化学反応

エチレンの付加重合でポリエチレンに?化学反応式や触媒等を解説

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私たちの日常生活において、ポリエチレンは最も身近なプラスチック素材の一つでしょう。レジ袋、容器、パイプ、フィルムなど、あらゆる場面でポリエチレン製品が使用されています。

このポリエチレンは、エチレンという単純な分子が付加重合によって繋がることで生成される高分子化合物なのです。

エチレンからポリエチレンへの変換は、化学工業において最も重要な反応の一つであり、年間1億トン以上が世界中で生産されています。しかし、単にエチレンを混ぜるだけではポリエチレンはできません。適切な触媒と反応条件が必要であり、それらの選択によって性質の異なる様々なポリエチレンが製造されるのです。

本記事では、エチレンの付加重合反応の化学反応式から、詳細な反応機構、使用される触媒の種類と特徴、さらには生成するポリエチレンの種類と性質まで、包括的に解説していきます。

高分子化学の基礎から工業的応用まで、この重要な反応を深く理解していきましょう。

 

エチレンの付加重合とは?基本的な化学反応式

それではまず、エチレンがポリエチレンになる付加重合の基本について解説していきます。

 

付加重合反応の基本原理と化学反応式

エチレンのポリエチレンへの変換は、付加重合(addition polymerization)と呼ばれる反応機構によって進行します。付加重合とは、二重結合や三重結合を持つモノマー分子が、その不飽和結合を開いて次々と連結していく反応です。

n CH₂=CH₂ → (−CH₂−CH₂−)n

または

n C₂H₄ → (C₂H₄)n

この反応式において、nはモノマー単位の繰り返し数を表し、重合度と呼ばれます。nの値は数千から数十万にも達することがあり、これによってポリエチレンの分子量が決定されるのです。例えば、n=10,000の場合、分子量は約280,000となります。

付加重合の特徴は、縮合重合とは異なり、副生成物が生じないことです。エチレン分子がそのまま高分子鎖に組み込まれるため、原子効率が100%となり、環境負荷が小さいという利点があるでしょう。また、反応は連鎖的に進行するため、一度開始すると急速にポリマーが生成されます。

 

エチレンとポリエチレンの構造比較

エチレン(C₂H₄)は、炭素間に二重結合を持つ平面構造の分子です。分子式はC₂H₄、構造式はCH₂=CH₂と表され、分子量は28.05でしょう。常温では無色無臭の気体として存在し、沸点は-103.7℃と非常に低い値を示します。

一方、ポリエチレンは長い炭素鎖が単結合で繋がった高分子です。構造式は(−CH₂−CH₂−)nと表され、二重結合はすべて単結合に変換されています。分子量は数万から数百万に達し、常温では固体として存在するのです。

項目 エチレン ポリエチレン
化学式 C₂H₄ (C₂H₄)n
分子量 28.05 10,000〜数百万
物理状態(常温) 気体 固体
沸点/融点 -103.7℃(沸点) 110〜135℃(融点)
結合状態 C=C二重結合 C−C単結合のみ

ポリエチレンの性質は、分子量や結晶性、分岐の程度などによって大きく変化します。同じポリエチレンでも、製造方法や触媒の種類によって、柔らかいフィルム状のものから硬いパイプ状のものまで、多様な材料を作ることができるのです。

 

重合度と分子量の関係

ポリエチレンの重合度(n)と分子量には、直接的な関係があります。エチレンの分子量が28.05であるため、重合度nのポリエチレンの分子量は28.05×nで計算できるのです。

重合度と分子量の例

n = 1,000の場合:分子量 ≈ 28,000

n = 10,000の場合:分子量 ≈ 280,000

n = 100,000の場合:分子量 ≈ 2,800,000

実際のポリエチレンでは、すべての分子が同じ重合度を持つわけではありません。重合度には分布があり、平均分子量として表されます。数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)という2つの指標が用いられ、その比(Mw/Mn)は分子量分布の広さを示す指標となるでしょう。

