「内部摩擦角って何?」「地盤の設計でよく出てくるφ(ファイ)という値は何を意味するの?」という疑問は、土木・建設・地盤工学を学ぶ方が最初につまずくポイントの一つです。
内部摩擦角は地盤の強度特性を表す最も重要なパラメータの一つであり、盛土の安定解析・基礎設計・斜面崩壊のリスク評価・地下掘削設計など、あらゆる地盤関連の設計に必要な値です。
この記事では、内部摩擦角の定義・物理的な意味・クーロンのせん断強度式・求め方(三軸試験・直接せん断試験)・砂と粘土での違い・実際の設計への応用まで、わかりやすく詳しく解説します。
土質力学・地盤工学を学ぶ学生から、実務で地盤設計を行うエンジニアまで幅広く役立つ内容をまとめています。
内部摩擦角の本質を理解することで、地盤工学の設計計算に対する理解が大きく深まります。
内部摩擦角とは何か?定義と物理的な意味を解説
それではまず、内部摩擦角の定義と物理的な意味について解説していきます。
内部摩擦角(ないぶまさつかく、angle of internal friction)とは、土粒子間のかみ合い(インターロッキング)と摩擦によって生じる「土のせん断抵抗力の角度的な表現」です。
記号はφ(ファイ)で表し、単位は度(°)です。
内部摩擦角の基本的な理解
① 内部摩擦角φは「土の粒子間に働く摩擦・かみ合いによる剪断抵抗を角度で表したもの」
② 値が大きいほどせん断強度が高く(硬い地盤)、値が小さいほど強度が低い
③ 砂質土:φ = 25°〜45°程度(粒径・密度・形状によって変化)
④ 粘性土(短期・非排水):φ = 0°として扱う場合が多い(クイッククレイ)
⑤ 粘性土(長期・排水):φ = 20°〜30°程度(有効応力解析)
⑥ 記号:φ(phi)または φ’(有効内部摩擦角・排水条件)
内部摩擦角を直感的に理解するには、砂山を例として考えると便利です。
乾燥した砂を盛り上げると、ある角度以上に傾くと砂が崩れて自然に安定した斜面が形成されます。
この安定した斜面の角度(安息角)が内部摩擦角の概念と近い関係にあります。
砂の安息角は概ね30°〜35°程度であり、これが内部摩擦角とほぼ一致することが経験的に知られています。
地盤が外力を受けてせん断破壊する際、破壊面での抵抗力はφの値が大きいほど大きくなります。
つまりφが大きい地盤は「すべりにくい」「崩れにくい」地盤といえます。
クーロンのせん断強度式とその意味
内部摩擦角が登場する最も重要な式が「クーロンのせん断強度式(Mohr-Coulomb破壊規準)」です。
クーロンのせん断強度式
τ = c + σ tanφ
ここで:
τ(タウ):せん断強度(破壊面でのせん断応力)(kN/m²・kPa)
c:粘着力(cohesion)(kN/m²・kPa)
σ:垂直応力(破壊面に作用する法線方向の応力)(kN/m²)
φ:内部摩擦角(°)
有効応力を使う場合(排水条件・長期安定):
τ = c’ + σ’ tanφ’
σ’ = σ – u(有効応力 = 全応力 – 間隙水圧)
計算例:c = 20kPa、φ = 30°、σ = 100kPa の場合
τ = 20 + 100 × tan30° = 20 + 100 × 0.577 = 20 + 57.7 = 77.7 kPa
このクーロン式はσ-τ空間上で直線を描き、その直線の傾きがtanφ・切片がcとなります。
この直線を「クーロン包絡線(Coulomb envelope)」または「破壊包絡線」といい、土質力学の最も基本的なグラフです。
垂直応力σが大きいほどせん断強度τも大きくなるため、深い地層ほど強度が高くなるという直感とも一致します。
内部摩擦角と粘着力cの関係
土のせん断強度パラメータとして、内部摩擦角φと粘着力c(コヒージョン)は対になって扱われます。
| 土の種類 | 粘着力 c | 内部摩擦角 φ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 砂(乾燥・緩い) | ≈ 0 kPa | 28°〜34° | c=0、φのみで強度決まる |
| 砂(密な) | ≈ 0 kPa | 35°〜45° | 密度が高いほどφ大 |
| 砂礫 | ≈ 0 kPa | 38°〜45° | 粒径大きくφ大きい傾向 |
| 粘性土(非排水) | Su(非排水強度) | φ = 0° | φ=0解析が多い |
