化学反応

エチレンの匂い等の性質を解説!

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エチレン(C₂H₄)は、化学工業において最も重要な基礎原料の一つですが、その物理的・化学的性質について詳しく知る機会は意外と少ないかもしれません。

無色で可燃性の気体であるエチレンは、わずかに甘いエーテル様の臭いを持ち、植物ホルモンとしての作用も併せ持つという、多面的な性質を持つ化合物なのです。

エチレンの性質を理解することは、その取り扱いや安全管理、さらには化学反応における挙動を予測する上で不可欠でしょう。物理的性質(沸点、融点、密度など)、化学的性質(反応性、安定性)、生理的作用、危険性など、多角的な視点からエチレンを理解することで、この化合物の全体像が明らかになります。

本記事では、エチレンの臭い(匂い)の特徴から始まり、基本的な物理的性質、化学的性質と反応性、植物ホルモンとしての作用、さらには安全性と取り扱い上の注意点まで、包括的に解説していきます。

基礎化学から実用的な知識まで、エチレンの性質を深く理解していきましょう。

 

エチレンの臭いと感覚的特徴

それではまず、エチレンの臭いや感覚的に認識できる性質について解説していきます。

 

エチレンの臭いの特徴

エチレンは、わずかに甘いエーテル様の臭いを持つと表現されます。ただし、この臭いは非常に微弱であり、通常の濃度では人間の嗅覚ではほとんど感知できません。

エチレンの臭気特性

臭いの質:わずかに甘い、エーテル様

臭気閾値:約500~800 ppm

感知可能濃度:通常の環境濃度では無臭に近い

比較:都市ガス(メルカプタン添加)よりはるかに弱い

臭気閾値が500~800 ppmと高いため、危険濃度に達する前に臭いで察知することは困難です。これは安全管理上の重要なポイントでしょう。エチレンの爆発下限界は2.7 vol%(27,000 ppm)であり、臭いを感じる濃度よりもはるかに低い濃度で既に爆発危険性があるのです。

このため、工業現場ではガス検知器による濃度監視が不可欠となります。臭いに頼った安全管理はできないため、機器による客観的な測定が重要なのです。

 

純度による臭いの違い

市販されるエチレンの純度によって、臭いの強さや質が若干異なる場合があります。

【高純度エチレン(99.9%以上)】
純度の高いエチレンは、ほぼ無臭に近いでしょう。わずかな甘い臭いがする程度であり、不快な臭いはほとんどありません

【工業用エチレン(95~99%)】
微量の不純物(メタン、エタン、プロピレンなど)を含む場合があり、これらが混ざった臭いとなります。ただし、依然として弱い臭いです。

【分解ガス由来のエチレン】
石油分解(クラッキング)により得られるエチレンには、微量の硫黄化合物やアセチレンが含まれることがあり、これらが特有の臭いを生じる場合があるのです。

エチレンに臭いをつける(付臭)ことは、一般的には行われません。これは、エチレンが化学原料として使用されるためです。付臭剤が混入すると、製品の品質に悪影響を及ぼす可能性があります。一方、燃料として使用される都市ガス(メタンなど)には、漏洩検知のためにメルカプタン類が添加され、強い臭いが付けられているのです。

 

他の類似化合物との比較

エチレンの臭いを、構造が類似した他の化合物と比較してみましょう。

化合物 臭いの特徴 臭気閾値
エチレン(C₂H₄) わずかに甘い 500~800 ppm
メタン(CH₄) ほぼ無臭 検出困難
エタン(C₂H₆) ほぼ無臭 検出困難
プロピレン(C₃H₆) わずかに石油様 300~500 ppm
アセチレン(C₂H₂) エーテル様、やや刺激的 100~200 ppm

単純な炭化水素は総じて臭いが弱い傾向があります。官能基を持つ化合物(アルコール、アルデヒド、アミンなど)と比較すると、臭気強度ははるかに低いでしょう。

 

エチレンの基本的な物理的性質

続いては、エチレンの物理的性質を詳しく確認していきます。

 

