化学式等の物性

ジエチルエーテルのsds情報(沸点や比重や密度や引火点や発火点や融点)をわかりやすく(炎で爆発?)

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化学実験や工業プロセスで有機溶媒として使用されるジエチルエーテルは、非常に危険性の高い物質であることをご存知でしょうか。引火点が-45℃と極めて低く、常温でも簡単に引火する可能性があります。

SDS(Safety Data Sheet、安全データシート)は、化学物質の危険有害性や取り扱い方法をまとめた重要な文書です。ジエチルエーテルは引火性が極めて高く、蒸気は空気より重いため床面に滞留し、遠くの火源からも着火する危険性があります。

また、空気中の酸素と反応して爆発性の過酸化物を生成するため、長期保存にも注意が必要です。炎に接触すれば瞬時に引火し、蒸気と空気の混合気は爆発の危険性を持っているのです。

本記事では、ジエチルエーテルのSDS情報から、物理的性質(比重、密度、沸点、融点など)、危険性(引火点、発火点、爆発範囲)、取り扱い上の注意点、緊急時の対応、厚生労働省のSDS情報へのアクセス方法まで、わかりやすく解説していきます。

ジエチルエーテルのSDS(安全データシート)とは

それではまず、SDSの基本情報とその重要性について解説していきます。

SDSの目的と構成

SDS(Safety Data Sheet)は、化学物質の危険有害性、取り扱い方法、緊急時の対応などをまとめた文書です。かつてはMSDS(Material Safety Data Sheet)と呼ばれていましたが、現在は国際的に統一された形式でSDSと呼ばれています。

SDSは16の項目から構成され、化学物質を安全に取り扱うために必要なすべての情報が含まれているのです。

SDSの主な16項目:

1. 化学品及び会社情報

2. 危険有害性の要約

3. 組成及び成分情報

4. 応急措置

5. 火災時の措置

6. 漏出時の措置

7. 取扱い及び保管上の注意

8. 暴露防止及び保護措置

(9~16項目:物理化学的性質、安定性、毒性、環境影響など)

化学物質を取り扱う前に、必ずSDSを確認することが安全管理の基本です。特に初めて扱う物質については、事前に内容を十分理解する必要があるでしょう。

厚生労働省のSDS情報へのアクセス

厚生労働省は、職場で使用される化学物質の安全データシートを公開しています。ジエチルエーテルのSDSも、厚生労働省のウェブサイトで閲覧できるのです。

厚生労働省 職場のあんぜんサイト:

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/

「化学物質」→「GHS対応モデルラベル・SDS情報」から検索

「ジエチルエーテル」または「エチルエーテル」で検索可能

CAS番号:60-29-7でも検索可能

このサイトでは、GHS分類(Globally Harmonized System:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づいた危険有害性情報が提供されています。

また、各化学物質メーカーも独自のSDSを提供しています。実際に使用する製品のSDSは、購入先のメーカーから入手することが重要でしょう。製品によって純度や添加物が異なる場合があるためです。

GHS分類による危険有害性

ジエチルエーテルのGHS分類では、以下の危険有害性が示されています。

ジエチルエーテルの主な危険有害性(GHS分類):

・引火性液体:区分1(最も危険)

・急性毒性(吸入):区分4

・特定標的臓器毒性(単回暴露):区分3(麻酔作用)

・特定標的臓器毒性(反復暴露):区分2

引火性液体の区分1は、最も危険性が高いカテゴリーです。これは、非常に低い引火点を持ち、常温で容易に引火することを意味します。

ジエチルエーテルの基本的な物理的性質

続いては、ジエチルエーテルの基本的な物理的性質について確認していきます。

沸点と融点

ジエチルエーテルの沸点は34.6℃(1気圧)と非常に低く、室温に近い温度で沸騰します。融点は-116.3℃であり、通常の使用環境では常に液体状態です。

沸点と融点のデータ:

沸点(1気圧):34.6℃

融点:-116.3℃

蒸気圧(20℃):約58.9 kPa(442 mmHg)

沸点が低いということは、揮発性が非常に高いことを意味します。開封した容器からは急速にエーテルが蒸発し、周囲の空気中に可燃性の蒸気が広がるのです。

夏季の高温時には、密閉容器内の圧力が上昇する可能性があるため注意が必要です。手のひらの体温(約36℃)だけでも沸騰する可能性があり、素手での長時間の取り扱いは避けるべきでしょう。

蒸気圧が高いことも重要な特徴です。20℃で58.9 kPaという値は、大気圧(約101.3 kPa)の約58%にも達し、室温でも活発に蒸発していることを示しています。

密度と比重

ジエチルエーテルの密度は、温度によって変化しますが、20℃における標準的な値は約0.713 g/cm³です。これは水の密度(1.0 g/cm³)よりも小さく、水に浮く性質を持っています。

密度と比重のデータ:

