全単射は、数学における写像の性質を理解するうえで重要な考え方です。
単射や全射との違いが曖昧なままでは、逆写像、関数、一対一対応といった関連用語も理解しにくくなるでしょう。
この記事では、全単射の意味を図を思い浮かべやすい具体例とともに説明し、判定方法や逆写像との関係まで順番に整理します。
全単射の意味と結論

それではまず全単射の意味について解説していきます。
全単射の基本的な定義
全単射とは、ある集合から別の集合へ要素を対応させる写像のうち、単射と全射の両方の条件を満たす写像を指します。
簡単にいえば、出発側の要素と到着側の要素が、重なりも余りもなく一つずつ対応している状態です。
たとえば集合Aの各要素を集合Bの各要素へ移すとき、Aの異なる要素が同じBの要素へ集まらず、さらにBのすべての要素が少なくとも一度は対応先になっていれば全単射です。
全単射では、Aの要素数とBの要素数は一致します。
有限個の要素を扱う場面では、二つの集合の大きさが同じであり、それぞれが一対一で結ばれていると考えると理解しやすいでしょう。
全単射は、対応先の重複がなく、対応されない要素もない写像です。
一つずつ漏れなく対応するため、元の要素へ戻る逆写像を作れます。
写像と関数の関係
全単射を学ぶ前に、写像という言葉の基本を押さえておくと混乱が減ります。
写像とは、集合Aの各要素に対して、集合Bの要素を一つだけ対応させる規則のことです。
学校数学でいう関数も、写像の代表的な例といえます。
通常は、写像fが集合Aから集合Bへの対応であることを、fはAからBへの写像と表します。
このときAを定義域、Bを終域と呼び、実際に対応先として現れたBの要素全体を値域と呼びます。
全射かどうかを調べるときには、終域と値域が一致しているかが大切です。
定義域だけを見て判断すると、対応されていない終域の要素を見落とす可能性があります。
一対一対応としての全単射
全単射は、一対一対応という言葉で説明されることもあります。
一対一対応とは、一方の集合の各要素に対して、もう一方の集合の要素が一つずつ過不足なく対応する関係です。
たとえば三人の参加者に三つの座席を割り当て、誰も同じ座席に座らず、空席もないなら、一対一対応になっています。
参加者を定義域、座席を終域とみなせば、この割り当ては全単射です。
順番、番号、暗号、座標の変換など、対応の取り違えが許されない場面では全単射の考え方が活用されます。
一見すると抽象的な用語ですが、日常的な対応関係に置き換えると意味がつかみやすくなります。
単射と全射の違い
続いては単射と全射の違いを確認していきます。
単射の条件
単射とは、定義域の異なる要素が、同じ対応先を持たない写像です。
つまり、Aのaとbが異なるなら、f(a)とf(b)も異なるという条件を満たします。
単射では、対応先に重複がありません。
ただし、終域の要素がすべて使われている必要はないため、対応されない要素が残ることはあります。
集合Aを{1、2、3}、集合Bを{a、b、c、d}とします。
1をa、2をb、3をcへ対応させる写像は単射です。
dは使われていませんが、対応先の重複がないため単射という判定になります。
単射かどうかを確認するときは、矢印の先に同じ要素が二本以上集まっていないかを見るとよいでしょう。
同じ対応先に複数の矢印が向かう場合、その写像は単射ではありません。
全射の条件
全射とは、終域にあるすべての要素が、少なくとも一つの定義域の要素から対応される写像です。
全射では、終域に使われていない要素が残りません。
一方で、複数の要素が同じ対応先へ向かうことは認められます。
したがって、全射であっても単射とは限りません。
終域のすべてが埋まっているかが、全射を見分ける中心的なポイントです。
集合Aを{1、2、3}、集合Bを{a、b}とします。
1をa、2をa、3をbへ対応させる写像は全射です。
aとbの両方が対応先として使われていますが、1と2がaに重なるため単射ではありません。
三つの性質の比較
単射、全射、全単射の違いは、対応先の重複と終域の余りに注目すると整理できます。
| 種類 | 対応先の重複 | 終域の要素の余り | 逆写像 |
|---|---|---|---|
| 単射 | ありません | 残る場合があります | 終域を値域に限定すれば考えられます |
| 全射 | あっても構いません | ありません | 一般には一つに定まりません |
| 全単射 | ありません | ありません | 一意に作れます |
単射だけでは終域に空きが残ることがあり、全射だけでは対応元を一意にたどれないことがあります。
