材料の強度を語るとき、「引張強度」と「せん断強度」はどちらも重要な指標ですが、その意味・発生メカニズム・計算方法・設計への応用はまったく異なります。
引張強度は材料を引き離そうとする力に対する抵抗力であり、せん断強度は材料をずり切ろうとする力に対する抵抗力という根本的な違いがあります。
この違いを正確に理解していないと、部品の強度設計において重大な見落としが生じる可能性があります。
たとえばボルト継手では引張力とせん断力が同時に作用することが多く、どちらか一方だけを評価した設計は安全性が不十分となります。
本記事では、引張強度とせん断強度の定義・計算式・材料ごとの大小関係・破壊モード・複合荷重時の強度設計への活用まで、材料力学の視点からわかりやすく体系的に解説します。
機械設計・建築構造・材料試験・品質管理に携わる方にとって、実務で即役立つ内容となっているでしょう。
引張強度とせん断強度の基本的な違い:応力の発生メカニズムから理解する
それではまず、引張強度とせん断強度の基本的な定義と、それぞれの応力が発生するメカニズムから解説していきます。
両者の違いを根本から理解することで、設計における使い分けと複合荷重時の評価方法が明確になります。
引張応力と引張強度の定義・発生場面
引張応力(σ)とは、材料の断面を垂直方向に引き離そうとする力(法線力)を断面積で割った値であり、材料を引き伸ばす方向に作用する応力です。
引張応力は断面と垂直な方向(法線方向)に作用するため「法線応力」とも呼ばれます。
引張応力(σ)= 引張力(F)÷ 断面積(A) 単位:MPa(N/mm²)
引張強度(σB):材料が耐えられる最大の引張応力値(応力-ひずみ曲線の最高点)
例:断面積100mm²の棒に50,000Nの引張力 → σ=50,000÷100=500 MPa
引張応力が発生する代表的な場面としては、ボルトによる締結で生じるボルト軸力・吊り上げ荷重を受けるロープやチェーン・橋梁の吊り材・プレストレスコンクリートのPC鋼線などがあります。
材料に引張応力が作用すると、まず弾性変形域(応力に比例したひずみ)を経て降伏(塑性変形開始)し、さらに荷重を増加させると最大荷重(引張強度相当)に達した後にくびれが生じて最終的に破断します。
引張強度は応力-ひずみ曲線の最高点であり、材料が耐えられる最大の法線応力として定義されており、この値を超えた瞬間に材料は破断に向かいます。
せん断応力とせん断強度の定義・発生場面
せん断応力(τ)とは、材料の断面と平行方向に滑らせようとする力(接線力)を断面積で割った値であり、材料をずり切る方向に作用する応力です。
せん断応力は断面と平行な方向(接線方向)に作用するため「接線応力」とも呼ばれます。
せん断応力(τ)= せん断力(Q)÷ 断面積(A) 単位:MPa(N/mm²)
せん断強度(τmax):材料が耐えられる最大のせん断応力値
例:断面積100mm²の部材に30,000Nのせん断力 → τ=30,000÷100=300 MPa
せん断応力が発生する代表的な場面としては、ボルトに対して垂直に加わる横荷重(ボルトのせん断)・リベット接合部のせん断・シャフトに加わるねじり(ねじりせん断応力)・梁断面内のせん断応力・溶接継手のせん断などがあります。
ボルトのせん断破断・溶接部のせん断破壊・木材の繊維方向せん断など、実際の構造物では引張よりもせん断が支配的な破壊モードとなるケースも多くあるため、設計段階でせん断強度の評価を怠ることは危険です。
引張応力とせん断応力の発生場面の対比
| 比較項目 | 引張応力(σ) | せん断応力(τ) |
|---|---|---|
| 力の作用方向 | 断面に垂直(法線方向) | 断面に平行(接線方向) |
| 材料の変形方向 | 伸び・くびれ | ずれ・ねじれ |
| 破断面の向き | 荷重方向に垂直な断面 | 荷重方向に平行な断面 |
| 代表的な発生場面 | ボルト軸力・吊りロープ・引張棒 | ボルトせん断・リベット・キー・溶接 |
| 設計記号 | σ(シグマ) | τ(タウ) |
