化学式等の物性

エチレングリコールの沸点は(SDS)?比重や密度や粘度や融点(凝固点)も解説!

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エチレングリコールは、不凍液や冷却剤として広く使用される化学物質です。その物理的性質を正確に把握することは、適切な取り扱いや用途選択において極めて重要となります。

「沸点は何度なのか」「密度や粘度はどれくらいか」「融点はどのような値か」といった疑問は、実務において頻繁に生じるでしょう。これらの物性値は、SDS(安全データシート)にも記載されている基本情報です。

エチレングリコールは沸点197.3℃、融点-12.9℃という特性を持ち、広い液体温度範囲が不凍液としての利用を可能にしています。また、比較的高い粘度と密度も特徴的な性質なのです。

本記事では、エチレングリコールの沸点や融点などの熱的性質から、密度、比重、粘度といった物理的性質まで、SDSに基づいた正確な情報を詳しく解説していきます。化学物質を扱う上で必須の知識となっているでしょう。

 

エチレングリコールの沸点

それではまず、エチレングリコールの沸点について解説していきます。

 

常圧での沸点と測定条件

エチレングリコールの沸点は、1気圧(101.325 kPa)において197.3℃です。これは水の沸点(100℃)と比較して非常に高い値となっています。

沸点とは、液体の蒸気圧が外部圧力と等しくなる温度のことです。エチレングリコールの高い沸点は、分子間の強い水素結合によるものでしょう。

エチレングリコール分子は2つのヒドロキシ基(-OH)を持ち、これらが隣接する分子と水素結合を形成します。この強い分子間力が、高い沸点をもたらしているのです。

エチレングリコールの沸点データ

常圧(1 atm)での沸点: 197.3℃

測定条件: 101.325 kPa(760 mmHg)

文献値の範囲: 197〜198℃

精密測定値: 197.3℃

文献によっては197℃、197.6℃、198℃などの値が記載されていることがあります。これらの差は、測定条件や純度、測定精度の違いによるものでしょう。

SDSには通常「約197℃」または「197.3℃」と記載されます。工業用途では、3桁の精度で十分実用的なのです。

 

圧力による沸点の変化

続いては、圧力と沸点の関係を確認していきます。

沸点は圧力に依存して変化します。減圧下では沸点が低下し、加圧下では上昇するのです。この性質を利用して、減圧蒸留が行われることもあります。

クラウジウス-クラペイロンの式により、圧力と沸点の関係を理論的に予測できます。エチレングリコールの場合、この関係は特に工業プロセスにおいて重要でしょう。

圧力(kPa) 沸点(℃) 備考
1.3(10 mmHg) 約93℃ 減圧蒸留条件
13.3(100 mmHg) 約135℃ 中減圧
101.3(760 mmHg) 197.3℃ 常圧
200 約220℃ 加圧条件

標高の高い場所では気圧が低いため、沸点も若干低くなります。例えば、標高1000mでは気圧が約90 kPaとなり、沸点は数度低下するでしょう。

蒸留による精製では、熱分解を避けるため減圧蒸留が用いられることがあります。エチレングリコールは高温で長時間加熱すると分解する可能性があるためです。

 

沸点と用途の関係

さらに、高い沸点がもたらす利点を見ていきましょう。

エチレングリコールの高い沸点は、その用途に大きく影響しています。不凍液として使用される際、高温でも蒸発しにくいという利点があるのです。

自動車エンジンの冷却システムでは、温度が100℃を超えることがあります。水だけでは沸騰してしまいますが、エチレングリコールを混合することで、沸点が上昇し安全に使用できるでしょう。

エチレングリコール水溶液の沸点上昇

純水: 100℃

30%エチレングリコール溶液: 約103℃

50%エチレングリコール溶液: 約107℃

純エチレングリコール: 197.3℃

冷却液として使用する場合、通常は30〜50%の水溶液とします。これにより、不凍性(融点降下)と沸点上昇の両方の効果が得られるのです。

工業プロセスの熱媒体としても利用されます。100℃以上の温度が必要な場合、水よりもエチレングリコールの方が適していることがあるでしょう。

用途 必要な沸点特性 エチレングリコールの適合性
自動車不凍液 100℃以上で安定 ◎ 水溶液で十分
航空機除氷剤 低温で液体、揮発性低い ◎ 高沸点が有利
熱媒体 150℃程度で使用 ○ 可能だが分解注意

