送電ロス率はどれくらいなのか、「電気を送るときにどのくらいのエネルギーが失われるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
発電所で作られた電気はすべてがそのまま家庭に届くわけではなく、送電線を流れる過程で一定の電力損失(送電ロス)が生じます。
送電効率・電力損失の原因・距離や抵抗との関係・改善方法など、送電ロスに関わるキーワードを整理しながら詳しく解説いたします。
省エネルギーや電力インフラに関心をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。
送電ロス率の実態:日本と世界の現状
それではまず送電ロス率の実態と日本・世界の現状について解説していきます。
送電ロス率とは、発電所で発電された電力量のうち、送配電過程で失われる電力の割合を示す指標です。
日本の送配電損失率は、国際的に見ても低い水準にあり、近年では発電電力量の約4〜5%程度が送配電ロスとして失われているとされています。
これは、日本の送電インフラが高い技術水準で整備・維持されていることの証左といえるでしょう。
日本の送電ロス率の推移
日本の送電ロス率は、技術の進歩と設備の改善により長期的に低下傾向をたどってきました。
1960年代には10%を超えていたとされる送配電損失率は、高電圧化・設備近代化・需要地近接の発電所立地などによって着実に改善されてきました。
現在の約4〜5%という水準は、世界トップクラスの送電効率であり、技術的な成熟度の高さを示しています。
| 国・地域 | 送配電損失率(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 約4〜5% | 世界トップクラスの低損失 |
| ドイツ | 約4〜5% | 再生可能エネルギー比率が高い |
| アメリカ | 約5〜6% | 国土が広く長距離送電が多い |
| インド | 約18〜20% | 設備老朽化・不法接続が課題 |
| 途上国平均 | 10〜30%以上 | 設備不足・技術水準の課題 |
送電ロス率の計算方法
送電ロス率は、以下の計算式で求めることができます。
送電ロス率の計算式
送電ロス率(%)=(送電損失電力量 ÷ 発電電力量)× 100
送電損失電力量 = 発電電力量 − 需要家に届いた電力量
例:発電量100kWh、需要家受取96kWhの場合
送電ロス率 =(100 − 96)÷ 100 × 100 = 4%
送電ロスと配電ロスの内訳
送配電全体のロスは、送電系統でのロスと配電系統でのロスに分けて考えることができます。
一般的に、送電系統(高圧・超高圧)でのロスは比較的小さく、配電系統(低圧・高圧配電)でのロスが送配電損失全体の多くを占める傾向があります。
変電所での変圧器ロスや、配電線での抵抗損が送配電損失の主要成分となっています。
送電ロスが発生する原因
続いては送電ロスが発生する原因について確認していきます。
電力損失はいくつかの異なるメカニズムによって生じており、それぞれへの対策が重要です。
抵抗損(ジュール損)のメカニズム
送電ロスの中で最も大きな割合を占めるのが、電線の電気抵抗によって生じる「抵抗損(ジュール損)」です。
電流が電線を流れる際、電線の電気抵抗によってエネルギーが熱として失われます。
この損失量はP = I²R(電流の2乗 × 電気抵抗)で表されるため、電流が大きくなると損失は急激に増加します。
電流を2倍にすると抵抗損は4倍になるため、電圧を高くして電流を小さくすることが送電ロス低減の基本中の基本です。
距離と抵抗の関係
電線の電気抵抗は、電線の長さに比例し、断面積に反比例します。
つまり、送電距離が長くなるほど電気抵抗が大きくなり、送電ロスも増加します。
また、電線が細いほど抵抗が大きくなるため、大電流を流す場合は太い電線(大断面積)を使用する必要があります。
電気抵抗と送電ロスの関係式
電気抵抗 R = ρ × L / A
ρ:電気抵抗率(材料固有)、L:電線の長さ、A:断面積
送電ロス P_loss = I² × R = I² × ρ × L / A
→ 距離Lが長いほど・断面積Aが小さいほど損失は増加する
その他の損失原因
抵抗損以外にも、いくつかの種類の損失が送電系統で発生します。
