ボルトは機械・構造物・設備において最も広く使用される締結部品のひとつです。
ボルトに引張荷重が加わる場面は非常に多く、設計における強度評価では「有効断面積」という概念を正しく理解したうえでボルト引張強度を計算することが安全設計の基本となります。
本記事では、ボルトの引張強度計算に必要な有効断面積・強度区分・設計応力・破断荷重・安全率の求め方を、具体的な計算例を交えながらわかりやすく詳しく解説します。
機械設計・プラント設計・建設・製造業に携わる方にとって、実務で即活用できる内容となっているでしょう。
ボルト引張強度の基本:有効断面積と強度区分の理解が最重要
それではまず、ボルトの引張強度計算において最も重要な「有効断面積」と「強度区分」の基本概念から解説していきます。
有効断面積とは何か:ねじ部の断面積の求め方
ボルトの引張強度を計算する際に、丸棒と異なる点があります。
ボルトには「ねじ」が切られており、ねじ谷(最も細い部分)の断面積が実際の強度を左右します。
この「ねじ谷の断面積」のことを「有効断面積(As)」または「応力断面積」と呼びます。
有効断面積(応力断面積)の計算式(メートルねじの場合)
As = π÷4 × {(d2+d3)÷2}²
d2:有効径(mm)、d3:谷の径(mm)
簡易計算式:As ≒ π÷4 × (d-0.9382×p)²
d:呼び径(mm)、p:ピッチ(mm)
有効断面積はボルトの呼び径(外径)から計算した断面積よりも小さくなるため、外径をそのまま断面積計算に使うと強度を過大評価してしまう危険性がある点に注意が必要です。
有効断面積の値はJIS B 1082(ねじの有効断面積)に規定されており、標準的なボルトについては規格表から直接参照できます。
代表的なボルト呼び径と有効断面積の一覧
実務でよく使用される代表的なボルトの有効断面積(JIS規格値)を示します。
| ボルト呼び径 | ピッチ(mm) | 有効断面積 As(mm²) | 外径断面積(参考)(mm²) |
|---|---|---|---|
| M6 | 1.0 | 20.1 | 28.3 |
| M8 | 1.25 | 36.6 | 50.3 |
| M10 | 1.5 | 58.0 | 78.5 |
| M12 | 1.75 | 84.3 | 113.1 |
| M16 | 2.0 | 157 | 201 |
| M20 | 2.5 | 245 | 314 |
| M24 | 3.0 | 353 | 452 |
この表からわかるとおり、有効断面積は外径断面積の約65〜75%程度の値になります。
ボルトの強度区分と引張強度・耐力の関係
ボルトには「強度区分」と呼ばれる規格があり、強度区分から引張強度と耐力(降伏強度)を読み取ることができます。
| 強度区分 | 引張強度(最小値) | 耐力(最小値) | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|---|
| 4.8 | 400 MPa | 320 MPa | 一般用途・低荷重 |
| 6.8 | 600 MPa | 480 MPa | 一般機械・中荷重 |
| 8.8 | 800 MPa | 640 MPa | 機械・自動車・標準的な高強度ボルト |
| 10.9 | 1,000 MPa | 900 MPa | 高強度・重要部位・構造ボルト |
| 12.9 | 1,200 MPa | 1,080 MPa | 超高強度・航空・精密機械 |
強度区分の読み方として、「8.8」の場合は「整数部×100」が引張強度の最小値(MPa)を示し、「整数部×小数部×10」が耐力の最小値(MPa)を示します。
ボルトの引張荷重・破断荷重・設計応力の計算方法
続いては、ボルトにかかる引張荷重・破断荷重・設計応力の具体的な計算方法を確認していきます。
ボルトの破断荷重(最大許容引張力)の計算
ボルトが破断する引張荷重(破断荷重)は以下の式で求められます。
破断荷重(F_break)= 引張強度(σ_B)× 有効断面積(As)
例:M12ボルト(強度区分8.8)の破断荷重
引張強度=800 MPa(N/mm²)、As=84.3 mm²
F_break=800×84.3=67,440 N≒67.4 kN
破断荷重は設計に直接使用するのではなく、許容引張力を求めるための基礎値として使用し、必ず安全率で割った値を設計に適用することが重要です。
