言語学においても「スキーマ」という概念は重要な役割を果たしています。
私たちが言語を理解したり産出したりする際、単に文法規則に従うだけではなく、豊富な背景知識(スキーマ)を活用しているからです。
認知言語学の登場以降、スキーマは言語の意味理解・談話構造・文法習得などを説明する鍵概念として広く研究されてきました。
本記事では、言語学におけるスキーマの意味・種類・具体的な例・言語理解への応用について詳しく解説していきます。
言語学におけるスキーマとは何か?基本的な意味と定義
それではまず、言語学におけるスキーマの基本的な意味と定義について解説していきます。
言語学、特に認知言語学においてスキーマとは、言語使用者が持つ世界に関する知識・経験の構造化されたまとまりであり、言語の産出・理解・解釈に深く関わる認知的枠組みです。
言語は単なる記号の羅列ではなく、発話者と聞き手が共有する背景知識(スキーマ)に支えられて初めて意味をなします。
「あの人、あそこに行ったらしいよ」という文章も、話し手と聞き手が「あの人」「あそこ」に関するスキーマを共有しているからこそ理解できます。
言語スキーマと背景知識の関係
言語理解における背景知識の役割を示す有名な研究に、ブランスフォードとジョンソン(1972)の実験があります。
被験者に次のような抽象的な文章を読ませました。
「手順は実際にはそれほど複雑ではない。まず、物を複数のグループに分ける。もちろん一つのグループで十分なこともある。施設が不足している場合は、どこか別の場所に行かなければならない。そうでなければ準備は整っている。」
この文章は「洗濯」というタイトルを事前に提示されたグループではほぼ全員が意味を理解できましたが、タイトルなしでは多くの参加者が内容を把握できませんでした。
これはタイトルが「洗濯スキーマ」を活性化させることで、文章全体の解釈が可能になることを示しています。
この実験は、言語理解に背景知識(スキーマ)が不可欠であることを明確に示した古典的な研究として今も引用され続けています。
認知言語学とスキーマ理論
認知言語学は、言語を人間の認知・概念体系と切り離せないものとして捉える言語学の一分野です。
認知言語学の観点からは、文法規則は抽象的なスキーマとして理解されます。
たとえば「〜は〜が〜だ」という文型は、日本語の述語文に関するスキーマであり、話者はこのスキーマに具体的な内容を当てはめながら文を産出・理解します。
ラングカーのスキーマ概念では、言語における慣習化されたパターン(スキーマ)と、具体的なトークン(実際の発話)の関係で文法を説明します。
言語スキーマの種類と具体例
続いては、言語スキーマの種類と具体的な例を確認していきます。
言語学において活用されるスキーマにはいくつかの種類があり、それぞれが言語理解の異なる側面を支えています。
形式スキーマ:テキストの構造に関する知識
形式スキーマとは、テキストのジャンルや構造に関する知識のことです。
「物語」というジャンルを知っている読者は、「むかしむかしあるところに」という書き出しを読むだけで、登場人物・事件・解決という物語の構造を予測します。
同様に「論文」のスキーマを持つ研究者は、「序論・先行研究・方法・結果・考察・結論」という構成を自動的に予期しながら論文を読み進めます。
外国語学習においては、この形式スキーマの欠如が読解の大きな障壁となることがあります。
内容スキーマ:トピックに関する背景知識
内容スキーマとは、テキストのトピックに関する背景知識のことです。
野球に詳しい人が野球の試合経過を描いた文章をすらすら読めるのは、豊富な内容スキーマを持っているからです。
一方、野球を知らない人には同じ文章が難解に感じられるでしょう。
外国語の読解においては、母語話者の間では常識的な背景知識が外国語学習者には欠けていることが読解困難の主な原因となります。
これが「英語の語彙・文法を学んでも英語が読めない」という悩みの一因でもあるでしょう。
言語スキーマ:言語そのものに関する知識
言語スキーマとは、言語の音・語彙・文法・語用論などに関する知識の総体です。
日本語母語話者が「〜ましょうか」という表現をオファーや提案として理解できるのは、この表現のスキーマを習得しているからです。
| スキーマの種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 形式スキーマ | テキスト構造・ジャンルの知識 | 物語・論文・説明文の構成を知っている |
| 内容スキーマ | 話題に関する背景知識 | 野球の規則を知って試合記事が読める |
| 言語スキーマ | 語彙・文法・語用論の知識 | 「〜か?」が疑問・依頼を示すと理解できる |
| 文化スキーマ | 文化的慣習・価値観の知識 | 「お歳暮」の意味と習慣を理解できる |
スキーマと言語習得・外国語学習への応用
続いては、スキーマ理論の言語習得・外国語学習への応用について確認していきます。
スキーマ理論は外国語教育の場で非常に重要な示唆をもたらしています。
読解指導へのスキーマ理論の応用
外国語の読解指導において、スキーマ理論は「読む前活動(pre-reading activity)」の重要性を強調しています。
読む前に関連するトピックについて話し合ったり・写真を見たり・キーワードを確認したりする活動は、内容スキーマを活性化させることで読解を大幅に容易にする効果があります。
多くの外国語教科書で読む前活動が設けられているのは、このスキーマ理論に基づいた実践です。
談話スキーマと作文指導
作文(ライティング)指導においても、スキーマ理論は活用されています。
英語の説明文には「一般→特殊」という談話スキーマがあり、日本語の作文スキーマとは異なることが多いです。
日本語では「特殊→一般」(具体例から始めて一般論へ)という構成が好まれることがあり、このスキーマの違いが英語ライティングの困難につながることがあります。
スキーマ理論は外国語教育の場で「インターカルチュラル・コミュニケーション(異文化間コミュニケーション)」の観点からも重要です。
言語を学ぶことはその言語の文化スキーマを習得することでもあります。
日本語の「遠慮」「空気を読む」といった概念は、言語的な翻訳だけでは理解できず、文化スキーマの習得が必要です。
言語教育においては語彙・文法だけでなく、文化スキーマの形成も重要な目標として位置づけることが求められます。
まとめ
本記事では、言語学におけるスキーマの意味・種類・具体的な例・言語習得と外国語教育への応用について解説してきました。
言語理解においてスキーマは不可欠な役割を果たしており、形式スキーマ・内容スキーマ・言語スキーマ・文化スキーマがそれぞれ連携しながら読解・聴解・発話を支えています。
外国語学習においては、語彙・文法の学習とともに、関連する文化スキーマや内容スキーマを豊かに形成していくことが、真のコミュニケーション能力の発達につながるでしょう。