コロナ放電損失は、超高圧送電線の周囲で空気が部分放電(コロナ放電)することによって生じるエネルギー損失です。
変圧器での鉄損(ヒステリシス損・渦電流損)も、変電設備における重要な損失源となっています。
また、力率(無効電力)の低下も実効的な送電効率の低下につながるため、力率改善コンデンサの設置が有効な対策となります。
送電ロスを改善するための対策
続いては送電ロスを改善するための対策について確認していきます。
技術的・運用的な両面から、さまざまな改善方法が実践されています。
高電圧化による送電効率の向上
送電ロス低減の最も基本的かつ効果的な対策が、送電電圧の高電圧化です。
電圧を高くすることで同じ電力を送るために必要な電流が小さくなり、抵抗損を大幅に削減できます。
日本では、275kV・500kVの超高圧送電が幹線系統を中心に普及しており、100万ボルト(1,000kV)クラスの超々高圧送電の研究・整備も進められています。
電圧を500kVから1,000kVに引き上げると、同じ電力の送電ロスを約1/4に削減できる計算になります。
直流送電(HVDC)の活用
長距離・大容量送電において、直流高圧送電(HVDC:High Voltage Direct Current)は交流送電と比べて送電ロスが少ないという特徴があります。
直流送電では、交流のように電流・電圧が周期的に変動しないため、リアクタンスによる無効電力損失が発生しません。
また、海底ケーブルを使った長距離送電では、直流送電が技術的・経済的に有利とされており、国際連系線にも活用されています。
設備の近代化と高効率変圧器の導入
変電所の変圧器を高効率型に更新することも、送配電損失低減に直結する重要な対策です。
近年の高効率変圧器は、アモルファス鉄心材料の採用などによって従来型と比べて鉄損を大幅に低減しています。
設備更新のタイミングで高効率機器への置き換えを推進することで、中長期的な送配電損失の削減が期待できるでしょう。
送電ロス低減のための主要対策まとめ
・送電電圧の高電圧化(同じ電力でも電流を小さくして抵抗損を削減)
・直流送電(HVDC)の長距離・海底ケーブル区間への適用
・高効率変圧器(アモルファス鉄心)への設備更新
・力率改善コンデンサの設置による無効電力損失の低減
・太い電線(大断面積)の採用による電気抵抗の低減
・需要地近接の発電所立地による送電距離の短縮
送電ロス低減と脱炭素社会への貢献
続いては送電ロス低減と脱炭素社会への貢献について確認していきます。
送電ロスの削減は、省エネルギーや温室効果ガスの排出削減にも直結する重要な取り組みです。
送電ロス削減の省エネルギー効果
送電ロスが削減されれば、同じ電力を需要家に届けるために必要な発電量を減らすことができます。
発電量の削減は、燃料消費量の削減に直結し、CO₂などの温室効果ガス排出量の削減にもつながります。
送電ロス率を1%低減するだけで、日本全体では年間で非常に大きな電力量の節約が実現できるといわれています。
再生可能エネルギーと送電ロスの関係
再生可能エネルギーは地方・沿岸部に立地する場合が多く、大消費地の都市部まで長距離送電が必要になることがあります。
長距離送電では送電ロスが増加するため、再生可能エネルギーの普及に伴い送電効率の向上がより重要な課題となっています。
需要地近接型の分散電源(屋根置き太陽光・地域マイクログリッド等)の活用も、配電ロスの削減に有効なアプローチです。
超電導送電の将来展望
電気抵抗がゼロになる超電導材料を使用した超電導送電ケーブルは、理論上抵抗損をゼロにできる夢の技術として研究が進んでいます。
現時点では超低温冷却設備のコストが大きな障壁となっていますが、高温超電導材料の開発が進むことで実用化への道が開けてくるでしょう。
超電導送電の実用化は、送電ロス率を劇的に低下させ、脱炭素社会の実現に大きく貢献する可能性を持っています。
まとめ
本記事では、送電ロス率の実態・送電ロスの原因・改善方法・脱炭素社会への貢献について幅広く解説いたしました。
日本の送電ロス率は約4〜5%と世界トップクラスの低水準にありますが、さらなる改善に向けた高電圧化・直流送電・設備近代化・超電導技術の開発が続けられています。
送電ロスの削減は、省エネルギー・CO₂削減・再生可能エネルギーの有効活用に直結する重要な取り組みです。
電力インフラの効率化に向けた技術革新の動向にぜひ引き続きご注目いただければ幸いです。