化学製品や部品を輸出入する企業にとって、REACH規則の含有率基準は避けて通れないテーマです。
とくに「0.1%基準」という数字は聞いたことがあっても、何に対しての0.1%なのか、どう計算すればよいのか曖昧なまま実務を進めている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、REACH規則の含有率基準は?0.1%基準の考え方も解説(閾値:算出方法:SDS:情報伝達義務など)というテーマのもと、閾値の考え方から具体的な算出方法、SDSでの記載方法、サプライチェーンにおける情報伝達義務まで、実務担当者が押さえておくべきポイントを一つずつ整理していきます。
専門用語が多い分野ですが、できるだけかみ砕いて解説しますので、初めてREACH対応に携わる方にも参考にしていただける内容です。
REACH規則の含有率基準の結論、0.1%は成形品中のSVHC重量比で判断される
それではまずREACH規則の含有率基準について結論から解説していきます。
結論として、REACH規則における0.1%基準とは、成形品(アーティクル)に含まれる高懸念物質、いわゆるSVHCの重量が成形品全体の重量に対して0.1%を超えるかどうかを判断する基準のことです。
この0.1%という数値は、単純に製品全体に対する比率であり、部品ごとに個別評価するのか製品全体で評価するのかによって結果が大きく変わってくる点に注意が必要です。
REACH規則における0.1%基準のポイントは、対象がSVHC(高懸念物質)であること、基準は重量比であること、そして成形品ごとに算出する必要があることの3点に集約されます。
この基準を超える場合、企業には情報伝達義務や届出義務といった具体的な対応が求められます。
SVHCとは何か
SVHCとは、Substances of Very High Concernの略で、発がん性や生殖毒性、環境残留性などが懸念される物質を指します。
2026年時点でSVHC候補リストに掲載されている物質は200種類を超えており、半年に一度のペースで追加更新が行われています。
このリストは欧州化学機関、通称ECHAが管理しており、企業は常に最新のリストを確認する必要があります。
リストに新規物質が追加されるたびに、既存製品の含有状況を再チェックしなければならない点は、実務上かなりの負担になっています。
成形品と混合物の違い
REACH規則では、製品の形態によって適用される規制の枠組みが異なります。
成形品とは、化学的な組成よりも形状や表面、デザインによって機能が決まる製品のことで、ねじや基板、家電製品などが該当します。
一方で塗料やインクのような混合物は、成形品とは異なるルールで評価される点も理解しておく必要があります。
同じ物質を含んでいても、成形品か混合物かで評価方法がまったく異なるため、この区別を誤ると計算結果も誤ってしまいます。
基準を超えた場合に生じる義務
0.1%基準を超えた場合、企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。
主に情報伝達義務、届出義務、そして場合によっては認可取得義務が発生します。
情報伝達義務については後述しますが、サプライチェーン内の川下企業や消費者に対して、含有物質の情報を提供する責任が生じます。
届出義務は一定の条件を満たす場合にECHAへの届出が必要となるもので、対応を怠ると罰則の対象になることもあります。
REACH規則における閾値の考え方、対象範囲と重量比計算の基本
続いては閾値の考え方について確認していきます。
閾値とは、規制対象となるかどうかを分ける境界線の数値のことで、REACH規則では基本的に重量比0.1%がこの役割を果たします。
しかし単に0.1%と覚えるだけでは不十分で、どの範囲を分母として計算するのかという点が非常に重要になります。
分母となる範囲の考え方
閾値計算における分母は、原則として一つの成形品の総重量です。
例えば複数の部品からなる完成品全体を一つの成形品とみなすのか、それとも部品単位で成形品として扱うのかによって、計算結果が大きく変わってきます。
例えば重さ1000グラムの製品のうち、SVHCを含む部品が2グラムであれば、その部品単独では0.2%となり基準を超えます。
しかし製品全体で計算すると0.2%はそのままでも、分母が変わることで判断が変わるケースがあります。
ECHAのガイダンスでは「複合成形品」という考え方が示されており、原則として個々の成形品ごとに0.1%を判断することとされています。
複合成形品の扱い方
複合成形品とは、複数の成形品が組み合わさって一つの製品を構成している状態を指します。
スマートフォンやパソコンのように、多数の部品が組み合わさった製品はまさにこの複合成形品に該当します。
このような製品では、組み立てられた完成品ではなく、構成する個々の部品ごとに0.1%基準を適用するのが基本的な考え方です。
したがって、一見して製品全体では基準を下回っているように見えても、内部の特定部品だけを見ると基準を超えているケースが少なくありません。
対象範囲を誤りやすいケース
実務でよくある誤解として、製品全体の平均値で判断してしまうケースが挙げられます。
これは前述の複合成形品の考え方に反しており、実際の審査や取引先からの問い合わせで問題になりやすいポイントです。
また、梱包材やラベルなど、製品の機能に直接関係しない付属品についても、成形品として個別に評価が必要になる場合があります。
判断に迷う場合は、ECHAが公開しているガイダンス文書を参照するか、専門機関に相談することをおすすめします。
REACH規則の含有率の算出方法、具体的な計算手順を解説
続いては含有率の具体的な算出方法を確認していきます。
算出方法自体はシンプルで、対象物質の重量を成形品全体の重量で割り、100を掛けることでパーセンテージが求められます。
基本の計算式
含有率の計算式は、含有率(%)=対象物質の重量÷成形品の重量×100という形で表されます。