相状態と沸点・融点

エチレンは、常温常圧では気体として存在します。主要な物理定数を以下に示します。

物性項目
分子式 C₂H₄
分子量 28.05
沸点(1気圧) -103.7℃
融点 -169.2℃
臨界温度 9.2℃
臨界圧力 5.04 MPa
密度(気体、0℃、1気圧) 1.26 kg/m³
密度(液体、沸点) 約570 kg/m³
蒸気密度(空気=1) 0.97

沸点が-103.7℃と非常に低いため、常温では必ず気体です。ただし、加圧することで液化できます。臨界温度が9.2℃であるため、9.2℃以下では加圧により容易に液化しますが、9.2℃以上ではいくら圧力を上げても液化しません。

工業的には、エチレンは高圧ガス(圧縮ガス)または液化ガスとして貯蔵・輸送されます。典型的な貯蔵条件は、低温(-100℃程度)での液化貯蔵、または常温での高圧(5~10 MPa)圧縮貯蔵です。

 

密度と拡散性

エチレンの気体密度は1.26 kg/m³(0℃、1気圧)であり、空気の密度(約1.29 kg/m³)とほぼ同じです。蒸気密度(空気を1としたときの相対密度)は0.97であり、わずかに空気より軽いでしょう。

この性質により、エチレンガスは空気中で比較的均一に拡散します。重いガス(例:プロパン、蒸気密度1.55)のように低所に滞留しやすいわけでもなく、軽いガス(例:メタン、蒸気密度0.55)のように上方に上昇しやすいわけでもありません。

【拡散係数】
エチレンの空気中での拡散係数は、約1.5×10⁻⁵ m²/s(25℃)です。これは中程度の拡散性を示し、漏洩すると周囲に広がりやすいという特性があるのです。

密閉空間でのエチレン漏洩は、空気との混合により爆発性雰囲気を形成するリスクがあります。適切な換気が重要でしょう。

 

溶解性と溶媒への親和性

エチレンの溶解性は、溶媒の種類によって大きく異なります。

【水への溶解度】
エチレンは水にはほとんど溶けません。25℃、1気圧での溶解度は約131 mg/L(0.013 g/100 mL)と非常に低い値です。これは、エチレンが非極性分子であり、極性の高い水との親和性が低いためでしょう。

水への溶解度(25℃、1気圧)

約131 mg/L = 0.013 g/100 mL

ヘンリー定数:約1.3×10⁴ atm·L/mol

【有機溶媒への溶解度】
一方、非極性の有機溶媒には比較的よく溶解します。ベンゼン、トルエン、ヘキサン、エーテル類などには、水よりも数十倍から数百倍高い溶解度を示すのです。

この溶解性の違いは、「似たものは似たものに溶ける」という溶解性の原理によって説明されます。非極性のエチレンは、非極性溶媒と親和性が高く、極性溶媒とは親和性が低いのです。

アルコール類(メタノール、エタノール)への溶解度は、水と有機溶媒の中間程度となります。これは、アルコールが極性と非極性の両方の性質を持つためでしょう。

 

エチレンの化学的性質と反応性

続いては、エチレンの化学的な性質と反応性を確認していきます。

 

二重結合による高い反応性

エチレンの化学的性質は、炭素-炭素二重結合(C=C)の存在によって特徴づけられます。この二重結合により、エチレンは飽和炭化水素(アルカン)と比較して、はるかに高い反応性を示すのです。

【主要な反応タイプ】

〈付加反応〉

二重結合が開裂して、新しい原子や原子団が結合します。これがエチレンの最も特徴的な反応でしょう。

代表的な付加反応

水素付加:C₂H₄ + H₂ → C₂H₆(エタン)

ハロゲン付加:C₂H₄ + Br₂ → CH₂Br-CH₂Br(1,2-ジブロモエタン)

水付加:C₂H₄ + H₂O → C₂H₅OH(エタノール)

ハロゲン化水素付加:C₂H₄ + HCl → C₂H₅Cl(塩化エチル)

 

〈重合反応〉

多数のエチレン分子が連続的に付加し、高分子を形成します。ポリエチレンの製造が代表例です。

n C₂H₄ → (−CH₂−CH₂−)ₙ(ポリエチレン)

