化学式等の物性

エチレングリコールのcas番号(No)は?別名は?危険物か

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化学の世界には、似た名前でも全く異なる性質を持つ化合物が数多く存在する。エチレングリコールとエチレンもその代表例だろう。エチレングリコールは不凍液や溶剤として広く使われる液体であり、一方のエチレンは常温で気体の炭化水素である。

これらの化合物は名前こそ似ているものの、その構造や用途、化学的性質は大きく異なる。本記事では、エチレングリコールの基本情報から毒性、購入方法といった実用的な情報と、エチレンの構造や反応性、工業的応用まで幅広く解説していく。

化学を学ぶ学生の方はもちろん、実務でこれらの化合物を扱う方にとっても、安全に取り扱うための知識や化学反応のメカニズムを理解することは重要だ。それでは、順を追って詳しく見ていこう。

エチレングリコールの基本情報と性質

それではまず、エチレングリコールの基本的な情報について解説していきます。

エチレングリコールのcas番号(No)は?別名は?危険物か

エチレングリコールのCAS番号は107-21-1である。CAS番号とは、Chemical Abstracts Serviceが化学物質に付与する固有の識別番号のこと。この番号により、世界中で同じ物質を正確に特定できる。

別名としては、1,2-エタンジオールグリコールエチレンジオールなどがある。IUPACの命名法では1,2-エタンジオールが正式名称だが、工業的にはエチレングリコールという慣用名が広く使われている。

危険物としての分類については、消防法上では指定可燃物に該当する。引火点は111℃と比較的高いため、常温では引火の危険性は低い。しかし、加熱した状態では引火の可能性があるため注意が必要だろう。

エチレングリコールは毒性を持つ物質であり、取り扱いには十分な注意が必要である。誤飲や皮膚への付着を避け、適切な保護具を着用することが重要だ。

エチレングリコールの毒性は(皮膚等)?解毒方法は?

エチレングリコールは中程度の急性毒性を持つ化合物である。経口摂取した場合、体内で代謝されてグリコール酸やシュウ酸といった有毒な代謝産物が生成される。

皮膚に対しては、短時間の接触では重大な影響は少ないものの、長時間の接触や反復接触は皮膚炎を引き起こす可能性がある。目に入った場合は刺激性があり、速やかな洗浄が必要だ。

曝露経路 症状 応急処置
経口摂取 吐き気、嘔吐、中枢神経抑制、腎障害 直ちに医療機関へ。無理に吐かせない
皮膚接触 軽度の刺激、長時間で皮膚炎 大量の水で15分以上洗浄
目への接触 刺激、痛み 流水で15分以上洗浄後、受診
吸入 蒸気による呼吸器刺激 新鮮な空気の場所へ移動

解毒方法としては、医療現場ではエタノールの投与ホメピゾール(4-メチルピラゾール)の投与が行われる。これらは、エチレングリコールの代謝を阻害し、有毒な代謝産物の生成を抑制する働きがある。また、透析による除去も効果的だ。

エチレングリコールの購入方法は?Amazonや楽天もある?

エチレングリコールは工業用途で広く使用されているため、化学薬品の専門業者から購入することができる。不凍液や冷却液として自動車用品店でも入手可能だが、これらは純粋なエチレングリコールではなく、添加剤を含む製品である。

Amazonや楽天といった一般的なオンラインショッピングサイトでも、一部の販売者が取り扱っている。ただし、毒性を持つ化学物質であるため、購入時には用途の確認や取り扱いに関する注意事項の理解が求められる場合がある。

研究用や実験用の高純度品を必要とする場合は、試薬メーカーから購入するのが一般的だろう。富士フイルム和光純薬、関東化学、ナカライテスクなどの試薬メーカーが製造・販売している。

エチレンの構造・性質・製法

続いては、エチレンの化学構造や性質、そして製造方法について確認していきます。

エチレンの構造式や化学式(分子式や電子式や示性式)は?分子量の計算方法も

エチレンは最も単純な不飽和炭化水素であり、炭素原子2個が二重結合で結ばれた構造を持つ。

分子式:C₂H₄

示性式:CH₂=CH₂

構造式:H₂C=CH₂

電子式で表すと、炭素原子間の二重結合は4個の電子(2対の共有電子対)で構成されている。各炭素原子は水素原子2個とも単結合で結ばれており、合計で8個の価電子を持つことになる。

分子量の計算は以下の通りだ。

分子量 = 炭素の原子量×2 + 水素の原子量×4

= 12.01×2 + 1.008×4

= 24.02 + 4.032

= 28.05

したがって、エチレンの分子量は約28となる。この軽さが、エチレンが常温で気体である理由の一つだろう。

エチレンの極性を分子の形・構造から解説!立体構造も!無極性分子か?

