化学反応

銅と硝酸の化学反応式を徹底解説!濃硝酸と希硝酸の違いとは

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高校化学で学ぶ酸化還元反応の中でも、銅と硝酸の反応は特に印象的な実験の一つです。銅板を硝酸に浸すと、濃硝酸では赤褐色の気体が、希硝酸では無色の気体が発生する様子は、化学反応の多様性を実感できる瞬間でしょう。

この反応が興味深いのは、同じ銅と硝酸という組み合わせでありながら、硝酸の濃度によって全く異なる反応が起こる点にあります。発生する気体の種類も違えば、反応の激しさも異なるのです。

この記事では、銅と硝酸の化学反応式について、濃硝酸と希硝酸それぞれの反応の仕組み、酸化還元反応としての理解、反応式の作り方と覚え方、実験時の観察ポイントまで詳しく解説していきます。酸化還元反応が苦手な方でも理解できるよう、ステップを追って説明しますので、ぜひ参考にしてください。

銅と硝酸の化学反応式の基本

それではまず、2つの反応式について解説していきます。

濃硝酸との反応式

銅を濃硝酸に浸すと、激しく反応して赤褐色の気体が発生します。この反応を化学反応式で表すと次のようになるでしょう。

Cu + 4HNO₃(濃) → Cu(NO₃)₂ + 2NO₂ + 2H₂O

この式から、銅(Cu)が濃硝酸(HNO₃)と反応して、硝酸銅(II)(Cu(NO₃)₂)、二酸化窒素(NO₂)、水(H₂O)が生成されることが分かります。

赤褐色の気体の正体が二酸化窒素(NO₂)です。この気体は有毒であり、特徴的な刺激臭を持っているため、実験では換気に十分注意する必要があります。

反応後の溶液は青緑色を呈しますが、これは銅イオン(Cu²⁺)の色なのです。銅が酸化されてイオンになったことを示す重要な観察ポイントとなっています。

希硝酸との反応式

一方、銅を希硝酸に浸した場合の反応は、濃硝酸とは異なる化学反応式で表されます。

3Cu + 8HNO₃(希) → 3Cu(NO₃)₂ + 2NO + 4H₂O

希硝酸との反応では、一酸化窒素(NO)という無色の気体が発生します。この気体は空気中の酸素と反応して、すぐに赤褐色の二酸化窒素に変化するため、試験管の口付近で色の変化が観察できるでしょう。

濃硝酸との反応と比べると、係数が複雑になっている点に注目してください。銅が3、硝酸が8という係数は、酸化還元反応での電子の授受を正確に表すために必要な数字なのです。

反応の速度は濃硝酸の場合よりも穏やかですが、溶液の色は同じく青緑色になります。これは銅イオンが生成しているためです。

なぜ2種類の反応が起こるのか

同じ銅と硝酸の組み合わせで、なぜ異なる反応が起こるのでしょうか。

その理由は、硝酸の濃度によって酸化力が変化するためです。濃硝酸は強い酸化力を持ち、窒素の酸化数を+5から+4まで下げることができます。一方、希硝酸は比較的弱い酸化力しか持たないため、+5から+2までしか下げられないのです。

硝酸の種類 発生気体 気体の色 窒素の酸化数変化
濃硝酸 二酸化窒素(NO₂) 赤褐色 +5 → +4
希硝酸 一酸化窒素(NO) 無色(空気中で赤褐色に変化) +5 → +2
濃硝酸の方が強い酸化剤として働くため、より激しい反応が起こります。しかし酸化数の変化は小さく、希硝酸の方が大きな酸化数変化を伴うという興味深い関係があるのです。

この違いを理解することで、なぜ反応式の係数が異なるのか、なぜ発生する気体が違うのかが明確になるでしょう。

酸化還元反応としての銅と硝酸の反応

続いては、酸化還元の観点から確認していきます。

酸化還元反応とは何か

酸化還元反応とは、電子の授受を伴う化学反応のことを指します。

従来の定義では「酸素を受け取るのが酸化、酸素を失うのが還元」とされていましたが、より正確には「電子を失うのが酸化、電子を受け取るのが還元」と理解すべきでしょう。

銅と硝酸の反応では、銅が電子を失って酸化され、硝酸(厳密には硝酸中の窒素原子)が電子を受け取って還元されます。この2つの変化は常に同時に起こるため、酸化還元反応と呼ばれるのです。

酸化還元反応の基本
・酸化:電子を失う反応(酸化数が増加)
・還元:電子を受け取る反応(酸化数が減少)
・酸化剤:相手を酸化する物質(自身は還元される)
・還元剤:相手を還元する物質(自身は酸化される)

この反応では、銅が還元剤として働き、硝酸が酸化剤として機能しています。

電子の授受と酸化数の変化

銅と硝酸の反応における電子の動きを、酸化数の変化から見ていきましょう。

濃硝酸との反応の場合、次のような酸化数変化が起こります。

濃硝酸との反応における酸化数変化

銅(Cu):0 → +2(2個の電子を失う=酸化)
窒素(N):+5 → +4(1個の電子を受け取る=還元)

