化学反応

水酸化ナトリウムと水の反応式まとめ|強塩基の電離と水和熱

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高校化学の実験で必ず扱う水酸化ナトリウムは、水に溶かすと非常に強いアルカリ性を示す物質です。白色の固体を水に入れると、激しく発熱しながら溶けていく様子は印象的でしょう。この現象は、水酸化ナトリウムの溶解と電離、そして水和熱の放出という複数の化学的プロセスが同時に起こっているためなのです。

水酸化ナトリウムは強塩基の代表的な物質であり、水溶液中でほぼ完全に電離します。この完全電離によって高濃度の水酸化物イオンが生成されるため、強いアルカリ性を示すのです。また、溶解時に発生する熱は非常に大きく、取り扱いには十分な注意が必要となります。

この記事では、水酸化ナトリウムと水の化学反応式について、高校化学の範囲を中心に、溶解と電離の仕組み、強塩基の性質、発熱のメカニズム、実験時の注意点まで詳しく解説していきます。基礎から発展内容まで段階的に理解を深めていってください。

水酸化ナトリウムと水の反応式の基本【高校化学範囲】

それではまず、反応式の基本について解説していきます。

溶解の化学反応式

水酸化ナトリウムが水に溶ける過程を化学反応式で表すと、次のようになります。

NaOH(固) → NaOH(水溶液) + 熱

この式は、固体の水酸化ナトリウムが水に溶けて水溶液になり、その際に熱が発生することを示しています。

より詳しく表現すると、溶解と同時に電離も起こるため、次のように書くこともできます。

NaOH(固) + 水 → Na⁺(水溶液) + OH⁻(水溶液) + 熱

水酸化ナトリウムは水に非常によく溶ける物質であり、20℃の水100gに対して約109gも溶けます。この高い溶解度も、水酸化ナトリウムが実験室で広く使われる理由の一つなのです。

溶解時の発熱は非常に大きく、濃い溶液を作る際には溶液の温度が80℃以上に達することもあります。そのため、必ず少量ずつ加えながら溶かす必要があるのです。

電離の化学反応式

水酸化ナトリウムは水溶液中で電離します。この電離を化学反応式で表すと次のようになるでしょう。

NaOH → Na⁺ + OH⁻

この式から、水酸化ナトリウム1分子が、ナトリウムイオン(Na⁺)1個と水酸化物イオン(OH⁻)1個に分かれることが分かります。

水酸化ナトリウムは強塩基であり、水溶液中でほぼ100%電離します。そのため、矢印は通常一方向(→)で表され、可逆反応を示す(⇄)は使いません。

物質 化学式 特徴
水酸化ナトリウム NaOH 白色の固体、潮解性
ナトリウムイオン Na⁺ 陽イオン、無色
水酸化物イオン OH⁻ 陰イオン、塩基性を示す

水酸化物イオン(OH⁻)こそが、溶液に強いアルカリ性を与える本体です。このイオンの濃度が高いほど、pHは高くなり、強い塩基性を示すのです。

水酸化ナトリウムの基本的な性質

水酸化ナトリウムの基本的な性質を確認しておきましょう。

水酸化ナトリウム(NaOH)は、別名を苛性ソーダとも呼ばれる白色の固体です。空気中の水分を吸収しやすい潮解性を持ち、また空気中の二酸化炭素とも反応するため、密閉して保存する必要があります。

水酸化ナトリウムの性質
・白色の固体(ペレット状や粉末)
・潮解性(空気中の水分を吸収)
・水に溶けやすい(109g/100g水、20℃)
・溶解時に大量の熱を発生
・強塩基(pH約14の水溶液)
・皮膚を侵す(タンパク質を分解)
・二酸化炭素と反応(炭酸ナトリウム生成)

取り扱いには十分な注意が必要です。皮膚に付着すると化学やけどを起こし、ぬるぬるした感触があります。これは皮膚のタンパク質が分解されているためであり、すぐに大量の水で洗い流す必要があるのです。

水酸化ナトリウム水溶液は無色透明ですが、非常に強いアルカリ性を示します。フェノールフタレイン溶液を加えると赤紫色に変色し、BTB溶液では青色を示します。

強塩基としての性質と電離【高校化学範囲】

続いては、強塩基としての性質について確認していきます。

強塩基とは何か

水酸化ナトリウムは強塩基に分類される物質です。

強塩基とは、水溶液中でほぼ完全に電離して、高濃度の水酸化物イオン(OH⁻)を生成する塩基のことを指します。

強塩基の例
・水酸化ナトリウム(NaOH)
・水酸化カリウム(KOH)
・水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)
・水酸化バリウム(Ba(OH)₂)

弱塩基の例
・アンモニア(NH₃)
・炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)