許容引張力(設計応力)の計算
設計における許容引張力は以下のように求めます。
許容引張力(F_allow)= 耐力(σ_y)× 有効断面積(As)÷ 安全率(S)
例:M12ボルト(強度区分8.8)、安全率S=3の場合
耐力=640 MPa、As=84.3 mm²
F_allow=640×84.3÷3=17,984 N≒18.0 kN
このM12ボルト(強度区分8.8)は安全率3のもとで約18kNまでの引張荷重を許容できることがわかります。
実際の発生引張応力の計算と評価
ボルトに加わる実際の引張応力を計算し、許容応力と比較します。
発生引張応力(σ)= 作用引張力(F)÷ 有効断面積(As)
例:M16ボルト(強度区分8.8)に20,000Nの引張力が作用する場合
As=157 mm²、σ=20,000÷157≒127.4 MPa
許容応力=640(耐力)÷3(安全率)≒213 MPa
127.4 MPa < 213 MPa → 許容応力以内で安全
ボルトの締付けトルクと引張力の関係:実務計算のポイント
続いては、ボルトの締付けトルクと発生する引張力の関係を確認していきます。
実際の組み立て作業では引張力を直接測定できないため、締付けトルクから軸力を管理する方法が広く採用されています。
締付けトルクと軸力の関係式
ボルトの締付けトルクと発生軸力(引張力)の関係式を示します。
締付けトルク(T)= 係数(K)× ボルト呼び径(d)× 軸力(F)
軸力(F)= T ÷ (K × d)
K:トルク係数(無潤滑で約0.20〜0.25、潤滑ありで約0.12〜0.17)
例:M12ボルト(d=12mm)、K=0.20、T=60 N・m の場合
F=60,000(N・mm)÷(0.20×12)=25,000 N=25 kN
トルク係数Kは潤滑状態・表面処理・ねじ精度によって変化するため、重要な締結部位では実際のトルク係数を実測・確認することが設計精度の向上につながるでしょう。
初期締付け力と疲労荷重の考慮
ボルトには初期締付けによる引張力(軸力)が常に作用しており、動的荷重が加わる場合には疲労破壊のリスクを考慮する必要があります。
一般的なボルト設計では、初期軸力を耐力の70〜80%程度に設定し、外部引張力が加わっても耐力を超えないようにマージンを確保します。
繰り返し荷重を受ける締結部では、ボルトの疲労強度(疲労限度)を考慮した設計が不可欠であり、高サイクル疲労では引張強度よりも大幅に低い応力で破断が生じる場合があります。
複数ボルトで荷重を分担する場合の計算
フランジ継手・ブラケット・蓋板などでは複数のボルトが荷重を分担します。
1本あたりの引張力(F_1)= 全引張荷重(F_total)÷ ボルト本数(n)
例:総引張力120,000N、M12ボルト(強度区分8.8)を6本使用
F_1=120,000÷6=20,000 N
発生応力:σ=20,000÷84.3≒237 MPa
許容応力(安全率2)=640÷2=320 MPa → 237 MPa < 320 MPa → 合格
実際には荷重の偏り・ボルト配置・フランジ剛性なども影響するため、重要部位では詳細解析が推奨されます。
ボルトの引張強度計算では「有効断面積(応力断面積As)」を使用することが絶対的な基本です。
外径断面積を使ってしまうと強度を約30〜35%過大評価する危険性があります。
強度区分から引張強度・耐力を正確に読み取り、適切な安全率を設定した許容引張力の範囲内で設計することが、信頼性の高いボルト締結設計の核心です。
まとめ
ボルト引張強度の計算方法について、有効断面積・強度区分・破断荷重・許容引張力・締付けトルクと軸力の関係まで幅広く解説してきました。
ボルトの引張強度計算には外径ではなく有効断面積(応力断面積As)を使用することが最重要であり、代表的なボルトのAsはJIS規格表から参照できます。
強度区分8.8のボルトは引張強度800MPa・耐力640MPaが最小保証値であり、破断荷重は「引張強度×有効断面積」で求めます。
設計では耐力÷安全率で求めた許容応力を超えないよう発生応力を管理し、動荷重・疲労荷重が作用する場合には疲労強度を考慮した設計が不可欠です。
ボルト設計の基礎を正しく理解し、有効断面積・強度区分・安全率の3要素を適切に組み合わせた信頼性の高い締結設計に活用していただければ幸いです。