位相シフト法は、精密な距離測定・3次元形状計測・干渉縞解析など様々な計測技術の基盤となる重要な手法です。
「位相シフト法って何をする手法なの?」「どんな場面で使われるの?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この計測手法を理解することで、光学計測・精密測定・信号処理など最先端の技術がどのように機能しているかがよくわかります。
この記事では、位相シフト法の原理・手順・応用例・計算方法を体系的にわかりやすく解説します。
計測技術・光学・信号処理に関わるすべての方に役立つ内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
位相シフト法とは「既知の位相シフトを加えながら複数の測定を行い位相情報を抽出する手法」
それではまず、位相シフト法の基本的な定義と原理について解説していきます。
位相シフト法(Phase Shifting Method / Phase Stepping Method)とは、参照信号(または参照光)の位相を既知の量だけ段階的にシフトしながら複数の測定データを取得し、それらから位相情報を高精度に算出する計測手法です。
この手法は特に光学干渉計・縞解析・表面形状測定・電気計測など幅広い分野で使われています。
位相シフト法の基本アイデア:一つの測定だけでは強度データしか得られず位相情報は失われてしまいます。位相をシフトしながら複数枚の縞画像(または信号値)を取得することで、強度・位相・コントラストを分離して算出できます。
4ステップ位相シフト法の原理と計算式
最も広く使われる方式が「4ステップ位相シフト法」です。
位相を0°・90°・180°・270°と90°ずつシフトした4枚の縞画像(強度I₀・I₁・I₂・I₃)を取得し、次の式で位相φを計算します。
4ステップ位相シフト法の計算式:φ=arctan((I₃−I₁)/(I₀−I₂))。この式でコントラスト(縞の明暗差)や直流成分(バックグラウンド)の影響を除去し、純粋な位相情報を取り出すことができます。
この計算式はarctanの出力が−π〜+πの範囲に限られるため、実際の測定では「位相アンラッピング(連続位相の復元)」処理が必要になることもあります。
3ステップ・5ステップ法との比較
位相シフト法にはステップ数の異なるバリエーションがあります。
3ステップ法(120°ずつシフト)は最小枚数で位相を求められますが、位相シフト誤差への感受性がやや高くなります。
5ステップ法(90°ずつ5枚)は位相シフト誤差に対するロバスト性が高く、精密計測に好まれます。
ステップ数を増やすほど計測精度・ロバスト性は上がりますが、測定時間・データ量が増加するという精度と効率のトレードオフを考慮した選択が必要です。
位相シフト法の光学計測への応用
続いては、位相シフト法が光学計測の分野でどのように活用されているかを確認していきます。
光学干渉計による表面形状測定
光学干渉計(Michelson干渉計・Fizeau干渉計など)に位相シフト法を組み合わせることで、光学素子・精密加工面の表面形状をナノメートル精度で測定できます。
圧電素子(PZT)で参照鏡を微小に移動させることで参照光の位相をシフトし、CCDカメラで干渉縞画像を取得して位相分布(表面形状)を計算します。
半導体製造・光学素子検査・精密機械加工の品質管理に不可欠な計測技術です。
構造化照明による3次元形状計測
工業製品の3次元形状計測(3Dスキャン)に位相シフト法が広く応用されています。
プロジェクターで正弦波パターン(縞模様)を測定対象物に投影し、縞パターンの位相をシフトしながら複数枚の画像をカメラで撮影します。
物体の表面形状によって縞が歪むため、その歪みの位相分布から三角測量の原理で3次元座標を計算します。
自動車部品・電子機器・医療機器などの外観検査・寸法測定に高速・非接触の3次元計測として採用されています。
位相コントラスト顕微鏡と定量的位相イメージング
定量的位相イメージング(QPI:Quantitative Phase Imaging)は、位相シフト干渉法を応用した生細胞の非染色・非接触3次元観察技術です。
細胞内の屈折率分布(光路長差)を位相分布として計測し、細胞の乾燥質量・厚さ・3次元形状を定量的に求めることができます。
創薬研究・がん診断・再生医療など次世代の医療・生物研究に貢献する先端計測技術として注目されています。
位相シフト法の電気計測・信号処理への応用
続いては、位相シフト法の電気計測・信号処理分野での応用を確認していきます。
交流電気計測における位相シフト法
交流回路の位相差・インピーダンス測定にも位相シフト法の原理が応用されています。
参照信号の位相を既知量ずつシフトしながら被測定信号との相関を取ることで、雑音が多い環境でも高精度に位相差を抽出できます。
ロックインアンプ(Lock-in Amplifier)はこの原理の応用で、雑音中の微小信号の位相と振幅を高精度に検出するために使われる精密計測器です。
OFDM通信システムでの位相シフト活用
デジタル通信システム(Wi-Fi・LTE・5GのOFDM方式)では、チャンネル推定・位相補正に位相シフト法の概念が応用されています。
既知の位相を持つパイロット信号を送信し、受信側でチャンネルの位相特性を推定・補正することで、マルチパスフェージング環境でも高品質な通信を実現します。
光時間領域反射計(OTDR)と位相シフト法
光ファイバーの長距離(数十〜数百km)の障害点・接続損失を計測する光コヒーレントOTDRでは、位相シフト変調を使った高感度反射光解析が行われます。
位相シフトした信号の相関解析によって、従来のOTDRより高いダイナミックレンジと空間分解能を実現できます。
まとめ
位相シフト法とは、参照信号の位相を既知量だけ段階的にシフトしながら複数の測定データを取得し、位相情報を高精度に算出する計測手法です。
4ステップ法を基本として、3・5・N ステップのバリエーションが精度・効率のトレードオフを考慮して使い分けられます。
光学干渉計・3次元形状計測・定量的位相イメージング・ロックインアンプ・光通信計測など、計測技術・信号処理の最先端分野で幅広く活躍しています。
今回の内容を参考に、位相シフト法の原理と応用をしっかりと理解してください。