となりやすく、爆発的な圧力上昇を引き起こす危険があるのです。

 

取り扱い上の注意事項と保護措置

SDSには、エチレンオキシドの安全な取り扱いのための詳細な指針が記載されます。主要な注意事項は以下の通りです。

【保護具】
– 呼吸用保護具:適切な防毒マスク(有機ガス用)または送気マスク
– 保護手袋:耐薬品性手袋(ニトリルゴム、ネオプレンなど)
– 保護衣:化学防護服
– 保護眼鏡:密閉型ゴーグル
– その他:洗眼設備、安全シャワーの設置

【工学的対策】
密閉系での使用、局所排気装置の設置、防爆仕様の電気設備、ガス検知警報装置の設置、適切な換気などが必須です。作業場所では、エチレンオキシド濃度を常時監視し、許容濃度以下に維持することが求められるでしょう。

【貯蔵上の注意】
– 冷暗所に保管(温度上昇による圧力増加を防ぐ)
– 火気厳禁、酸化剤から隔離
– 重合防止剤(通常0.5~5%の不活性ガス)を添加
– 定期的な圧力・温度の監視
– 適切な安全弁・破裂板の設置

許容暴露濃度(代表的な基準)

ACGIH TLV-TWA:1 ppm(8時間加重平均)

OSHA PEL-TWA:1 ppm(8時間加重平均)

日本産衛学会許容濃度:1 ppm(8時間)

これらは非常に低い値であり、厳格な暴露管理が必要

 

エチレンオキシドの製造方法と工業プロセス

続いては、エチレンオキシドがどのように製造されるのかを確認していきます。

 

エチレンの直接酸化法(主流プロセス)

現代の工業的製造法は、エチレンの直接酸化法がほぼ100%を占めます。この方法は、1931年にフランスのT. E. レフォールによって発見され、その後改良が重ねられてきました。

反応式は以下の通りです。

2C₂H₄ + O₂ → 2C₂H₄O(目的反応)

C₂H₄ + 3O₂ → 2CO₂ + 2H₂O(副反応、完全燃焼)

反応は、銀触媒(通常はα-アルミナ担体に銀を10~15%担持)を充填した多管式固定床反応器で行われます。典型的な反応条件は以下の通りでしょう。

項目 条件
触媒 銀/α-アルミナ(助触媒として塩素化合物添加)
反応温度 220~280℃
反応圧力 1~3 MPa
酸素源 空気または純酸素
エチレン転化率 8~15%(1パス)
選択率 85~90%(最新プロセスでは90%超)

銀触媒の役割は、エチレンと酸素の反応を選択的にエチレンオキシド生成へと導くことです。銀表面では、酸素が吸着・解離してα-酸素種を形成し、これがエチレンと反応してエチレンオキシドを生成します。

助触媒として、塩素化合物(ジクロロエタンなど)が少量添加されます。これは選択性を向上させる役割を持ち、現代のプロセスでは不可欠な成分なのです。

 

プロセスフローと分離精製

エチレンオキシド製造プロセスの全体的な流れは、以下のようになります。

【反応工程】
エチレンと酸素(または空気)を混合し、反応器に供給します。爆発範囲を避けるため、通常は酸素濃度を制御(空気法では6~8%、酸素法では8~10%程度)し、大量の循環ガス(窒素、二酸化炭素、未反応エチレンなど)で希釈するのです。

反応は強い発熱反応であるため、反応管は冷却水または蒸気発生用の水で冷却されます。発生した蒸気は、プロセス内の他の加熱用途や発電に利用され、エネルギー効率が向上するでしょう。

【分離工程】
反応ガスは、まず水吸収塔でエチレンオキシドを吸収除去します。エチレンオキシドの水への高い溶解性を利用した分離法です。得られた水溶液(エチレンオキシド濃度0.5~2%程度)は、蒸留塔で濃縮されるのです。

【精製工程】
蒸留により、高純度エチレンオキシド(純度99.9%以上)が得られます。不純物としてわずかに含まれるアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、二酸化炭素などは、精密蒸留によって除去されます。

最新のエチレンオキシドプロセスでは、選択率90%以上が達成されています。これは、1970年代の80%前後から大幅に改善された値です。触媒技術の進歩、反応条件の最適化、プロセス制御の高度化により、エネルギー効率と経済性が継続的に向上しているのです。

【未反応ガスの循環】
分離後の未反応エチレンとその他のガスは、一部をパージ(系外排出)した後、反応器に循環されます。循環により、エチレンの総合転化率を95%以上に高めることができるでしょう。

 

環境対策と安全管理

エチレンオキシド製造プラントでは、厳格な環境対策と安全管理が実施されます。主要な対策は以下の通りです。

【排ガス処理】
パージガスには、未反応エチレン、エチレンオキシド、二酸化炭素などが含まれます。エチレンとエチレンオキシドは、触媒燃焼装置で完全燃焼させてから大気放出されるのです。

【排水処理】
プロセス排水には微量のエチレンオキシドや有機物が含まれます。生物処理または触媒酸化処理により、これらを分解除去してから排水します。

【漏洩検知システム】
プラント全域にエチレンオキシドガス検知器を設置し、24時間監視します。設定濃度(通常5~10 ppm)を超えると警報が発せられ、自動的に緊急対応が開始されるのです。

【防爆対策】
すべての電気設備は防爆仕様であり、静電気対策(接地、導電性材料の使用)も徹底されます。また、窒素ガスによる不活性化システムが整備され、メンテナンス時の安全を確保しているでしょう。

 

まとめ

エチレンオキシド(C₂H₄O、CAS 75-21-8)は、三員環エポキシド構造を持つ高反応性の化合物であり、年間世界で3,000万トン以上が生産される重要な化学品中間体です。沸点10.4℃の無色気体であり、水に完全混和し、多様な求核剤と反応して有用な化学品を生成します。

しかし同時に、発がん性(IARC グループ1)、広い爆発範囲(2.6~100 vol%)、重合危険性など、複数の重大な危険性を持つ物質でもあります。SDSには厳格な取り扱い指針が記載され、職業暴露限界は1 ppm以下と非常に低く設定されているのです。

工業的には、エチレンの銀触媒による直接酸化法で製造され、選択率90%以上の高効率プロセスが確立されています。主な用途は、エチレングリコール(約75%)、非イオン界面活性剤(約15%)、エタノールアミン、滅菌剤などであり、繊維、樹脂、洗剤、医療など幅広い分野で活用されているのです。エチレンオキシドの性質と用途を正しく理解することで、その産業的重要性と安全管理の必要性が明確になるでしょう。