ただし、長時間の高温曝露は避けるべきです。150℃以上で長時間加熱すると、酸化や熱分解が進行する可能性があるのです。

 

エチレングリコールの融点(凝固点)

続いては、エチレングリコールの融点を確認していきます。

 

純物質の融点

エチレングリコールの融点は-12.9℃です。これは純粋な物質が固体から液体に変化する温度であり、凝固点とも呼ばれます。

融点が氷点下であることが、不凍液としての利用を可能にする重要な性質です。0℃以下でも液体状態を保つため、寒冷地での使用に適しているでしょう。

純粋なエチレングリコールは、-12.9℃以下では白色の結晶性固体となります。結晶構造は単斜晶系であり、比較的規則正しい配列を取るのです。

エチレングリコールの融点データ

融点(凝固点): -12.9℃

文献値の範囲: -13℃〜-12.6℃

固体の状態: 白色結晶

結晶系: 単斜晶

融点と凝固点は、理論的には同じ温度です。しかし実際には、過冷却現象により凝固点の方がわずかに低く観測されることがあります。

過冷却とは、融点以下に冷却しても凍結しない現象です。エチレングリコールは過冷却を起こしやすく、-20℃程度まで液体状態を保つことがあるでしょう。

 

水溶液の凝固点降下

さらに、水と混合した場合の特性を見ていきましょう。

エチレングリコール水溶液の凝固点は、混合比によって大きく変化します。これが不凍液として最も重要な性質なのです。

凝固点降下は束一性という現象であり、溶質の種類ではなく濃度に依存します。エチレングリコールの分子量が小さいため、効率的に凝固点を下げることができるでしょう。

エチレングリコール濃度(重量%) 凝固点(℃) 用途例
0(純水) 0 通常の水
30 約-15 温暖地用不凍液
50 約-37 一般的な不凍液
60 約-50 寒冷地用不凍液
100(純品) -12.9 原液

興味深いことに、純粋なエチレングリコール(-12.9℃)よりも、60%溶液の方が凝固点が低いです。これは、水との相互作用により、より低い温度まで液体状態が維持されるためでしょう。

最も低い凝固点を示すのは、約60〜70%の濃度です。この組成が、極寒地用の不凍液として使用されるのです。

不凍液の濃度選択

温暖地(-15℃程度): 30%溶液

一般地(-30℃程度): 40〜50%溶液

寒冷地(-50℃程度): 60%溶液

ただし、高濃度になると粘度が上昇し、流動性が悪くなるという欠点があります。このため、必要以上に濃度を高くすることは避けるべきでしょう。

 

融点測定の実用性

最後に、融点測定の意義を確認していきます。

融点の測定は、純度の判定に有効です。不純物が混入すると、融点は低下し、融解温度範囲が広がる傾向があります。

純粋なエチレングリコールは-12.9℃という明確な融点を持ちますが、不純物を含む場合は-15℃から-10℃の範囲でゆっくり融解することがあるでしょう。

純度 融点 融解範囲
99.9%以上 -12.9℃ ±0.5℃
98〜99% -13.5℃付近 約2℃
95%以下 -14℃以下 3℃以上

工業製品の品質管理では、凝固点測定が簡便な分析法として利用されます。特に、不凍液製品の濃度確認に屈折計や凝固点測定が用いられるのです。

示差走査熱量測定(DSC)を用いれば、より精密な融点測定が可能です。この方法では、融解エンタルピーも同時に測定できるでしょう。

 

エチレングリコールの密度と比重

続いては、エチレングリコールの密度と比重を確認していきます。

 

標準条件での密度

エチレングリコールの密度は、20℃において1.113 g/cm³です。これは水(1.000 g/cm³)よりも約11%重いことを示しています。

密度は温度によって変化します。温度が上昇すると、熱膨張により体積が増加し、密度は低下するのです。

エチレングリコールの密度-温度関係は、実用上重要なデータとなります。流量計算や配管設計において、正確な密度値が必要となるでしょう。

温度(℃) 密度(g/cm³) 比重(対水20℃)
0 1.125 1.125
20 1.113 1.113
40 1.100 1.100
60 1.087 1.087
100 1.058 1.058

