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エチレングリコールは何に使う?不凍液や保冷剤か?用途を解説!【何に含まれるか】

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エチレングリコールは、私たちの身の回りで広く使用されている化学物質です。しかし、具体的にどのような製品に含まれ、どのような目的で使われているのかを知る機会は少ないかもしれません。

「なぜ不凍液に使われるのか」「保冷剤にも含まれているのか」「他にどんな用途があるのか」といった疑問を持つ方は多いでしょう。エチレングリコールの用途を理解することで、その重要性と安全な取り扱いの必要性が見えてきます。

エチレングリコールは主に自動車用不凍液として使用され、世界生産量の約50%を占めています。さらに、ポリエステル繊維やPETボトルの原料としても大量に消費されているのです。

本記事では、エチレングリコールの主要用途である不凍液から、繊維産業、樹脂製造、そして日常製品での利用まで、幅広い用途を詳しく解説していきます。何に含まれているかを知ることで、この化学物質への理解が深まるでしょう。

 

エチレングリコールの主要用途

それではまず、エチレングリコールの主要な用途について解説していきます。

 

世界的な用途の内訳

エチレングリコールの世界生産量は年間約3000万トンに達し、その用途は大きく分けて不凍液とポリエステル原料の2つが主流です。この2つで全体の約90%を占めています。

用途別の割合を見ると、産業構造が明確になります。ポリエステル繊維の原料としての使用が最大であり、約60%を占めるのです。

次いで、自動車やエアコンの不凍液・冷却液として約30%が使用されます。残りの10%は、その他の工業用途や消費者製品に利用されているでしょう。

用途 割合(%) 主な製品
ポリエステル繊維・樹脂 約60 衣料品、PETボトル
不凍液・冷却液 約30 自動車、空調設備
溶剤・工業用途 約5 塗料、印刷インキ
その他 約5 保湿剤、除氷剤

地域によって用途の割合は若干異なります。寒冷地が多い北米やヨーロッパでは、不凍液の需要が高い傾向があるでしょう。

一方、アジア地域では繊維産業が盛んなため、ポリエステル原料としての需要が特に大きいのです。中国とインドだけで、世界のエチレングリコール生産量の半分以上を消費しています。

 

なぜエチレングリコールが選ばれるのか

続いては、エチレングリコールが広く使われる理由を確認していきます。

エチレングリコールには、他の化学物質にはない独特の性質があります。それが、多様な用途での採用理由となっているのです。

まず、融点が-12.9℃と低いため、0℃以下でも液体状態を保ちます。これが不凍液としての基本的な要件を満たすでしょう。

エチレングリコールの主要な特性

・低い融点(-12.9℃)

・高い沸点(197.3℃)

・水と任意の割合で混和

・2つのヒドロキシ基による高い反応性

・比較的低い毒性(他のグリコール類と比較)

高い沸点により、高温でも蒸発しにくく、冷却システムで長期間使用できます。水との混和性により、任意の濃度で調整可能なのです。

2つのヒドロキシ基は、化学反応の起点となります。特にポリエステル合成では、この2つの反応点が重合反応に不可欠でしょう。

性質 メリット 対応する用途
低融点 低温でも凍らない 不凍液
高沸点 高温で蒸発しない 冷却液、熱媒体
水溶性 濃度調整が容易 不凍液、溶剤
2つのOH基 重合反応が可能 ポリエステル原料

価格も重要な要因です。エチレンから比較的容易に製造でき、コストパフォーマンスに優れています。大量生産により、さらにコストが下がっているのです。

安全性の観点では、メタノールなどと比較して毒性が低く、取り扱いやすいという利点があります。ただし、後述するように完全に無害ではないため、注意は必要でしょう。

 

歴史的な用途の変遷

さらに、用途の変化を見ていきましょう。

エチレングリコールの工業生産が始まったのは1920年代です。当初の主要用途は、爆薬の原料でした。ダイナマイトに使われるニトログリセリンの代替品として注目されたのです。

1930年代になると、自動車産業の発展とともに不凍液としての需要が急増します。それまで使われていた他の物質よりも性能が優れていたためでしょう。

エチレングリコール用途の歴史

1920年代: 爆薬原料として開発

1930年代: 不凍液として普及

1950年代: ポリエステル繊維の原料に

1970年代: PETボトル用樹脂の原料に

現在: 多様な用途に展開

1950年代の革命的な変化は、ポリエステル繊維の開発でした。デュポン社がダクロン、英国のICIがテリレンという商品名でポリエステル繊維を発売し、爆発的に普及したのです。

