プランク定数は宇宙の「粒さ」を決める根本的な定数ですが、どのようにして求められるのでしょうか。
光電効果・黒体放射・キブル天秤など複数の実験的手法によってプランク定数は高精度で測定されてきました。
本記事では、プランク定数の求め方を実験的手法と数学的導出の両面から解説します。
光電効果実験の手順から黒体放射の理論計算まで、プランク定数の決定過程を丁寧に追っていきましょう。
光電効果を用いたプランク定数の測定
それではまず、光電効果を利用したプランク定数の測定方法について解説していきます。
光電効果とは、金属に光を照射したとき、一定以上の振動数の光に対して電子が放出される現象です。
アインシュタインはこの現象を「光子1個のエネルギーE = hνが電子の束縛エネルギー(仕事関数)を超えたとき電子が飛び出す」と説明しました。
光電効果の公式:
eV₀ = hν – W
e:電気素量(1.602 × 10⁻¹⁹ C)
V₀:停止電圧(V)
h:プランク定数(求めたい値)
ν:光の振動数(Hz)
W:仕事関数(金属によって異なる)
光電効果実験の手順
光電効果実験でプランク定数を求める手順は以下のとおりです。
実験手順:
①複数の異なる振動数ν₁, ν₂, ν₃, … の単色光を金属板に照射する。
②各振動数に対して、光電子の放出を止める最小電圧(停止電圧V₀)を測定する。
③eV₀をy軸、νをx軸にプロットすると直線グラフが得られる。
④この直線の傾き(slope)がプランク定数hに等しい。
⑤傾き = Δ(eV₀)/Δν = h
この方法でプランク定数を精度よく求めるためには、振動数が正確にわかった単色光源(水銀ランプなど)と精密な電圧計が必要です。
測定結果からhを計算する具体例
| 光の振動数ν(×10¹⁴ Hz) | 停止電圧V₀(V) | eV₀(×10⁻¹⁹ J) |
|---|---|---|
| 5.49(黄色光) | 0.48 | 0.769 |
| 6.88(緑色光) | 0.70 | 1.121 |
| 7.41(青色光) | 0.89 | 1.425 |
| 8.22(紫外光) | 1.18 | 1.890 |
傾き h ≈ (1.890 – 0.769) × 10⁻¹⁹ / (8.22 – 5.49) × 10¹⁴ ≈ 6.6 × 10⁻³⁴ J·sという値が得られ、プランク定数の理論値に近い結果が得られます。
黒体放射からのプランク定数の導出
続いては、黒体放射の理論からプランク定数を導出する方法を確認していきます。
黒体放射とプランクの放射公式
プランクが1900年に導いた黒体放射スペクトルの公式は以下のとおりです。
プランクの放射公式:
B(ν, T) = (2hν³/c²) × 1/(exp(hν/kT) – 1)
B:単位面積・単位立体角・単位振動数あたりの放射輝度
ν:振動数、T:絶対温度(K)、c:光速、k:ボルツマン定数、h:プランク定数
この公式が実験で観測された黒体放射スペクトルと完全に一致することを確認することで、プランク定数hとボルツマン定数kの値を決定できます。
ウィーンの変位則を用いたhの推定
黒体放射においてスペクトルが最大値を持つ波長λ_maxは絶対温度Tに反比例します(ウィーンの変位則)。
ウィーンの変位則:
λ_max × T = 2.898 × 10⁻³ m·K
この定数はプランク定数h、光速c、ボルツマン定数kから導出される。
→ λ_maxとTを精密測定することでhを推定可能。
現代の高精度測定:キブル天秤
現代ではキブル天秤(Kibble balance)という装置がプランク定数の最も精密な測定手段のひとつとして使われています。
キブル天秤は電磁力と重力を比較することで、プランク定数と質量の間の関係を精密に測定します。
この測定により相対不確かさ10⁻⁸以下でhを決定でき、2019年のSI単位系改定における「キログラムの新定義」の基礎データとなりました。
数式からプランク定数を導く計算手順
続いては、具体的な数式を使ってプランク定数を求める計算手順を確認していきます。
E = hνからhを求める計算
光子のエネルギーE = hνの関係から、プランク定数hを求める計算は最も基本的なアプローチです。
計算手順:
①光源の振動数νを特定する(例:波長λ = 500 nmの緑色光)
c = λν より ν = c/λ = 3.0 × 10⁸ / 500 × 10⁻⁹ = 6.0 × 10¹⁴ Hz
②光子のエネルギーE(eV or J)を測定または既知値から取得
③h = E/ν として計算
例:E = 3.97 × 10⁻¹⁹ J のとき、
h = 3.97 × 10⁻¹⁹ / 6.0 × 10¹⁴ ≈ 6.62 × 10⁻³⁴ J·s
ド・ブロイ波長を使ったhの決定
ルイ・ド・ブロイは1924年に「すべての粒子は波動性を持ち、その波長はλ = h/pで与えられる」というド・ブロイの仮説を提唱しました。
ド・ブロイ波長:
λ = h/p = h/(mv)
λ:物質波の波長、p:運動量、m:質量、v:速度
→ 質量・速度・波長が測定できれば、h = mvλ として求められる
電子線回折実験によってド・ブロイ波長が確認されており、この関係式からもプランク定数を実験的に決定できます。
まとめ
プランク定数は光電効果・黒体放射・キブル天秤など複数の実験手法によって精密に測定できます。
光電効果実験では「eV₀ = hν – W」の直線関係を利用し、グラフの傾きからhを求めます。
黒体放射ではプランクの放射公式にスペクトルデータを当てはめてhを決定します。
現代のキブル天秤による測定精度は10⁻⁸以下の相対不確かさを達成しており、その値が2019年のSI単位改定でキログラムの定義に使用されました。
プランク定数の求め方を理解することは、量子力学の実験的基盤を学ぶ上で非常に重要な一歩となるでしょう。