正規部分群の具体例は?身近な例と計算方法も!(整数の加法群:置換群:交換子群など)
正規部分群は、群論を学び始めたときに「部分群との違いが分かりにくい」と感じやすい概念です。
しかし、整数の加法、偶数と奇数、回転や反射、置換といった具体例に置き換えると、商群をつくるための自然な仕組みであることが見えてきます。
この記事では定義だけで終わらせず、正規部分群の判定方法、代表的な計算例、置換群や交換子群との関係まで順に整理します。
正規部分群の基本的な意味

それではまず正規部分群の意味と、最初に押さえたい結論について解説していきます。
左剰余類と右剰余類の一致
群を G、その部分群を H とするとき、すべての元 g について gH と Hg が一致すると、H は G の正規部分群と呼ばれます。
記号では H が G の正規部分群であることを H ⫳ G のように表します。
ここで gH は左剰余類、Hg は右剰余類です。
加法群では g+H と H+g になり、加法の順序を入れ替えても値が変わらないため、可換な群ではこの条件を自然に満たします。
一方で、置換の合成や行列の積のように順序が重要な群では、左から掛ける場合と右から掛ける場合で集合が異なることがあります。
この差が、通常の部分群と正規部分群を分ける重要な点です。
正規部分群とは、群のどの元で左右から操作しても、部分群の中身が同じ形で保たれる部分群です。
この性質があるため、正規部分群をまとめて一つの元のように扱う商群を定義できます。
共役による判定
正規部分群の条件は、すべての g∈G と h∈H に対して ghg⁻¹ が H に入る、と書き換えられます。
この操作 ghg⁻¹ は共役と呼ばれます。
つまり正規部分群とは、共役によって自分自身へ移る部分群です。
実際には、すべての g と h を機械的に調べるよりも、群の性質や生成元を使って共役を確認する方法がよく使われます。
有限群なら元を一覧にして確かめることもできますが、整数群のような無限群では一般式で考えるほうが効率的でしょう。
正規性の判定条件
gH=Hg がすべての g∈G で成り立つとき H は正規部分群です。
同値な条件として gHg⁻¹=H がすべての g∈G で成り立つことも利用できます。
商群とのつながり
正規部分群が重要視される最大の理由は、商群 G/H をつくれる点にあります。
商群では、H の元同士を「同じもの」と見なし、剰余類そのものを新しい元として扱います。
たとえば整数の加法群 Z において nZ を考えると、Z/nZ は n を法とする剰余類の集まりです。
これは日常的な時計算や合同式にもつながります。
正規性がなければ、剰余類同士の演算結果が代表元の選び方で変わる可能性があり、演算を安全に定義できません。
正規部分群は商群を成立させるための条件と捉えると、学ぶ目的が明確になります。
整数の加法群における具体例
続いては整数の加法群で見られる正規部分群を確認していきます。
偶数全体の部分群
整数全体の加法群を Z、偶数全体を 2Z と書きます。
2Z は 2k の形をした整数すべてからなる集合であり、加法について部分群です。
任意の整数 a に対し、a+2Z と 2Z+a は同じ集合になります。
加法群 Z は可換群なので、部分群である 2Z は自動的に正規部分群です。
剰余類は偶数の類 2Z と奇数の類 1+2Z の二つだけになります。
この例は、正規部分群を初めて理解する際の最も身近な例です。
| 群 | 部分群 | 剰余類 | 商群のイメージ |
|---|---|---|---|
| Z | 2Z | 2Z と 1+2Z | 偶数と奇数の二分類 |
| Z | 3Z | 0+3Z、1+3Z、2+3Z | 3で割った余り |
| Z | nZ | 0+nZ から n−1+nZ | nを法とする合同類 |
nZ が常に正規部分群となる理由
任意の正の整数 n に対して、nZ は n の倍数全体を表します。
整数 a と nZ の元 nk を加えると a+nk になり、右側から考えても nk+a です。
整数の加法は交換法則を満たすため、a+nk=nk+a となります。
したがって a+nZ=nZ+a です。
このように、可換群のすべての部分群は正規部分群になります。
整数の加法群では部分群がすべて nZ の形に分類されるため、部分群の構造と正規部分群の構造が完全に一致します。
Z の部分群は 0 だけからなる部分群と、nZ の形の部分群に限られます。
たとえば 4Z は 4の倍数、5Z は 5の倍数、0Z は 0 のみを含む部分群です。
いずれも可換性により正規部分群になります。
合同式としての理解
a−b が nZ に入るとき、a と b は n を法として合同であるといいます。
通常は a≡b mod n と書かれる関係です。