1970年代にはPETボトルが開発され、エチレングリコールの需要はさらに増大します。軽量で割れにくい容器として、ガラス瓶を急速に置き換えていきました。

年代 主要用途 市場規模
1920〜1940年代 爆薬、不凍液 小規模
1950〜1970年代 不凍液、ポリエステル繊維 急拡大
1980年代〜現在 ポリエステル、PET、不凍液 大規模・多様化

現在では、環境への配慮からリサイクルPETの利用も増加しています。使用済みPETボトルから回収したエチレングリコールを再利用する技術が発展しているのです。

 

不凍液・冷却液としての用途

続いては、最もよく知られている不凍液としての用途を確認していきます。

 

自動車用不凍液(LLC)

自動車のエンジン冷却システムでは、ロングライフクーラント(LLC)と呼ばれるエチレングリコール水溶液が使用されます。これが最も身近なエチレングリコール製品でしょう。

なぜ水だけではダメなのでしょうか。水は0℃で凍結し、体積が約9%増加します。この膨張により、エンジンブロックやラジエーターが破損する危険があるのです。

不凍液の役割

1. 凍結防止: -30〜-50℃でも凍らない

2. 沸騰防止: 沸点を107℃程度まで上昇

3. 防錆効果: 添加剤で冷却系統を保護

4. 潤滑作用: ウォーターポンプの摩耗軽減

通常、30〜50%濃度のエチレングリコール水溶液として使用されます。50%溶液では、凍結温度が約-37℃まで低下するでしょう。

濃度と凍結温度の関係は非線形です。60%付近で最も低い凍結点(約-50℃)を示し、それ以上濃度を高めると逆に凍結点が上昇します。

エチレングリコール濃度(%) 凍結温度(℃) 沸点(℃) 推奨地域
30 -15 103 温暖地
40 -24 105 一般地
50 -37 107 寒冷地
60 -52 111 極寒地

不凍液には、エチレングリコール以外にも様々な添加剤が含まれています。防錆剤、消泡剤、pH調整剤などが配合され、総合的な性能を発揮するのです。

色も重要な要素です。多くの不凍液は緑色や赤色に着色されており、これは漏れの発見を容易にし、誤飲を防ぐためでしょう。

 

空調設備の冷媒

さらに、他の冷却用途も見ていきましょう。

建物の空調システムや工場の冷却設備でも、エチレングリコール溶液が使用されます。特に、チラーシステムと呼ばれる大型冷却装置で一般的です。

データセンターやクリーンルームなど、精密な温度管理が必要な施設では不可欠でしょう。24時間365日、安定した冷却性能が求められるのです。

空調用途での特徴

・長期間の安定性が必要

・広い温度範囲での使用

・大容量システムでの循環

・定期的なメンテナンスと濃度管理

太陽熱温水器でも使用されます。冬季に凍結する可能性がある地域では、水の代わりに不凍液を循環させるのです。

地中熱ヒートポンプシステムでも重要な役割を果たします。地中に埋設された配管を循環する熱媒体として、エチレングリコール溶液が使われるでしょう。

用途 典型的な濃度(%) 特徴
自動車 30〜50 高温・低温両対応
ビル空調 25〜40 長期安定性重視
太陽熱温水器 40〜50 凍結防止重視
地中熱ヒートポンプ 20〜30 熱伝導性重視

工業プロセスの冷却にも使用されます。化学プラントや製薬工場では、反応温度の制御に精密な冷却が必要となるのです。

 

航空機除氷剤

最後に、特殊な用途を確認していきます。

航空機の除氷・防氷作業にも、エチレングリコールが使用されます。離陸前に機体表面の氷や雪を除去し、新たな氷の付着を防ぐのです。

航空機除氷剤の要件

・迅速に氷を溶かす能力

・一定時間、再凍結を防ぐ効果

・機体材料への影響が少ない

・環境への配慮

Type IとType IIという2種類の除氷剤があります。Type Iは約80%濃度のエチレングリコール溶液で、加熱して噴霧し、付着した氷雪を除去するでしょう。

Type IIは粘性が高く、機体表面に留まりやすい特性を持ちます。これにより、離陸までの間、再凍結を防ぐことができるのです。

除氷剤タイプ 濃度 用途 持続時間
Type I 約80% 除氷(氷の除去) 短い(数分)
Type II 50〜60% 防氷(再凍結防止) 中程度(10〜30分)
Type IV 50〜60% 防氷(長時間) 長い(30〜80分)

環境面での課題もあります。使用後の除氷剤は地面に流れ落ち、空港の排水システムに入るため、適切な処理が必要となるでしょう。

近年では、環境負荷の低いプロピレングリコール系の除氷剤も使用されています。エチレングリコールより毒性が低いためです。

 

