化学反応

エチレンジアミン四酢酸とは?沸点(sds)やcasは?配位数や化学式・構造式・分子量等を解説【EDTA】

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化学分析や工業プロセスにおいて、金属イオンを捕捉・除去する必要がある場面は数多く存在します。そのような場合に最も広く使用されているのが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)という化合物です。この物質は、金属イオンと非常に安定な錯体を形成する能力を持ち、分析化学から食品添加物まで、極めて多様な分野で活用されているのです。

EDTAの最も特徴的な性質は、一つの分子が金属イオンを複数の部位で取り囲むように結合する「キレート効果」でしょう。この効果により、通常の配位子では達成できない高い安定性を実現し、金属イオンの濃度測定や除去、安定化などを可能にします。化学式、構造式、配位数といった基本的な化学的性質を理解することで、EDTAがなぜこれほど有用なのかが明らかになるのです。

本記事では、EDTAの化学式・構造式・分子量などの基本情報から、CAS番号、沸点などのSDS記載データ、配位数とキレート形成のメカニズム、さらには具体的な用途まで、包括的に解説していきます。基礎化学から実用的な応用まで、この重要なキレート剤を深く理解していきましょう。

 

EDTAの化学式と基本構造

それではまず、エチレンジアミン四酢酸の化学式と構造について解説していきます。

 

化学式・分子式と分子量

エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid)は、EDTAという略称で広く知られています。分子式と化学式は以下の通りです。

【EDTAの基本情報】

分子式:C₁₀H₁₆N₂O₈

化学式:(HOOCCH₂)₂NCH₂CH₂N(CH₂COOH)₂

分子量:292.24

CAS番号:60-00-4(遊離酸)

別名:エデト酸、EDTA

EDTAの分子構造には、炭素原子10個、水素原子16個、窒素原子2個、酸素原子8個が含まれています。分子量292.24という値は、遊離酸形態(完全にプロトン化された形)のものです。

実際には、EDTAは4つのカルボキシ基(-COOH)を持つため、pHによって様々な解離状態を取ります。中性~アルカリ性では、これらのカルボキシ基が脱プロトン化し、陰イオンとして存在するのです。完全脱プロトン化したEDTA⁴⁻の実効分子量は、プロトン4個分(4.03)を引いた約288となるでしょう。

 

構造式と官能基の配置

EDTAの構造的特徴は、中心のエチレンジアミン骨格に4つの酢酸基が結合していることです。この構造により、EDTAは6つの配位部位を持つ六座配位子となります。

構造式を詳しく見ると、以下のような配置になっています。

【EDTAの構造】

HOOC-CH₂    CH₂-COOH

\  /

N-CH₂-CH₂-N

/      \

HOOC-CH₂    CH₂-COOH

この構造において、配位部位は以下の6箇所です。第一に、2つの窒素原子(各1つの非共有電子対を持つ)。第二に、4つのカルボキシ基の酸素原子(脱プロトン化後)です。これらの配位部位が、金属イオンを取り囲むように配位することで、極めて安定なキレート錯体を形成するのです。

EDTAの「六座配位子」という性質が、その強力なキレート能力の源です。通常の単座配位子(1箇所で配位)や二座配位子(2箇所で配位)と比較して、六座配位子は金属イオンをほぼ完全に取り囲むことができます。これにより、金属イオンは他の配位子や溶媒分子と結合する機会を失い、EDTA錯体として安定化されるのです。この効果を「キレート効果」と呼び、EDTAの応用を支える基本原理となっています。

 

CAS番号と別名・略称

EDTAには、形態や塩の種類によって複数のCAS番号が割り当てられています。最も一般的なものを以下にまとめました。

物質名 CAS番号 用途・特徴
EDTA(遊離酸) 60-00-4 基本形態、水への溶解度低い
EDTA二ナトリウム塩(二水和物) 6381-92-6 最も汎用的、水溶性良好
EDTA四ナトリウム塩 64-02-8 高pH用途、水溶性最良
EDTA二カリウム塩 2001-94-7 特殊用途
EDTA カルシウム二ナトリウム塩 62-33-9 医薬品用途

別名・略称としては、以下のようなものがあります。EDTA(最も一般的)、エデト酸(日本薬局方での名称)、エチレンジアミン四酢酸、キレスト、Versene(商品名)などです。