密度の温度係数は約0.00065 g/(cm³·℃)です。つまり、温度が1℃上昇するごとに、密度は約0.00065 g/cm³減少するでしょう。

この温度依存性により、温度変化がある系では、密度補正が必要となることがあります。特に、高精度な流量測定では重要なのです。

 

比重の定義と測定

さらに、比重について詳しく見ていきましょう。

比重は、ある物質の密度を基準物質(通常は水)の密度で割った無次元量です。エチレングリコールの場合、20℃での水に対する比重が一般的に用いられます。

20℃における水の密度は0.998 g/cm³ですが、実用上は1.000 g/cm³として扱われることが多いです。このため、エチレングリコールの比重は約1.113となるでしょう。

比重の計算

比重 = 物質の密度 ÷ 水の密度

エチレングリコール(20℃): 1.113 g/cm³ ÷ 1.000 g/cm³ = 1.113

比重は無次元(単位なし)

比重の測定には、いくつかの方法があります。最も一般的なのは、比重計(ハイドロメーター)を用いる方法でしょう。

精密測定には、ピクノメーター(比重瓶)や振動式密度計が使用されます。これらの方法では、0.0001 g/cm³の精度で測定可能なのです。

測定方法 精度 適用場面
比重計 ±0.005 現場での簡易測定
ピクノメーター ±0.0001 研究室での精密測定
振動式密度計 ±0.00001 自動測定、連続測定
屈折計 濃度換算可能 水溶液の濃度測定

不凍液製品の濃度管理では、比重測定が品質管理の一手法として用いられます。濃度と比重の関係から、エチレングリコール含有量を推定できるのです。

 

密度と用途の関係

最後に、密度が実用性に与える影響を確認していきます。

エチレングリコールが水より重いという性質は、いくつかの実用的な意味を持ちます。水と混合する際の挙動や、配管系での流動特性に影響するでしょう。

冷却システムでは、密度差により自然対流が発生しやすくなります。ただし、温度差による密度変化の方が影響が大きいため、エチレングリコール自体の密度はそれほど問題とならないのです。

密度が関係する実用面

・ポンプの動力計算

・配管の圧力損失計算

・貯蔵タンクの容量設計

・混合時の挙動予測

エチレングリコール水溶液の密度は、混合比によって変化します。濃度が高いほど密度は大きくなり、この関係はほぼ直線的でしょう。

エチレングリコール濃度(重量%) 密度(g/cm³、20℃)
0(純水) 0.998
25 1.027
50 1.063
75 1.094
100(純品) 1.113

輸送や貯蔵の際、密度は重量計算に使用されます。例えば、1000Lのエチレングリコールの質量は約1113 kgとなるのです。

航空機の除氷剤として使用する場合、密度は噴霧特性に影響します。適切な密度範囲内であることが、効果的な除氷作業の条件となるでしょう。

 

エチレングリコールの粘度

続いては、エチレングリコールの粘度を確認していきます。

 

動粘度と絶対粘度

エチレングリコールの動粘度は、20℃において約21 mPa·s(ミリパスカル秒)です。これは水(約1 mPa·s)の約21倍という高い値となっています。

粘度には動粘度(または絶対粘度)と動粘度の2種類があります。動粘度は流体の流れにくさを表し、密度と動粘度の比が動粘度です。

エチレングリコールの高い粘度は、分子間の水素結合によるものでしょう。2つのヒドロキシ基が網目状の水素結合ネットワークを形成し、分子の運動を妨げるのです。

エチレングリコールの粘度データ(20℃)

動粘度(絶対粘度): 21 mPa·s

動粘度: 約19 mm²/s(センチストークス)

単位換算: 1 mPa·s = 1 cP(センチポアズ)

粘度は温度に強く依存します。温度が上昇すると、分子の熱運動が活発になり、粘度は急激に低下するのです。

温度(℃) 動粘度(mPa·s) 水との比較
0 57.0 水の約30倍
20 21.0 水の約21倍
40 9.5 水の約15倍
60 5.1 水の約11倍
100 2.0 水の約7倍

