機械部品や鋼構造物を締結するボルトは、引張力だけでなく、部材が横方向にずれようとする力も受けます。
この横方向の力に対する安全性を確認する際に重要となるのが、ボルトのせん断許容応力です。
ボルト径を大きくすれば安全とは限らず、ねじ部がせん断面にかかるか、単純せん断か二重せん断か、接合部の摩擦を見込むかによって計算結果は変化します。
設計では材料強度と安全率を整理し、荷重条件に合った許容せん断力を求める必要があります。
この記事では、ボルトのせん断許容応力の考え方と基本的な計算方法を、実務で確認しやすい順序で解説します。
ボルトのせん断許容応力の基本

それではまず、ボルトのせん断許容応力について解説していきます。
せん断許容応力の意味
せん断とは、部材をはさみで切るように、面に沿ってずらそうとする力の働きです。
ボルト接合部では、接合された板や金具が互いに横へ移動しようとすると、ボルト軸の断面にせん断力が発生します。
このとき、ボルト材料が破断や大きな塑性変形に至らないよう、設計上あらかじめ抑える応力の上限がせん断許容応力です。
許容応力は材料の強度そのものではなく、強度に安全率などを反映した設計用の値となります。
したがって、引張強さが高いボルトであっても、接合条件や要求される安全性によっては使えるせん断荷重が小さくなる場合があります。
実際に比較するべきなのは、発生するせん断応力と許容せん断応力です。
発生値が許容値以下なら、少なくともボルトのせん断破断に関する基本的な判定では安全側と考えられます。
許容応力と許容せん断力の違い
許容せん断応力の単位は、一般にN/mm²またはMPaで表されます。
一方、ボルト1本が受けられる許容せん断力はNやkNで表され、応力に断面積を掛けて算出します。
たとえば同じ材料のボルトでも、径が大きくなれば断面積が増えるため、許容せん断力も大きくなります。
ここで注意したいのは、ねじ部がせん断面にある場合です。
ねじ谷径に近い有効断面で評価することになり、軸部の呼び径だけで面積を計算すると、実際より大きく評価してしまうおそれがあります。
許容せん断力の基本式
許容せん断力 = 許容せん断応力 × せん断面積 × せん断面の数
単位をそろえると、N/mm²にmm²を掛けてNが得られます。
ボルトの本数で荷重を均等に分担できる条件なら、接合部全体の許容せん断力は1本当たりの値に本数を掛けて考えられます。
ただし、実際の接合部では加工誤差や部材の変形で荷重分担が偏ることもあるため、単純な均等割りだけで終わらせない視点が必要です。
最初に押さえたい設計上の結論
ボルトのせん断許容応力を確認するときは、材料強度から許容応力を設定し、せん断面の実断面積に基づいて許容荷重を算出する流れが基本です。
そのうえで、外力によるせん断荷重が許容荷重を超えないかを判定します。
特に重要なのは、せん断面が軸部かねじ部かを先に見極めることです。
同じM12ボルトでも、評価断面が異なれば許容せん断力は変わります。
さらに、ボルト本体が十分であっても、被締結材の穴周辺が押しつぶされる支圧破壊や、板が裂ける破断が先に起きる可能性があります。
ボルトのせん断計算は、ボルトだけを確認して完了ではありません。
ボルトのせん断、被締結材の支圧、端部破断、ブロックせん断、すべりの各項目を接合条件に応じて確認することが大切です。
せん断荷重と接合形式の整理
続いては、せん断荷重とボルト接合の形式を確認していきます。
単純せん断と二重せん断
せん断面が1面だけの接合を単純せん断、せん断面が2面ある接合を二重せん断と呼びます。
たとえば、2枚の板を重ねてボルトで締結する重ね継手では、一般的にボルトのせん断面は1面です。
一方、中央の部材を両側から板ではさみ、1本のボルトで固定するフォーク形状の接合では、条件によって2面せん断となります。
二重せん断では各せん断面に荷重が適切に分担される前提なら、ボルト1本のせん断耐力は単純せん断のおよそ2倍として評価できます。
ただし、左右の板厚や剛性が大きく異なる場合、2面へ完全に均等配分されるとは限りません。
| 接合形式 | 主なせん断面数 | 計算上の特徴 |
|---|---|---|
| 重ね継手 | 1面 | ボルト軸の1断面でせん断を負担します。 |