工業的・実用的には、遊離酸形態よりも二ナトリウム塩(EDTA-2Na)が圧倒的に多く使用されます。これは水への溶解性が高く、取り扱いが容易だからでしょう。分析化学では、EDTA-2Na・2H₂O(二水和物、分子量372.24)が標準試薬として使用されます。

 

EDTAの物理的性質とSDS情報

続いては、EDTAの物理的性質とSDSに記載される情報を確認していきます。

 

沸点と融点などの物性データ

EDTAの物理的性質は、その形態(遊離酸か塩か)によって異なります。ここでは、遊離酸とEDTA二ナトリウム塩の主要な物性データを示します。

物性項目 EDTA遊離酸 EDTA-2Na・2H₂O
外観 白色結晶性粉末 白色結晶性粉末
融点 約240℃(分解) 約252℃(分解)
沸点 分解のため測定不能 分解のため測定不能
密度(20℃) 約0.86 g/cm³ 約0.5~0.6 g/cm³(嵩密度)
水への溶解度(20℃) 約0.2 g/L(難溶) 約100 g/L(易溶)
pH(1%水溶液) 約2.5(遊離酸) 約4~6

沸点については、EDTAは加熱により分解するため、通常の意味での沸点は存在しません。融点付近まで加熱すると、カルボキシ基の脱炭酸反応などが起こり、分解が始まるのです。このため、SDSには「沸点:分解のため該当なし」と記載されることが一般的でしょう。

融点も厳密には分解点であり、約240~252℃で褐色に変色しながら分解します。この温度範囲は、測定条件や純度によって若干変動するのです。

水への溶解度は、形態によって大きく異なります。遊離酸はほとんど水に溶けません(0.2 g/L程度)。これは、4つのカルボキシ基が分子内および分子間で水素結合を形成し、強固な結晶構造を作るためです。一方、二ナトリウム塩は100 g/L以上溶解し、実用的な濃度の水溶液を調製できます。

 

SDSに記載される安全性情報

EDTAの詳細な安全性情報については、SDS(安全データシート)を必ずご確認ください。

SDSには、危険有害性、取り扱い上の注意、保護具、環境への影響など、安全に取り扱うための重要な情報が記載されています。

最新のSDS情報は、厚生労働省 職場のあんぜんサイトや、製品を供給するメーカー・販売元から入手できます。

化学物質を取り扱う際は、必ず事前にSDSを確認し、適切な安全対策を講じることが重要です。

【一般的な注意事項】
化学物質を取り扱う際の基本として、以下の点に注意しましょう。

粉塵の吸入を避け、適切な換気下で取り扱う
皮膚や眼への接触を避ける
必要に応じて保護具(保護眼鏡、保護手袋、防塵マスクなど)を着用する
使用後の廃液は適切に処理する

具体的な毒性データ、許容濃度、応急措置などの詳細情報については、必ずSDSを参照してください。

 

配位数とキレート形成のメカニズム

続いては、EDTAの最も重要な性質である配位能力とキレート形成について確認していきます。

 

EDTAの配位数とは

EDTAは六座配位子として機能します。「配位数」とは、配位子が金属イオンと結合する部位の数を指し、EDTAの場合は6箇所で配位できるのです。

具体的な配位部位は以下の通りです。

【EDTAの6つの配位部位】

1. 窒素原子1(非共有電子対)

2. 窒素原子2(非共有電子対)

3. カルボキシ基1の酸素原子

4. カルボキシ基2の酸素原子

5. カルボキシ基3の酸素原子

6. カルボキシ基4の酸素原子

金属イオンとEDTAが錯体を形成する際、これら6つの部位が同時に一つの金属イオンに配位します。その結果、金属イオンはEDTAに完全に取り囲まれた状態(八面体型配位構造が多い)となるのです。

この「多座配位」が、EDTAの強力なキレート能力の源でしょう。単座配位子(例:アンモニア、水)が一つずつ結合する場合と比較して、一つの分子で複数箇所を占有できるため、エントロピー的に有利であり、錯体の安定性が飛躍的に向上します。

キレート効果は、熱力学的な観点から説明できます。例えば、6個の水分子が配位している金属イオンに、EDTA一分子が配位する場合を考えます。EDTA一分子が6箇所で配位すると、6個の水分子が放出されます。この過程で、粒子数が増加(1個→7個)するため、エントロピーが大きく増加するのです。ΔG = ΔH – TΔSの式において、ΔSが正で大きいため、ΔGは負となり、反応は自発的に進行します。これがキレート効果の本質なのです。

