化学実験や工業プロセスで使用される塩化コバルト六水和物は、水の検出試薬や触媒として重要な化合物です。しかし、その化学的性質や安全性情報を正確に把握している方は意外と少ないかもしれません。
塩化コバルト六水和物の化学式はどのように表されるのか。分子量はいくつか。また、安全に取り扱うために必要なSDS(安全データシート)情報はどこで入手できるのでしょうか。さらに、どのような危険性や有害性があるのでしょうか。
本記事では、塩化コバルト六水和物の化学式と構造、分子量の計算、SDS情報の内容、厚生労働省などの公的機関のリンク、安全な取り扱い方法まで、基礎から実用情報まで徹底的に解説していきます。
化学物質の基本情報と安全性を正確に理解することで、適切な取り扱いと事故防止が可能になるはずです。
塩化コバルト六水和物の基本情報
それではまず、塩化コバルト六水和物の基本的な化学情報を確認していきます。
化学式
塩化コバルト六水和物の化学式はCoCl₂・6H₂Oです。
この式は、塩化コバルト(II)(CoCl₂)に6分子の結晶水が結合していることを示しています。
化学式:CoCl₂・6H₂O
別名:塩化コバルト(II)六水和物
Cobalt(II) chloride hexahydrate
CAS番号:7791-13-1
塩化コバルト六水和物は、常温・常圧下で最も安定な塩化コバルトの形態です。赤色(淡紅色)の結晶として存在し、空気中の水分を吸収しやすい潮解性を持っています。加熱すると結晶水を失い、青色の無水塩化コバルトに変化します。
構造式と電子式
塩化コバルト六水和物の構造を確認しましょう。
構造の特徴
【中心イオン】
Co²⁺(コバルトイオン)
【配位子】
6個の水分子(H₂O)が配位
【構造】
八面体構造
[Co(H₂O)₆]²⁺ の錯イオンと2個のCl⁻が存在
より正確な表記
化学的により正確に表すと以下のようになります。
[Co(H₂O)₆]Cl₂
中心のCo²⁺に6個のH₂Oが配位した錯イオン[Co(H₂O)₆]²⁺と、
2個の塩化物イオンCl⁻から構成される
物理的性質
塩化コバルト六水和物の主要な物理的性質をまとめます。
| 項目 | 値・特徴 |
|---|---|
| 外観 | 赤色(淡紅色)の結晶 |
| 融点 | 約86℃(結晶水を失い始める) |
| 密度 | 1.924 g/cm³(20℃) |
| 溶解度(水、20℃) | 52.9 g/100 mL |
| 潮解性 | あり(空気中の水分を吸収) |
| 臭い | 無臭 |
分子量の計算
続いては、塩化コバルト六水和物の分子量を計算していきましょう。
必要な原子量
分子量計算に必要な原子量を確認します。
| 元素 | 元素記号 | 原子量 |
|---|---|---|
| コバルト | Co | 58.93 |
| 塩素 | Cl | 35.45 |
| 水素 | H | 1.01 |
| 酸素 | O | 16.00 |
分子量の計算
塩化コバルト六水和物(CoCl₂・6H₂O)の分子量を計算します。
【CoCl₂・6H₂Oの分子量計算】
Co:58.93 × 1 = 58.93
Cl:35.45 × 2 = 70.90
H₂O:18.02 × 6 = 108.12
(H:1.01 × 2 = 2.02、O:16.00 × 1 = 16.00、
H₂O = 18.02)
合計:58.93 + 70.90 + 108.12 = 237.95 g/mol
したがって、塩化コバルト六水和物の分子量は約237.95 g/molです。
無水物との比較
無水塩化コバルト(CoCl₂)の分子量と比較してみましょう。
| 化合物 | 化学式 | 分子量(g/mol) |
|---|---|---|
| 無水塩化コバルト | CoCl₂ | 129.83 |
| 塩化コバルト六水和物 | CoCl₂・6H₂O | 237.95 |
| 結晶水の質量 | 6H₂O | 108.12 |
結晶水が分子量全体の約45%を占めています。
組成比の計算
各元素の質量パーセントを計算してみましょう。
Co:58.93 / 237.95 × 100 = 24.8%
Cl:70.90 / 237.95 × 100 = 29.8%
H₂O:108.12 / 237.95 × 100 = 45.4%
SDS情報の概要
続いては、塩化コバルト六水和物のSDS(安全データシート)に記載される主要な情報を見ていきましょう。
危険有害性の分類(GHS分類)
塩化コバルト六水和物のGHS分類を確認します。