ポリエステル繊維・樹脂の原料

続いては、最大の用途であるポリエステル製造を確認していきます。

 

ポリエステル繊維(PET繊維)の製造

エチレングリコールの最大の用途は、ポリエステル繊維の原料です。世界消費量の約60%がこの用途に使われています。

ポリエステル繊維は、テレフタル酸(またはテレフタル酸ジメチル)とエチレングリコールを重合させて製造されます。縮合重合という反応により、長い分子鎖が形成されるのです。

ポリエステル(PET)の合成反応

n HOOC-C₆H₄-COOH + n HOCH₂CH₂OH

→ [-OC-C₆H₄-CO-OCH₂CH₂O-]ₙ + 2n H₂O

テレフタル酸 + エチレングリコール → PET + 水

この反応で生成するポリエチレンテレフタレート(PET)が、ポリエステル繊維の正式名称です。商品名ではテトロン、ダクロン、テリレンなどと呼ばれるでしょう。

ポリエステル繊維は、天然繊維にはない優れた特性を持ちます。強度が高く、しわになりにくく、速乾性があり、虫害を受けないのです。

特性 ポリエステル 綿 ウール
強度 非常に高い 中程度 低い
しわ なりにくい なりやすい なりやすい
速乾性 優れる 遅い 非常に遅い
虫害 受けない 受けにくい 受けやすい

衣料品では、綿との混紡が一般的です。ポリエステル65%、綿35%という比率が最も多く使用されるでしょう。

スポーツウェアやアウトドアウェアでは、ポリエステル100%も広く使われます。速乾性と軽量性が重視される用途に最適なのです。

 

PETボトルとプラスチック製品

さらに、樹脂製品への利用を見ていきましょう。

PETボトルは、飲料容器として世界中で使用されています。同じポリエステル(PET)でも、繊維とは製造工程が異なり、透明な容器として成形されるのです。

PETボトルの利点は多岐にわたります。軽量、透明、耐衝撃性、ガスバリア性などが挙げられるでしょう。

PETボトルの特長

・ガラスの約1/20の重量

・割れにくい安全性

・優れた透明性

・リサイクル可能

・製造コストが低い

炭酸飲料用ボトルでは、内部の圧力に耐える強度が必要です。PETは優れた機械的強度を持ち、この用途に理想的なのです。

食品トレーや惣菜容器にも使用されます。透明で内容物が見やすく、電子レンジ対応の製品も開発されているでしょう。

製品 PET使用量 特徴
飲料ボトル 最大 透明性、軽量性
食品トレー 成形性、透明性
フィルム バリア性、強度
工業部品 耐熱性、電気絶縁性

フィルム製品としても重要です。磁気テープのベース、食品包装フィルム、太陽電池のバックシートなど、多様な用途があるでしょう。

リサイクルPET(r-PET)の利用も拡大しています。回収したPETボトルから再生したPETは、新たな繊維や容器の原料として使用されるのです。

 

その他の樹脂製品

最後に、特殊な樹脂用途を確認していきます。

エチレングリコールは、不飽和ポリエステル樹脂の原料としても使用されます。これはFRP(繊維強化プラスチック)の母材となる重要な樹脂です。

不飽和ポリエステル樹脂は、ボート船体、浴槽、波板、自動車部品などに使用されます。ガラス繊維と組み合わせることで、高い強度を持つ複合材料となるでしょう。

不飽和ポリエステル樹脂の用途

・FRP製品: ボート、浴槽、水槽

・建材: 波板、パネル

・自動車部品: バンパー、ボディパネル

・風力発電: ブレード(羽根)

アルキド樹脂の製造にも使用されます。アルキド樹脂は塗料の主成分であり、建築用塗料や工業用塗料に広く使われるのです。

ポリウレタンの原料としても重要な役割を果たします。エチレングリコールから誘導されるポリオールは、軟質フォームや弾性繊維(スパンデックス)の製造に使用されるでしょう。

樹脂種類 主な用途 エチレングリコールの役割
PET樹脂 繊維、ボトル 主原料
不飽和ポリエステル FRP製品 主原料の一部
アルキド樹脂 塗料 変性剤
ポリウレタン フォーム、弾性繊維 ポリオール原料

工業用のグリコールエーテルの原料としても使用されます。これらは高性能溶剤として、塗料、インキ、クリーニング剤に利用されるのです。

 

日常製品での用途

続いては、身近な製品での利用を確認していきます。

 