例えば成形品の重量が500グラムで、含有するSVHCの重量が0.6グラムであれば、含有率は0.12%となり基準を超過します。
この計算式自体は難しいものではありませんが、対象物質の重量を正確に把握することが実務上の最大の課題です。
部品メーカーからの成分証明書やSDSがなければ、正確な計算はほぼ不可能といえます。
サプライチェーン情報の収集方法
自社が完成品メーカーの場合、部品や原材料に含まれるSVHCの情報は、サプライヤーから提供してもらう必要があります。
近年は多くの企業がIMDSやchemSHERPAといった情報伝達スキームを活用し、サプライチェーン全体で含有物質データを共有しています。
サプライヤーからの回答が「含有なし」であっても、その根拠となる分析データや証明書を保管しておくことが望ましい対応です。
これは万が一の監査や取引先からの問い合わせに備えるためであり、口頭での確認だけでは証拠として不十分になります。
計算時に注意すべきポイント
算出方法でよくあるミスは、複数の原材料に同じSVHCが微量ずつ含まれている場合の合算を忘れてしまうことです。
一つひとつの原材料では0.1%を下回っていても、成形品全体として合算すると基準を超えてしまうことがあります。
また、不純物として意図せず混入している物質についても、判明している場合は含有率計算に含める必要があります。
このように、算出方法は単純な割り算であっても、対象範囲の設定や情報の網羅性によって結果が左右される点に十分注意しましょう。
SDSにおけるREACH規則の含有率基準の記載方法
続いてはSDSでの情報伝達について確認していきます。
SDSとは安全データシートのことで、化学物質や混合物を取引する際に、その危険性や取り扱い方法をまとめた文書です。
SDSに記載すべき項目
REACH規則に関連して、SDSには含有するSVHCの名称、濃度、CAS番号などを記載する必要があります。
とくに第3項の組成情報や第15項の適用法令の欄には、REACH規則に基づく規制情報を明記することが求められます。
SDSは単なる社内資料ではなく、川下企業が自社製品の含有率を判断するための重要な根拠資料になります。
記載内容に誤りや漏れがあると、川下企業側での含有率判断そのものが誤ってしまうため、正確性が何より重視されます。
成形品にSDSは必要なのか
混合物とは異なり、成形品そのものには法的にSDSの提供義務はありません。
しかし実務上は、取引先からの要求に応じて、成形品についても含有物質情報を提供する場面が増えています。
義務ではないからといって情報提供を怠ると、取引そのものが継続できなくなるリスクがある
そのため多くの企業では、SDSに準じた形式で成形品の含有物質情報を整理し、取引先に提供できる体制を整えています。
SDSの更新タイミング
SVHC候補リストは半年に一度のペースで更新されるため、SDSもそれに合わせて見直す必要があります。
新規物質がリストに追加された場合、既存の製品にその物質が含まれていないかを速やかに確認しなければなりません。
確認の結果、含有が判明した場合はSDSを改訂し、関係する取引先へ速やかに通知することが求められます。
この更新作業を怠ると、最新の規制状況を反映していないSDSを提供し続けることになり、コンプライアンス上のリスクにつながります。
REACH規則における情報伝達義務、サプライチェーン全体での対応
続いては情報伝達義務について確認していきます。
REACH規則第33条では、成形品中のSVHC含有率が0.1%を超える場合、サプライヤーは受領者に対して情報を提供する義務があると定めています。
企業間での情報伝達義務
この義務は、企業間の取引だけでなく、消費者から要求があった場合にも適用される点が特徴です。
消費者から問い合わせを受けた企業は、原則として45日以内に無償で情報を提供しなければなりません。
たとえ川下企業からの直接の依頼がなくても、義務は自動的に発生する
情報提供を怠った場合、EU域内での取引停止や罰則の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
届出義務との関係
情報伝達義務とは別に、一定の条件を満たす成形品については、ECHAへの届出義務が発生します。
具体的には、成形品中のSVHC含有率が0.1%を超え、かつ年間1トンを超える量をEU域内で製造または輸入している場合が対象です。
ただし、通常の使用条件下で当該物質への曝露が想定されない場合は、届出が免除される規定もあります。
この免除規定の適用可否については判断が難しいケースも多く、専門家の助言を受けながら進めるのが安全です。
違反した場合のリスク
情報伝達義務や届出義務に違反した場合、加盟国ごとに定められた罰則が科される可能性があります。
罰則の内容は国によって異なりますが、罰金だけでなく、製品の販売差し止めや回収命令に発展するケースも報告されています。
REACH規則への対応不備は、単なる法令違反にとどまらず、企業のブランドイメージや取引先からの信頼を大きく損なうリスクがある点を忘れてはいけません。
実際に、大手企業との取引において、REACH対応状況が取引継続の条件として明示されるケースも増えてきています。
まとめ
今回はREACH規則の含有率基準は?0.1%基準の考え方も解説(閾値:算出方法:SDS:情報伝達義務など)というテーマで解説してきました。
0.1%基準は成形品ごとのSVHC重量比で判断されるものであり、複合成形品の場合は部品単位での評価が原則となります。
算出方法自体はシンプルな計算式ですが、正確なサプライチェーン情報の収集が何より重要になります。
SDSへの正確な記載や、SVHCリストの更新に合わせた見直しも欠かせない対応です。
そして基準を超える場合には、情報伝達義務や届出義務といった具体的な対応が求められることを忘れてはいけません。
REACH規則は今後も改訂が続くと見込まれる分野ですので、最新情報を継続的にキャッチアップしながら、自社のサプライチェーン管理体制を整えていくことが大切です。