密度(20℃):0.713 g/cm³

密度(25℃):0.708 g/cm³

比重(水=1):約0.71

蒸気密度(空気=1):約2.6

比重は、水の密度を基準(1.0)とした相対的な値で表されます。ジエチルエーテルの比重は約0.71となり、これも水より軽いことを示しているのです。

この性質は実験操作において重要な意味を持ちます。水溶液からジエチルエーテルで有機化合物を抽出する際、エーテル層は上層に分離します。

ただし、液体は水より軽いものの、蒸気は空気よりも重い性質を持ちます。蒸気の相対密度は約2.6であり、床面や低所に滞留しやすいという危険な特徴があるのです。

物質 液体密度(g/cm³) 蒸気密度(空気=1)
ジエチルエーテル 0.713 2.6
エタノール 0.789 1.6
1.0 0.6

蒸気が重いため、エーテル蒸気が床を這うように広がり、遠く離れた火源に達して着火する危険性があります。

引火性と爆発性の危険性

続いては、ジエチルエーテルの最も重要な危険性である引火性と爆発性を確認していきます。

引火点と発火点

ジエチルエーテルの最も危険な性質が、極めて低い引火点です。引火点とは、可燃性液体が空気中で点火源によって引火する最低温度のことを指します。

引火性データ:

引火点:-45℃(密閉式)

発火点(自然発火温度):160℃

危険等級:I(消防法における最も危険な区分)

消防法分類:第4類危険物、第一石油類

引火点-45℃という値は、ほぼすべての使用環境で引火の危険性があることを意味します。真冬の屋外でも、室内では確実に引火点以上の温度となるため、常に火気厳禁です。

発火点160℃は、点火源がなくても自然に発火する温度です。高温の表面や機器に接触すると、自然発火する可能性があります。

比較のため、他の可燃性物質の引火点を見てみましょう。

物質 引火点(℃) 発火点(℃)
ジエチルエーテル -45 160
ガソリン -43 300
アセトン -20 465
エタノール 13 363
灯油 40~60 220

ジエチルエーテルの引火点はガソリンと同程度であり、最も危険な可燃性液体の一つです。

爆発範囲と爆発の危険性

ジエチルエーテルの蒸気は、空気と混合することで爆発性混合気を形成します。爆発範囲(燃焼範囲)とは、点火源があると爆発する蒸気濃度の範囲のことです。

爆発範囲データ:

爆発下限界(LEL):1.9 vol%

爆発上限界(UEL):36.0 vol%(または48 vol%)

爆発範囲:1.9~36.0 vol%

この爆発範囲は非常に広く、わずかな蒸気濃度でも爆発の危険性があることを示しています。下限界1.9%は、空気100リットル中にエーテル蒸気が1.9リットル以上あれば爆発する可能性があることを意味するのです。

ジエチルエーテルが少量こぼれただけでも、密閉された空間や換気の悪い場所では容易に爆発範囲に達します。

炎による爆発の仕組みは以下の通りです。

爆発のメカニズム:

1. エーテル蒸気が空気と混合して可燃性混合気を形成

2. 点火源(火花、炎、高温表面など)により着火

3. 急速な燃焼反応により高温・高圧のガスが発生

4. 圧力波が周囲に伝播し、爆発となる

密閉容器内で爆発が起こると、容器の破裂や飛散物による二次災害の危険性もあります。開放空間でも、爆風や火球による被害が発生するでしょう。

過酸化物の生成と爆発危険性

ジエチルエーテルのもう一つの重大な危険性が、過酸化物の生成です。エーテルは空気中の酸素と徐々に反応し、爆発性の過酸化物を生成します。

過酸化物生成の条件:

・空気(酸素)との接触

・光の存在(特に紫外線)

・時間の経過(開封後数週間~数ヶ月)

・蒸発による濃縮

過酸化物は、衝撃や摩擦、加熱によって爆発する危険性があります。特に、エーテルを蒸発させた後の残渣に過酸化物が濃縮されると、極めて危険な状態となるのです。

過酸化物の検出方法として、過酸化物試験紙(ヨウ化カリウム試験紙)が使用されます。試験紙が青紫色に変色すれば、過酸化物の存在を示します。

安全な取り扱いと保管方法

続いては、ジエチルエーテルを安全に取り扱い、保管するための方法を確認していきます。

取り扱い時の注意事項

ジエチルエーテルを取り扱う際は、多くの安全対策が必要です。最も重要なのは、火気の完全な排除と十分な換気です。

取り扱い時の基本原則:

・火気厳禁(炎、火花、高温表面すべて)

・換気の良い場所で使用(ドラフトチャンバー推奨)

・保護具の着用(保護眼鏡、手袋、白衣)

・静電気対策(接地、導電性容器)

・少量ずつ取り扱う

実験室では、ドラフトチャンバー内での作業が必須です。ドラフトの排気能力を確認し、十分な風速(通常0.5 m/s以上)を維持します。

容器からの注ぎ出しは、ゆっくりと行います。急激な流動は静電気を発生させ、着火の危険性を高めるためです。金属製の容器や導電性の器具を使用し、接地することで静電気を逃がすことができるでしょう。

