正規部分群と剰余群の関係は?性質もあわせて解説!(商群:位数:ラグランジュの定理など)
群論では、ある群を部分群によって分類し、新しい群として扱う考え方が重要になります。
その中心にあるのが正規部分群と剰余群です。
正規部分群であれば左剰余類と右剰余類が一致し、剰余類全体に自然な演算を定められます。
この仕組みを理解すると、商群の位数、準同型写像、ラグランジュの定理までが一つの流れとして見えてくるでしょう。
正規部分群と剰余群の関係

それではまず正規部分群と剰余群の関係について解説していきます。
部分群から剰余類への分類
群を G、その部分群を H とします。
G の元 g を一つ選んだとき、H の各元 h に g を左から掛けた集合 gH を左剰余類と呼びます。
集合として書けば、gH は gh という形の元をすべて集めたものです。
左剰余類は gH です。
右剰余類は Hg です。
可換群では gh と hg が常に等しいため、左剰余類と右剰余類は自動的に一致します。
剰余類は、群 G の元をばらばらに分けるための箱のような役割を担います。
ある二つの左剰余類 gH と kH は、共通する元を持つなら完全に同じ集合になります。
反対に、同じでなければ共通部分を持ちません。
この性質により、G は H の左剰余類によって重複なく分割されます。
たとえば整数全体の加法群 Z で、3 の倍数全体 3Z を考えると、剰余類は 3Z、1+3Z、2+3Z の三つです。
これは整数を 3 で割った余りごとに分ける操作と同じ意味になります。
正規部分群が必要になる理由
剰余類を集めただけでは、まだ新しい群ができたとはいえません。
商群を作るには、剰余類どうしの積を矛盾なく決める必要があります。
そこで必要になる条件が 正規部分群 です。
H が G の正規部分群であるとは、すべての g に対して gH と Hg が一致することを意味します。
記号では H が G の正規部分群であることを H ⫳ G と表します。
別の表現では、任意の g と任意の h に対して ghgの逆元が再び H に属することが条件です。
この共役による閉性は、非可換群で正規性を確認する際の重要な判定基準になります。
剰余類はどの部分群からでも作れます。
しかし、剰余類全体に群演算を定めて商群にできるのは、原則として部分群が正規部分群である場合です。
正規性がない場合、代表元の選び方によって剰余類の積が変わるおそれがあります。
たとえば gH と kH の積を gkH と置きたくても、g の代わりに gh、k の代わりに kl を選んだときに同じ結果になる保証がありません。
正規部分群なら、その保証が成立します。
商群としての剰余類全体
H が G の正規部分群であるとき、H による剰余類全体の集合を G/H と書きます。
これを H による商群、または剰余群と呼びます。
商群での演算は、二つの剰余類 gH と kH に対し、gkH を対応させる形で定義されます。
商群の演算は次の考え方です。
gH と kH の積は gkH です。
単位元は H そのものであり、gH の逆元は gの逆元H になります。
ここで H 自身が商群の単位元になる点は、初学者がつまずきやすい部分です。
元 e を含む剰余類 eH は H と一致するため、H が単位元の役割を果たします。
商群は元の群 G の細かな違いを、H に属する差としてまとめて見えなくする構造です。
そのため、商群は群を単純化して眺める道具ともいえるでしょう。
正規部分群の判定方法
続いては正規部分群の判定方法を確認していきます。
左剰余類と右剰余類の一致
定義に最も忠実な判定方法は、任意の g に対して gH と Hg が等しいかを調べる方法です。
対象となる群が小さい場合には、実際に剰余類を書き並べることで確認できます。
たとえば可換群では、任意の元について gh と hg が一致します。
したがって可換群のすべての部分群は正規部分群です。
整数の加法群、実数の加法群、巡回群などでは、部分群を見つけた時点で正規性も得られます。
一方、置換群や行列群のように演算が可換とは限らない群では、慎重な確認が必要です。
| 群の種類 | 部分群の正規性 | 確認の考え方 |
|---|---|---|
| 可換群 | すべて正規部分群 | 左から掛けても右から掛けても結果が一致 |
| 巡回群 | すべて正規部分群 | 巡回群は可換群 |
| 一般の非可換群 | 部分群ごとに異なる | 共役または剰余類を確認 |
| 指数が二の部分群 | 必ず正規部分群 | 左剰余類と右剰余類が二種類しかない |
共役による閉性
非可換群では、任意の g と h に対して ghgの逆元が H に入るかを調べる方法が便利です。
これは H が共役によって変形されても変わらない、という意味です。
正規部分群は群の内部で特に対称性の高い部分群と考えられます。
共役は群の元を基準にして見方を変える操作ですが、その見方を変えても H の範囲が保たれます。