 

金属イオンとの錯体形成

EDTAは、ほとんどすべての金属イオンと錯体を形成します。一般的に、1:1の組成(金属イオン1個に対してEDTA1分子)で錯体が生成されるのです。

錯体形成反応は、以下のように表されます。

Mⁿ⁺ + EDTA⁴⁻ ⇄ [M-EDTA]⁽ⁿ⁻⁴⁾⁻

(Mⁿ⁺:n価の金属イオン、EDTA⁴⁻:完全脱プロトン化EDTA)

例えば、カルシウムイオン(Ca²⁺)の場合、

Ca²⁺ + EDTA⁴⁻ ⇄ [Ca-EDTA]²⁻

鉄(III)イオン(Fe³⁺)の場合、

Fe³⁺ + EDTA⁴⁻ ⇄ [Fe-EDTA]⁻

生成した錯体の電荷は、金属イオンの電荷からEDTAの電荷(-4)を引いた値となります。この錯体は水溶性であり、安定に存在するのです。

錯体の構造は、金属イオンの種類によって若干異なりますが、多くの場合、金属イオンを中心とした八面体型配位構造を取ります。2つの窒素と4つの酸素が配位座を占め、金属イオンを取り囲んでいるでしょう。

 

キレート効果と安定度定数

EDTAと金属イオンの錯体の安定性は、安定度定数(stability constant)で表されます。記号Kや log Kで示され、値が大きいほど錯体が安定であることを意味するのです。

金属イオン log K(25℃、イオン強度0.1) 安定性
Na⁺ 1.7 非常に弱い
Mg²⁺ 8.7 中程度
Ca²⁺ 10.7 強い
Zn²⁺ 16.5 非常に強い
Cu²⁺ 18.8 極めて強い
Fe³⁺ 25.1 極めて強い
Hg²⁺ 21.8 極めて強い

この表から、以下のような傾向が読み取れます。第一に、アルカリ金属イオン(Na⁺、K⁺)は非常に弱い錯体しか形成しない。第二に、アルカリ土類金属イオン(Mg²⁺、Ca²⁺)は中程度~強い錯体を形成する。第三に、遷移金属イオンや重金属イオンは極めて強い錯体を形成するのです。

一般的に、電荷が大きく、イオン半径が小さい金属イオンほど、強い錯体を形成します。また、d軌道に電子を持つ遷移金属イオンは、配位子場安定化エネルギーにより、さらに安定化されるでしょう。

安定度定数の実用的意味

log K = 10:錯体の99%以上が形成される(強い錯形成)

log K = 20:ほぼ100%が錯体として存在(極めて強い)

log K = 5以下:錯形成が不完全(弱い)

この高い安定度定数により、EDTAは金属イオンの選択的捕捉や、pHを調整することによる金属イオンの選択的放出が可能になります。これが、分析化学や工業プロセスでのEDTAの有用性の基盤なのです。

 

EDTAの主要用途と応用分野

続いては、EDTAの具体的な用途と応用について確認していきます。

 

分析化学での利用

EDTAの最も古典的かつ重要な用途は、キレート滴定(錯滴定)における滴定試薬としての利用です。金属イオンの定量分析に広く使用されているのです。

【キレート滴定の原理】
試料溶液中の金属イオン濃度を求めるため、既知濃度のEDTA溶液を滴下します。金属イオンとEDTAが1:1で反応するため、当量点でのEDTA消費量から金属イオン濃度が計算できるのです。

キレート滴定の手順(Ca²⁺の定量例)

1. 試料溶液のpHを調整(通常pH 10程度)

2. 金属指示薬を添加(例:EBT、エリオクロムブラックT)

3. EDTA標準溶液で滴定

4. 色の変化で終点を判定(赤→青など)

5. 消費したEDTA量から金属イオン濃度を計算

水の硬度測定(Ca²⁺、Mg²⁺の総量)は、最も一般的なEDTA滴定の応用です。上水道、工業用水、ボイラー水などの管理に不可欠な分析法でしょう。その他、亜鉛、銅、鉄、ニッケル、コバルトなど、多くの金属イオンの定量にEDTA滴定が使用されます。

また、分析機器(原子吸光光度計、ICP発光分析装置など)の前処理においても、EDTAは金属イオンを可溶化・安定化する試薬として使用されるのです。

 

