通信技術の分野で「TDD」と「FDD」という略語が登場しますが、ソフトウェア開発のTDD(テスト駆動開発)とは全く異なる概念です。
通信技術におけるTDD(Time Division Duplex:時分割複信)とFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)は、無線通信において上り(送信)と下り(受信)の通信を分ける方式の違いを指します。
本記事では、通信分野でのTDDとFDDの違い、それぞれの仕組みと特徴、LTEや5Gなどの現代の無線通信への応用について詳しく解説していきます。
通信におけるTDDとFDDの基本的な概念
それではまず、通信技術における複信(Duplex)の概念と、TDD・FDDがなぜ必要とされるかについて解説していきます。
複信(Duplex)とは何か
無線通信では、スマートフォンなどのデバイスがデータを送信する方向(アップリンク:上り)と、基地局からデータを受信する方向(ダウンリンク:下り)の両方向で通信が行われます。
複信(Duplex)とは、この双方向の通信を実現する仕組みです。
どのように上りと下りの通信を分けるかによって、TDDとFDDという2つの方式が存在します。
FDD(周波数分割複信)の仕組み
FDD(Frequency Division Duplex)は、上りと下りに異なる周波数帯を割り当てる方式です。
FDDのイメージ
上り(スマホ→基地局):1700MHz帯を使用
下り(基地局→スマホ):2100MHz帯を使用
→ 同時に送受信できる(真の全二重通信)
2つの異なる周波数帯を常時同時に使用するため、上りと下りが干渉することなく同時に通信できます。
送信と受信を同時に行える真の全二重通信(Full Duplex)が実現しますが、上りと下りそれぞれに専用の周波数帯が必要なため、2つ分の周波数資源が必要となります。
TDD(時分割複信)の仕組み
TDD(Time Division Duplex)は、同じ周波数帯を時間で分けて上りと下りに交互に使う方式です。
TDDのイメージ
同じ2600MHz帯を使用して時間で切り替え
時間スロット1:下り通信(基地局→スマホ)
時間スロット2:上り通信(スマホ→基地局)
時間スロット3:下り通信(基地局→スマホ)
→ 高速に切り替えることで擬似的な双方向通信
1つの周波数帯を時間で分けて使うため、FDDと比べて周波数資源を効率的に使えます。
TDDとFDDの詳細な比較
続いては、TDDとFDDの詳細な特性の違いを比較して確認していきましょう。
周波数資源の使い方の違い
| 比較項目 | FDD | TDD |
|---|---|---|
| 使用周波数帯 | 上り・下りに別々の2帯域 | 上り・下りで同じ1帯域 |
| 周波数資源効率 | 2帯域分必要(非効率) | 1帯域で済む(効率的) |
| 同時送受信 | 可能(真の全二重) | 不可(時分割で交互) |
| 遅延(レイテンシ) | 低い(連続通信のため) | やや高い(切り替えオーバーヘッド) |
| 上下比率の柔軟性 | 固定(対称) | 動的に変更可能(非対称) |
上下比率の柔軟性というTDDの強み
TDDの大きな強みのひとつが、上りと下りの通信量比率を動的に変更できることです。
動画ストリーミングのようなダウンロード中心のトラフィックが多い時間帯は下りの割合を増やし、ビデオ通話のようなアップロードが多い場合は上りの割合を増やすという柔軟な制御が可能です。
FDDは上りと下りに固定の周波数帯が割り当てられているため、この動的な比率調整ができません。
基地局間干渉の問題
TDDには、隣接する基地局が同じ周波数を使うため、基地局間の干渉が発生しやすいという課題があります。
この問題に対応するために、隣接する基地局のTDDフレームを同期させる(フレーム同期)技術が必要です。
FDDは上りと下りに異なる周波数を使うため、基地局間の干渉問題がTDDより少ない傾向があります。
LTE・5GにおけるTDDとFDDの役割
続いては、現代の主要な無線通信規格(LTE・5G)でTDDとFDDがどのように使われているかを確認していきましょう。
LTEにおけるTDD(TD-LTE)とFDD-LTE
4G LTE規格では、FDDを使うFDD-LTEとTDDを使うTD-LTEの両方が規格化されています。
日本では主要キャリアがFDD-LTEを主力として使いながら、高い周波数帯(2.5GHz帯など)ではTD-LTEも活用しています。
中国では広大な国土のカバレッジ確保にTD-LTEが広く使われており、China Mobileが世界最大のTD-LTEネットワークを展開しています。
5GにおけるTDDとFDDの使い分け
5G(NR:New Radio)においても、TDDとFDDの両方が使われています。
ミリ波(mmWave、28GHz帯以上)や中間帯域(Sub-6GHz、3.5GHz帯など)では主にTDDが使われ、低い周波数帯(Sub-1GHz帯)ではFDDが使われる傾向があります。
5Gの低遅延・高速通信を実現するために、TDDのフレーム構成も5G向けに最適化されています。
日本の主要キャリアでの活用状況
日本の主要な携帯キャリア(NTTドコモ・SoftBank・au・楽天モバイル)はLTE・5Gにおいて、対象の周波数帯に応じてFDDとTDDを使い分けています。
農村部や郊外のカバレッジには低周波数帯のFDDが適しており、都市部の高容量・高速通信には高周波数帯のTDDが活用されています。
TDDとFDDの選択基準と将来展望
続いては、実際に通信システムを設計する際のTDDとFDDの選択基準と将来の展望について確認していきましょう。
利用可能な周波数スペクトルによる選択
TDDとFDDのどちらを使うかは、利用可能な周波数スペクトルに大きく左右されます。
ペア周波数帯(上りと下りに対応する2つのバンドがセットで使える周波数)が利用可能であればFDDが選択肢となります。
アンペア(非ペア)周波数帯しか利用できない場合は、TDDが唯一の選択肢となります。
高い周波数帯(3GHz以上)では、ペア帯域の割り当てが難しいためTDDが主流となっています。
通信サービスの特性によるトレードオフ
通信サービスの要件によってもTDD・FDDの適性が変わります。
音声通話・ビデオ会議など低遅延が求められるサービスにはFDDの方が有利です。
モバイルブロードバンド(動画視聴・ファイルダウンロード)など下り重視のサービスには、TDDの非対称通信比率の柔軟性が強みになります。
6G・将来の通信規格への展望
次世代の6G通信に向けた研究開発が世界中で進んでいます。
超高速・超低遅延を実現するために、TDDとFDDの概念をさらに発展させた新しい複信方式の研究も進んでいます。
全二重通信(Full Duplex:同じ周波数・同じ時間に送受信を同時に行う)の実現に向けた技術開発も注目されており、TDDとFDDの枠を超えた新たな通信パラダイムが生まれる可能性があります。
まとめ
本記事では、通信分野でのTDD(時分割複信)とFDD(周波数分割複信)の基本概念、仕組みの違い、特性の比較、LTE・5Gでの活用状況、そして選択基準について解説しました。
FDDは上下に別々の周波数帯を使って同時通信する方式、TDDは同じ周波数帯を時間で分けて使う方式という根本的な違いがあります。
TDDは周波数資源の効率性と上下比率の柔軟性が強み、FDDは低遅延と基地局間干渉の少なさが強みです。
5G・将来の6Gへと通信規格が進化する中で、TDDとFDDの使い分けはさらに重要な技術的選択肢であり続けるでしょう。