| 許容応力の求め方 | 引張強度÷安全率 | せん断強度÷安全率(≒引張強度÷(2×安全率)) |
実際の構造部品では引張応力とせん断応力が同時に発生する複合応力状態が非常に多いため、どちらか一方だけを評価した強度設計は不完全であることを常に意識しておく必要があります。
引張強度とせん断強度の大小関係:材料別の特徴と理論的背景
続いては、引張強度とせん断強度の大小関係について、材料の種類ごとの特徴と理論的な背景を確認していきます。
材料によって引張強度とせん断強度の比率が異なり、設計においてどちらが支配的な破壊モードになるかを事前に把握しておくことが安全設計の基礎となります。
金属材料における引張強度とせん断強度の理論的関係
金属材料(延性材料)では、材料力学の破損則(降伏条件)に基づいてせん断強度と引張強度の関係が理論的に導かれます。
代表的な2つの降伏条件を以下に示します。
金属材料のせん断強度と引張強度の関係
最大せん断応力説(Tresca基準):τmax ≒ σB ÷ 2 ≒ 0.500 × σB
せん断ひずみエネルギー説(von Mises基準):τmax ≒ σB ÷ √3 ≒ 0.577 × σB
例:SS400(引張強度400MPa)のせん断強度目安
Tresca基準:400÷2=200 MPa
von Mises基準:400÷1.732≒231 MPa
→ 実用設計ではより安全側となるTresca基準(0.5倍)を使用することが多い
Tresca基準とvon Mises基準はどちらも理論的な降伏条件から導かれますが、von Mises基準のほうが実験結果との一致度が高いとされています。
設計では安全側となるTrescaの関係式(τ=σ÷2)を用いることが多く、金属材料のせん断強度は引張強度の約半分として見積もるのが実務的なアプローチとして広く採用されています。
実際には材料ロットごとのばらつき・試験方法の違い・応力状態の複雑さなどを考慮し、実測値の蓄積に基づいたせん断強度値を設計に使用することが精度向上に有効です。
脆性材料(コンクリート・鋳鉄)における特徴
コンクリートや鋳鉄などの脆性材料では、引張強度とせん断強度の関係が延性材料とは大きく異なります。
コンクリートは圧縮強度に比べて引張強度が著しく低く(圧縮強度の1/10程度)、これがコンクリート構造物に鉄筋を配置する理由のひとつです。
コンクリートのせん断強度は引張強度の1〜2倍程度であり、設計では引張強度の低さがせん断耐力の制約条件となることが多くあります。
| 材料 | 引張強度の目安 | せん断強度の目安 | せん断/引張比 |
|---|---|---|---|
| SS400(炭素鋼) | 400〜510 MPa | 200〜255 MPa | 約0.50 |
| SUS304(ステンレス) | 520 MPa以上 | 260〜300 MPa | 約0.50〜0.58 |
| FC200(ねずみ鋳鉄) | 約200 MPa | 約170 MPa | 約0.85 |
| 普通コンクリート(Fc24) | 約2〜3 MPa | 約3〜5 MPa | 約1.5〜2.0 |
| 木材(スギ・繊維平行方向) | 約30〜50 MPa | 約4〜8 MPa | 約0.1〜0.2 |
木材では繊維方向のせん断強度が引張強度の1/10〜1/5程度と非常に低いという特徴があり、木材接合部の設計ではせん断強度が支配的な制約条件となるケースが多いという点を覚えておきましょう。
複合材料・接着接合部における特性
FRP(繊維強化プラスチック)・炭素繊維複合材(CFRP)などの複合材料では、繊維方向によって引張強度とせん断強度が大きく異なる異方性材料としての特性があります。
炭素繊維方向の引張強度は1,500〜3,500MPaに達する一方、繊維と垂直方向の引張強度(層間引張強度)やマトリクス樹脂に依存する層間せん断強度は60〜100MPa程度と大幅に低くなります。
接着接合部においても引張(剥離)強度とせん断(ずり)強度を個別に評価し、支配的な破壊モードに対応した設計が必要であることは同様です。
