PID制御を実際に実装・解析するためには、制御式と伝達関数を正確に理解することが不可欠です。
「PIDの式ってどう書くの?」「連続時間と離散時間で何が違う?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、PID制御の連続時間表現・離散時間表現・ラプラス変換による伝達関数・計算方法を、数式と解説を交えながら詳しく説明していきます。
PID制御の式は「比例・積分・微分の3項の和」で表される
それではまず、PID制御の基本式とその意味を解説していきます。
PID制御の連続時間表現:u(t) = Kp・e(t) + Ki・∫₀ᵗ e(τ)dτ + Kd・de(t)/dt
e(t) = r(t) – y(t):偏差(目標値 r(t) と現在値 y(t) の差)
u(t):制御入力(アクチュエータへの指令値)
Kp・Ki・Kd:それぞれ比例・積分・微分ゲイン
この式は、現在の偏差(比例項)・過去の偏差の累積(積分項)・偏差の変化速度(微分項)の3つの情報を総合して、制御入力を決定することを表しています。
ラプラス変換による伝達関数表現
制御工学では、ラプラス変換を使ってPID制御器を伝達関数として表現することが一般的です。
PID制御器の伝達関数:C(s) = U(s)/E(s) = Kp + Ki/s + Kd・s
= (Kd・s² + Kp・s + Ki) / s
s はラプラス演算子(s = jω と置くと周波数応答に対応)
1/s は積分動作(位相-90°)、s は微分動作(位相+90°)に対応
伝達関数を使うと、周波数応答・安定性解析(ボード線図・ナイキスト線図)・極配置などの制御工学的な解析が体系的に行えます。
標準形(時定数形)表現
産業用の温度調節器や制御機器では、PIDパラメータを「ゲイン形」ではなく「時定数形」で表現することも一般的です。
時定数形PID:u(t) = Kp × [e(t) + (1/Ti)∫e(τ)dτ + Td・de(t)/dt]
Ti:積分時間(Ki = Kp/Ti に対応)
Td:微分時間(Kd = Kp・Td に対応)
時定数形では積分・微分の動作の「速さ」が時間次元で表現されるため、物理的なイメージが掴みやすいという利点があります。
離散時間PIDの計算方法
続いては、マイコンやPLCなどのデジタル制御システムで実際に使われる、離散時間PIDの計算方法を確認していきましょう。
離散時間化(デジタル化)の基本
連続時間のPID式をデジタル制御で実装するには、積分と微分を離散的な近似式に置き換える必要があります。
離散時間PID(位置型):
u[k] = Kp・e[k] + Ki・Ts・Σe[i] + (Kd/Ts)・(e[k] – e[k-1])
Ts:サンプリング周期(制御ループの実行間隔)
e[k]:k番目のサンプル時の偏差
積分項:偏差の累積和×Ts(オイラー前進近似)
微分項:1サンプル前との差分/Ts(後退差分近似)
サンプリング周期 Ts は制御対象の時定数に対して十分小さい値(通常 1/10 〜 1/20 以下)に設定する必要があります。
速度型(増分型)PID
位置型PIDの代わりに速度型(増分型)PIDが使われることもあります。
速度型PID(制御量の変化分を計算):
Δu[k] = Kp・(e[k]-e[k-1]) + Ki・Ts・e[k] + (Kd/Ts)・(e[k]-2e[k-1]+e[k-2])
u[k] = u[k-1] + Δu[k]
速度型は積分ワインドアップが自然に抑制される・バンプレストラート(パラメータ変更時の急変なし)などの利点があり、産業用PLC制御に多く採用されています。
フィルタ付き微分項の実装
ノイズ対策として、離散時間での微分項にローパスフィルタを組み込む実装が標準的です。
フィルタ付き微分項(離散時間):
d[k] = (N・Kd/(N・Ts+1))・(e[k]-e[k-1]) + (1/(N・Ts+1))・d[k-1]
N:フィルタ係数(通常5〜20)
この実装によりノイズ成分の増幅を抑えながら、微分動作の本来の効果を保持できます。
PID制御の解析ツールと周波数応答
続いては、PID制御式を使った制御系解析の方法を確認していきましょう。
| 解析手法 | 使うツール | 得られる情報 |
|---|---|---|
| ステップ応答 | MATLAB・Python | オーバーシュート・整定時間 |
| ボード線図 | MATLAB制御系ツールボックス | ゲイン余裕・位相余裕 |
| ナイキスト線図 | MATLAB・Python(control) | 安定性判定 |
| 根軌跡 | MATLAB | 極の移動・安定性 |
安定余裕の計算
開ループ伝達関数 L(s) = C(s)・P(s) に基づくゲイン余裕(GM)と位相余裕(PM)が、閉ループシステムの安定性の指標です。
一般的にゲイン余裕 > 6dB、位相余裕 > 30〜45度が良好な安定余裕の目安とされています。
ボード線図を使ってこれらを確認しながらPIDパラメータを調整することで、理論的に裏付けられたチューニングが可能です。
まとめ
本記事では、PID制御の連続時間式・ラプラス変換伝達関数・離散時間実装式・速度型PID・フィルタ付き微分実装・安定余裕解析について解説してきました。
PID制御の式を正確に理解し実装することは、安定で高性能な制御システムを構築するための基礎となります。
連続時間と離散時間の対応、位置型と速度型の使い分け、フィルタの組み合わせなど、実践的な知識を深めることで、より信頼性の高い制御系設計ができるようになるでしょう。