| 粘性土(排水) | c’ = 0〜20 kPa | 20°〜30° | 有効応力解析 |
内部摩擦角の求め方:室内試験と現場試験
続いては、内部摩擦角を実際に求めるための試験方法を確認していきます。
土の強度パラメータは実験によって求める必要があり、さまざまな試験方法が用いられています。
三軸圧縮試験(UU・CU・CD試験)
三軸圧縮試験(Triaxial Compression Test)は土のせん断強度パラメータを求める最も信頼性の高い室内試験です。
円柱形の試料を側圧(σ₃)で拘束した状態で軸方向に荷重を加え、破壊時の応力状態からモールの応力円を描いて強度パラメータを決定します。
三軸圧縮試験の種類と用途
① UU試験(非圧密非排水試験)
排水なし・圧密なしで即時せん断。短期安定解析に使用。
φ ≈ 0°として粘着力Su(非排水せん断強度)を求める。
② CU試験(圧密非排水試験)
圧密後に非排水でせん断。間隙水圧を測定して有効応力パラメータも求める。
φcu と c’、φ’ を求めることができる。
③ CD試験(圧密排水試験)
圧密後に排水しながらゆっくりせん断。長期安定解析の有効応力パラメータに使用。
φ’(有効内部摩擦角)と c’(有効粘着力)を精度よく求めることができる。
三軸試験では通常3〜4個の試料に異なる側圧を与えてせん断し、それぞれの破壊時応力でモールの応力円を描きます。
各円に接する接線(破壊包絡線)の傾き角がφ、切片がcとして求められます。
直接せん断試験(一面せん断試験)
直接せん断試験(Direct Shear Test)はせん断面を強制的に指定して、その面でのせん断強度を直接測定する試験です。
試料をせん断箱(シアーボックス)に入れて垂直荷重をかけた状態で水平方向にせん断し、せん断応力とせん断変位の関係を測定します。
異なる垂直応力での試験を複数回行い、縦軸にせん断強度τ・横軸に垂直応力σをプロットすることで、強度包絡線の傾き(tanφ)と切片(c)が求められます。
| 試験方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 三軸圧縮試験(UU) | 短期強度・高信頼性 | 盛土・基礎の短期安定 |
| 三軸圧縮試験(CD) | 長期有効応力パラメータ | 長期安定解析 |
| 直接せん断試験 | 簡便・経済的 | 砂質土・残留強度 |
| 一軸圧縮試験 | 粘性土の粘着力Su | φ=0解析の粘着力 |
標準貫入試験(SPT)のN値から推定する方法
現場試験の中でも最も広く用いられる標準貫入試験(SPT:Standard Penetration Test)では、N値(打撃回数)から内部摩擦角を推定する経験式が広く使われています。
N値からφを推定する経験式(砂質土の場合)
大崎(1974)の式:
φ = √(20N) + 15(°)
ただしN ≤ 40 の範囲で適用
計算例:N = 20 の場合
φ = √(20×20) + 15 = √400 + 15 = 20 + 15 = 35°
N = 10:φ ≈ √200 + 15 ≈ 14.1 + 15 ≈ 29°
N = 30:φ ≈ √600 + 15 ≈ 24.5 + 15 ≈ 39°
N値と地盤の相対密度の目安
N ≤ 4:非常に緩い砂(φ ≈ 25〜28°)
N = 4〜10:緩い砂(φ ≈ 28〜32°)
N = 10〜30:中位の砂(φ ≈ 32〜38°)
N = 30〜50:密な砂(φ ≈ 38〜43°)
N ≥ 50:非常に密な砂(φ ≈ 43°以上)
この経験式による推定は試験コストが低く広く使われますが、あくまで経験的な推定値であり、重要な構造物の設計には室内試験によるパラメータの確認が推奨されます。
内部摩擦角の実際の設計への応用
続いては、内部摩擦角を実際の地盤工学・建設設計でどのように活用するかを確認していきます。
盛土の安定解析・地盤の支持力・土圧計算などでφが直接使われます。
斜面安定解析でのφの使い方
盛土・切土斜面の安定解析では、すべり面でのせん断抵抗をクーロン式で評価します。
「すべり力(Driving force)」と「抵抗力(Resisting force)」の比が安全率Fsであり、Fs ≥ 1.2〜1.5 を設計上の目標とすることが一般的です。
斜面安定の簡易計算(無限長斜面の場合)
無限長斜面(均質な地盤・排水条件)の安全率