有限個の生成元で群が与えられている場合は、すべての元を調べる代わりに、生成元による共役を調べられることもあります。
正規性の判定では、すべての g について gHgの逆元が H と一致するかを見る方法が基本です。
片方の包含関係だけでなく、集合としての一致を意識することが大切になります。
なお、H が有限群の部分群であれば、各共役による像も H と同じ位数を持ちます。
このため一方の包含関係を示せば一致まで導ける状況もあります。
核による正規部分群
群準同型写像 f を考えるとき、f によって単位元へ移る元の集合を核と呼びます。
核は ker f と書かれ、群論では非常に重要な正規部分群の例です。
実際、任意の準同型写像の核は必ず正規部分群になります。
これは準同型写像が群の構造を保つことから自然に導かれます。
逆に、正規部分群 H が与えられれば、G から G/H への自然な写像を作れます。
この写像で H に入る元は商群の単位元 H へ移るため、その核は H になります。
つまり 正規部分群は準同型写像の核として現れるという見方ができます。
商群の演算と基本性質
続いては商群の演算と基本性質を確認していきます。
代表元に依存しない演算
商群の元は個別の元ではなく、剰余類という集合です。
それでも計算では gH のように代表元 g を使います。
ここで最も大切なのは、同じ剰余類を表す別の代表元を選んでも積の結果が変わらないことです。
gH と gの別表現H が同じ剰余類なら、二つの代表元の差は H の元で吸収されます。
H が正規部分群であれば、その差を積の途中で移動させても H の中に保てます。
このため剰余類の積を一意に決められます。
G が群、H が正規部分群のとき、剰余類の積は代表元を使って計算できます。
gH と kH を掛けると gkH です。
計算の途中で H の元が現れても、正規性によって最終的に同じ剰余類へ整理されます。
代表元は計算用の目印にすぎず、商群で本当に扱う対象は剰余類です。
この区別を保つと、商群の議論が整理しやすくなります。
単位元と逆元の対応
商群 G/H の単位元は H です。
どの剰余類 gH に対しても、H を掛ければ gH がそのまま残ります。
また、gH の逆元は gの逆元H です。
実際に二つを掛けると、ggの逆元H となり、これは H です。
結合法則も元の群 G の結合法則から引き継がれます。
したがって、正規部分群を使った剰余類全体は確かに群の公理を満たします。
商群は新しく作られた群ですが、演算の土台には元の群の構造が残っています。
可換性と単純化の視点
元の群 G が非可換であっても、商群 G/H が可換になる場合があります。
これは、非可換性を生む差が H の中へまとめられるためです。
特に交換子と呼ばれる元を含む正規部分群で割ると、商群の可換性を調べる場面があります。
群の複雑な振る舞いを、そのまま扱う代わりに重要な部分だけ残して比較できる点が商群の魅力です。
商群を作る操作は、H に属する違いを同じものとして扱う操作です。
どの違いを無視するかを決めるのが正規部分群であり、商群はその結果として得られる構造です。
正規部分群は分類の基準であり、商群は分類後の世界と捉えると理解しやすいでしょう。
位数とラグランジュの定理
続いては位数とラグランジュの定理を確認していきます。
部分群と剰余類の個数
有限群 G の位数とは、G に含まれる元の個数です。
部分群 H も有限なら、その位数は H の元の個数になります。
各左剰余類 gH は H と同じ個数の元を持ちます。
なぜなら、h を gh へ対応させる写像は一対一であり、漏れもないからです。
そして剰余類は G を重複なく分割します。
この二つの事実から、群 G の位数は H の位数と剰余類の個数の積になります。
剰余類の個数は H の G における指数と呼ばれます。
ラグランジュの定理
ラグランジュの定理は、有限群 G の部分群 H に対して、H の位数が G の位数を割り切ると述べる定理です。
さらに、G の位数は H の位数と指数の積で表されます。
この定理は部分群の候補を絞る際に役立ちます。
| 群の位数 | 部分群の位数として可能な値 | 考え方 |
|---|---|---|
| 6 | 1、2、3、6 | 6 の約数に限られる |
| 8 | 1、2、4、8 | 3 や 6 の部分群は存在できない |
| 12 | 1、2、3、4、6、12 | 約数であっても実在は別途確認 |
ただし、群の位数の約数なら必ずその位数の部分群が存在する、という意味ではありません。
ラグランジュの定理は必要条件を与える定理です。
この違いを押さえることが、問題演習での誤解を防ぎます。
商群の位数と指数
H が有限群 G の正規部分群である場合、商群 G/H の位数は H の指数に等しくなります。
商群の元は H の剰余類そのものだからです。
したがって、G の位数を H の位数で割れば商群の位数が求まります。
G の位数が 24、H の位数が 6 のとき、H の指数は 4 です。
H が正規部分群なら、商群 G/H の位数も 4 になります。