重合度が大きいほど、一般的にポリエチレンの機械的強度は向上します。しかし、同時に溶融粘度も高くなり、成形加工が困難になるというトレードオフがあります。そのため、用途に応じて最適な分子量のポリエチレンが選択されるのです。

 

付加重合の詳細な反応機構

続いては、エチレンの付加重合がどのように進行するのか、反応機構を確認していきます。

 

ラジカル重合機構の開始・成長・停止反応

エチレンの付加重合には複数の機構がありますが、最も古典的なものはラジカル重合です。この機構は、開始(initiation)、成長(propagation)、停止(termination)の3つの段階から構成されます。

【開始反応】では、有機過酸化物などの開始剤が熱や光によって分解し、ラジカル(R・)を生成します。このラジカルがエチレンの二重結合に付加することで、重合が開始されるのです。

R−O−O−R → 2R−O・(開始剤の分解)

R−O・ + CH₂=CH₂ → R−O−CH₂−CH₂・(開始)

【成長反応】では、生成したラジカルが次々とエチレン分子に付加していきます。この連鎖反応により、高分子鎖が急速に成長するのです。

R−O−CH₂−CH₂・ + CH₂=CH₂ → R−O−(CH₂−CH₂)₂・

R−O−(CH₂−CH₂)₂・ + CH₂=CH₂ → R−O−(CH₂−CH₂)₃・

(この過程が繰り返される)

【停止反応】では、2つのラジカル末端が結合(カップリング)するか、一方から他方へ水素が移動(不均化)することで、ラジカルが消失し重合が停止します。

 

配位重合機構とチーグラー・ナッタ触媒

より制御された重合を実現するのが、配位重合機構です。この機構では、遷移金属触媒の配位圏内でエチレンが活性化され、規則正しく重合が進行します。

チーグラー・ナッタ触媒(Ziegler-Natta catalyst)は、1950年代にカール・チーグラーとジュリオ・ナッタによって独立に発見された触媒系です。典型的には、四塩化チタン(TiCl₄)とトリエチルアルミニウム(Al(C₂H₅)₃)の組み合わせが用いられます。

チーグラー・ナッタ触媒による配位重合は、ポリエチレンの製造に革命をもたらしました。この功績により、チーグラーとナッタは1963年にノーベル化学賞を共同受賞したのです。彼らの発見は、プラスチック産業の発展に計り知れない影響を与えました。

配位重合では、エチレンがチタン中心に配位し、金属-炭素結合にモノマーが挿入される形で重合が進行します。この機構により、ラジカル重合では困難だった直鎖状の高密度ポリエチレンを製造することが可能になったのです。

 

メタロセン触媒による精密重合制御

1980年代以降に開発されたメタロセン触媒は、さらに高度な重合制御を可能にしました。メタロセンとは、2つのシクロペンタジエニル配位子を持つ遷移金属錯体の総称です。

典型的なメタロセン触媒は、ジルコノセン錯体(例:(C₅H₅)₂ZrCl₂)とメチルアルミノキサン(MAO)の組み合わせで構成されます。この触媒系の特徴は、活性点が均一であることです。チーグラー・ナッタ触媒では不均一系であったため活性点にばらつきがありましたが、メタロセン触媒ではすべての活性点がほぼ同一の構造を持つのです。

その結果、得られるポリエチレンは分子量分布が非常に狭く、均一な性質を示します。また、触媒の配位子構造を精密に設計することで、共重合体の組成や立体規則性を高度に制御することも可能になりました。現代のポリエチレン製造において、メタロセン触媒は重要な役割を果たしているでしょう。

 

触媒の種類と工業的製造プロセス

続いては、ポリエチレン製造に使用される触媒と工業プロセスを確認していきます。

 

高圧ラジカル重合法とその特徴

歴史的に最も古いポリエチレン製造法は、高圧ラジカル重合法です。この方法は1930年代にイギリスのICIによって開発され、低密度ポリエチレン(LDPE: Low Density Polyethylene)の製造に用いられています。