両方の条件を備えた全単射だからこそ、対応を完全に逆向きにできるわけです。
全単射は単射と全射の共通部分と覚えると、用語の位置関係が見えてきます。
全単射の判定方法
続いては全単射を判定するための考え方を確認していきます。
有限集合における矢印図
要素数が少ない有限集合では、矢印図を書く方法が直感的です。
左側に定義域、右側に終域の要素を書き、それぞれの対応を矢印で結びます。
まず右側の各要素に矢印が少なくとも一本届いているかを確認します。
次に、同じ要素に二本以上の矢印が届いていないかを確認しましょう。
右側の各要素に矢印がちょうど一本ずつ届いていれば、その写像は全単射です。
この確認方法は、置換や並べ替えを扱う問題でも役立ちます。
有限集合の全単射では、終域の全要素に矢印がちょうど一本ずつ届きます。
一本も届かない要素があれば全射ではなく、二本以上届く要素があれば単射ではありません。
式を使った単射性の確認
関数の式が与えられた場合は、f(x)とf(y)が等しいと仮定して、xとyが等しいと示せるかを調べます。
f(x)=f(y)からx=yが導ければ、その関数は単射です。
たとえば実数全体でf(x)=2x+1を考えると、2x+1=2y+1から2x=2y、したがってx=yとなります。
このため、f(x)=2x+1は単射です。
一方、f(x)=xの二乗を実数全体で考えると、f(2)とf-2はどちらも4になります。
異なる二つの入力が同じ出力を持つため、この場合のf(x)=xの二乗は単射ではありません。
入力の違いを出力の違いとして保てるかが、式による単射判定の要点です。
全射性の確認
全射性を確認するには、終域の任意の要素yに対して、f(x)=yとなる定義域の要素xが見つかるかを調べます。
重要なのは、単にいくつかの値が出せるかではなく、終域に指定されたすべての値を出せることです。
たとえばf(x)=2x+1を実数全体から実数全体への関数として考える場合、任意の実数yに対してx=y-1を2で割った値を選べます。
このxを代入すればf(x)=yとなるため、全射でもあります。
よって、この関数は実数全体から実数全体への全単射です。
ただし、同じ式でも終域を自然数全体に変えると判定が変わることがあります。
写像を確認するときは、式だけでなく定義域と終域の設定を必ず一緒に見る必要があります。
全単射の具体例
続いては全単射の具体例を確認していきます。
自然数の並べ替え
有限集合における全単射の分かりやすい例として、要素の並べ替えがあります。
たとえば集合{1、2、3}に対して、1を2へ、2を3へ、3を1へ対応させる規則を考えます。
各要素の行き先は異なり、1、2、3のすべてが対応先として使われています。
そのため、この規則は全単射です。
元の順序を入れ替えているだけなので、どの要素がどこから来たかを逆向きに一意にたどれます。
このような写像は置換と呼ばれ、組合せ論や暗号理論でも重要な役割を持ちます。
一次関数による対応
実数全体から実数全体への一次関数f(x)=ax+bを考え、aが0ではないとします。
この関数は全単射になります。
傾きaが0ではないため、異なるxが同じ値へ写ることはありません。
また、任意の実数yに対してx=y-bをaで割った値を選べば、f(x)=yを満たします。
f(x)=3x-6では、逆向きの規則はx=y+6を3で割った形になります。
たとえばx=4ならf(4)=6です。
逆写像に6を入れると4へ戻るため、対応が完全に反転していることを確認できます。
一次関数は、座標変換や単位換算などでも使われます。
対応を元へ戻せる仕組みを意識すると、全単射の実用的なイメージが持ちやすくなるでしょう。
自然数と偶数の対応
無限集合では、要素数の感覚が有限集合とは異なります。
自然数全体と偶数全体は、見た目には自然数全体のほうが多そうに感じられるかもしれません。
しかし自然数nに対して2nを対応させる写像を考えると、自然数全体と偶数全体の間に全単射を作れます。
自然数の異なる値を二倍して同じ偶数になることはないため単射です。
さらに、任意の偶数はある自然数を二倍した形で表せるため全射でもあります。
無限集合では、部分集合であっても元の集合と一対一対応できることがあります。
この性質は、無限の大きさを考える集合論の出発点として知られています。
逆写像と一対一対応
続いては逆写像と一対一対応の関係を確認していきます。
逆写像の意味
逆写像とは、ある写像で行った対応を反対向きに戻す写像です。
fがAからBへの写像であるとき、逆写像はBからAへの写像として考えます。
元の写像でaがbへ対応するなら、逆写像ではbがaへ対応します。