〈酸化反応〉

エチレンは酸化剤と反応して、様々な酸素含有化合物を生成します。

エチレンオキシド生成:2C₂H₄ + O₂ → 2C₂H₄O

完全燃焼:C₂H₄ + 3O₂ → 2CO₂ + 2H₂O

 

安定性と保存条件

純粋なエチレンは、通常の条件下では化学的に安定です。空気中で自然発火することはなく、常温で自己分解することもありません。

ただし、以下の条件下では反応性が高まります。

【高温条件】
400℃以上の高温では、熱分解が始まり、アセチレン、メタン、炭素などに分解します。工業的なクラッキング(熱分解)プロセスでは、この性質が利用されるのです。

【光照射】
紫外線照射により、エチレンは光化学反応を起こします。酸素存在下では光酸化が進行し、過酸化物などが生成する可能性があるでしょう。

【触媒存在下】
遷移金属触媒(パラジウム、白金、ニッケルなど)や酸触媒の存在下では、常温でも反応が進行します。これが、触媒的な化学合成の基礎となっているのです。

エチレンの貯蔵では、不純物の混入を避けることが重要です。特に、酸素、水分、酸性物質などが混入すると、副反応や重合が起こる可能性があります。工業用エチレンは、通常99%以上の高純度に精製され、窒素またはアルゴンで置換された容器に充填されるのです。また、直射日光を避け、冷暗所に保管することが推奨されます。

 

反応性の比較:他のアルケンとの違い

エチレンの反応性を、他のアルケンと比較してみましょう。

化合物 構造 反応性 特徴
エチレン CH₂=CH₂ 高い 対称構造、置換基なし
プロピレン CH₃CH=CH₂ エチレンより高い メチル基の電子供与効果
1-ブテン CH₃CH₂CH=CH₂ エチレンより高い アルキル基の安定化
イソブテン (CH₃)₂C=CH₂ 非常に高い 二置換アルケン、カルボカチオン安定

一般的に、アルキル置換基が多いアルケンほど反応性が高い傾向があります。これは、置換基が二重結合に電子を供与し、求電子剤との反応を促進するためです。また、反応中間体(カルボカチオン)が置換基によって安定化されるためでもあるでしょう。

エチレンは置換基を持たない最も単純なアルケンであり、他のアルケンと比較すると反応性はやや低めですが、それでもアルカンよりははるかに反応性が高いのです。

 

植物ホルモンとしてのエチレン

続いては、エチレンの生理的作用について確認していきます。

 

植物の成熟・老化促進作用

エチレンは、化学物質としての側面だけでなく、植物ホルモンとしても重要な役割を果たします。植物自身がエチレンを生成し、成長や発達を調節しているのです。

【果実の成熟促進】
エチレンは、果実の成熟を促進する主要なホルモンです。未熟な果実にエチレンを曝露すると、以下のような変化が起こります。

エチレンによる果実の変化

・デンプンから糖への転換(甘味増加)

・クロロフィルの分解(緑色から色づき)

・細胞壁の軟化(柔らかくなる)

・香気成分の生成(芳香の発達)

・呼吸速度の上昇(クライマクテリックライズ)

この作用は、商業的にも利用されています。バナナ、トマト、キウイフルーツなどは、未熟な状態で収穫・輸送され、販売前にエチレン処理により追熟されるのです。

【老化促進】
花や葉においては、エチレンは老化を促進します。切り花にエチレンが曝露されると、花弁の萎凋や脱落が早まります。このため、花卉の流通では、エチレンの除去や生成抑制が重要な課題となるでしょう。

 

濃度と生理作用の関係

エチレンの生理作用は、濃度によって大きく異なります。

濃度と作用の関係

0.01~0.1 ppm:成熟促進効果が現れ始める

0.1~1 ppm:明確な成熟促進、開花誘導

1~10 ppm:急速な成熟、老化促進

10~100 ppm:過剰反応、品質劣化

100 ppm以上:障害発生の可能性

非常に低濃度(0.1 ppm程度)でも生理作用を示すことが、エチレンの植物ホルモンとしての強力さを示しています。この高い活性は、植物の精密な成長制御に寄与しているのです。

