化学の授業や実験で、物質が電気を通すかどうかを調べる場面に出会ったことはないでしょうか。特にエタノールについては、水溶液として扱う機会も多く、その電気伝導性が気になるところ。
結論から言えば、エタノールは非電解質であり、純粋な状態では電気を通しません。しかし、なぜエタノールは電気を通さないのか、電解質と非電解質の違いは何か、詳しく理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、エタノールの電気伝導性について、電解質・非電解質の基本から、分子構造による理由、実験での確認方法まで、わかりやすく解説していきます。
エタノールは非電解質で電気を通さない
それではまず、エタノールが非電解質である理由について解説していきます。
電解質と非電解質の基本的な違い
電解質と非電解質の違いを理解するには、水溶液中での振る舞いに注目する必要があります。電解質とは、水に溶けたときにイオンに分かれて電気を通す物質のこと。代表的な例としては、食塩(塩化ナトリウム)や塩酸などが挙げられるでしょう。
一方、非電解質は水に溶けてもイオンに分かれず、分子のまま存在する物質です。そのため、水溶液にしても電気を通すことはありません。砂糖やエタノールが典型的な非電解質に該当します。
電気が通るかどうかは、自由に動けるイオンが存在するかどうかで決まります。イオンは電荷を持った粒子であり、電場の中を移動することで電流が流れるのです。
エタノールが非電解質に分類される理由
エタノールが非電解質に分類されるのは、水に溶けてもイオン化しないためです。エタノール分子は共有結合によって構成されており、水溶液中でも分子構造を保ったまま存在します。
具体的には、エタノール(C2H5OH)は炭素、水素、酸素が共有結合で結びついた分子。この結合は非常に強固で、通常の条件下では切れることはありません。
したがって、水に溶かしても陽イオンと陰イオンに分離せず、分子全体が水分子に囲まれた状態で溶解するだけなのです。
対照的に、食塩(NaCl)は水に溶けるとナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)に分かれます。
これらのイオンが自由に動き回ることで、電気伝導性が生まれるわけです。
水溶液中でのエタノールの振る舞い
エタノール水溶液を作ったとき、エタノール分子は水分子と水素結合を形成して混ざり合います。エタノールのヒドロキシ基(-OH)が水分子と相互作用することで、完全に混ざり合う性質を示すでしょう。
しかし、この水素結合は分子間の相互作用であって、共有結合を切ってイオンを生じるものではありません。エタノール分子は水溶液中でも中性の分子として存在し続けるため、電荷を運ぶ粒子が存在せず、電気は通らないのです。
濃度を変えてもこの性質は変わりません。純粋なエタノールでも、10%のエタノール水溶液でも、電気伝導性はほぼゼロに等しい値を示します。
エタノールの分子構造と電気を通さない仕組み
続いては、エタノールの分子構造から電気を通さない理由を確認していきます。
エタノールの化学式と分子の特徴
エタノールの化学式はC2H5OH、または構造式で表すとCH3CH2OHです。
この分子は、2つの炭素原子を骨格として、それに水素原子とヒドロキシ基が結合した構造を持っています。分子量は46.07で、常温常圧では無色透明の液体。特有の芳香を持ち、揮発性が高いという特徴があります。
エタノール分子の構造を見ると、すべての原子が共有結合によって結びついていることがわかるでしょう。炭素と炭素、炭素と水素、炭素と酸素、酸素と水素、これらすべてが電子対を共有する共有結合です。
この共有結合は、イオン結合と異なり、水に溶けても切断されません。そのため、エタノールは分子として安定的に存在し続けるのです。
共有結合と極性分子の性質
エタノールは共有結合で構成された極性分子です。ヒドロキシ基(-OH)の部分では、酸素原子の電気陰性度が水素原子より大きいため、酸素側がわずかに負、水素側がわずかに正に偏っています。
この電荷の偏りが極性を生み出し、水との親和性を高めるのです。しかし、ここで重要なのは、極性があることと、イオン化することは全く別の現象だという点。
極性分子であっても、共有結合が維持されている限り、分子全体としては電気的に中性です。プラスとマイナスの電荷は分子内で部分的に偏っているだけで、分離してイオンになるわけではありません。