引張強度とせん断強度を用いた複合評価と強度設計への応用
続いては、引張強度とせん断強度を活用した複合評価と実際の強度設計への応用方法を確認していきます。
設計現場では引張とせん断が単独で作用することよりも複合的に作用することのほうが多く、適切な複合評価式を用いることが安全設計の基本です。
ボルト締結部における引張とせん断の複合評価
ボルトは締結力(軸力=引張)とともに横荷重(せん断)が作用する場合があり、単独荷重の許容値をそれぞれ満足していても複合荷重では強度不足になることがあります。
引張とせん断の複合評価式(一般的な設計式)
(F_t ÷ F_t,allow)² + (F_s ÷ F_s,allow)² ≦ 1.0
F_t:作用引張力(N)、F_t,allow:許容引張力(N)
F_s:作用せん断力(N)、F_s,allow:許容せん断力(N)
例:F_t=10kN(F_t,allow=18kN)、F_s=8kN(F_s,allow=12kN)の場合
(10/18)²+(8/12)²=0.309+0.444=0.753 ≦ 1.0 → 合格
引張と同時にせん断が作用する場合は複合評価式による確認が必須であり、単独荷重の許容値を個別に満足しているだけでは不十分です。
複合評価式の値が1.0を超える場合は、ボルト本数の増加・ボルト径のアップ・強度区分の変更などの対策が必要になります。
溶接継手における引張強度とせん断強度の評価
溶接継手では継手の形式によって引張応力とせん断応力の評価方法が異なります。
突合せ溶接継手では主に引張応力(または圧縮応力)が評価対象となり、溶接金属の引張強度が設計基準値として使用されます。
すみ肉溶接継手ではのど断面(理論のど厚×溶接長さ)に作用するせん断応力が支配的な評価対象となり、溶接金属のせん断強度(引張強度の約0.5〜0.6倍程度)が設計基準として使用されます。
JIS B 8265(圧力容器の構造)やAIJ鋼構造接合部設計指針に従った溶接継手強度設計において、引張強度とせん断強度の両方を正確に評価することが安全な設計の基礎となります。
せん断試験の方法と引張試験との比較
せん断強度を実測するための試験方法として、ピン・せん断試験・ダブルラップせん断試験・ねじり試験・V字ノッチ試験などが使用されます。
引張試験と異なり、純粋なせん断応力状態を作り出すことが難しいため、試験方法によって測定値が10〜20%程度異なる場合があります。
実務では引張試験データから理論式(Tresca・von Mises)を用いてせん断強度を推定することも多く、この方法は試験コストを抑えながら実用的な精度のせん断強度値を得る手段として広く採用されています。
引張強度とせん断強度は力の作用方向が根本的に異なる材料特性であり、金属材料ではせん断強度は引張強度の約0.5〜0.58倍となります。
ボルト・溶接・接着接合部など引張とせん断が同時に作用する部位では複合評価式を用いた確認が必須であり、どちらか一方のみの評価では安全性を保証できません。
まとめ
引張強度とせん断強度の違い・応力の定義・材料別の大小関係・破壊モード・複合応力の評価まで幅広く解説してきました。
引張強度は断面に垂直な引き離す力に対する最大耐力であり、せん断強度は断面に平行なずり切る力に対する最大耐力という根本的な違いがあります。
金属材料では安全設計のためにTresca基準(τ≒0.5×σB)を用いてせん断強度を推定することが実務上広く行われています。
コンクリートは引張強度が圧縮強度の1/10程度と極端に低く、木材は繊維方向のせん断強度が引張強度の1/10〜1/5程度と非常に低いという特性があります。
ボルト締結・溶接継手・接着接合など引張とせん断が複合的に作用する部位では、必ず複合評価式(F_t/F_t,allow)²+(F_s/F_s,allow)²≦1.0による確認を行うことが安全設計の基本となるでしょう。
引張強度とせん断強度の特性を正しく理解し、実際の設計・解析・品質評価に積極的に活用していただければ幸いです。