これは a と b が同じ剰余類に属するという意味でもあります。
たとえば 17 と 5 は差が 12 であり、12 は 3Z に入るため、17 と 5 は 3 を法として同じ類です。
時計の時刻で 12 時間後に元の位置へ戻る考え方も、Z/12Z の商群として説明できます。
抽象的に見える正規部分群ですが、余りの計算を支える構造そのものです。
置換群における具体例
続いては順序が重要になる置換群で、正規性がどのように現れるかを確認していきます。
対称群と交代群
n 個の対象を並べ替える置換全体は、対称群 Sₙ をつくります。
置換には偶置換と奇置換があり、偶置換だけを集めた集合は交代群 Aₙ です。
Aₙ は Sₙ の部分群であるだけでなく、Sₙ の正規部分群です。
その理由は、置換の偶奇が共役によって変わらないことにあります。
また、偶奇を値として返す符号写像を考えると、Aₙ はその核になります。
準同型写像の核は必ず正規部分群なので、これによっても正規性を説明できます。
Aₙ は Sₙ の中で特に重要な正規部分群です。
Sₙ/Aₙ は二つの剰余類からなり、置換が偶置換か奇置換かを区別する群になります。
S₃ における正規部分群
S₃ は 3 個の文字の置換からなる、元の個数が 6 の群です。
恒等置換、三つの互換、二つの 3巡回置換を含みます。
このうち A₃ は恒等置換と二つの 3巡回置換からなり、位数は 3 です。
A₃ の指数は 2 です。
一般に指数が 2 の部分群は必ず正規部分群になるため、個々の共役計算をすべて行わなくても結論を得られます。
一方で、互換一つだけが生成する位数 2 の部分群は、S₃ では通常正規部分群になりません。
| S₃ の部分群 | 位数 | 正規性 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 恒等置換のみ | 1 | 正規 | 自明部分群は常に正規 |
| A₃ | 3 | 正規 | 指数が2であり符号写像の核 |
| 一つの互換が生成する部分群 | 2 | 通常は非正規 | 共役で別の互換部分群へ移る |
| S₃ 全体 | 6 | 正規 | 群全体は常に正規 |
共役による置換の変化
置換群では、gσg⁻¹ を計算すると、σ が動かす文字の名前を g に従って付け替えた置換になります。
たとえば互換は共役を取ることで別の互換に移る場合があります。
このため、ある一つの互換だけを含む部分群は、共役操作に対して閉じないことがあります。
反対に、すべての偶置換を集めた Aₙ は共役後も偶置換のままです。
正規部分群を調べる際には、共役類を丸ごと含んでいるかという視点が役立ちます。
有限群の部分群を探す問題では、共役類の大きさとラグランジュの定理を組み合わせる方法も有効です。
交換子群と準同型写像
続いては交換子群と準同型写像から正規部分群を理解していきます。
交換子の意味
群 G の元 g と h に対し、ghg⁻¹h⁻¹ を交換子といいます。
この値が単位元になるとき、g と h は交換します。
したがって交換子は、二つの元がどれほど可換でないかを測る量として使えます。
すべての交換子によって生成される部分群を交換子群、または導来部分群と呼びます。
記号では [G,G] と表されることが多いでしょう。
可換群ではすべての交換子が単位元となるため、交換子群は自明部分群になります。
交換子の計算例
g と h が交換する場合、ghg⁻¹h⁻¹ は単位元です。
交換しない場合には単位元以外となり、群の非可換性が表れます。
交換子群が正規部分群となる理由
交換子群 [G,G] は G の正規部分群です。
共役した交換子を計算すると、g[ x,y ]g⁻¹ は [ gxg⁻¹, gyg⁻¹ ] の形になります。
つまり交換子を共役しても、再び交換子から生成される部分群の中に残ります。
この性質により [G,G] は共役で不変です。
交換子群は群を可換化するための最小の自然な部分群ともいえます。
G/[G,G] を考えると、そこでの演算は必ず可換になります。
G/[G,G] は G の可換化と呼ばれます。
元の群にある非可換な情報を交換子群へまとめ、残った可換な部分だけを取り出す考え方です。
準同型写像の核
群準同型写像 φ とは、演算を保つ写像です。
φ の値が単位元になる元全体を核と呼び、ker φ と書きます。
核は必ず正規部分群になります。
実際、h が ker φ に入り、g が G の元であるとき、φ(ghg⁻¹)=φ(g)φ(h)φ(g)⁻¹ です。
φ(h)は単位元なので、結果も単位元になります。
この事実は正規部分群を見つける強力な方法であり、偶置換群や合同式の例にもそのまま使えます。
正規部分群の計算方法
続いては実際の問題で使える正規部分群の計算方法を確認していきます。