ただし、どの写像にも逆写像が存在するわけではありません。
同じ対応先に複数の要素が集まると、逆向きにしたときに一つの要素から複数の要素へ分かれてしまいます。
写像では一つの入力に対応先を一つだけ定める必要があるため、そのような場合は逆写像を関数として定められません。
全単射と逆写像の存在
全単射であれば、必ず逆写像が存在します。
単射であるため、対応先から元をたどったときに候補が複数になることがありません。
全射であるため、終域に対応元を持たない要素もありません。
この二つの条件がそろうことで、逆向きの対応が過不足なく作れます。
写像に逆写像が存在することと、その写像が全単射であることは同じ内容を表します。
逆に戻せるかを考えると、全単射の必要性を理解しやすくなります。
関数fの逆写像は、一般にfのマイナス一乗と表記されます。
これは逆数を意味する表記ではなく、写像を逆向きにすることを示す記号です。
合成による確認
写像を続けて適用する操作を合成と呼びます。
fの後に逆写像を適用すると、Bの要素は元のBの要素へ戻ります。
逆写像の後にfを適用した場合も、Aの要素は元のAの要素へ戻ります。
このように、行って戻す操作が恒等写像になることが、逆写像の特徴です。
たとえばf(x)=2x+1なら、逆写像はyから1を引いて2で割る規則になります。
xにfを適用してから逆写像を適用すると、2x+1から1を引き、2で割るためxへ戻ります。
全単射では、往復しても情報が失われません。
この性質は、可逆な変換、符号化、行列、座標変換を理解する土台になります。
全単射で注意したい考え方
続いては全単射を扱う際に注意したい考え方を確認していきます。
終域による判定の変化
同じ対応式であっても、終域が変われば全射かどうかが変わる場合があります。
たとえばf(x)=xの二乗を、実数全体から実数全体への写像として考えると、負の実数を出力できません。
このため、実数全体を終域とする場合は全射ではありません。
一方、終域を0以上の実数全体にすれば、すべての終域の要素に対応元があります。
ただしxと-xが同じ値へ写るため、実数全体を定義域とする限り単射にはなりません。
定義域を0以上の実数全体へ絞れば、単射かつ全射となり、全単射になります。
| 写像の設定 | 単射 | 全射 | 全単射 |
|---|---|---|---|
| 実数全体から実数全体へのxの二乗 | いいえ | いいえ | いいえ |
| 実数全体から0以上の実数全体へのxの二乗 | いいえ | はい | いいえ |
| 0以上の実数全体から0以上の実数全体へのxの二乗 | はい | はい | はい |
要素数だけでは決まらない場合
有限集合では、定義域と終域の要素数が同じであれば、単射なら全射、全射なら単射になります。
そのため、有限集合の問題では一方の条件を示せば、もう一方も確認できることがあります。
しかし、要素数が同じだからといって、すべての写像が全単射になるわけではありません。
たとえば三つの要素から三つの要素への写像でも、二つの要素が同じ対応先へ写れば、別の対応先が余ることになります。
要素数の一致は全単射の可能性を示す条件であり、実際の対応関係まで確認する必要があります。
有限集合では個数と対応の両方を見ることが、判定ミスを防ぐコツです。
グラフによる見分け方
関数のグラフから全単射を考えることもできます。
単射性は、水平な直線がグラフと二点以上で交わらないかを見る水平線テストで確認できます。
同じyの値を持つxが複数あるなら、単射ではありません。
全射性は、終域として定めたyの範囲をグラフがすべて通るかで確認します。
たとえば実数全体を終域とする一次関数のグラフは、傾きが0でなければすべての高さを通過します。
そのため、水平線テストにも合格し、実数全体から実数全体への全単射になります。
視覚的に理解したい場合は、矢印図とグラフを使い分けると効果的でしょう。
全単射のまとめ
全単射とは、単射と全射を同時に満たし、二つの集合の要素を一つずつ過不足なく対応させる写像です。
単射では対応先の重複がなく、全射では終域に使われない要素が残りません。
全単射ではその両方が成立するため、逆写像を一意に定められます。
有限集合では矢印図を使い、終域の各要素に矢印がちょうど一本ずつ届くかを確認すると判定しやすくなります。
関数の式では、単射性と全射性を分けて調べ、定義域と終域の設定まで丁寧に確認することが重要です。
一対一対応、逆写像、全単射は深く結び付いた概念です。
基本を押さえたうえで具体例を繰り返し確認すれば、写像に関する問題にも落ち着いて取り組めるでしょう。