電子のバランス:
・Cuは2個の電子を失う
・Nは1個の電子を受け取る
・Cu 1個に対してN 2個が必要

これが、反応式で硝酸の係数が4となる理由です。実際には硝酸4分子のうち2分子が還元されてNO₂になり、残りの2分子は硝酸銅を作るために使われます。

希硝酸との反応では、窒素の酸化数が+5から+2へと大きく変化するため、より複雑な係数比になるのです。

反応 銅の酸化数変化 窒素の酸化数変化 電子の移動数
濃硝酸 0 → +2(失う2e⁻) +5 → +4(得る1e⁻) Cu1個につき2e⁻
希硝酸 0 → +2(失う2e⁻) +5 → +2(得る3e⁻) Cu3個につき6e⁻

電子の授受の数が一致するように係数を調整することが、酸化還元反応式を作る際の重要なポイントとなります。

酸化剤と還元剤の役割

この反応において、銅は還元剤、硝酸は酸化剤として働いています。

銅は電子を失いやすい金属であり、硝酸のような強い酸化剤と反応すると容易に酸化されます。銅原子(Cu)が電子を2個失うことで、銅イオン(Cu²⁺)に変化するのです。

硝酸は窒素を+5という高い酸化数で含んでおり、電子を受け取りやすい性質を持っています。濃度によって酸化力が変わり、濃硝酸ではより強力な酸化剤として機能するのです。

興味深いのは、硝酸自体が酸であると同時に酸化剤でもあるという点でしょう。塩酸や硫酸などの一般的な酸は銅を溶かすことができませんが、硝酸は酸化剤としての性質を持つため銅を溶かすことができます。

この二重の性質が、硝酸を化学実験や工業プロセスで非常に有用な物質にしているのです。

反応式の作り方と覚え方のコツ

続いては、効率的な学習方法について見ていきましょう。

イオン反応式から化学反応式を導く方法

銅と硝酸の反応式を作る際は、イオン反応式から考える方法が理解しやすいでしょう。

まず、酸化と還元の半反応式をそれぞれ書き出します。

濃硝酸との反応の場合

酸化(銅):Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
還元(硝酸):HNO₃ + H⁺ + e⁻ → NO₂ + H₂O

電子の数を合わせる:
還元式を2倍にして、電子が2個になるようにする
HNO₃ + H⁺ + e⁻ → NO₂ + H₂O (×2)
2HNO₃ + 2H⁺ + 2e⁻ → 2NO₂ + 2H₂O

両式を足し合わせる:
Cu + 2HNO₃ + 2H⁺ → Cu²⁺ + 2NO₂ + 2H₂O

硝酸銅の形にまとめる:
Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2NO₂ + 2H₂O

このように段階を踏んで考えることで、複雑に見える反応式も論理的に導き出すことができます。

希硝酸の場合も同様の手順で作成できますが、窒素の酸化数変化が+5から+2へと3変化するため、電子が3個関与する点に注意が必要です。

反応式を覚えるポイント

化学反応式を効率よく覚えるには、いくつかのコツがあります。

まず、濃硝酸と希硝酸で発生する気体を覚えることが最優先です。「濃はNO₂(赤褐色)、希はNO(無色)」というフレーズで覚えると良いでしょう。

覚え方のポイント
1. 濃硝酸→NO₂(赤褐色)、希硝酸→NO(無色)をセットで覚える
2. 銅は必ずCu²⁺になる(酸化数0→+2)
3. 生成物に水が含まれることを忘れない
4. 濃硝酸の係数は比較的シンプル(1:4→1:2:2)
5. 希硝酸の係数は複雑(3:8→3:2:4)

また、実験の様子をイメージしながら覚えると記憶に残りやすくなります。赤褐色の気体が激しく発生する濃硝酸の反応、無色の気体がゆっくり出て空気中で変色する希硝酸の反応、といった視覚的なイメージと結びつけるのです。

反応式を何度も書く練習も効果的でしょう。見ているだけでなく、実際に手を動かして書くことで、係数のバランスや原子の数が自然と身につきます。

よくある間違いと注意点

この反応式を書く際、生徒がよく間違えるポイントがいくつかあります。

最も多い間違いは、発生する気体を取り違えることです。濃硝酸でNOを書いたり、希硝酸でNO₂を書いたりするミスは頻繁に見られます。

よくある間違い 正しい表記
Cu + HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + NO₂ Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2NO₂ + 2H₂O
濃硝酸でNOが発生すると書く 濃硝酸ではNO₂が発生
水(H₂O)を書き忘れる 生成物に必ず水を含める
係数のバランスを間違えるケースも多く見られます。特に希硝酸との反応式は係数が複雑なため、左辺と右辺で原子の数が合っているか、必ず確認する習慣をつけましょう。

