化学反応

アンモニアが空気より軽い理由と下方置換法・上方置換法の選び方

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化学の実験で気体を捕集する際、「下方置換法」や「上方置換法」という言葉を聞いたことがあるでしょう。気体の性質によって、適切な捕集方法が異なります

特にアンモニアを扱う実験では、「アンモニアは空気より軽いの?重いの?」「なぜ下方置換法を使うの?」という疑問を持つ方が多いです。本記事では、アンモニアが空気より軽い理由を分子量と密度から解説し、下方置換法と上方置換法の違い、そして気体の性質に応じた捕集方法の選び方まで、基礎から丁寧に説明していきます。

この記事を読めば、気体の捕集方法を正しく選べるようになり、実験でも自信を持って取り組めるようになります。ぜひ最後までお読みください。

アンモニアは空気より軽い?分子量と密度

それではまず、アンモニアは空気より軽いのか重いのかについて解説していきます。気体の軽い・重いは、分子量と密度から判断できます。

アンモニアの分子量と空気の分子量

気体の軽い・重いを判断するには、分子量を比較することが最も簡単で正確な方法です。

アンモニアの化学式はNH₃です。分子量は以下のように計算されます。

アンモニアの分子量:

窒素(N)の原子量:14

水素(H)の原子量:1

分子量 = 14 × 1 + 1 × 3 = 17

一方、空気は複数の気体の混合物です。主な成分は窒素(N₂)約78%、酸素(O₂)約21%、その他の気体約1%です。空気全体の平均分子量は、各成分の分子量と組成比から計算され、約29となります。

気体 化学式 分子量 空気との比較
アンモニア NH₃ 17 軽い
空気(平均) 約29 基準
窒素 N₂ 28 ほぼ同じ
酸素 O₂ 32 重い

ポイント:アンモニアの分子量は17、空気の平均分子量は約29。アンモニアは空気より分子量が小さいので、空気より軽い気体です。

この分子量の違いが、アンモニアが空気中で上昇する理由であり、捕集方法の選択にも直結します。

密度の比較と計算

分子量の違いは、気体の密度の違いとして現れます。気体の密度は分子量に比例します。

気体の密度は、標準状態(0℃、1気圧)において、以下の関係があります。

気体の密度 = (分子量 / 22.4) g/L

(22.4は標準状態での気体1molの体積)

この式を使って、アンモニアと空気の密度を計算してみましょう。

アンモニアの密度:
17 ÷ 22.4 = 約0.76 g/L

空気の密度:
29 ÷ 22.4 = 約1.29 g/L

密度の比較:

アンモニア:約0.76 g/L

空気:約1.29 g/L

アンモニアは空気の約0.59倍の密度(約59%)

ポイント:アンモニアの密度は空気の約6割。密度が小さいため、アンモニアは空気中で上昇します。

この密度の違いにより、アンモニアガスは空気中で自然に上昇し、天井付近に溜まりやすい性質を持ちます。これは、実験室でアンモニアを扱う際の換気にも関係する重要な性質です。

空気より軽い気体・重い気体の見分け方

気体が空気より軽いか重いかを判断する簡単な方法は、分子量が29より小さいか大きいかを見ることです。

分子量29という空気の平均値を基準にして、以下のように分類できます。

分子量29未満 → 空気より軽い → 上昇する
分子量29 → 空気とほぼ同じ → 拡散する
分子量29超 → 空気より重い → 下降する

代表的な気体を分類してみましょう。

気体 化学式 分子量 空気との比較 捕集方法
水素 H₂ 2 非常に軽い 水上置換法
メタン CH₄ 16 軽い 水上置換法
アンモニア NH₃ 17 軽い 下方置換法
窒素 N₂ 28 ほぼ同じ 水上置換法
酸素 O₂ 32 やや重い 水上置換法
塩化水素 HCl 36.5 重い 上方置換法
二酸化炭素 CO₂ 44 重い 水上置換法/上方置換法