電気機器も防爆型のものを使用することが推奨されます。通常のスイッチやモーターから発生する火花でも着火する危険性があるのです。

保管上の注意と容器の選択

ジエチルエーテルの保管には、厳格な管理が求められます。消防法では第4類危険物(第一石油類)に指定され、指定数量は50リットルです。

適切な保管条件:

・冷暗所(15~25℃程度)

・遮光容器(褐色ガラス瓶など)

・密栓保管

・換気の良い場所

・火気から離れた場所

保管容器は、ガラス瓶または金属缶が適切です。プラスチック容器は、エーテルが溶出したり、静電気が蓄積したりする可能性があるため避けるべきでしょう。

容器には以下の表示が必要です。

– 物質名(ジエチルエーテル)
– 危険性(引火性、爆発性過酸化物生成)
– 開封日
– 有効期限

開封後は3ヶ月以内に使い切ることが推奨されます。それ以上保管する場合は、定期的な過酸化物検査が必須です。

市販品には安定剤(BHTなど)が添加されている場合もありますが、開封後は徐々に効果が低下するため、過信は禁物なのです。

緊急時の対応と応急処置

続いては、ジエチルエーテルに関する事故が発生した際の対応を確認していきます。

火災時の消火方法

ジエチルエーテルによる火災は、適切な消火剤と方法を選択する必要があります。水による消火は効果が低く、かえって火災を拡大させる危険性もあるのです。

適切な消火剤:

○ 二酸化炭素消火器

○ 粉末消火器(ABC型)

○ 泡消火器(耐アルコール泡)

× 水(効果が低い、飛散の危険)

小規模な火災では、二酸化炭素消火器が最も効果的です。酸素を遮断することで消火でき、残渣も残りません。

大規模な火災では、泡消火器や粉末消火器を使用します。消火後も再着火の危険性があるため、十分に冷却し、蒸気の発生を抑える必要があるでしょう。

消火作業中は、風上から行い、エーテル蒸気を吸い込まないよう注意します。また、容器が火災に巻き込まれている場合、爆発の危険性があるため、安全な距離を保つことが重要です。

漏洩・流出時の処理

ジエチルエーテルが漏洩した場合、速やかな対応が必要です。まず、すべての火気を除去し、換気を行います。

漏洩時の対応手順:

1. 火気の除去、換気の確保

2. 漏洩源の遮断(可能であれば)

3. 吸収材での吸収(砂、バーミキュライトなど)

4. 密閉容器への回収

5. 汚染区域の換気・清掃

少量の漏洩であれば、吸収材で吸収し、密閉容器に回収します。大量の場合は、土嚢などで拡散を防ぎ、専門業者に処理を依頼することが安全です。

下水や河川への流入は絶対に避けなければなりません。環境汚染だけでなく、蒸気が下水道を通じて広がり、遠隔地で着火する危険性もあるのです。

人体への暴露時の応急処置

ジエチルエーテルが人体に接触したり、吸入したりした場合の応急処置も重要です。

吸入した場合:直ちに新鮮な空気の場所へ移動させます。呼吸が困難な場合は酸素吸入を行い、必要に応じて人工呼吸を実施します。

皮膚接触:多量の水と石鹸で洗浄します。エーテルは皮膚から脂質を除去し、乾燥や炎症を引き起こす可能性があります。汚染された衣服は直ちに脱ぎ、再使用前に洗濯します。

眼に入った場合:直ちに流水で15分以上洗眼します。コンタクトレンズは外し、まぶたを開いて眼球全体を洗浄します。

誤飲した場合:口をすすぎ、水を飲ませます。ただし、無理に嘔吐させてはいけません。誤嚥により肺に入ると、化学性肺炎を起こす危険性があるためです。

すべての場合において、速やかに医師の診断を受けることが重要です。その際、SDSを持参することで、適切な治療を受けることができるのです。

まとめ

ジエチルエーテルのSDS情報から、重要な物理的性質として沸点34.6℃、融点-116.3℃、密度0.713 g/cm³(20℃)、比重0.71という値が示されています。最も危険な性質は引火点-45℃、発火点160℃であり、爆発範囲1.9~36.0 vol%という広い範囲を持つのです。

蒸気は空気より重く(相対密度2.6)、床面に滞留して遠くの火源からも着火する危険性があります。炎に接触すれば瞬時に引火し、蒸気と空気の混合気が爆発範囲内にあれば爆発する可能性があるため、火気の完全な排除が不可欠です。

また、空気中の酸素と反応して爆発性の過酸化物を生成するため、遮光容器での保管と定期的な検査が必要となります。厚生労働省の職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/)では、GHS分類に基づいた詳細なSDS情報が提供されており、取り扱い前に必ず確認すべきです。

ジエチルエーテルは有用な溶媒ですが、その危険性を十分に理解し、SDSの内容に従った適切な取り扱い、保管、緊急時対応を行うことが、安全な実験や作業のために極めて重要ですので、これらの情報をしっかりと理解してください。