| 突合せ継手と片側添板 | 1面 | 添板側の配置と板の破断も確認します。 |
| 突合せ継手と両側添板 | 2面 | ボルトは二重せん断となることがあります。 |
| フォーク形状の接合 | 2面 | 中央材と外側材の剛性差に注意します。 |
| 複数ボルト接合 | 条件による | 偏心荷重による荷重分担を確認します。 |
軸部せん断とねじ部せん断
ボルトには、滑らかな軸部とねじが切られたねじ部があります。
せん断面が軸部に位置する設計では、呼び径から求める軸断面積を使いやすくなります。
せん断面がねじ部にかかる場合は、ねじの谷部分で実質的な断面が小さくなるため、ねじの有効断面積または規格や設計基準で定められた断面積で評価します。
ねじ部をせん断面から避ける配置は、ボルトのせん断耐力を確保するうえで有利です。
ただし、軸部が長すぎると締結できる板厚の範囲に合わず、ナットのねじかかり長さにも影響します。
ボルト長さを選ぶ際は、せん断性能だけでなく、座金、ナット、余りねじ、締付け作業性まで含めて検討することが求められます。
摩擦接合と支圧接合
高力ボルト摩擦接合のように、締付けによる軸力と接触面の摩擦力でせん断荷重を伝える方式があります。
この場合、すべりが生じるまでボルト軸に直接的なせん断力が作用しない考え方を用いることがあります。
一方、一般的なボルト接合では、穴のすき間を部材が移動した後にボルト軸が穴壁へ当たり、支圧によって荷重を伝えるケースもあります。
設計対象がどちらの接合なのかで、確認すべき限界状態は大きく変わります。
摩擦接合の設計では、単にボルトのせん断断面だけを見るのでは不十分です。
締付け軸力、接触面の処理、摩擦係数、すべり耐力、施工管理まで含めて確認する必要があります。
普通ボルトの接合を摩擦接合と同じ感覚で扱うと、想定外のすべりや穴の変形につながることがあります。
設計図書、使用するボルト種類、施工条件を先に整理しておくと、計算上の取り違えを防ぎやすくなるでしょう。
許容せん断応力と安全率の考え方
続いては、許容せん断応力と安全率の関係を確認していきます。
引張強さからせん断強さを考える方法
ボルト材料の強度は、強度区分や材質証明書などで引張強さ、降伏点、耐力として示されることが多くなります。
せん断強さは引張強さと完全に同じではなく、材料力学上は引張強さに一定の係数を掛けて見積もる考え方が用いられます。
延性材料では、せん断降伏と引張降伏の関係をミーゼスの降伏条件などから整理することもあります。
ただし、係数だけを独自に当てはめるより、対象となる設計基準、メーカー資料、社内標準で定められた許容値を優先することが重要です。
建築、橋梁、産業機械、設備架台では、採用する規格や設計思想によって扱いが異なるためです。
安全率を設定する理由
安全率は、材料強度に対して設計でどの程度の余裕を持たせるかを示す考え方です。
荷重のばらつき、材料強度のばらつき、加工寸法の誤差、締付け状態、腐食、疲労、使用環境などの不確実性を考慮するために用います。
静的な荷重だけを受ける設備と、繰返し荷重や衝撃荷重を受ける装置では、必要な安全性の水準が同じとは限りません。
安全率は大きければよいという単純な数値ではなく、用途と故障時の影響に応じて決める値です。
過度に大きな安全率は部品の大型化やコスト増加を招き、反対に小さすぎる値は耐久性と安全性を損ないます。
許容応力の概念式
許容せん断応力 = 基準となるせん断強さ ÷ 安全率
基準強さに何を採用するかは、降伏を防ぐ設計か、破断を防ぐ設計か、適用規格は何かによって変わります。
設備設計では、想定荷重に動荷重係数や使用条件に応じた補正を掛けてから、許容荷重と比較する方法もよく用いられます。
計算書では、安全率の値だけでなく、その数値を選んだ根拠も残しておくと、設計審査や将来の改修時に役立ちます。
強度区分ごとの確認ポイント
ボルトの強度区分は、呼び径が同じでも引張強さや耐力が異なることを示します。
たとえば一般的な六角ボルトと高強度ボルトでは、同径でも許容できる荷重に差が生じます。
一方で、高強度のボルトに変更しただけでは接合部全体が強くなるとは限りません。
被締結材の板厚が不足している場合や、穴径が大きい場合には、板側の支圧や破断が支配的になる可能性があります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| ボルト材質 | 強度区分と材料証明 | 同じ呼び径でも強度が異なります。 |