工業用途と洗浄剤

工業分野では、EDTAの金属イオン捕捉能力が様々な用途に活用されています。

【金属イオン封鎖剤】
水処理プロセスにおいて、カルシウムやマグネシウムイオンを封鎖し、スケール(炭酸カルシウムなどの析出物)の形成を防ぎます。ボイラー水、冷却水、逆浸透膜装置などで使用されるのです。

【洗浄剤・洗剤成分】
家庭用洗剤や工業用洗浄剤に配合され、水中の金属イオンを封鎖します。これにより、界面活性剤の効果を維持し、金属石鹸の生成を防ぐのです。また、漂白剤(過酸化水素など)の安定化剤としても機能します。

【金属表面処理】
電気メッキの前処理や、金属表面の洗浄・脱脂工程で使用されます。金属表面の酸化物や汚れを除去し、メッキの密着性を向上させる効果があるでしょう。

【パルプ・製紙工業】
漂白工程において、微量の金属イオン(鉄、銅、マンガンなど)がパルプを変色させるのを防ぐため、EDTAが添加されます。これらの金属イオンを封鎖することで、漂白効率が向上し、製品の白色度が改善されるのです。

EDTAの工業利用における環境問題も認識されています。EDTAは生分解性が低く、下水処理でも完全には分解されません。環境中に放出されたEDTAは、重金属を可溶化して移動させる可能性があり、生態系への影響が懸念されるのです。このため、生分解性の高い代替キレート剤(EDDS、NTAなど)の開発・使用が進められています。

 

食品添加物と医薬品

EDTAは、食品添加物や医薬品としても重要な役割を果たしています。

【食品添加物】
EDTAカルシウム二ナトリウム塩(EDTA-Ca-2Na)は、酸化防止剤、変色防止剤、品質保持剤として食品に使用されます。主な用途は以下の通りです。

食品での用途例

・缶詰(野菜、魚介類):変色防止

・マヨネーズ・ドレッシング:酸化防止

・清涼飲料水:風味保持

・調味料:品質安定化

使用基準:通常250 ppm以下(食品により異なる)

食品中の微量金属イオン(鉄、銅など)を封鎖することで、これらのイオンが触媒となって起こる酸化反応や変色を防ぎます。ビタミンCなどの酸化防止剤と併用されることが多いでしょう。

【医薬品】
EDTAカルシウム二ナトリウム塩は、重金属中毒の解毒剤として医療現場で使用されます。鉛中毒、水銀中毒、カドミウム中毒などの治療に用いられるのです。

静脈注射により投与されたEDTAは、体内の重金属イオンと錯体を形成し、尿中に排泄されます。これにより、体内の重金属濃度を低下させ、中毒症状を軽減するのです。

また、EDTA二ナトリウム塩は、注射剤や点眼剤の安定化剤として添加されることがあります。微量の金属イオンによる薬剤の分解や変質を防ぐ目的でしょう。

その他、歯科治療における根管洗浄剤、眼科における角膜沈着物除去剤など、多様な医療用途があります。EDTAの金属イオン封鎖能力が、医療の様々な場面で活用されているのです。

 

まとめ エチレンジアミン四酢酸のやcasや配位数や化学式・構造式・分子量等を解説

エチレンジアミン四酢酸(EDTA、C₁₀H₁₆N₂O₈、分子量292.24、CAS 60-00-4)は、六座配位子として機能する強力なキレート剤です。2つの窒素原子と4つのカルボキシ基由来の酸素原子が配位部位となり、金属イオンを取り囲むように結合することで、極めて安定な1:1錯体を形成します。

沸点は分解のため測定不能であり、融点は約240~252℃(分解)です。遊離酸の水への溶解度は低いですが、二ナトリウム塩は水溶性が高く、実用的に使用されています。安定度定数(log K)は金属イオンによって大きく異なり、遷移金属や重金属イオンとは極めて強い錯体(log K = 15~25)を形成するのです。

主要用途は、分析化学におけるキレート滴定、工業分野での金属イオン封鎖剤・洗浄剤、食品添加物(酸化防止・変色防止)、医薬品(重金属中毒の解毒剤)など多岐にわたります。EDTAの化学的性質と配位化学を理解することで、その多様な応用の原理が明確になるでしょう。ただし、環境残留性の問題もあり、適切な使用と廃棄管理が重要なのです。