位相変調(Phase Modulation)は、現代のデジタル通信を支える重要な変調方式の一つです。
スマートフォン・Wi-Fi・衛星通信など、私たちの身の回りの多くの通信技術に位相変調の原理が活用されています。
「位相変調ってどういう仕組み?」「他の変調方式と何が違うの?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、位相変調の仕組みと原理を基礎からわかりやすく解説し、PSK・QPSK・BPSK・QAMなど実際の変調方式との関係もご説明します。
通信技術・信号処理に関わるすべての方に役立つ内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
位相変調とは「搬送波の位相をデータに応じて変化させる変調方式」
それではまず、位相変調の基本的な定義と仕組みについて解説していきます。
位相変調(PM:Phase Modulation)とは、搬送波(キャリア)の位相を伝送したい情報信号に応じて変化させる変調技術です。
振幅変調(AM)が振幅を、周波数変調(FM)が周波数を変化させるのに対し、位相変調は位相(波形のタイミング)を変化させることで情報を伝達します。
位相変調の基本式:PM信号 s(t)=A cos(ωct+kₚm(t))。ここでAは搬送波振幅、ωcは搬送波角周波数、kₚは位相感度、m(t)は変調信号です。位相変化量 Δφ=kₚm(t) がデータに対応します。
位相変調と周波数変調・振幅変調の比較
3つの主要な変調方式(AM・FM・PM)の違いを整理しておきましょう。
| 変調方式 | 変化させるパラメータ | 雑音耐性 | 代表的用途 |
|---|---|---|---|
| 振幅変調(AM) | 振幅 | 低い | AMラジオ放送 |
| 周波数変調(FM) | 周波数 | 中程度 | FMラジオ・FM音声 |
| 位相変調(PM) | 位相 | 高い | デジタル通信・衛星通信 |
位相変調は振幅変調より雑音耐性が高く、デジタル通信への適用が容易という特長があります。
デジタル位相変調(PSK)の基本
位相変調のデジタル版が位相シフトキーイング(PSK:Phase Shift Keying)です。
PSKでは、デジタルデータ(ビット)に対応する有限個の位相値を割り当てて変調します。
最も基本的なBPSK(Binary PSK)は0°と180°の2つの位相でビット0と1を表現し、1シンボルで1ビットの情報を伝送します。
QPSK・8PSKによる多値変調
QPSK(Quadrature PSK)は0°・90°・180°・270°の4つの位相を使い、1シンボルで2ビットの情報を伝送します。
8PSKはさらに8つの位相を使い、1シンボルで3ビットを伝送できます。
位相数を増やすことで伝送効率は上がりますが、位相間の間隔が狭くなるため雑音の影響を受けやすくなります。
このトレードオフを考慮して通信環境に適した変調方式を選択することが、通信システム設計の重要なポイントです。
位相変調の仕組みと信号処理の詳細
続いては、位相変調の具体的な仕組みと信号処理の流れを確認していきます。
変調器(モジュレーター)の構成
PSK変調器の基本構成は、入力デジタルデータを位相マッピングテーブルによって位相値に変換し、その位相値に対応した搬送波を出力する回路です。
QPSKの場合、入力ビット列を2ビットずつのシンボルに区切り、各シンボルを4つの位相(0°・90°・180°・270°)の一つにマッピングします。
I/Q(同相・直交)信号成分を使ったI/Q変調器が現代の位相変調回路の標準的な実装方式です。
復調(復元)の原理:コヒーレント検波
受信側での位相変調信号の復調には、コヒーレント検波(同期検波)が一般的に使われます。
コヒーレント検波では、受信信号と同じ周波数・位相の参照搬送波を用いて乗積演算を行い、元のI/Q成分を取り出します。
取り出されたI/Q信号から位相を判定し、元のデジタルデータを復元するのが復調の流れです。
位相同期ループ(PLL)が参照搬送波の生成・同期に用いられ、正確な位相追跡が高品質な復調に不可欠です。
位相変調の誤り率(BER)特性
デジタル通信の品質評価指標としてBER(Bit Error Rate:ビット誤り率)があります。
BPSKは最もシンプルな位相変調方式で、同一のSN比(信号対雑音比)では最良のBER特性を示します。
多値変調(QPSK・8PSK)ではシンボル間の位相間隔が狭まるため、BER特性はBPSKより劣化します。
BERとスペクトル効率(伝送効率)のトレードオフが、通信方式の設計における重要な検討事項です。
位相変調の実際の応用技術
続いては、位相変調が実際にどのような通信技術・製品に使われているかを確認していきます。
移動体通信(4G/5G)での位相変調の役割
4G LTE・5G NRなどの現代の移動体通信では、QPSKや16QAM・64QAMなどの多値変調が使われています。
QAM(直交振幅変調)は位相変調と振幅変調を組み合わせた方式で、より多くの情報を1シンボルで伝送できます。
5Gでは256QAMまで使用し、高密度エリアでの超高速・大容量通信を実現しています。
衛星通信・OFDM・Wi-Fiへの応用
衛星通信ではBPSK・QPSKが雑音耐性の観点から広く使われています。
Wi-FiやLTEで採用されているOFDM(直交周波数分割多重)は、多数のサブキャリアそれぞれにPSK・QAM変調を適用する技術で、高速かつ周波数利用効率の高い通信を実現します。
現代のブロードバンド通信の多くが位相変調をベースとした変調技術の上に成り立っているといえます。
光通信における位相変調(DPSK・DQPSK)
光ファイバー通信においても位相変調が重要な役割を果たしています。
DPSK(差動位相シフトキーイング)やDQPSKは、前のシンボルとの位相差でデータを表現する方式で、絶対位相の同期が不要という利点があります。
コヒーレント光通信では高度なデジタル信号処理と組み合わせた位相変調方式が採用され、1チャンネルあたり100Gbps以上の超高速光通信を可能にしています。
まとめ
位相変調とは、搬送波の位相をデータに応じて変化させることで情報を伝送する変調方式です。
BPSK・QPSK・8PSKなどのデジタル位相変調(PSK)は、現代の通信技術の基幹をなす変調方式として幅広く使われています。
移動体通信・衛星通信・Wi-Fi・光通信など、あらゆる現代通信システムに位相変調の原理が組み込まれています。
BERとスペクトル効率のトレードオフを考慮しながら、通信環境に最適な変調方式を選択することが通信システム設計の核心です。
今回の内容を参考に、位相変調の仕組みと原理をしっかりとマスターしてください。