ポイント:分子量29を基準に、それより小さければ軽い、大きければ重い。ただし、水への溶けやすさも捕集方法の選択に影響します。

この分子量による判断方法を覚えておけば、初めて見る気体でも空気より軽いか重いかを簡単に判断できます。

下方置換法とは?原理と手順

続いては、下方置換法について確認していきます。アンモニアの捕集に使われる下方置換法の原理と実験手順を詳しく見ていきましょう。

下方置換法の原理

下方置換法とは、空気より軽い気体を捕集するための方法です。英語ではdownward displacementと呼ばれます。

原理は非常にシンプルです。空気より軽い気体は上昇する性質があるため、集気瓶を逆さま(口を下)にして、下から気体を入れます。すると、軽い気体が上昇し、重い空気が下から押し出されます。

下方置換法の原理:

1. 集気瓶を逆さま(口を下)に配置

2. 下から軽い気体を導入

3. 軽い気体が上昇し、空気が下から出る

4. 集気瓶内が目的の気体で満たされる

「置換」という言葉の意味は、「入れ替える」ということです。集気瓶内の空気を、目的の気体に置き換えるため、「下方置換法」と呼ばれます。

ポイント:下方置換法は、空気より軽い気体が上昇する性質を利用した捕集方法。集気瓶を逆さまにして下から気体を入れます。

この方法が使えるのは、気体が空気より軽く、かつ水に溶けやすい(水上置換法が使えない)場合です。アンモニアはまさにこの条件に当てはまります。

下方置換法の実験手順

下方置換法でアンモニアを捕集する具体的な手順を見ていきましょう。正しい手順を守ることで、純度の高いアンモニアを捕集できます。

実験手順:

1. 準備:集気瓶を洗浄し、乾燥させます。濡れていると、アンモニアが水に溶けてしまいます。

2. 配置:集気瓶を逆さま(口を下)にして、スタンドに固定します。ガラス板で蓋をしておきます。

3. 気体の発生:発生装置(試験管など)でアンモニアを発生させます。塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを混合して加熱する方法が一般的です。

4. 導入:ガラス管を集気瓶の口に挿入し、下からアンモニアガスを導入します。ガラス管は集気瓶の底近くまで届くように入れます。

5. 確認:アンモニアで集気瓶が満たされたことを確認します。集気瓶の口付近に湿った赤色リトマス紙を近づけ、青色に変われば捕集完了です。

6. 密閉:ガラス管を抜き、すぐにガラス板で蓋をします。アンモニアは軽いので、蓋を下にしたまま置きます。

ポイント:集気瓶を逆さまにして下から気体を入れる。捕集完了後も、蓋を下にして保管します。

注意点として、アンモニアは刺激臭が強いため、必ずドラフトチャンバー内で実験を行うか、十分な換気を確保してください。

下方置換法を使う気体の例

下方置換法を使うのは、空気より軽く、かつ水に溶けやすい気体です。条件を満たす気体は限られています。

代表的な例:

アンモニア(NH₃):
– 分子量:17(空気より軽い)
– 水溶性:非常に高い(水1Lに約700L溶解)
– 用途:最も一般的な下方置換法の対象

メチルアミン(CH₃NH₂):
– 分子量:31(空気よりやや重いが、水への溶解性が高いため下方置換法が使われることもある)
– 水溶性:高い

気体 分子量 空気との比較 水溶性 適切な捕集方法
アンモニア(NH₃) 17 軽い 非常に高い 下方置換法
水素(H₂) 2 非常に軽い 低い 水上置換法
メタン(CH₄) 16 軽い 低い 水上置換法

ポイント:下方置換法を使う気体は限られています。最も代表的なのはアンモニアです。水素やメタンは水に溶けにくいので水上置換法を使います。

実際の実験では、アンモニア以外で下方置換法を使う機会はあまり多くありません。そのため、「下方置換法=アンモニアの捕集方法」と覚えておくと良いでしょう。

上方置換法との違いと使い分け

続いては、上方置換法との違いと使い分けを確認していきます。3つの置換法を理解することで、気体の性質に応じた最適な捕集方法を選べるようになります。

上方置換法の原理

上方置換法とは、空気より重い気体を捕集するための方法です。英語ではupward displacementと呼ばれます。

下方置換法とは逆の原理です。空気より重い気体は下降する性質があるため、集気瓶を正立(口を上)にして、上から気体を入れます。すると、重い気体が下降し、軽い空気が上から押し出されます。

上方置換法の原理:

1. 集気瓶を正立(口を上)に配置

2. 上から重い気体を導入

3. 重い気体が下降し、空気が上から出る

4. 集気瓶内が目的の気体で満たされる

上方置換法を使う代表的な気体は、塩化水素(HCl、分子量36.5)です。塩化水素は空気より重く、水に非常に溶けやすいため、上方置換法が適しています。

ポイント:上方置換法は、空気より重い気体が下降する性質を利用した捕集方法。集気瓶を正立させて上から気体を入れます。

下方置換法と上方置換法は、集気瓶の向きと気体を入れる位置が正反対ですが、「軽い方が出て、重い方が残る」という原理は共通しています。

水上置換法も含めた3つの置換法の比較

気体の捕集方法には、下方置換法、上方置換法に加えて、水上置換法もあります。3つの方法を比較して理解しましょう。

水上置換法:
水槽に水を入れ、その中に逆さまにした集気瓶を沈めます。発生した気体を水中から集気瓶に導入すると、気体が水を押し出して捕集されます。水に溶けにくい気体に使用します。

捕集方法 集気瓶の向き 気体の導入位置 適用条件 代表的な気体
下方置換法 逆さま(口を下) 下から 空気より軽い+水に溶けやすい アンモニア(NH₃)
上方置換法 正立(口を上) 上から 空気より重い+水に溶けやすい 塩化水素(HCl)、二酸化硫黄(SO₂)
水上置換法 逆さま(水中) 下から(水中) 水に溶けにくい 水素(H₂)、酸素(O₂)、窒素(N₂)、二酸化炭素(CO₂)

ポイント:3つの置換法は、気体の「空気との密度比較」と「水への溶けやすさ」によって使い分けます。

水上置換法は最も一般的で、水に溶けにくい気体であれば、空気より軽くても重くても使用できます。一方、下方置換法と上方置換法は、水に溶けやすい気体専用の方法です。

気体の性質による捕集方法の選び方

気体の捕集方法を選ぶには、2つの性質を順番にチェックします。

選び方のフローチャート:

ステップ1:水への溶けやすさをチェック

水に溶けにくい → 水上置換法
水に溶けやすい → ステップ2へ

ステップ2:空気との密度(分子量)を比較

空気より軽い(分子量<29) → 下方置換法 空気より重い(分子量>29) → 上方置換法

捕集方法の選び方:

1. まず水溶性を確認

2. 水に溶けやすい場合、空気との比較

3. 軽ければ下方、重ければ上方

具体例で確認してみましょう。

アンモニア(NH₃):
– 水溶性:非常に高い → 水上置換法は使えない
– 分子量:17 < 29 → 空気より軽い - 結論:下方置換法 塩化水素(HCl): - 水溶性:非常に高い → 水上置換法は使えない - 分子量:36.5 > 29 → 空気より重い
– 結論:上方置換法

酸素(O₂):
– 水溶性:低い → 水上置換法が使える
– 結論:水上置換法

ポイント:水に溶けにくければ水上置換法、溶けやすければ空気との比較で下方か上方かを決めます。

この判断基準を理解しておけば、試験問題でも実験でも、正しい捕集方法を選択できます。

アンモニアを下方置換法で捕集する理由

続いては、アンモニアを下方置換法で捕集する理由を確認していきます。なぜ下方置換法が最適なのか、他の方法が使えない理由も含めて理解しましょう。

アンモニアに下方置換法を使う理由

アンモニアの捕集に下方置換法を使う理由は、2つの性質が組み合わさった結果です。

理由1:空気より軽い
アンモニアの分子量は17で、空気の平均分子量29よりも大幅に小さいです。そのため、アンモニアガスは空気中で自然に上昇します。集気瓶を逆さまにして下から気体を入れれば、アンモニアは上に上がり、空気は下から出ていきます。

理由2:水に非常に溶けやすい
アンモニアは水に極めて溶けやすい気体です。0℃、1気圧で水1Lに対して約700〜1176Lものアンモニアガスが溶解します。この高い水溶性のため、水上置換法は使用できません。

アンモニアに下方置換法を使う理由:

1. 分子量17 < 空気29 → 軽い

2. 水溶性が非常に高い → 水上置換法不可

→ 下方置換法が最適

ポイント:アンモニアは「空気より軽い」+「水に溶けやすい」という2つの性質から、下方置換法で捕集します。

もしアンモニアが水に溶けにくければ、水素やメタンのように水上置換法を使えたでしょう。しかし、実際には水に非常に溶けやすいため、下方置換法を選択する必要があるのです。