 

エチレン生成のメカニズム

植物は、アミノ酸の一種であるメチオニンから、ACC(1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸)を経由してエチレンを生成します。

植物体内でのエチレン生成経路

メチオニン → SAM → ACC → エチレン

(SAM: S-アデノシルメチオニン)

(ACC: 1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸)

ストレス条件(傷害、病原菌感染、乾燥、低温など)下では、エチレン生成が増加します。これは植物の防御反応の一部であり、ストレスホルモンとしての側面も持つのです。

果実の成熟期には、エチレン生成が急激に増加します。生成されたエチレンが、さらにエチレン生成を促進する「オートカタリシス(自己触媒作用)」により、成熟が加速されるのです。

 

安全性と取り扱い上の注意

続いては、エチレンの危険性と安全な取り扱いについて確認していきます。

 

可燃性と爆発危険性

エチレンの最も重要な危険性は、可燃性と爆発性です。詳細な安全情報については、厚生労働省 職場のあんぜんサイトなどでSDSを確認し、適切な安全対策を講じることが必須です。

エチレンの燃焼・爆発特性

引火点:-136℃(極めて低い)

発火点:450~490℃

爆発下限界:2.7 vol%

爆発上限界:36 vol%

爆発範囲:33.3 vol%(非常に広い)

爆発範囲が2.7~36 vol%と極めて広いことが、エチレンの危険性を高めています。ほとんどすべての濃度範囲で爆発性混合気を形成する可能性があるのです。

【取り扱い上の安全対策】
– 火気厳禁、静電気対策の徹底
– 適切な換気の確保
– ガス検知警報器の設置
– 防爆仕様の電気設備使用
– 適切な保護具の着用

 

人体への影響

エチレンの人体への影響については、SDSに詳細が記載されています。一般的な注意事項として、以下の点が挙げられます。

【吸入による影響】
低濃度では、ほとんど影響がありません。高濃度(数千~数万ppm)では、単純窒息作用により、めまい、頭痛、意識喪失などが起こる可能性があります。これは、酸素濃度の低下によるものです。

【その他の影響】
液化エチレンとの接触は、凍傷を引き起こす可能性があります。沸点が-103.7℃と極めて低いためです。

詳細な毒性データ、許容濃度、応急措置などについては、必ずSDSを参照してください。

 

環境への影響

エチレンは、環境中では比較的速やかに分解されます。光化学反応により、大気中でヒドロキシラジカルと反応し、数日以内に分解されるのです。

水中では、揮発により大気中に移行します。生物濃縮性は低く、環境残留性も低いと考えられています。ただし、大量に漏洩した場合は、局所的な酸素欠乏や火災・爆発の危険があるため、適切な対応が必要でしょう。

エチレンは高圧ガス保安法の適用を受ける物質です。一定量以上を貯蔵・使用する施設は、高圧ガス製造設備として許可または届出が必要となります。法令を遵守し、適切な設備と管理体制の下で取り扱うことが、事故防止の基本なのです。

 

まとめ エチレンの性質等を徹底解説!

エチレン(C₂H₄)は、わずかに甘いエーテル様の臭いを持つ無色の気体ですが、臭気閾値が500~800 ppmと高く、危険濃度では臭いで検知できません。沸点-103.7℃、融点-169.2℃であり、常温では必ず気体として存在します。蒸気密度は0.97と空気とほぼ同じであり、空気中で均一に拡散する性質を持つのです。

化学的には、炭素-炭素二重結合により高い反応性を示し、付加反応、重合反応、酸化反応など多様な化学変換が可能です。また、植物ホルモンとして果実の成熟や老化を促進する作用を持ち、0.1 ppm程度の低濃度でも生理効果を発揮します。

安全面では、爆発範囲が2.7~36 vol%と極めて広く、高い可燃性と爆発性を持つため、火気厳禁、適切な換気、ガス検知器の設置などの厳格な安全管理が必要です。詳細な安全情報はSDSで確認し、法令を遵守した適切な取り扱いが不可欠でしょう。エチレンの多面的な性質を理解することで、安全かつ効果的な利用が可能になるのです。