元の群の 24 個の元は、6 個ずつからなる四つの剰余類へ分けられます。
商群の位数は剰余類の個数であり、有限群では指数と同じです。
位数の計算は、抽象的に見える商群を具体的な大きさとして把握する手掛かりになります。
具体例による商群の理解
続いては具体例による商群の理解を確認していきます。
整数の加法群による例
整数全体 Z を加法についての群とみなし、n の倍数全体 nZ を部分群とします。
Z は可換群なので、nZ は必ず正規部分群です。
このとき商群 Z/nZ の元は、n で割った余りに対応する剰余類になります。
たとえば Z/4Z では、4Z、1+4Z、2+4Z、3+4Z の四つが商群の元です。
ここで 5+4Z は 1+4Z と同じ剰余類になります。
5 と 1 の差である 4 が 4Z に属するためです。
合同式の計算は、実質的にこの商群での計算と結び付いています。
余りによる分類は商群の代表的な例です。
巡回群による例
位数が 12 の巡回群を考えます。
生成元を a とし、a の三乗で生成される部分群を H とすると、H の位数は 4 です。
そのため H の指数は 3 になります。
巡回群は可換群なので H は正規部分群です。
商群は三つの剰余類からなり、位数 3 の巡回群と同じ構造になります。
この例では、部分群の位数と商群の位数を掛けると元の群の位数になる関係が明確です。
巡回群では部分群と商群の構造を比較的計算しやすいため、基本例としてよく使われます。
対称群における例
三文字の置換全体からなる対称群 S3 は、位数 6 の非可換群です。
この中で偶置換全体は位数 3 の部分群を作ります。
偶置換全体は A3 と呼ばれ、S3 の正規部分群です。
A3 の指数は 2 なので、商群 S3/A3 の位数は 2 になります。
商群の二つの元は、偶置換の剰余類と奇置換の剰余類に対応します。
置換の偶奇は積によって規則的に変化するため、分類基準として機能します。
S3/A3 では、偶置換を同じ類としてまとめ、奇置換も同じ類としてまとめます。
非可換な対称群から、位数 2 の単純な商群が得られる例です。
この例は、正規部分群による分類が非可換群でも有効であることを示しています。
準同型定理と正規部分群
続いては準同型定理と正規部分群を確認していきます。
自然な射影写像
正規部分群 H を持つ群 G から商群 G/H へ、各元 g を剰余類 gH に送る写像を考えます。
この写像は自然な射影写像と呼ばれます。
元をその剰余類へ送るだけなので、商群を作れば必ず得られる写像です。
この写像は積を保つため、群準同型写像になります。
また、H の元はすべて H という単位元の剰余類へ送られます。
よって射影写像の核は H です。
正規部分群が核として現れる理由を、最も直接的に確認できる場面になります。
第一同型定理
第一同型定理は、群準同型写像 f に対して、G を核で割った商群が像と同型になるという内容です。
ここで像とは、f によって実際に到達する元全体の集合です。
写像によって同じ値へ送られる元どうしは、核に属する差を持つ元としてまとめられます。
そのまとめ方が商群の剰余類と一致します。
つまり、準同型写像による情報の圧縮と、正規部分群による商群の構成は同じ構造を別の角度から見ています。
核で割ると像が得られるという見方を覚えると、抽象的な定理が具体的になります。
問題で確認したい着眼点
正規部分群と商群の問題では、最初に群 G と部分群 H を明確に区別することが重要です。
次に H が本当に正規部分群かを確認します。
正規性が確認できたら、剰余類の個数、商群の演算、位数を順番に整理するとよいでしょう。
有限群であれば、ラグランジュの定理から候補となる位数を先に確認できます。
準同型写像が登場する問題では、核と像を求め、第一同型定理との対応を意識します。
| 確認する項目 | 見る内容 | 得られる情報 |
|---|---|---|
| 部分群性 | 単位元、逆元、演算について閉じているか | 剰余類を考える土台 |
| 正規性 | 左剰余類と右剰余類、または共役 | 商群が定義できるか |
| 位数 | 部分群の位数と指数 | 商群の元の個数 |
| 準同型 | 核と像 | 商群との同型関係 |
まとめ
正規部分群は、群の中で剰余類による分類を矛盾なく演算へ結び付けるための特別な部分群です。
H が正規部分群であれば、剰余類全体 G/H は商群になります。
商群では H が単位元となり、剰余類の積は代表元の積から計算できます。
正規部分群があるから商群を定義できるという関係が、最も重要なポイントです。
有限群では、ラグランジュの定理により、元の群の位数は部分群の位数と指数の積になります。
正規部分群の場合、その指数は商群の位数でもあります。
さらに正規部分群は準同型写像の核として現れ、第一同型定理を通じて像と商群を結び付けます。
剰余類による分類、正規性の判定、位数の計算、核と像の対応を順に押さえることで、商群の問題を整理して考えられるでしょう。