| 安全率 | 用途と荷重の性質 | 衝撃や繰返し荷重を静荷重と同じにしないことです。 |
| 断面積 | 軸部かねじ部か | 呼び径だけで判断しないことです。 |
| 表面状態 | 腐食や傷の有無 | 経年劣化で有効断面が減る場合があります。 |
| 施工状態 | 締付けと穴位置 | 偏心やがたが荷重分担へ影響します。 |
設計で使用する許容値は、購入したボルトの実物、規格、施工方法に適合している必要があります。
カタログ上の最大強度だけを採用するのではなく、接合部として再現できる条件か確認しましょう。
ボルトせん断許容応力の計算手順
続いては、ボルトせん断許容応力の計算手順を確認していきます。
荷重条件と本数の設定
最初に、接合部へ作用するせん断荷重を整理します。
荷重は自重、搭載荷重、作業荷重、風荷重、地震荷重、加減速力、衝撃力などから構成されます。
複数の荷重が同時に作用する場合は、対象分野の荷重組合せに従って設計用荷重を決めます。
次に、せん断力を負担するボルト本数を数えます。
荷重がボルト群の中心に作用する単純な形状なら、本数で割った値を1本当たりの基準荷重として扱えます。
しかし、荷重の作用線がボルト群の中心から離れる偏心荷重では、回転モーメントが加わります。
その場合、各ボルトにかかる力は均等ではなく、最も大きい荷重を受けるボルトで判定する必要があります。
断面積と許容荷重の算出
軸部がせん断面となる場合の断面積は、円の面積から求めます。
呼び径をdとすると、軸断面積はおおむねπd²を4で割った値です。
ねじ部がせん断面にある場合は、ねじの有効断面積を使用します。
ボルトの呼び径とピッチが分かれば規格表から確認できますが、現場ではボルトの仕様書に示された有効断面積を参照すると確実です。
軸部せん断の計算例
M12ボルトの軸部断面積を約113mm²、許容せん断応力を100N/mm²と仮定します。
単純せん断であれば、許容せん断力は約11300Nです。
二重せん断で2面が均等に負担する条件では、約22600Nとして計算できます。
この数値は考え方を示すための例です。
実際の設計では、ボルトの強度区分、規格、ねじ部の位置、安全率、使用環境に応じて許容応力を決定してください。
計算式が正しくても、入力する許容応力の根拠が不適切なら安全性は保証できません。
発生応力による判定
ボルト1本に作用するせん断荷重が分かれば、発生せん断応力を算出できます。
発生せん断応力は、1本当たりのせん断力を、対象となるせん断面積で割った値です。
この発生応力が許容せん断応力以下か、または発生荷重が許容せん断力以下かを確認します。
発生せん断応力の基本式
発生せん断応力 = ボルト1本当たりのせん断力 ÷ せん断面積
判定条件は、発生せん断応力が許容せん断応力以下となることです。
たとえば、4本のボルトで合計16000Nのせん断荷重を均等に負担するなら、1本当たりの荷重は4000Nです。
軸部断面積が113mm²であれば、発生せん断応力は約35N/mm²となります。
許容せん断応力が100N/mm²という設定なら、せん断応力だけを見た利用率は約35パーセントです。
このように利用率まで求めておくと、将来的な荷重増加や仕様変更に対する余裕を把握しやすくなります。
接合部で併せて確認する強度項目
続いては、ボルト接合部で併せて確認する強度項目を確認していきます。
被締結材の支圧強度
支圧とは、ボルト軸が板のボルト穴の内面を押すことで生じる局部的な圧縮です。
ボルトのせん断耐力に余裕があっても、板が薄い場合や材料強度が低い場合には、穴が長穴状に変形することがあります。
このため、被締結材の板厚、ボルト径、穴径、材料の許容応力を用いて支圧強度を確認します。
薄板接合では、ボルト破断より先に穴周辺の支圧破壊が支配的になることがあります。
穴の変形が進めば接合部のがたが増え、位置精度や剛性の低下にもつながります。
縁端距離と板の破断
ボルト穴が板の端部に近すぎると、せん断荷重によって穴から端部へ向かう部分が裂けるおそれがあります。
これを防ぐため、ボルト中心から板端までの縁端距離や、ボルト間隔には一定の寸法を確保します。