主要な危険有害性
| 分類項目 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 急性毒性(経口) | 区分4 | 飲み込むと有害 |
| 急性毒性(吸入) | 区分4 | 吸入すると有害 |
| 皮膚感作性 | 区分1 | アレルギー性皮膚反応を引き起こす |
| 生殖毒性 | 区分1B | 生殖能または胎児への悪影響のおそれ |
| 発がん性 | 区分1B | 発がんのおそれ |
| 呼吸器感作性 | 区分1 | 吸入するとアレルギー反応を引き起こす |
塩化コバルト六水和物は、比較的高い危険有害性を持つ化学物質です。特に発がん性、生殖毒性、感作性が懸念されるため、取り扱いには十分な注意が必要です。適切な保護具の着用と、曝露を最小限に抑える対策が必須となります。
GHSラベル要素
SDS に記載されるラベル要素を確認しましょう。
【絵表示(ピクトグラム)】
・健康有害性(感嘆符)
・長期的な健康有害性(健康有害性マーク)
【注意喚起語】
危険(Danger)
【危険有害性情報(Hコード)】
・H302:飲み込むと有害
・H317:アレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれ
・H334:吸入するとアレルギー、喘息または呼吸困難を引き起こすおそれ
・H341:遺伝性疾患のおそれの疑い
・H350:発がんのおそれ
・H360:生殖能または胎児への悪影響のおそれ
応急措置
塩化コバルト六水和物への曝露時の応急措置です。
| 曝露経路 | 応急措置 |
|---|---|
| 吸入した場合 | 直ちに新鮮な空気の場所に移動。呼吸が困難な場合は酸素吸入。速やかに医師の診察を受ける。 |
| 皮膚に付着した場合 | 直ちに汚染された衣類を脱ぎ、多量の水と石鹸で15分以上洗う。速やかに医師の診察を受ける。 |
| 目に入った場合 | 直ちに多量の水で15分以上洗眼する。コンタクトレンズは外す。速やかに眼科医の診察を受ける。 |
| 飲み込んだ場合 | 口をすすぎ、直ちに医師の診察を受ける。無理に吐かせない。 |
公的機関のSDS情報源
続いては、塩化コバルト六水和物のSDS情報を入手できる公的機関のサイトを紹介していきます。
厚生労働省関連
厚生労働省が提供する化学物質情報のデータベースです。
職場のあんぜんサイト
【サイト名】職場のあんぜんサイト(厚生労働省)
URL:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/
【提供情報】
・GHS分類結果
・モデルSDS
・法令情報
・リスクアセスメント情報
【検索方法】
1. 「化学物質」セクションを選択
2. 「GHS対応モデルラベル・SDS情報」を選択
3. 「塩化コバルト六水和物」または
「CAS番号:7791-13-1」で検索
製品評価技術基盤機構(NITE)
NITEが提供する化学物質総合情報データベースです。
NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
【サイト名】NITE-CHRIP
URL:https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop
【提供情報】
・化学物質の基本情報
・GHS分類情報
・法規制情報
・有害性評価情報
・国際機関の評価書
試薬メーカーのSDS
試薬メーカーも製品ごとのSDSを提供しています。
主要メーカー
| メーカー | ウェブサイト | 特徴 |
|---|---|---|
| 富士フイルム和光純薬 | https://www.fujifilm.com/ | 製品別SDS検索可能 |
| ナカライテスク | https://www.nacalai.co.jp/ | 製品コードでSDS検索 |
| 関東化学 | https://www.kanto.co.jp/ | 詳細なSDS情報 |
| シグマアルドリッチ | https://www.sigmaaldrich.com/ | 国際的な情報 |
安全な取り扱い方法
続いては、塩化コバルト六水和物を安全に取り扱うための具体的な方法を見ていきましょう。
個人用保護具
必要な保護具を確認します。
推奨される保護具
| 保護具 | 推奨事項 |
|---|---|
| 保護メガネ | 必須(化学用ゴーグル) |
| 手袋 | 必須(ニトリル製またはネオプレン製) |