エチレン分子の立体構造を理解するには、炭素原子のsp²混成軌道を考える必要がある。エチレンの各炭素原子は、sp²混成軌道を形成し、平面三角形の配置を取る。

2つの炭素原子と4つの水素原子は、すべて同一平面上に存在する。炭素-炭素二重結合は、σ結合とπ結合から成り立っており、π結合の存在により分子の回転が制限される。

極性に関しては、エチレンは無極性分子である。その理由を以下にまとめよう。

エチレンが無極性分子である理由は、分子全体が対称な構造を持つためである。炭素-水素結合には若干の極性があるものの、分子の対称性により双極子モーメントが相殺され、結果として分子全体の双極子モーメントはゼロになる。

この無極性という性質は、エチレンの溶解性や化学反応性に大きく影響する。無極性溶媒には溶けやすいが、水のような極性溶媒にはほとんど溶けない。

エチレンの製法・作り方や反応式は?

工業的なエチレンの製造方法として最も重要なのが、ナフサ(石油)の熱分解である。この方法は石油化学工業の中核を成している。

熱分解反応(例:エタンから)

C₂H₆ → C₂H₄ + H₂

(約800~900℃で実施)

実験室レベルでは、エタノールの脱水反応によってエチレンを得ることができる。この反応では濃硫酸が脱水剤として用いられる。

エタノールの脱水

C₂H₅OH → C₂H₄ + H₂O

(濃硫酸、約170℃)

また、ハロゲン化エチルからハロゲン化水素を脱離させる方法もある。たとえば、臭化エチルと水酸化カリウムのエタノール溶液を加熱すると、エチレンが生成される。

これらの製法の中で、工業的には石油の熱分解が圧倒的に主流だ。年間数千万トン規模でエチレンが生産されており、プラスチックや各種化学製品の原料として利用されている。

エチレンの実用と酸化・重合反応

続いては、エチレンの実用例や重要な化学反応について見ていきます。

エチレンガスは果物(バナナ等)から出る?影響等を解説!

エチレンは化学工業の原料というだけでなく、植物ホルモンとしても重要な役割を果たしている。果物や野菜は成熟過程でエチレンガスを生成し、これが追熟を促進する。

バナナは特にエチレン生成量が多い果物として知られている。青いバナナを常温で保存すると、自らが生成するエチレンにより数日で黄色く熟していく。このメカニズムは、果実の軟化、糖度の上昇、色素の変化などを引き起こす。

果物の種類 エチレン生成量 エチレン感受性
バナナ、リンゴ、メロン
トマト、アボカド 中~高
柑橘類、ブドウ

この性質を利用して、硬い果物を早く熟させたい場合は、バナナやリンゴと一緒に袋に入れて保存するとよい。逆に、野菜の鮮度を保ちたい場合は、エチレンを生成する果物から離して保存することが推奨される。

エチレンの酸化でアセトアルデヒドになる反応式や機構は?なぜ?触媒等も

エチレンを酸化すると、条件によって様々な生成物が得られる。その中でも工業的に重要なのが、アセトアルデヒドへの酸化である。

この反応はワッカー法として知られており、塩化パラジウム(PdCl₂)と塩化銅(CuCl₂)を触媒として用いる。

全体の反応式

C₂H₄ + ½O₂ → CH₃CHO

反応機構は複雑だが、大まかには以下のステップで進行する。

まず、エチレンがパラジウム錯体に配位し、水分子が求核攻撃することでヒドロキシエチルパラジウム中間体が生成される。続いて、β-水素脱離が起こり、アセトアルデヒドが生成するとともに金属パラジウムが遊離する。

この際、金属パラジウムは銅(II)イオンにより再酸化されてPd(II)に戻り、触媒サイクルが完結する。銅(I)イオンは酸素により再び銅(II)に酸化される仕組みだ。

ワッカー法は、エチレンから直接アセトアルデヒドを合成できる画期的な方法として、1950年代に開発された。この反応により、酢酸や酢酸エチルなどの重要な化学製品を効率的に製造できるようになった。

エチレンの付加重合でポリエチレンに?化学反応式や触媒等を解説

エチレンの最も重要な用途の一つが、ポリエチレンの合成である。ポリエチレンは、世界で最も多く生産されているプラスチックだろう。

付加重合の反応式を示すと以下のようになる。

n CH₂=CH₂ → [-CH₂-CH₂-]ₙ

(nは重合度を表し、数千~数万の値を取る)