強塩基と弱塩基の違いは、電離度にあります。強塩基はほぼ100%電離するのに対し、弱塩基は部分的にしか電離しません。

水酸化ナトリウムの場合、1モルのNaOHを水に溶かすと、ほぼ1モルのOH⁻が生成されます。この完全電離により、非常に高いpHを示すのです。

完全電離と電離度

電離度という概念を使って、強塩基を理解しましょう。

電離度(α)とは、溶解した電解質のうち、実際に電離している割合を表す値です。0から1の間の値を取り、1に近いほど電離しやすいことを意味します。

電離度(α) = 電離している分子の数 / 溶解している分子の総数

強塩基:α ≒ 1(ほぼ完全に電離)
弱塩基:α < 1(部分的に電離)

水酸化ナトリウムの電離度は、希薄溶液ではほぼ1とみなせます。つまり、溶けた水酸化ナトリウムのほぼすべてがイオンに分かれているのです。

濃度が非常に高い場合は、イオン間の相互作用により電離度がわずかに低下することがありますが、通常の実験で扱う濃度範囲では、完全電離していると考えて問題ありません。

pH変化と水酸化物イオン濃度

水酸化ナトリウム水溶液のpHは、水酸化物イオンの濃度によって決まります。

pHは水素イオン濃度の対数値ですが、塩基性溶液では水酸化物イオン濃度から計算できます。

pHとOH⁻濃度の関係

[H⁺] × [OH⁻] = 1.0 × 10⁻¹⁴ (25℃)

pOH = -log₁₀[OH⁻]
pH + pOH = 14

例:0.1 mol/L NaOH水溶液
[OH⁻] = 0.1 = 10⁻¹ mol/L
pOH = 1
pH = 14 – 1 = 13

水酸化ナトリウムの濃度が高いほど、水酸化物イオンの濃度も高くなり、pHも高くなります。1 mol/Lの水溶液ではpH約14という非常に強いアルカリ性を示すのです。

NaOH濃度(mol/L) [OH⁻](mol/L) pH(概算)
1.0 1.0 14
0.1 0.1 13
0.01 0.01 12
0.001 0.001 11

このように、水酸化ナトリウムは完全電離するため、濃度とpHの関係が単純で計算しやすいという特徴があります。

発熱反応と水和熱の仕組み【発展内容】

続いては、発熱のメカニズムについて確認していきます。

なぜ発熱するのか

水酸化ナトリウムが水に溶ける際に発熱する理由を、エネルギーの観点から見てみましょう。

固体の水酸化ナトリウムを水に溶かす過程は、以下の2つの段階に分けて考えることができます。

溶解のエネルギー変化

ステップ1:固体の結晶格子を壊す
NaOH(固) → Na⁺(気) + OH⁻(気)
→ エネルギーを吸収(吸熱)

ステップ2:イオンが水和する
Na⁺(気) + OH⁻(気) + 水 → Na⁺(水和) + OH⁻(水和)
→ エネルギーを放出(発熱)

全体:発熱(ステップ2の発熱 > ステップ1の吸熱)

結晶格子を壊すにはエネルギーが必要ですが、イオンが水分子に囲まれて安定化する際に、それ以上のエネルギーが放出されるため、全体として発熱反応になるのです。

水酸化ナトリウムの溶解熱は約-44.5 kJ/molと非常に大きく、これが激しい発熱の原因となっています。

水和熱とイオンの水和

イオンの水和は、溶解熱を理解する上で重要な概念です。

水和とは、イオンが水分子に囲まれて安定化する現象です。水分子は極性分子であり、陽イオンには酸素側(負の部分)が、陰イオンには水素側(正の部分)が引き寄せられます。

イオンの水和

Na⁺の水和:
水分子の酸素側(δ-)がNa⁺(正電荷)に引き寄せられる
→ 多数の水分子がNa⁺を取り囲む
→ 水和ナトリウムイオン形成

OH⁻の水和:
水分子の水素側(δ+)がOH⁻(負電荷)に引き寄せられる
→ 多数の水分子がOH⁻を取り囲む
→ 水和水酸化物イオン形成

この水和により、イオンは水溶液中で安定に存在できます。水和の際に放出されるエネルギーが水和熱であり、これが溶解時の発熱の主な原因なのです。

ナトリウムイオンは小さく電荷密度が高いため、強く水和されます。水酸化物イオンも水素結合により水分子と相互作用します。これらの水和により、大量のエネルギーが放出されるのです。

