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ストークスシフトとは?原理や測定方法を解説(蛍光分光・励起光・発光スペクトル・エネルギー差・振動緩和など)

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ストークスシフトとは?原理や測定方法を解説(蛍光分光・励起光・発光スペクトル・エネルギー差・振動緩和など)

蛍光分光分析において、不可欠な概念である「ストークスシフト」。この現象は、物質が光を吸収し、その後に光を放出する際に起こるエネルギーの変換と密接に関連しています。

具体的には、分子が励起光を吸収して高いエネルギー状態に遷移し、その後、より低いエネルギーの光(発光スペクトル)を放出する際に、励起光の波長と発光の波長に違いが生じることを指します。

この波長の違い、すなわちエネルギー差は、蛍光分子の特性や周囲の環境に関する貴重な情報を提供してくれます。

本記事では、ストークスシフトの基本的な原理から、その測定方法、そして蛍光分析における重要性まで、詳しく解説していきます。

それではまず、ストークスシフトの全体像について確認していきましょう。

ストークスシフトとは?蛍光分光分析の基礎となる現象

ストークスシフトは、蛍光物質が示す基本的な光学現象の一つです。

励起光を吸収する際の波長と、その後に放出される発光(蛍光)の波長との間に観察される差を指します。

この現象は、蛍光分析において、特定の分子の同定や定量、さらには分子の構造変化や環境応答を理解するための重要な手がかりとなります。

ストークスシフトの定義

ストークスシフトとは、分子が吸収する光の最大波長(励起最大波長)と、分子が放出する光の最大波長(発光最大波長)との間の差のことです。

この波長の差は、通常、発光波長の方が吸収波長よりも長くなる傾向があります。

これは、エネルギーの観点から見ると、発光光のエネルギーが励起光のエネルギーよりも小さいことを意味しています。

この定義は、蛍光分光法のあらゆる応用において基礎となります。

励起光と発光スペクトルの関係

蛍光現象は、分子が特定の波長の光(励起光)を吸収し、そのエネルギーによって励起状態に遷移することから始まります。

その後、励起状態にある分子は、様々な過程を経てエネルギーを失い、最終的に光子を放出することで基底状態に戻ります。

この放出される光が蛍光であり、その波長分布が発光スペクトルとして観測されます。

励起光と発光スペクトルの間で波長に差が生じるのがストークスシフトの本質であり、このシフトの大きさは蛍光分子の種類や周囲の環境によって異なります。

エネルギー差と波長のシフト

ストークスシフトは、励起エネルギーと発光エネルギーの間に生じる差に基づいています。

このエネルギー差は、主に励起状態における振動緩和や溶媒和効果によって生じます。

波長とエネルギーの関係は以下の式で表されます。

E = hc / λ

ここで、Eはエネルギー、hはプランク定数、cは光速、λは波長です。

この式からわかるように、波長が長くなるとエネルギーは小さくなるため、発光波長が励起波長よりも長いということは、発光エネルギーが励起エネルギーよりも小さいことを示しています

続いては、ストークスシフトの原理とメカニズムを確認していきます

ストークスシフトがなぜ起こるのか、その背後にある物理化学的なメカニズムを深く掘り下げていきましょう。

この現象は、主に励起状態での分子内でのエネルギー損失過程によって説明されます。

励起と振動緩和のプロセス

分子が光を吸収すると、電子が基底状態から励起状態へとジャンプします。

この際、電子だけでなく、分子の振動エネルギー準位も同時に高まることがあります。

しかし、励起された分子は非常に短時間のうちに、周囲の分子との衝突や分子内部でのエネルギー再分配によって、余分な振動エネルギーを熱として放出します。

この過程を振動緩和と呼びます。

振動緩和によって、分子は励起状態の最低振動準位へと落ち着きます。

この最低振動準位から光を放出するため、放出される光のエネルギーは、吸収された光のエネルギーよりも小さくなるのです。

溶媒和効果の影響

蛍光分子が溶媒中に存在する場合、励起状態になると、分子の電子分布が変化します。

この変化に応じて、周囲の溶媒分子が再配向し、励起状態の分子をより安定化させることがあります。

これを溶媒和効果と呼びます。

溶媒和が起こると、励起状態のエネルギー準位がさらに低下するため、放出される光のエネルギーが吸収される光のエネルギーよりもさらに小さくなり、結果としてストークスシフトが大きくなります。