| 保護衣 | 必須(化学防護服) |
| 呼吸用保護具 | 必須(粉じん用マスクまたは防毒マスク) |
| その他 | 保護靴、防護エプロン |
作業環境管理
適切な作業環境の確保が重要です。
【換気】
・局所排気装置の設置が必須
・全体換気も併用
・粉じんの飛散を最小限に
【作業場所】
・飲食物を置かない
・喫煙禁止
・洗眼設備・シャワー設備を設置
・作業後は手と顔を洗う
保管管理
適切な保管方法を確保しましょう。
保管条件
【容器】
・密閉容器に保管
・ガラス製またはプラスチック製容器
【保管場所】
・冷暗所(15~25℃)
・換気の良い場所
・施錠できる場所(毒物・劇物指定の場合)
【表示】
・「塩化コバルト六水和物」と明記
・GHSラベルの貼付
・危険有害性情報を表示
廃棄方法
塩化コバルト六水和物の適切な廃棄方法を確認します。
【原則】
・産業廃棄物として専門業者に委託
・廃棄物処理法に従う
・下水や河川に流さない
【処理方法】
・中和・沈殿処理
・重金属として回収
・焼却処理(専門施設)
【注意事項】
・容器も適切に処理
・マニフェスト制度に従う
法規制情報
続いては、塩化コバルト六水和物に関連する法規制を確認していきましょう。
労働安全衛生法
労働安全衛生法における規制を確認します。
【通知対象物質】
・リスクアセスメント実施義務
・SDS交付義務
【特定化学物質】
・第二類物質に該当する可能性
(コバルト化合物として)
化学物質排出把握管理促進法(化管法)
PRTR制度における位置づけです。
【第一種指定化学物質】
・コバルトおよびその化合物として指定
・政令番号:157
・年間取扱量が一定以上の場合、届出義務
その他の法規制
関連する法規制を確認しましょう。
| 法律 | 規制内容 |
|---|---|
| 毒物及び劇物取締法 | 該当なし(ただし取り扱い注意) |
| 消防法 | 該当なし(不燃性) |
| 水質汚濁防止法 | 有害物質に該当(重金属) |
| 廃棄物処理法 | 特別管理産業廃棄物の可能性 |
リスクアセスメント
最後に、塩化コバルト六水和物のリスクアセスメントについて確認していきましょう。
主要なリスク
塩化コバルト六水和物の主要なリスクを整理します。
| リスク種類 | レベル | 対策 |
|---|---|---|
| 急性毒性 | 中 | 誤飲・誤吸入防止、保護具着用 |
| 発がん性 | 高 | 曝露最小化、呼吸保護 |
| 生殖毒性 | 高 | 妊婦の作業禁止、曝露防止 |
| 感作性 | 高 | 皮膚・呼吸器保護、換気 |
リスク低減措置
リスクを低減するための優先順位を確認しましょう。
1. 代替(より安全な物質への変更)
可能であれば代替物質を検討
2. 工学的対策
局所排気装置、密閉系の使用
3. 管理的対策
作業手順の確立、教育訓練、曝露時間制限
4. 個人用保護具
保護メガネ、手袋、マスク、保護衣の着用
健康管理
塩化コバルト六水和物を取り扱う作業者の健康管理も重要です。
【定期健康診断】
・呼吸器系の検査
・皮膚の状態確認
・アレルギー症状の有無
【特殊健康診断】
・コバルト曝露に関する検査
・必要に応じて実施
まとめ
塩化コバルト六水和物の化学式はCoCl₂・6H₂Oであり、分子量は約237.95 g/molです。赤色の結晶として存在し、水に溶けやすく、潮解性を持っています。構造的には、中心のコバルトイオン(Co²⁺)に6個の水分子が配位した八面体構造を持つのです。
SDS情報は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/)やNITEの「NITE-CHRIP」(https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop)などの公的機関のウェブサイトで入手できます。試薬メーカーのウェブサイトでも製品別のSDSが提供されています。
塩化コバルト六水和物は、発がん性、生殖毒性、感作性などの重大な危険有害性を持つ化学物質です。取り扱いには適切な保護具(保護メガネ、手袋、マスク、保護衣)の着用が必須であり、局所排気装置の設置や換気の確保など、工学的対策も重要となります。
廃棄は専門業者に委託し、廃棄物処理法に従って適切に処理する必要があります。リスクアセスメントを実施し、曝露を最小限に抑える対策を講じることで、安全に取り扱うことができるはずです。健康管理も重要であり、定期的な健康診断を実施することが推奨されます。