必要寸法は板材の種類、穴の形式、加工方法、適用規格によって異なります。
長穴や大きめのクリアランス穴を使用する場合は、特に端部破断と支圧の評価を慎重に行う必要があります。
設計図面に最小縁端距離を明記し、現場の穴あけ誤差を考慮することも実務上のポイントです。
ボルト径を大きくすると、必要な縁端距離やピッチも大きくなる傾向があります。
狭い板幅に太いボルトを選ぶ前に、板側の破断や支圧が成立するか確認しましょう。
偏心荷重とボルト群の荷重分担
取付けブラケット、モーター架台、配管支持金具などでは、荷重がボルト群の中心からずれて作用することがあります。
偏心があると、単純なせん断力に加えて回転させる力が発生し、ボルトごとの負担が異なります。
最も外側に位置するボルトに大きな荷重が集中しやすく、均等割りの計算では危険側となる可能性があります。
また、偏心荷重ではせん断だけでなく、ボルトに引張力が加わる場合もあります。
引張力とせん断力が同時に作用する接合では、各応力を個別に見るだけではなく、採用する設計基準に従った組合せ評価を行うことが重要です。
ボルト群の計算では、最も厳しい位置にある1本を見つけることが安全な設計への近道になります。
施工管理と長期使用時の注意点
続いては、施工管理と長期使用時の注意点を確認していきます。
締付け状態とゆるみ対策
ボルト接合の性能は、計算上の径や材料だけでは決まりません。
規定された締付けが行われているか、座金やナットが適切に組み合わされているかも重要です。
振動を受ける機械では、繰返しの横荷重によってゆるみが進行することがあります。
ゆるみにより締付け力が低下すると、部材間にすべりが生じやすくなり、ボルト軸の曲げやせん断の状態も変化します。
必要に応じて、ゆるみ止めナット、ばね座金、ねじロック剤、座面形状の工夫などを検討します。
ただし、ゆるみ止め方法にはそれぞれ適した使用条件があるため、重要接合部では実績のある方法と施工手順を選ぶことが望ましいでしょう。
疲労と繰返し荷重
同じ大きさの荷重でも、1回だけ作用する場合と何度も繰り返される場合では、ボルトに与える影響が異なります。
繰返しせん断荷重を受ける接合では、疲労き裂が生じる可能性があります。
特に、ねじ谷、傷、腐食部、段差、当たりの偏りがある箇所は応力が集中しやすい部分です。
疲労が懸念される機械では、静的な許容せん断応力の判定だけで済ませないことが必要です。
荷重の最大値と最小値、繰返し回数、振動数、停止と起動の頻度を整理し、必要なら疲労設計の基準を用いて検討します。
定期点検でボルトのゆるみ、赤さび、穴周辺の変形、異音を確認することも、長期的な安全確保に役立ちます。
腐食と保守点検
屋外設備、沿岸部、薬品を扱う場所、高湿度環境では、ボルトの腐食による断面減少に注意が必要です。
腐食が進むと、見かけ上は同じ呼び径でも有効な断面積が小さくなり、せん断耐力が低下します。
異種金属を接触させる接合では、電食のリスクも検討対象です。
表面処理や材質選定は耐食性に影響しますが、施工時に傷が付くとそこから腐食が進むことがあります。
点検では、ナットの脱落、座金の変形、ボルト頭部の損傷、穴周囲の塗膜割れまで確認するとよいでしょう。
設計時の耐力だけでなく、使用年数後にも必要な断面と締結状態を保てるかを考えることが、実用的なボルト設計につながります。
ボルトのせん断許容応力のまとめ
ボルトのせん断許容応力は、ボルトが横方向の荷重によって破断しないために設定する設計上の基準値です。
許容せん断力は、許容せん断応力にせん断面積とせん断面数を掛けて求めます。
計算では、せん断面が軸部かねじ部か、単純せん断か二重せん断かを最初に確認することが重要です。
安全率は、荷重や材料のばらつき、衝撃、疲労、施工誤差などを踏まえて適切に設定します。
また、ボルトのせん断計算だけで終わらせず、被締結材の支圧、縁端距離、板の破断、偏心荷重、引張力との組合せも確認しましょう。
ボルト本数で単純に荷重を割る前に、接合形式と荷重の流れを見直すことが、計算ミスの防止につながります。
使用環境に振動、繰返し荷重、腐食がある場合は、施工管理と定期点検も含めた設計が欠かせません。
適用するJIS規格や構造設計基準、メーカーの技術資料を確認し、対象設備に合った許容値で安全性を判断してください。