保冷剤への使用

保冷剤にエチレングリコールが使われているという話を聞いたことがあるかもしれません。実際には、現在の保冷剤のほとんどは水ベースです。

従来、一部の保冷剤にはエチレングリコールが使用されていました。しかし、誤飲の危険性から、現在では使用が大幅に減少しているのです。

保冷剤の種類と成分

水系保冷剤: 水 + 高吸水性ポリマー(主流)

エチレングリコール系: エチレングリコール + 水(減少傾向)

プロピレングリコール系: より安全な代替品

エチレングリコール系保冷剤の利点は、凍結温度が低いことです。-20℃以下でも凍らず、長時間の保冷が可能でしょう。

しかし、子供やペットが誤って口にする事故が報告されたため、家庭用保冷剤ではほとんど使用されなくなりました。業務用や工業用では、依然として使用されることがあるのです。

保冷剤タイプ 凍結温度(℃) 安全性 用途
水系 0〜-5 高い 一般家庭、食品配送
エチレングリコール系 -20〜-30 低い(有毒) 工業用、医薬品輸送
プロピレングリコール系 -15〜-20 比較的高い 食品関連、家庭用

現在の主流は、高吸水性ポリマーを使った水系保冷剤です。これは安全性が高く、繰り返し使用できるでしょう。

 

化粧品・パーソナルケア製品

さらに、美容製品での利用を見ていきましょう。

エチレングリコールは、一部の化粧品やパーソナルケア製品に配合されています。ただし、主成分ではなく、補助的な役割を果たすのです。

保湿剤として、ローションやクリームに少量添加されることがあります。グリセリンやプロピレングリコールほど一般的ではありませんが、特定の製品で使用されるでしょう。

化粧品での役割

・保湿効果の補助

・溶剤としての機能

・粘度調整剤

・防腐剤の溶解補助

ただし、皮膚刺激性の懸念から、使用量は厳しく制限されています。多くの国で化粧品中の配合量に上限が設けられているのです。

近年では、より安全なプロピレングリコールやグリセリンへの置き換えが進んでいます。これらは毒性が低く、同様の機能を果たすでしょう。

成分 保湿性 安全性 使用頻度
グリセリン 高い 非常に高い 非常に一般的
プロピレングリコール 高い 高い 一般的
エチレングリコール 中程度 低い まれ

ヘアケア製品、特にヘアジェルやスタイリング剤にも使用されることがあります。保湿性とフィルム形成性を付与するためです。

 

その他の消費者製品

最後に、その他の身近な用途を確認していきます。

塗料やインキの溶剤として使用されます。水性塗料の凝固防止剤としても重要な役割を果たすでしょう。

印刷インキでは、乾燥速度の調整や発色性の向上に貢献します。特に、水性インキにおいて重要な成分なのです。

その他の日常製品での用途

・塗料: 溶剤、凝固防止剤

・インキ: 溶剤、乾燥調整剤

・洗剤: 溶剤、安定剤

・写真フィルム: 現像液成分(歴史的)

一部の洗剤やクリーニング剤にも配合されています。油性汚れを溶解し、洗浄効果を高めるのです。

ガラスクリーナーの成分としても使用されることがあります。凍結防止と洗浄性の向上を同時に実現するでしょう。

製品分類 エチレングリコールの役割 典型的な濃度
水性塗料 溶剤、凝固防止 5〜15%
印刷インキ 溶剤、調整剤 3〜10%
洗剤 溶剤、安定剤 1〜5%
ガラスクリーナー 凍結防止、洗浄 10〜20%

電子タバコ(VAPE)のリキッドにも使用されることがあります。ただし、吸入による安全性への懸念から、プロピレングリコールやグリセリンが主流となっているのです。

 

まとめ

エチレングリコールの最大の用途はポリエステル繊維とPET樹脂の原料であり、世界消費量の約60%を占めています。衣料品からPETボトルまで、日常生活に欠かせない製品の基礎となっているのです。

不凍液・冷却液としての用途も重要で、約30%が自動車や空調設備に使用されます。-30〜-50℃でも凍結せず、高温でも蒸発しにくい性質が、この用途に最適でしょう。

航空機除氷剤、熱媒体、溶剤など、工業用途も多岐にわたります。2つのヒドロキシ基による高い反応性と、広い液体温度範囲が、多様な用途を可能にしているのです。

家庭用製品では、かつて保冷剤に使用されましたが、毒性の懸念から現在では減少傾向にあります。化粧品や塗料、インキなどには少量が使用されますが、より安全な代替品への移行が進んでいるでしょう。

エチレングリコールは、繊維産業、自動車産業、化学工業など、現代社会を支える重要な化学物質です。何に含まれているかを理解することで、その有用性と適切な取り扱いの必要性が明確になるのです。