反応条件は極めて過酷であり、圧力は100〜300 MPa(約1,000〜3,000気圧)、温度は200〜300℃に達します。このような高温高圧条件下で、有機過酸化物を開始剤として用いてラジカル重合を行うのです。

高圧法の典型的条件

圧力:150〜300 MPa

温度:200〜300℃

開始剤:有機過酸化物(例:ベンゾイルパーオキシド)

生成物:低密度ポリエチレン(LDPE)

高圧法で得られるLDPEは、多数の短鎖分岐を持つ構造が特徴です。これらの分岐により、ポリマー鎖の規則的な配列(結晶化)が妨げられ、密度が0.91〜0.94 g/cm³と低くなります。LDPEは柔軟性に優れ、透明性が高いため、フィルムや容器の製造に広く使用されているでしょう。

 

チーグラー・ナッタ触媒による低圧法

チーグラー・ナッタ触媒を用いる方法では、はるかに穏和な条件でポリエチレンを製造できます。この方法は、高密度ポリエチレン(HDPE: High Density Polyethylene)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE: Linear Low Density Polyethylene)の製造に使用されるのです。

典型的な反応条件は、圧力0.1〜5 MPa、温度50〜100℃程度です。高圧法と比較すると、設備コストが大幅に削減され、エネルギー消費も少なくなります。触媒はTiCl₄/Al(C₂H₅)₃系が基本ですが、担体に固定化した第三世代、第四世代の触媒も開発されています。

製造法 触媒 圧力(MPa) 温度(℃) 生成物
高圧法 過酸化物 100〜300 200〜300 LDPE
スラリー法 Z-N触媒 0.5〜5 50〜100 HDPE
気相法 Z-N触媒 2〜3 80〜100 HDPE, LLDPE
溶液法 メタロセン 3〜5 120〜200 LLDPE, 特殊PE

チーグラー・ナッタ触媒による配位重合では、分岐がほとんどない直鎖状のポリエチレンが得られます。その結果、密度が0.94〜0.97 g/cm³と高く、機械的強度や耐熱性に優れたHDPEが製造されるのです。パイプ、容器、タンクなど、強度が要求される用途に適しています。

 

メタロセン触媒とその工業応用

メタロセン触媒を用いた製造プロセスは、1990年代以降に工業化されました。主に溶液法や気相法で用いられ、従来法では製造が困難だった特殊なポリエチレンの合成を可能にしています。

メタロセン触媒の最大の利点は、コモノマー(例:1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン)との共重合を高度に制御できることです。これにより、分岐の長さや分布を精密に調整したLLDPEを製造できます。メタロセンLLDPE(mLLDPE)は、従来のLLDPEよりも優れた透明性、強度、伸縮性を示すでしょう。

メタロセン触媒により製造されるポリエチレンは、分子量分布が狭く(Mw/Mn = 2〜3)、性質が均一です。これに対し、チーグラー・ナッタ触媒では分子量分布が広く(Mw/Mn = 4〜8)なります。この違いが、最終製品の品質に大きく影響するのです。

現代のポリエチレン製造では、用途に応じて複数の触媒系と製造プロセスが使い分けられています。汎用品はチーグラー・ナッタ触媒で、高性能品や特殊用途品はメタロセン触媒で製造されることが多いでしょう。

 

生成するポリエチレンの種類と性質

続いては、製造されるポリエチレンの種類とそれぞれの特性を確認していきます。

 

低密度ポリエチレン(LDPE)の構造と用途

低密度ポリエチレン(LDPE)は、高圧ラジカル重合法によって製造されるポリエチレンです。分子構造には多数の短鎖分岐(主にブチル基、エチル基)が含まれており、これが特徴的な性質を生み出します。

密度は0.91〜0.94 g/cm³、結晶化度は40〜60%程度です。分岐により分子鎖の規則的な配列が妨げられるため、結晶化度が低く、柔軟で透明性の高い材料となるのです。融点は105〜115℃程度と比較的低いでしょう。