溶媒の極性や粘度がストークスシフトに影響を与える要因となるでしょう。

例えば、極性溶媒中では、無極性溶媒よりも大きなストークスシフトが観測される傾向があります。

ストークスシフトの大きさから、蛍光分子が置かれている環境の極性に関する情報も得られます。

蛍光分子のエネルギー準位

蛍光分子のエネルギー準位は、基底状態と励起状態に大きく分けられます。

それぞれの状態には、さらに多くの振動エネルギー準位が存在します。

下に示す表は、ストークスシフトにおけるエネルギーの遷移を簡略化したものです。

プロセス エネルギー状態 特徴
励起 基底状態 → 励起状態(高振動準位) 光エネルギーを吸収
振動緩和 励起状態(高振動準位) → 励起状態(最低振動準位) 熱としてエネルギーを放出
発光 励起状態(最低振動準位) → 基底状態 蛍光として光エネルギーを放出
ストークスシフトは、この一連のエネルギー準位間の遷移、特に振動緩和と溶媒和効果による励起状態のエネルギー低下の結果として生じる現象です。

続いては、ストークスシフトの測定方法を確認していきます

ストークスシフトは、蛍光分光光度計を用いて比較的容易に測定できます。

ここでは、その具体的な測定手順と、得られたスペクトルからストークスシフトを算出する方法について解説します。

蛍光分光光度計の利用

ストークスシフトの測定には、蛍光分光光度計が必須です。

この装置は、試料に特定の波長の励起光を照射し、そこから放出される蛍光の強度を様々な波長で検出する能力を持っています。

具体的には、励起 monochromatorで波長を選択し、試料に照射します。

その後、試料から放出される蛍光を検出 monochromatorで分光し、検出器でその強度を測定する仕組みです。

励起スペクトルと発光スペクトルの取得

ストークスシフトを測定するためには、まず試料の励起スペクトルと発光スペクトルをそれぞれ取得する必要があります。

1. 励起スペクトルの取得:

発光波長を固定し、励起波長を掃引しながら蛍光強度を測定します。

これにより、蛍光を発するのに最も効率的な励起波長(励起最大波長)が分かります。

2. 発光スペクトルの取得:

励起最大波長で励起光を固定し、発光波長を掃引しながら蛍光強度を測定します。

これにより、最も強く蛍光を発する波長(発光最大波長)が特定できます。

これらのスペクトルは通常、縦軸に蛍光強度、横軸に波長をプロットしたグラフとして得られます。

スペクトルからのストークスシフトの算出

励起スペクトルと発光スペクトルが得られたら、それぞれのスペクトルから最大ピークを示す波長を特定します。

ストークスシフトは、発光最大波長から励起最大波長を差し引くことで算出されます

スペクトル 取得データ 説明
励起スペクトル 励起最大波長 (λex,max) 最も効率的に蛍光を励起する波長
発光スペクトル 発光最大波長 (λem,max) 最も強く蛍光が放出される波長
ストークスシフト λem,max – λex,max 吸収と発光の波長差

この値は通常、ナノメートル(nm)単位で表され、蛍光分子の特性や溶媒環境によって異なる値を示します

ストークスシフトの正確な測定は、蛍光分析における重要な第一歩と言えるでしょう。

まとめ

ストークスシフトは、蛍光分光分析において基礎的かつ極めて重要な現象です。

分子が光を吸収し励起された後、熱による振動緩和や溶媒和効果を通じてエネルギーを失い、最終的に吸収時よりも低いエネルギーの光、すなわち長波長の蛍光を放出することによって生じます。

この励起光と発光スペクトルの間の波長差は、蛍光分子の固有の性質だけでなく、周囲の環境情報をも反映しているのです。

蛍光分光光度計を用いた励起スペクトルと発光スペクトルの測定によって、ストークスシフトの値を正確に把握できます。

この現象を理解することは、蛍光プローブの設計、生体分子の相互作用解析、材料科学における蛍光特性評価など、多岐にわたる科学技術分野において不可欠な知識となります。