量子力学や原子物理学でプランク定数を扱う際、エネルギーの単位として「eV(電子ボルト)」が頻繁に登場します。
JとeVという異なる単位の間をスムーズに換算できることは、量子力学の計算を進める上で欠かせないスキルです。
本記事では、プランク定数とeVの関係・換算方法、「eV·s」というプランク定数のeV表示、原子物理学での活用例まで詳しく解説します。
数値計算の具体例も豊富に示しますので、実際の問題演習にそのまま活用できるでしょう。
eV(電子ボルト)とは何か?Jとの換算関係
それではまず、eV(電子ボルト)の定義とジュールとの換算関係について解説していきます。
eV(電子ボルト:electron volt)とは、電子1個が1ボルトの電位差で加速されたときに得る運動エネルギーを1とした単位です。
eVとJの換算関係:
1 eV = 1.602176634 × 10⁻¹⁹ J(厳密な定義値)
逆換算:1 J = 1 / 1.602 × 10⁻¹⁹ eV ≈ 6.242 × 10¹⁸ eV
eVは原子・分子・素粒子スケールのエネルギーを扱うのに適した単位。
日常スケールのエネルギー(食事のカロリーなど)はジュール(J)やkJで表すのが適切ですが、原子1個のエネルギーを扱う量子力学や原子物理学では、J単位で書くと10⁻¹⁹という非常に小さな指数付きの数字になってしまいます。
eVを使うと可視光の光子は約1.8〜3.1 eV、化学反応のエネルギーは数eV〜数十eVというコンパクトな数値で扱えます。
keV・MeV・GeVという上位単位
原子核物理学や素粒子物理学では、eVよりも大きな単位がよく使われます。
| 単位 | 読み方 | Jへの換算 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| eV | 電子ボルト | 1.602 × 10⁻¹⁹ J | 原子・分子物理学 |
| keV | キロ電子ボルト | 1.602 × 10⁻¹⁶ J | X線・内殻電子 |
| MeV | メガ電子ボルト | 1.602 × 10⁻¹³ J | 核反応・γ線 |
| GeV | ギガ電子ボルト | 1.602 × 10⁻¹⁰ J | 素粒子・加速器 |
プランク定数のeV·s表示
プランク定数hをeV·s(電子ボルト・秒)単位で表すと以下のようになります。
プランク定数のeV換算:
h = 6.626 × 10⁻³⁴ J·s ÷ 1.602 × 10⁻¹⁹ J/eV
= 4.135667696 × 10⁻¹⁵ eV·s
ℏ = 1.0546 × 10⁻³⁴ J·s ÷ 1.602 × 10⁻¹⁹ J/eV
= 6.582119569 × 10⁻¹⁶ eV·s
h = 4.136 × 10⁻¹⁵ eV·sという値は原子物理学の計算で頻繁に使う重要な数値であり、暗記しておくと計算が大幅に楽になります。
プランク定数とeVを使った計算例
続いては、プランク定数のeV換算を使った具体的な計算例を確認していきます。
水素原子のエネルギー準位計算
水素原子のエネルギー準位はボーアの理論によって以下の式で与えられます。
水素原子のエネルギー準位:
Eₙ = -13.6 eV / n²(n = 1, 2, 3, …)
E₁(基底状態)= -13.6 eV
E₂(第一励起状態)= -13.6/4 = -3.4 eV
E₃(第二励起状態)= -13.6/9 ≈ -1.51 eV
n=2→n=1の遷移で放出される光子エネルギー:
E = E₂ – E₁ = -3.4 – (-13.6) = 10.2 eV
この10.2 eVの光子の波長を計算すると、λ = hc/E ≈ 122 nm(紫外線、ライマンα線)となります。
X線光子エネルギーの計算
X線(λ = 0.1 nm = 10⁻¹⁰ m)の光子エネルギー:
E = hc/λ = (4.136 × 10⁻¹⁵ eV·s × 3 × 10⁸ m/s) / 10⁻¹⁰ m
= (1.241 × 10⁻⁶ eV·m) / 10⁻¹⁰ m
= 1.241 × 10⁴ eV = 12.41 keV
hc = 1240 eV·nm(または1.240 × 10⁻⁶ eV·m)という積はよく使う定数であり、光子エネルギーの計算を簡略化する便利な値です。
eV換算での仕事関数の比較
| 金属 | 仕事関数(eV) | 対応する光の最長波長(nm) |
|---|---|---|
| セシウム | 2.1 eV | 約590 nm(橙色光) |
| カリウム | 2.3 eV | 約539 nm(緑色光) |
| ナトリウム | 2.27 eV | 約546 nm(緑色光) |
| アルミニウム | 4.1 eV | 約302 nm(紫外線) |
| 白金 | 5.65 eV | 約220 nm(深紫外線) |
ℏcという組み合わせの重要性
続いては、換算プランク定数ℏと光速cを組み合わせたℏcの重要性を確認していきます。
ℏcの数値と用途
素粒子物理学や量子電磁気学では、ℏcという組み合わせが非常に多く登場します。
ℏcの値:
ℏc = (1.0546 × 10⁻³⁴ J·s) × (2.998 × 10⁸ m/s)
= 3.162 × 10⁻²⁶ J·m
eV換算:ℏc ≈ 197.3 MeV·fm(fmはフェムトメートル = 10⁻¹⁵ m)
→ 原子核物理学では「197 MeV·fm」として頻繁に使用
ℏc ≈ 197 MeV·fmは核物理学の計算で頻出の定数であり、原子核のサイズやエネルギーを結びつける重要な橋渡し役となっています。
微細構造定数とプランク定数の関係
微細構造定数α(アルファ)は電磁相互作用の強さを表す無次元定数で、α ≈ 1/137という値を持ちます。
この定数はe²(電子の電荷の二乗)・ℏ・cを組み合わせて定義され、プランク定数が電磁相互作用の強さの決定にも関与していることを示しています。
自然単位系でのeV統一表記
ℏ = c = 1とおく自然単位系では、質量・運動量・エネルギーがすべてeV(またはGeV)で表せます。
陽子の質量は約938 MeV、電子の質量は約0.511 MeVと表記されますが、これはまさに自然単位系でのeV統一表記です。
まとめ
プランク定数とeVの関係において最も重要な数値は、h = 4.136 × 10⁻¹⁵ eV·s、ℏ = 6.582 × 10⁻¹⁶ eV·s、そしてhc = 1240 eV·nmです。
これらの値を活用することで、光子エネルギーの計算・水素原子のスペクトル・光電効果の問題など、量子力学の標準的な計算が格段にスムーズになります。
eVは原子・分子・核スケールのエネルギーを扱うのに最適な単位であり、量子力学を学ぶ全ての方が必ず習得すべき単位換算といえるでしょう。