日本語において「障害」と「障がい」という表記は、近年さまざまな場面で議論の対象となっています。
行政機関・教育現場・医療機関・企業のCSRレポートなど、公的な文書や公文書においてどちらの表記を使うべきかに迷う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「障害」と「障がい」の表記の違い・使い分けの考え方・厚生労働省の見解・公文書におけるガイドライン・統一表記の現状と課題まで、詳しく解説していきます。
「障害」と「障がい」の表記の違いとは?基本的な結論
それではまず、「障害」と「障がい」の表記の違いと、その基本的な結論から解説していきます。
結論から言えば、「障害」と「障がい」のどちらが正しいという公的な統一基準は現時点では存在しないというのが実態です。
ただし、厚生労働省や内閣府などの行政機関では、この問題について継続的な検討が行われており、それぞれの見解や方針が示されています。
「障害」の「害」という漢字が持つ否定的なニュアンスを避けるため、「障がい」とひらがな表記にする動きが自治体や民間企業を中心に広がっています。一方、法律・公文書では依然として「障害」が正式表記とされているケースが多く、表記の統一は議論の途上にあります。
この問題は、単なる表記の問題ではなく、障害のある方への社会的な意識・インクルーシブな社会の実現という、より根本的なテーマと深く結びついています。
表記の選択が、障害のある方やその家族にどのように受け取られるかを丁寧に考えることが、この問題に向き合う第一歩となるでしょう。
厚生労働省の見解と行政機関における表記ルール
続いては、厚生労働省の見解と、行政機関における障害の表記ルールについて確認していきます。
厚生労働省の公式スタンス
厚生労働省は、障害の表記については「障害者」という表記を基本としつつ、「障がい者」という表記も許容するというスタンスをとっています。
厚生労働省の各種広報資料や統計資料では「障害者」という漢字表記が用いられていますが、一方で地方自治体の取り組みや民間団体の活動を紹介する際には、それぞれの団体の表記を尊重する姿勢も示されています。
障害者基本法・障害者雇用促進法などの法律名には「障害」という表記が使用されており、法律用語としては「障害」が正式な表記となっています。
地方自治体における表記の変化
地方自治体においては、「障がい」表記への変更を積極的に進める動きが見られます。
例えば、多くの都道府県・市区町村が、条例や広報資料・窓口案内において「障がい」という表記を採用してきました。
この動きの背景には、「害」という漢字が「害悪・害毒」といったネガティブな意味を連想させるという指摘があり、障害のある方やその家族からの声が反映されたものと言えます。
一方で、法律・条例の正式名称は国の法令に合わせる必要があるため、行政文書の中で「障害」と「障がい」が混在するという複雑な状況も生じています。
内閣府・文部科学省の見解
内閣府は、障害者制度改革の議論の中で、表記問題についても検討を行ってきました。
2010年に設置された「障がい者制度改革推進会議」では、「障がい」表記を使用し、障害のある方に対する意識改革の観点から、表記の見直しを推奨する方向性が示されました。
文部科学省では、学習指導要領や教科書における表記を「障害」とする方針が維持されており、教育現場では「障害」表記が基本となっています。
「障害」「障がい」「障碍」3つの表記の違いと使い分け
続いては、「障害」「障がい」そして「障碍(しょうがい)」という3つの表記の違いと、使い分けについて確認していきます。
「障碍」という表記の歴史的背景
「障碍」は、もともと仏教用語として使われてきた言葉で、「さとりの妨げとなるもの」を意味していました。
この「碍」という漢字は、当用漢字・常用漢字に含まれていなかったため、長年にわたって「障害」という代替表記が使われてきた経緯があります。
2010年に「碍」が常用漢字に追加されたことで、「障碍」表記への回帰を求める意見も一部から上がっています。
ただし、「障碍」という表記はまだ一般的には普及しておらず、公文書での使用例も限られているのが現状です。
3つの表記の比較一覧
| 表記 | 特徴 | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| 障害 | 法律・公文書での正式表記。歴史的に長く使用されてきた | 法律・国の公文書・学校教育 |
| 障がい | 「害」のネガティブなニュアンスを避けるひらがな表記 | 地方自治体・民間企業・NPO |
| 障碍 | 歴史的・語源的に正確な表記。まだ普及は限定的 | 一部の研究機関・専門文書 |
このように、3つの表記にはそれぞれ異なる背景と使用場面があります。
使い分けのポイントと配慮すべき点
表記の使い分けにおいては、まず「その文書の性質と読み手」を考慮することが重要です。
法的効力を持つ契約書・行政申請書類・法律関連の文書では、法令上の正式表記である「障害」を使用することが一般的に適切です。
一方、社内の福祉・ダイバーシティ関連の資料・対外的な広報資料・当事者向けのコミュニケーションでは、「障がい」表記がより配慮ある選択となる場合もあります。
最も重要なのは、障害のある当事者の方の意見や感情を尊重することであり、表記そのものよりも、どのような姿勢でその方々に向き合うかが本質的な問いとなるでしょう。
公文書・ガイドラインにおける表記の現状と課題
続いては、公文書やガイドラインにおける表記の現状と今後の課題について確認していきます。
公文書における表記の統一が難しい理由
公文書における表記の統一が難しい主な理由は、法律名と実際の行政運用との乖離にあります。
障害者基本法・障害者雇用促進法・障害者総合支援法といった主要な法律はすべて「障害」表記を採用しており、法的な文書では「障害」を使わざるを得ない状況があります。
しかし、実際の行政サービスの案内や広報では「障がい」を使う自治体が増えており、同じ行政機関の中でも文書の種類によって表記が異なるという矛盾が生じています。
この矛盾を解消するためには、法律の改正も含めた抜本的な見直しが必要であり、それには社会全体での合意形成が求められます。
企業・団体における表記ルールの設定
民間企業や団体においても、社内での表記ルールを明確に定めることが重要です。
CSRレポート・採用サイト・社内研修資料など、さまざまな文書で表記がバラバラになると、組織としての姿勢に一貫性がないと受け取られる可能性があります。
表記ルールを定める際は、ダイバーシティ推進担当者・法務部門・コーポレートコミュニケーション部門が連携して、組織としての方針を文書化しておくことが望ましいでしょう。
社会全体での意識の高まりと今後の方向性
障害の表記問題は、インクルーシブな社会の実現という大きな潮流の中に位置しています。
表記の変更だけで差別や偏見がなくなるわけではありませんが、言葉や表記への敏感な配慮が、社会全体の意識変革の一歩になることは確かです。
今後は、法改正の動向・当事者団体からの発信・国際的なスタンダードなどを参考にしながら、表記のあり方についての議論がより深まっていくことが期待されます。
まとめ
この記事では、「障害」と「障がい」の表記の違い・厚生労働省の見解・3つの表記の比較・公文書における現状と課題について詳しく解説しました。
現時点では、法律・公文書では「障害」が正式表記とされつつも、「障がい」表記への移行が地方自治体や民間企業を中心に進んでいるという状況にあります。
表記の選択においては、文書の性質・読み手・使用する場面を総合的に考慮したうえで、組織としての方針を明確にすることが重要です。
最終的には表記の問題にとどまらず、障害のある方が生きやすい社会を実現するための姿勢と行動が、最も本質的なテーマとなるでしょう。
この記事が、表記の使い分けに迷う方や、社内ガイドラインを整備したい方の参考になれば幸いです。