また、硝酸を「HNO₃」ではなく「HNO₂」と書いてしまう間違いもあります。硝酸は窒素原子1個に酸素原子3個の構造を持つことをしっかり覚えておく必要があるでしょう。

実験での観察ポイントと応用

続いては、実際の実験における重要事項を確認していきます。

実験時の観察事項と色の変化

銅と硝酸の反応実験では、印象的な色の変化が観察できます。

濃硝酸との反応では、銅板を入れた瞬間から激しく泡が発生し、赤褐色の二酸化窒素が試験管内に充満します。この気体は有毒なため、ドラフト内で実験を行うか、換気に十分注意する必要があるでしょう。

溶液の色も重要な観察ポイントです。反応が進むにつれて、溶液は青緑色に変化していきます。これは銅イオン(Cu²⁺)の特徴的な色であり、銅が酸化されてイオンになったことを示しているのです。

希硝酸との反応では、最初は無色の一酸化窒素が発生します。しかしこの気体は空気中の酸素と即座に反応するため、試験管の口付近で赤褐色の二酸化窒素に変化する様子が観察できるでしょう。

観察できる現象
濃硝酸:激しい反応、赤褐色の気体(NO₂)、青緑色の溶液
希硝酸:穏やかな反応、無色の気体(NO)→空気中で赤褐色に変化、青緑色の溶液
共通:銅板が徐々に溶ける、溶液が温かくなる(発熱反応)

銅板の表面を観察すると、反応が進むにつれて表面が侵食されていく様子が分かります。反応が完全に終了すると、銅板は完全に溶けて消失するのです。

安全に実験を行うための注意点

銅と硝酸の反応実験は、特に安全面での配慮が重要となります。

硝酸は強い酸性を示し、皮膚に付着すると化学やけどを起こす危険があります。また、発生する窒素酸化物(NO₂やNO)は有毒であり、吸入すると呼吸器に深刻なダメージを与える可能性があるのです。

実験時の安全対策
・必ずドラフト内で実験を行うか、十分な換気を確保する
・保護眼鏡、手袋、白衣を着用する
・濃硝酸を扱う際は特に注意し、少量ずつ使用する
・発生する気体を直接吸い込まない
・硝酸が皮膚についたら直ちに大量の水で洗い流す
・反応後の廃液は適切に中和処理してから廃棄する

濃硝酸は特に危険性が高く、有機物と接触すると激しく反応する場合があります。実験台の上に紙や布があると、こぼれた硝酸が発火の原因となることもあるため注意が必要でしょう。

また、硝酸は光によって分解しやすい性質を持っています。そのため褐色瓶に保存され、暗所で管理されるのが一般的です。

硝酸の工業的利用と応用例

硝酸は実験室だけでなく、工業的にも極めて重要な物質です。

最も大きな用途は、肥料の製造でしょう。硝酸とアンモニアから硝酸アンモニウムを製造し、これが窒素肥料として世界中で使用されています。

また、硝酸は火薬や爆薬の原料としても使われます。ニトログリセリンやTNTといった爆薬は、硝酸を使ったニトロ化反応によって合成されるのです。

金属の精製や加工においても硝酸は重要な役割を果たしています。銅と硝酸の反応で学んだように、硝酸は多くの金属を溶かす能力を持つため、金属の表面処理や精製プロセスで利用されているのです。

医薬品や染料の合成でも硝酸は欠かせません。有機化合物にニトロ基を導入するニトロ化反応は、多くの化学製品の製造において基礎的な反応となっています。

このように、実験で学ぶ銅と硝酸の反応は、実社会での幅広い応用につながる重要な化学反応なのです。

まとめ

銅と硝酸の反応は、酸化還元反応を理解する上で非常に重要な実験です。

濃硝酸との反応では「Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2NO₂ + 2H₂O」という反応式で表され、赤褐色の二酸化窒素が発生します。一方、希硝酸との反応では「3Cu + 8HNO₃ → 3Cu(NO₃)₂ + 2NO + 4H₂O」となり、無色の一酸化窒素が発生するのです。

この違いは硝酸の酸化力の差によるものであり、濃硝酸の方が強い酸化剤として働きますが、窒素の酸化数変化は希硝酸の方が大きくなります。

反応式を作る際は、イオン反応式から考えて電子の授受を明確にすると理解しやすいでしょう。濃硝酸ではNO₂、希硝酸ではNOという発生気体の違いを確実に覚えることが最重要ポイントとなります。

実験では印象的な色の変化が観察できますが、発生する気体は有毒なため、安全面に十分配慮することが必要です。硝酸は工業的にも広く利用されており、肥料や火薬、金属加工など多様な分野で重要な役割を果たしています。

この反応を通じて、酸化還元反応の本質や化学反応の多様性を理解し、化学への興味をさらに深めていってください。