| 結合の種類 | 特徴 | 水溶液中の挙動 | 電気伝導性 |
|---|---|---|---|
| イオン結合 | 陽イオンと陰イオンの静電気的引力 | イオンに分離 | あり |
| 共有結合 | 電子対の共有 | 分子のまま存在 | なし |
したがって、エタノールのような共有結合性の極性分子は、水に溶けやすいものの、電気は通さないという性質を示すのです。
イオン化しない分子構造の詳細
エタノールがイオン化しない理由をさらに詳しく見ていきましょう。イオン化が起こるためには、分子内の結合が切れて、電子が完全に一方の原子に移る必要があります。
しかし、エタノールの場合、O-H結合の極性は存在するものの、この結合を完全に切るほどのエネルギーは通常の水溶液中には存在しません。
酸や塩基といった電解質の場合、水分子との相互作用によって水素イオン(H+)や水酸化物イオン(OH-)が生じます。例えば、塩酸(HCl)は水中で H+ と Cl- に完全に電離するでしょう。
一方、エタノールのヒドロキシ基の水素は、水溶液中でもほとんど電離しません。エタノールのpKa値は約15.9と非常に大きく、これは酸としての性質がほとんどないことを意味します。
水のpKa値が約15.7であることを考えると、エタノールは水よりもわずかに酸性度が低い程度です。
このため、通常の水溶液中ではイオン化はほぼ起こらず、非電解質として振る舞うのです。
電解質と非電解質を見分ける実験方法
続いては、実際に電解質と非電解質を見分ける実験方法を確認していきます。
電気伝導性を調べる装置と手順
物質が電解質か非電解質かを判定する最も直接的な方法は、電気伝導性測定装置を使った実験です。基本的な装置構成は、電源、豆電球またはLED、そして2本の電極(通常は炭素棒や白金電極)から成ります。
これらを直列につなぎ、電極を調べたい溶液に浸すことで、電気が通るかどうかを確認できるでしょう。
実験手順は以下の通りです。まず、ビーカーに試料溶液を入れ、2本の電極を溶液中に浸します。電極同士が直接触れないように注意しながら、適度な間隔を保つことが重要です。
次に、電源をオンにして、豆電球やLEDの明るさを観察します。明るく点灯すれば電解質、点灯しなければ非電解質と判断できるのです。
より精密な測定には、導電率計(電気伝導度計)を使用します。この装置は、溶液の電気伝導度を数値として測定できるため、定量的な評価が可能です。
エタノール水溶液での実験結果
エタノール水溶液で電気伝導性の実験を行うと、豆電球はほとんど点灯しません。純粋なエタノールでも、エタノール水溶液でも、結果は同様です。
これは、エタノールが水に溶けてもイオンを生成しないため、電荷を運ぶ粒子が存在しないからに他なりません。
ただし、完全に蒸留水で希釈したエタノール水溶液であっても、微弱な電気伝導性が検出されることがあります。これは、水自体がわずかに自己電離してH+とOH-を生じるためです。
しかし、この電気伝導度は非常に小さく、実用的にはほぼゼロと見なせるレベルでしょう。
濃度を変えて実験しても、エタノールの濃度と電気伝導性の間に相関関係は見られません。これは、エタノール分子が濃度に関わらずイオン化しないことの証拠です。対照的に、食塩水の場合は濃度が高くなるほど電気伝導性も増加します。
他の物質との比較実験
エタノールの非電解質性をより明確にするため、他の物質との比較実験が有効です。同じ濃度の食塩水、砂糖水、エタノール水溶液を用意し、それぞれの電気伝導性を測定してみましょう。
食塩水では豆電球が明るく点灯するのに対し、砂糖水とエタノール水溶液ではほとんど点灯しません。この結果から、食塩が電解質、砂糖とエタノールが非電解質であることが確認できます。
さらに、酢酸(弱酸)や水酸化ナトリウム(強塩基)との比較も興味深いでしょう。酢酸水溶液では豆電球が弱く点灯し、弱電解質であることがわかります。
水酸化ナトリウム水溶液では明るく点灯し、強電解質の性質を示すのです。
| 物質 | 分類 | 豆電球の明るさ | イオンの有無 |
|---|---|---|---|
| 食塩水 | 強電解質 | 明るく点灯 | Na+、Cl- |
| 酢酸水溶液 | 弱電解質 | 弱く点灯 | 一部がH+、CH3COO- |
| エタノール水溶液 | 非電解質 | 点灯しない | なし |