溶解度と温度の関係

水酸化ナトリウムの溶解度は、温度によって変化します。

一般に、固体の溶解度は温度が高いほど増加しますが、水酸化ナトリウムの場合も同様です。

温度と溶解度
0℃:約42g/100g水
20℃:約109g/100g水
60℃:約174g/100g水
100℃:約347g/100g水

温度が上がるにつれて、溶解度が大幅に増加することが分かります。高温では、水の質量とほぼ同じ量の水酸化ナトリウムを溶かすことができるのです。

ただし、溶解時に大量の熱が発生するため、濃い溶液を調製する際は温度管理が重要です。急激に溶かすと沸騰する危険性もあります。

実験での観察ポイントと応用【高校化学範囲+実用】

続いては、実際の実験や応用について確認していきます。

実験時の観察事項と安全対策

水酸化ナトリウムを扱う実験では、安全面での配慮が特に重要です。

水酸化ナトリウムを水に溶かす実験では、いくつかの印象的な現象が観察できます。

観察できる現象
1. 水に入れると激しく発熱
2. 溶液が非常に熱くなる(60〜80℃以上)
3. 無色透明の溶液になる
4. フェノールフタレインで赤紫色
5. ペレットが溶けていく様子
6. 白い煙のような水蒸気が出ることも

特に濃い溶液を作る際は、発熱が激しく、沸騰して溶液が飛び散る危険もあります。必ず保護眼鏡と手袋を着用し、少量ずつゆっくりと加えることが重要です。

安全対策
・保護眼鏡、手袋、白衣を必ず着用
・換気の良い場所で実験
・水に固体を加える(逆にしない)
・少量ずつ加えて溶かす
・ガラス棒で静かに撹拌
・熱くなった容器に注意
・皮膚についたらすぐに大量の水で洗う
・目に入った場合は直ちに医師の診察を

水酸化ナトリウムが皮膚に付着すると、タンパク質を分解して化学やけどを起こします。ぬるぬるした感触がある場合は、皮膚が溶けている証拠です。すぐに大量の水で15分以上洗い流す必要があります。

中和反応への応用

水酸化ナトリウムは、中和反応の実験で広く使われます。

酸と塩基が反応して塩と水を生成する中和反応では、水酸化ナトリウムは強塩基の代表として用いられます。

中和反応の例

塩酸との中和:
HCl + NaOH → NaCl + H₂O

硫酸との中和:
H₂SO₄ + 2NaOH → Na₂SO₄ + 2H₂O

酢酸との中和:
CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O

中和滴定では、未知濃度の酸を、既知濃度の水酸化ナトリウム水溶液で滴定します。指示薬の色の変化を観察して、中和点を決定するのです。

水酸化ナトリウムは空気中の二酸化炭素と反応して炭酸ナトリウムになるため、標準溶液として使う場合は、調製後すぐに標定(正確な濃度の決定)を行う必要があります。

工業的利用と日常での用途

水酸化ナトリウムは、工業的に最も重要な化学物質の一つです。

工業的・日常的用途
・石鹸・洗剤の製造
・紙・パルプの製造
・化学繊維(レーヨン)の製造
・アルミニウムの精錬
・排水処理(pH調整)
・食品添加物(こんにゃく、ラーメン)
・パイプクリーナー(排水管洗浄)
・油汚れの洗浄

石鹸の製造では、油脂と水酸化ナトリウムを反応させるけん化反応が利用されます。この反応により、脂肪酸ナトリウム(石鹸)とグリセリンが生成されるのです。

紙の製造では、木材からセルロースを取り出す工程で水酸化ナトリウムが使われます。リグニンなどの不純物を溶かし出すために、高温・高圧の水酸化ナトリウム水溶液が用いられるのです。

食品分野では、こんにゃくの凝固剤や、中華麺の食感を出すためのかんすいとして使われています。ただし、最終製品には残留しないよう、または安全な量まで中和されるよう管理されています。

家庭用のパイプクリーナーにも水酸化ナトリウムが含まれています。強いアルカリ性により、排水管に詰まった油脂や髪の毛などのタンパク質を分解して、詰まりを解消するのです。

まとめ

水酸化ナトリウムと水の反応は、溶解と電離によって強いアルカリ性を示し、大量の熱を発生する現象です。

反応式「NaOH → Na⁺ + OH⁻」は、水酸化ナトリウムがナトリウムイオンと水酸化物イオンにほぼ完全に電離することを示しています。この完全電離により、水酸化ナトリウムは強塩基として非常に高いpHを示すのです。

溶解時の発熱は、イオンの水和によるエネルギー放出が主な原因です。水酸化ナトリウムの溶解熱は約-44.5 kJ/molと大きく、濃い溶液を作る際には溶液が80℃以上に達することもあります。

実験では、激しい発熱と強いアルカリ性に注意が必要です。保護眼鏡と手袋を着用し、少量ずつ溶かすことが重要でしょう。水酸化ナトリウムは、中和反応の実験、石鹸の製造、紙の製造、排水処理など、様々な場面で重要な役割を果たしています。

強塩基の性質と取り扱いの注意点を理解し、安全に実験を行いながら、化学への理解を深めていってください。