ポリエチレンの製造方法には、主に以下の2つがある。

高圧法では、ラジカル開始剤を用いて200~300℃、1000~3000気圧という高温高圧条件下で重合を行う。この方法で得られるのは低密度ポリエチレン(LDPE)である。分岐構造が多く、軟らかく透明性が高い。

一方、低圧法では、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて、比較的穏和な条件(50~100℃、数気圧~数十気圧)で重合する。この方法では高密度ポリエチレン(HDPE)が得られ、直鎖状の構造を持つため、硬く強度が高い。

ポリエチレンは、包装材料、容器、パイプ、電線被覆など、極めて広範な用途に使われている。

エチレンの燃焼と水付加反応

最後に、エチレンの燃焼反応や水との反応について確認していきましょう。

エチレンの完全燃焼の化学反応式は?エンタルピーも解説!

エチレンを十分な酸素中で燃焼させると、完全燃焼が起こり、二酸化炭素と水が生成される。

完全燃焼の化学反応式

C₂H₄ + 3O₂ → 2CO₂ + 2H₂O

この反応は強い発熱反応であり、標準状態におけるエチレンの燃焼エンタルピー(標準生成エンタルピー)は約-1411 kJ/molである。

エンタルピー変化の大きさは、化学結合のエネルギーから計算できる。反応物の結合を切るために必要なエネルギーと、生成物の結合を形成する際に放出されるエネルギーの差が、反応のエンタルピー変化となる。

エチレンの完全燃焼は大量のエネルギーを放出するため、理論上は燃料として利用できる。ただし、気体であるため取り扱いが難しく、一般的な燃料としては用いられていない。

酸素が不足した状態では不完全燃焼が起こり、一酸化炭素や煤が生成される可能性がある点にも注意が必要だ。

エチレンに水付加の化学反応式は?触媒等も解説!

エチレンに水を付加させると、エタノールが生成される。この反応は工業的に重要なエタノール合成法の一つである。

水付加反応

C₂H₄ + H₂O → C₂H₅OH

この反応は、リン酸を担持したシリカゲル触媒酸性イオン交換樹脂などの酸触媒の存在下で進行する。工業的には、280~300℃、60~70気圧程度の条件で実施される。

反応機構としては、まず酸触媒がエチレンの二重結合にプロトンを付加し、カルボカチオン(炭素陽イオン)が生成される。次に、水分子がこのカルボカチオンに求核攻撃することで、エタノールが生成される流れだ。

この直接水和法は、発酵法と並んでエタノールの主要な製造方法となっている。石油化学工業では、エチレンから各種化学製品を合成する際の重要な反応の一つだろう。

エチレンとエチレングリコールの関係性

ここまでエチレングリコールとエチレンについて別々に解説してきたが、実はこの2つの化合物には化学的な関連性がある。

エチレンを酸化すると、エチレンオキシド(酸化エチレン)という環状エーテルが生成される。このエチレンオキシドに水を付加させると、エチレングリコールが得られる。

エチレン → エチレンオキシド → エチレングリコール

C₂H₄ + ½O₂ → C₂H₄O(エチレンオキシド)

C₂H₄O + H₂O → HO-CH₂-CH₂-OH(エチレングリコール)

つまり、エチレングリコールはエチレンから合成される誘導体の一つなのである。工業的には、エチレンを原料としてエチレングリコールが大量に製造されており、不凍液や合成繊維(ポリエステル)の原料として利用されている。

このように、名前が似ているだけでなく、化学的にも深い関わりを持つ2つの化合物だといえるだろう。

まとめ エチレングリコールの別名は?危険物か

本記事では、エチレングリコールとエチレンという2つの重要な化合物について、その基本情報から化学的性質、反応、実用例まで幅広く解説してきた。

エチレングリコールは、CAS番号107-21-1を持つ液体の化合物であり、不凍液や溶剤として広く使用されている。毒性を持つため取り扱いには注意が必要だが、適切な知識があれば安全に利用できる。

一方、エチレンは最も単純な不飽和炭化水素であり、二重結合を持つ無極性の気体である。ポリエチレンの原料として極めて重要であるだけでなく、植物ホルモンとしての役割も持つ。酸化反応や付加反応など、多様な化学反応を起こすことができる。

そして、これら2つの化合物は、エチレンからエチレンオキシドを経てエチレングリコールが合成されるという関係性で結ばれている。化学の学習においても、実務においても、これらの知識は非常に有用だろう。

化学物質を正しく理解し、安全に取り扱うことで、私たちの生活はより豊かで便利なものになる。本記事が、皆さんの学習や実務の一助となれば幸いである。