| 砂糖水 | 非電解質 | 点灯しない | なし |
このように、比較実験によってエタノールの非電解質性が明確に実証されるわけです。
エタノールと似た物質の電気伝導性の比較
続いては、エタノールと類似した構造を持つ物質の電気伝導性を確認していきます。
メタノールやプロパノールなどのアルコール類
エタノール以外のアルコール類も、基本的には非電解質です。メタノール(CH3OH)、プロパノール(C3H7OH)、ブタノール(C4H9OH)など、すべてのアルコールは共有結合で構成された分子。
ブタノール:C4H9OH
これらは水に溶けてもイオン化せず、電気を通しません。アルコール類に共通する構造的特徴は、ヒドロキシ基(-OH)を持つことです。
このヒドロキシ基によって水との親和性が生まれ、多くのアルコールは水に溶けやすい性質を示すでしょう。しかし、先述の通り、水に溶けることと電気を通すことは別問題なのです。
炭素鎖の長さが異なっても、電気伝導性に関しては同様の結果が得られます。メタノールもプロパノールも、エタノールと同じく非電解質として振る舞います。ただし、水への溶解度は炭素鎖の長さによって変化し、炭素数が多くなるほど水に溶けにくくなる傾向があります。
水や食塩水との電気伝導性の違い
純水とエタノールを比較すると、どちらも電気をほとんど通しません。純水は自己電離によってわずかにH+とOH-を生じますが、その量は極めて少なく、電気伝導性は非常に低いのです。
エタノールも同様に、ごくわずかな電離しか起こらないため、実質的には非電解質と見なされます。
一方、食塩水は強電解質の典型例。塩化ナトリウムは水中で完全にNa+とCl-に電離し、高い電気伝導性を示します。1%の食塩水でも、純水やエタノール水溶液と比べて圧倒的に高い電気伝導度を持つでしょう。
この違いは、イオン結合と共有結合の性質の差に起因します。塩化ナトリウムのイオン結合は、水の極性分子に囲まれることで容易に切断されます。
対照的に、エタノールや水の共有結合は、通常の条件下では切断されません。したがって、同じ「水に溶ける」物質でも、電気伝導性には大きな違いが生まれるのです。
有機溶媒全般の電解質・非電解質分類
エタノールを含む多くの有機溶媒は、基本的に非電解質に分類されます。アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサン、トルエンなど、一般的な有機溶媒のほとんどは共有結合性の分子です。
これらは水や他の溶媒に溶けても、イオンを生成することはありません。
ただし、すべての有機化合物が非電解質というわけではありません。例えば、酢酸やギ酸などの有機酸は、水溶液中で部分的に電離して弱電解質として振る舞います。また、アミン類の一部も弱塩基性を示し、わずかに電離することがあるでしょう。
しかし、アルコール類や炭化水素類など、大多数の有機溶媒は非電解質です。
有機溶媒が非電解質である理由は、炭素と水素、炭素と炭素の結合が非常に安定しているため。これらの結合は極性が小さく、水分子との相互作用によって切断されることはほとんどありません。
そのため、有機溶媒を使った溶液は一般に電気伝導性が低く、電気化学的な実験には不向きとされます。電解質が必要な場合は、無機塩や酸・塩基を添加することで対応するのが通常です。
まとめ エタノールは電気を通すか?非電解質で通さない?
エタノールは非電解質であり、純粋な状態でも水溶液でも電気を通しません。この性質は、エタノール分子が共有結合で構成されており、水に溶けてもイオン化しないことに由来します。
電解質と非電解質の違いは、水溶液中でイオンを生成するかどうかにあり、イオンの存在が電気伝導性を決定するのです。
エタノールの分子構造を見ると、すべての原子が共有結合で結びついており、この結合は水溶液中でも安定的に維持されます。ヒドロキシ基による極性は水との親和性を高めますが、極性があることとイオン化することは全く別の現象でしょう。
実験的にも、エタノール水溶液では豆電球が点灯せず、非電解質であることが確認できます。メタノールやプロパノールなど他のアルコール類も同様に非電解質であり、有機溶媒の多くはこの性質を共有しています。
エタノールの電気伝導性を正しく理解することで、化学実験や日常生活での応用にも役立つはずです。電解質と非電解質の区別は、化学の基礎として重要な知識ですので、ぜひしっかりと身につけてください。