指数による判定
有限群 G において部分群 H の指数が 2 ならば、H は正規部分群です。
指数とは、G が H の剰余類で何個に分かれるかを表す数です。
指数が 2 のとき、H ではないもう一方の剰余類は左から見ても右から見ても補集合になるため、一致せざるを得ません。
この判定は非常に手軽で、特に有限群の演習で頻繁に登場します。
ただし指数が 3 以上なら、自動的に正規になるわけではありません。
指数だけで判断できない場合は、共役または準同型写像の核を調べます。
共役計算の手順
具体的な群で正規性を調べるときは、まず部分群 H の生成元を確認します。
次に群 G の生成元 g に対して ghg⁻¹ を計算し、その結果が H に入るかを調べます。
G のすべての元を調べる必要がありそうに見えても、G が生成元で作られているなら、生成元について確認するだけで済む場合があります。
置換なら合成の向き、行列なら逆行列の計算順序に注意が必要です。
特に置換の積は教科書や問題文によって右から作用させる約束が多いため、途中の規則を統一しましょう。
計算の順序を固定することが、正規部分群の判定ミスを減らします。
共役判定の流れ
部分群の生成元 h を選びます。
群の生成元 g について ghg⁻¹ を求めます。
結果が H の元として表せれば、正規性を示す材料になります。
正規部分群の代表例一覧
正規部分群には、問題で繰り返し現れる代表的な型があります。
最初から候補を知っておくと、計算量を大きく減らせるでしょう。
| 正規部分群の型 | 現れる場面 | 判定の考え方 |
|---|---|---|
| 自明部分群 | 任意の群 | 単位元だけからなり常に正規 |
| 群全体 | 任意の群 | 共役しても群全体のまま |
| 可換群の任意の部分群 | Z、巡回群、ベクトル空間の加法群 | 左右の演算が一致 |
| 準同型写像の核 | 符号写像、剰余写像 | 核は必ず正規 |
| 交換子群 | 非可換群の可換化 | 共役で閉じる |
| 指数2の部分群 | 有限群の部分群 | 左右の剰余類が一致 |
| 中心 | 行列群や対称性の群 | すべての元と交換する |
中心 Z(G)とは、G のすべての元と交換する元全体です。
中心の元 z は gzg⁻¹=z を満たすため、中心は常に正規部分群になります。
この例は、可換性と正規性の関係を理解するうえでも分かりやすいものです。
身近な対称性との対応
続いては正規部分群を身近な対称性や分類の考え方と結び付けて確認していきます。
時計算と剰余類
12時間制の時計では、12時間進めると元の時刻に戻ります。
整数の差が 12 の倍数なら同じ時刻とみなすため、12Z が作る剰余類を使っています。
ここでは 12Z が Z の正規部分群であり、Z/12Z が時計の時刻の演算を表します。
午前と午後を細かく区別しない時計盤では、13時と1時が同じ位置になる仕組みです。
このように、正規部分群は違いをまとめるルールとして理解できます。
図形の回転と反射
正三角形の対称性を考えると、回転と反射を合わせた群が現れます。
回転だけの集合は三つの元からなる部分群です。
反射を行った後に回転を見ても、回転の向きが変わるだけで回転全体の集合から外れません。
そのため、正三角形の対称群における回転部分群は正規部分群になります。
一方で一つの反射だけを取り出した部分群は、別の反射による共役で移されるため、通常は正規ではありません。
置換群で見た A₃ と、図形の回転群の関係は深く対応しています。
分類と情報の圧縮
正規部分群による商群では、部分群の中にある違いを無視して、大きな分類だけを残します。
偶数と奇数への分類では、偶数同士の細かな差をいったん忘れます。
置換の偶奇では、どのような並べ替えかよりも偶置換か奇置換かを残します。
交換子群による可換化では、演算順序による違いをまとめます。
この見方を持つと、正規部分群は単なる条件ではなく、意味のある情報だけを抽出する境界として理解できるでしょう。
抽象代数学では、何を同一視し、何を区別するかを設計することが大切です。
まとめ
正規部分群は、左剰余類と右剰余類が一致し、共役操作によっても保たれる部分群です。
整数の加法群 Z では可換性により、nZ を含むすべての部分群が正規部分群になります。
偶数と奇数、時計の時刻、合同式は、正規部分群と商群の身近な具体例です。
置換群では交代群 Aₙ が重要な正規部分群であり、指数が 2 であることや符号写像の核であることから確認できます。
交換子群や準同型写像の核も、正規部分群を見つける代表的な道筋です。
問題を解くときは、可換群かどうか、指数が 2 かどうか、核として表せるか、共役で保たれるかを順に調べるとよいでしょう。
正規部分群を理解すると、商群、合同式、対称性、可換化が一本の線でつながります。