低温では粘度が著しく上昇します。0℃では57 mPa·sとなり、流動性が大幅に低下するでしょう。これが、純粋なエチレングリコールではなく水溶液として使用される理由の一つなのです。

 

温度と粘度の関係

さらに、粘度-温度曲線の特性を見ていきましょう。

エチレングリコールの粘度-温度関係は、アレニウス型の挙動を示します。対数プロットすると、ほぼ直線関係となるのです。

この関係は、Andrade式やVogel-Fulcher-Tammann(VFT)式で記述できます。工学的な計算では、これらの式を用いて任意の温度での粘度を推定するでしょう。

粘度の温度依存性(簡略式)

η = A × exp(B/T)

η: 粘度、T: 絶対温度、A, B: 定数

温度が10℃上昇すると粘度は約40%減少

低温での粘度上昇は、不凍液の性能に影響を与えます。-30℃では粘度が非常に高くなり、ポンプの循環性能が低下する可能性があるのです。

このため、不凍液には水を混合して使用します。水との混合により、粘度を実用的な範囲に抑えることができるでしょう。

エチレングリコール濃度(%) 粘度(mPa·s、20℃)
0(純水) 1.0
25 1.8
50 4.8
75 11.0
100(純品) 21.0

50%水溶液の粘度は約4.8 mPa·sとなり、純粋なエチレングリコールの1/4程度です。これにより、流動性と不凍性のバランスが取れるのです。

 

粘度と実用性

最後に、粘度が用途に与える影響を確認していきます。

高い粘度は、冷却システムにおいて利点と欠点の両方をもたらします。利点としては、熱伝達係数の向上や潤滑性の付与があるでしょう。

一方、欠点としては、ポンプの動力増加や配管の圧力損失増大があります。特に低温では、粘度の上昇により循環性能が低下するのです。

エチレングリコールの高粘度による影響

利点: 潤滑性向上、シール性向上、泡立ちにくい

欠点: ポンプ動力増加、圧力損失増大、低温流動性低下

潤滑性は、冷却システムのポンプやバルブの寿命延長に貢献します。エチレングリコールは水よりも潤滑性が高いため、機械部品の摩耗を減少させるでしょう。

化学プロセスでは、粘度が反応速度や混合効率に影響します。攪拌所要動力の計算にも、正確な粘度データが必要となるのです。

用途 粘度の影響 最適濃度
自動車冷却 ポンプ動力、熱伝達 30〜50%
航空機除氷 噴霧性、付着性 50〜60%
熱媒体 循環性、熱伝達 用途により異なる

航空機除氷剤では、適度な粘度が重要です。粘度が高すぎると噴霧しにくく、低すぎると機体から流れ落ちてしまうでしょう。

測定方法としては、回転粘度計やキャピラリー粘度計が用いられます。自動車用不凍液の品質管理では、粘度測定が重要な試験項目の一つとなっているのです。

 

まとめ

エチレングリコールの沸点は197.3℃(1気圧)であり、水の沸点よりも約97℃高い値です。この高い沸点は2つのヒドロキシ基による強い水素結合に起因し、不凍液として高温でも蒸発しにくいという利点をもたらします。

融点は-12.9℃であり、0℃以下でも液体状態を保つ性質が不凍液としての利用を可能にしています。水溶液では凝固点降下が起こり、60%溶液で約-50℃という最低値を示すのです。

密度は20℃で1.113 g/cm³、比重は約1.113となり、水よりも約11%重い物質です。温度上昇とともに密度は低下し、温度係数は約0.00065 g/(cm³·℃)となります。

粘度は20℃で21 mPa·sと水の約21倍高く、温度低下とともに急激に上昇します。この高い粘度は水素結合によるものであり、水と混合することで実用的な範囲に調整できるでしょう。

これらの物性値はSDSに記載されており、適切な取り扱いや用途選択の基礎となります。特に不凍液としての使用では、沸点、融点、粘度のバランスが重要であり、通常30〜60%の水溶液として使用されるのです。