水上置換法が使えない理由

アンモニアに水上置換法が使えない理由を、もう少し詳しく見ていきましょう。水への高い溶解性が問題となります。

水上置換法では、水槽の水中に逆さまにした集気瓶を沈め、発生した気体を水中から導入します。通常、気体は水に溶けにくいため、水を押し出して集気瓶に溜まります。

しかし、アンモニアの場合:

1. アンモニアガスが水に触れる
2. 瞬時に大量のアンモニアが水に溶解する
3. 集気瓶内に気体が溜まらない
4. さらに、水に溶けたアンモニアが水酸化物イオンを生成し、水溶液が塩基性になる

NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻

(水に溶けたアンモニアの反応)

この高い水溶性により、水上置換法でアンモニアを捕集することは実質的に不可能です。同様の理由で、塩化水素(HCl)や二酸化硫黄(SO₂)なども水上置換法は使えません。

ポイント:アンモニアは水に溶けすぎるため、水上置換法では捕集できません。水に触れない下方置換法が必須です。

気体 水溶性 水上置換法 適切な方法
アンモニア 非常に高い × 下方置換法
塩化水素 非常に高い × 上方置換法
酸素 低い 水上置換法
水素 低い 水上置換法

水への溶解性が、捕集方法の選択において非常に重要な要素であることが分かります。

実験での注意点とポイント

アンモニアを下方置換法で捕集する際の注意点とポイントをまとめます。

注意点:

1. 換気の徹底:
アンモニアは強い刺激臭を持ち、高濃度では有害です。必ずドラフトチャンバー内で実験を行うか、換気扇を稼働させ、窓を開けて十分な換気を確保してください。

2. 集気瓶の乾燥:
集気瓶が濡れていると、アンモニアが水に溶けてしまいます。実験前に集気瓶を十分に乾燥させてください。

3. 捕集完了の確認:
集気瓶の口付近に湿った赤色リトマス紙を近づけ、青色に変化することで捕集完了を確認します。フェノールフタレイン溶液を染み込ませたろ紙を使う方法もあります(赤色に変化)。

4. 蓋の向き:
捕集後も集気瓶は逆さま(蓋を下)のまま保管します。正立させると、アンモニアが上に逃げてしまいます。

実験のポイント:

・集気瓶を逆さまに固定

・下からゆっくり気体を導入

・指示薬で捕集完了を確認

・蓋を下にして保管

・換気を十分に行う

ポイント:アンモニアは刺激臭が強く有害なため、換気と安全対策が最重要。集気瓶は常に逆さまに保つことを忘れずに。

安全に配慮しながら、正しい手順で実験を行うことが大切です。

まとめ

アンモニアが空気より軽い理由と、下方置換法・上方置換法の選び方について詳しく解説してきました。

アンモニアは分子量17で、空気の平均分子量29より小さいため、空気より軽い気体です。密度は空気の約6割で、空気中では上昇する性質があります。

下方置換法は、空気より軽い気体を捕集する方法で、集気瓶を逆さまにして下から気体を導入します。上方置換法は、空気より重い気体を捕集する方法で、集気瓶を正立させて上から気体を導入します。

重要ポイント総まとめ:

【アンモニアの性質】

・分子量:17(空気29より軽い)

・密度:約0.76 g/L(空気の約6割)

・水溶性:非常に高い

【捕集方法の選び方】

1. 水溶性をチェック

2. 溶けにくい → 水上置換法

3. 溶けやすい → 空気と比較

 ・軽い(分子量<29) → 下方置換法

 ・重い(分子量>29) → 上方置換法

【アンモニアの捕集】

・空気より軽い+水に溶けやすい

→ 下方置換法が最適

アンモニアに下方置換法を使う理由は、「空気より軽い」という性質と「水に非常に溶けやすい」という性質の組み合わせです。水上置換法が使えないため、空気との密度差を利用した下方置換法を選択します。

この記事で学んだ知識を活かして、化学の実験や試験に自信を持って取り組んでください。気体の捕集方法を正しく選べることは、化学実験の基本スキルです。