Fs = tanφ / tanβ(c = 0・排水条件の場合)
ここで β は斜面の傾斜角
例:φ = 35°、β = 20° の場合
Fs = tan35° / tan20° = 0.700 / 0.364 = 1.92(安定)
β = 35°(φと等しい)の場合
Fs = tan35° / tan35° = 1.00(限界状態・不安定)
→ 内部摩擦角が斜面傾斜角と等しくなると安全率が1.0になることがわかる
土圧計算:クーロン土圧・ランキン土圧
擁壁・地下壁に作用する土圧の計算にも内部摩擦角が重要です。
ランキン土圧理論では「主働土圧係数Ka」と「受働土圧係数Kp」をφから計算します。
ランキン土圧係数の計算式
主働土圧係数:Ka = tan²(45° – φ/2) = (1 – sinφ) / (1 + sinφ)
受働土圧係数:Kp = tan²(45° + φ/2) = (1 + sinφ) / (1 – sinφ)
計算例:φ = 30° の場合
Ka = tan²(45° – 15°) = tan²30° = (0.577)² ≈ 0.333
Kp = tan²(45° + 15°) = tan²60° = (1.732)² ≈ 3.00
→ 受働土圧係数は主働の9倍(KaとKpの積 = 1)
基礎の支持力計算へのφの適用
浅い基礎(直接基礎)の支持力計算ではTerzaghi(テルツァーギ)の支持力公式が広く使われており、ここにも内部摩擦角φが含まれています。
「Nq・Nc・Nγ」という支持力係数はφの関数であり、φが大きいほど支持力係数が大きくなります。
たとえばφ = 30°の場合はNq ≈ 18.4・Nγ ≈ 22.4程度であり、φ = 0°(粘土の短期)ではNq = 1・Nγ = 0となって粘着力cのみで支持力が決まります。
砂質土と粘性土の内部摩擦角の違い
続いては、砂質土と粘性土における内部摩擦角の違いと、それぞれの扱い方の違いを確認していきます。
土の種類によってφの値と物理的な意味が異なるため、正しく理解することが重要です。
砂質土のφの特徴
砂質土では粘着力c ≈ 0として扱い、強度はほぼ内部摩擦角φのみで決まります。
φに影響する要因としては、粒径の大きさ(粗粒ほど大きい)・粒子の形状(角張っているほど大きい)・相対密度(密なほど大きい)・粒度分布(均等係数が大きいほど大きい)があります。
砂質土の典型的なφの値は緩い砂で28〜32°・中位の砂で32〜38°・密な砂礫で38〜45°程度です。
粘性土のφの扱い方
粘性土では水の排水条件によってφの値と意味が大きく変わります。
短期的な安定(盛土直後・掘削直後など)を評価する「非排水解析」では φ = 0°として扱い、せん断強度は粘着力Su(非排水せん断強度)のみで評価します。
長期的な安定を評価する「排水解析」では有効応力パラメータc’とφ’を使い、φ’は20〜30°程度が一般的な値です。
この「φ = 0解析(全応力解析)」と「有効応力解析」の使い分けは地盤工学の設計において非常に重要な概念です。
| 解析の種類 | 強度パラメータ | 適用条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| φ=0解析(非排水) | c = Su、φ = 0° | 粘性土・短期安定 | 一軸圧縮試験・UU試験から求める |
| 有効応力解析 | c’、φ’ | 砂質土・粘性土長期 | CD試験・CU試験から求める |
| 全応力解析(砂) | c = 0、φ | 砂質土全般 | SPT・CD試験から求める |
まとめ
この記事では、内部摩擦角φの定義・物理的な意味・クーロンのせん断強度式・三軸試験や標準貫入試験による求め方・斜面安定・土圧・支持力設計への応用・砂質土と粘性土での違いまで幅広く解説しました。
内部摩擦角φは「クーロンのせん断強度式 τ = c + σ tanφ」における土粒子間摩擦を表すパラメータであり、この値が大きいほど地盤のせん断強度が高く安定した地盤であることを示します。
砂質土ではφが主要な強度パラメータとなり、N値から経験的に推定できますが、重要構造物では三軸試験による確認が必要です。
粘性土では排水条件によりφ = 0解析(短期)と有効応力解析(長期)を使い分けることが地盤設計の基本です。
内部摩擦角への理解を深めることで、地盤工学・土質力学の設計計算が確実に行えるようになります。