LDPEの主な特性

密度:0.91〜0.94 g/cm³

融点:105〜115℃

引張強度:8〜16 MPa

伸び率:100〜650%

用途:レジ袋、ラップフィルム、電線被覆、容器

LDPEは柔軟性、透明性、加工性に優れるため、包装フィルムとして最も広く使用されています。また、電気絶縁性も良好であり、電線やケーブルの被覆材としても重要です。耐薬品性があり、水蒸気透過性が低いという特性も、食品包装材として適しているでしょう。

 

高密度ポリエチレン(HDPE)の特徴と応用

高密度ポリエチレン(HDPE)は、チーグラー・ナッタ触媒や気相法によって製造される、ほぼ直鎖状の構造を持つポリエチレンです。分岐がほとんどないため、分子鎖が規則正しく配列し、高い結晶化度を示します。

密度は0.94〜0.97 g/cm³、結晶化度は70〜90%に達します。LDPEと比較して硬く、機械的強度が高いのが特徴です。融点も125〜135℃とLDPEより高く、耐熱性に優れるでしょう。

HDPEの主な特性

密度:0.94〜0.97 g/cm³

融点:125〜135℃

引張強度:20〜37 MPa

伸び率:10〜1200%(グレードにより変動)

用途:パイプ、容器、タンク、買い物かご、まな板

HDPEは剛性と強度に優れるため、水道管、ガス管などのパイプ材料として広く使用されています。また、洗剤ボトル、シャンプー容器、灯油タンクなどの中空成形品にも適しているでしょう。耐薬品性が非常に高く、多くの酸やアルカリに対して安定であることも、工業用途での使用を後押ししています。

 

直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の利点

直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、エチレンと少量のα-オレフィン(1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンなど)を共重合させることで製造されます。主鎖は直鎖状ですが、コモノマーに由来する短鎖分岐が規則的に導入されているのです。

密度は0.915〜0.940 g/cm³で、LDPEとHDPEの中間領域にあります。しかし、構造的にはHDPEに近い直鎖状であるため、LDPEとは異なる特性を示すでしょう。特に、引張強度と引裂強度のバランスに優れています。

種類 密度(g/cm³) 分岐構造 主な特徴
LDPE 0.91〜0.94 不規則な短鎖・長鎖分岐 柔軟、透明
LLDPE 0.915〜0.94 規則的な短鎖分岐 強靭、バランス良好
HDPE 0.94〜0.97 ほぼ分岐なし 剛性、耐熱性高

LLDPEは、LDPEの柔軟性とHDPEの強度を併せ持つという利点があります。特に耐環境応力亀裂性(ESCR)に優れ、ストレスがかかる用途でも長期的な耐久性を発揮するのです。ストレッチフィルム、重包装袋、農業用フィルムなどに広く使用されています。

また、メタロセン触媒で製造されるmLLDPEは、さらに優れた透明性と機械特性を示し、高付加価値製品に使用されます。医療用フィルム、高級包装材、多層フィルムの層材料などがその例でしょう。

 

まとめ エチレンの付加重合の化学反応式や触媒等を解説

エチレンの付加重合によるポリエチレンの生成は、化学工業における最も重要な反応の一つです。単純な化学反応式n C₂H₄ → (C₂H₄)nで表されますが、その実現には高度な触媒技術と反応制御が必要とされます。

ラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒による配位重合、メタロセン触媒による精密重合という3つの主要な機構があり、それぞれ異なる反応条件と触媒を用いて、LDPE、HDPE、LLDPEという性質の異なるポリエチレンを製造します。これらのポリエチレンは、密度、結晶化度、分岐構造の違いにより、柔軟なフィルムから剛性の高いパイプまで、多様な用途に対応できるのです。

現代社会において、ポリエチレンは年間1億トン以上が生産され、私たちの生活を支える不可欠な材料となっています。エチレンの付加重合という化学反応の理解は、高分子化学の基礎であると同時に、持続可能な材料開発への第一歩でもあるでしょう。