構造力学でせん断力図と曲げモーメント図を作成するとき、多くの人が最初に迷うのが正負の扱いです。
荷重の向きや反力の符号は理解できても、切断面の左右で矢印が反対になることや、モーメント図を上側と下側のどちらに描くかで混乱しやすいでしょう。
ただし、符号には一定の約束があり、最初に採用したルールを途中で変えずに使うことが最も重要です。
本記事では、単純支持ばりを中心に、せん断力と曲げモーメントの正負、図の読み方、計算の進め方、間違えやすい点を順番に解説します。
せん断力とモーメント図の正負の基本

それではまず、せん断力図と曲げモーメント図の正負について解説していきます。
正負を決める目的
せん断力や曲げモーメントは、部材内部に発生する力を数値化したものです。
外から荷重が加わると、はりの内部では切ろうとする力や曲げようとする力が生じますが、その向きを整理するために符号を使います。
つまり、正負は単純に大きさの大小を示すものではありません。
部材がどのような変形を受ける方向の力なのかを区別する記号として理解すると、図との関係が見えやすくなります。
計算結果がマイナスになった場合でも、誤りとは限りません。
最初に仮定した向きと実際の向きが逆だったことを示しているだけです。
せん断力と曲げモーメントの符号は、正しい向きを当てるためだけのものではありません。
部材の変形、応力の分布、最大値の位置を一貫して判断するための共通ルールです。
一般的なせん断力の符号
せん断力は、はりを仮想的に切断したときに断面を上下へずらそうとする内力です。
一般的な構造力学の約束では、切断面の左側を取り出した場合、断面を時計回りに回そうとする向きのせん断力を正とします。
図で表すと、左側断面では上向き、右側断面では下向きになる組合せが正のせん断力です。
反対に、左側断面で下向き、右側断面で上向きとなる組合せは負として扱います。
ここで重要なのは、左右の部材を別々に考えたとき、内力は作用反作用の関係になる点です。
片側で上向きに描いた矢印は、もう片側では必ず下向きになります。
| 対象 | 正のせん断力 | 負のせん断力 |
|---|---|---|
| 切断面の左側を取り出す場合 | 切断面で上向き | 切断面で下向き |
| 切断面の右側を取り出す場合 | 切断面で下向き | 切断面で上向き |
| せん断力図の表現 | 基準線より上側 | 基準線より下側 |
一般的な曲げモーメントの符号
曲げモーメントは、はりをたわませようとする内力のモーメントです。
一般的には、はりが下にたわみ、中央部が笑った口のような形になる曲げを正曲げモーメントと呼びます。
この状態では、断面の上側が圧縮され、下側が引張されます。
一方で、中央部が持ち上がるような形は負曲げモーメントです。
負曲げモーメントでは、上側が引張となり、下側が圧縮になります。
正曲げは下側引張、負曲げは上側引張と覚えると、鉄筋コンクリートや鋼材の検討にもつながります。
正曲げモーメントの代表例は、両端で支えたはりの中央に下向き荷重が作用する場合です。
負曲げモーメントの代表例は、片持ちばりの先端に下向き荷重が作用する場合です。
せん断力図と曲げモーメント図の作図規則
続いては、せん断力図と曲げモーメント図を作るための基本規則を確認していきます。
荷重とせん断力図の関係
せん断力図は、部材のある位置で上下方向に釣り合う力を表した図です。
集中荷重がある位置では、せん断力の値が荷重の大きさだけ急に変化します。
下向きの集中荷重なら、せん断力図はその地点で下へ落ちます。
上向き反力なら、図は上へ跳ね上がる形です。
等分布荷重が作用する区間では、せん断力は一直線に変化します。
荷重が等しく分布しているため、位置に応じて累積する荷重が比例するからです。
せん断力図の傾きは、分布荷重の大きさと向きで決まると考えると整理できます。
| 荷重の状態 | せん断力図の形 | 変化の特徴 |
|---|---|---|
| 荷重なし | 水平線 | せん断力は一定 |
| 集中荷重 | 段差 | 荷重位置で急変 |
| 等分布荷重 | 斜めの直線 | 一定の傾きで変化 |
| 三角形分布荷重 | 曲線 | 傾きが徐々に変化 |
せん断力図とモーメント図の関係
せん断力と曲げモーメントには密接な関係があります。
せん断力が正の区間では、通常の表記方法では曲げモーメント図が右へ進むにつれて増加します。
反対にせん断力が負の区間では、曲げモーメント図は減少する形です。
せん断力がゼロになる位置は、曲げモーメントが極大または極小となる候補です。
そのため、最大曲げモーメントを求めるときは、まずせん断力がゼロとなる点を探します。
ただし、端部や集中モーメントの位置も確認が必要です。
境界条件によっては、端部に最大値が現れることもあります。
せん断力図の面積は、曲げモーメントの変化量に対応します。
せん断力図を左端から順に追えば、モーメント図を描くための数値を確認できます。
荷重とモーメント図の形
荷重が作用していない区間では、せん断力が一定となるため、曲げモーメント図は直線になります。
等分布荷重の区間では、せん断力が直線的に変わるため、曲げモーメント図は放物線です。
荷重の種類を見れば、モーメント図の輪郭もある程度予想できます。
例えば、単純支持ばりに等分布荷重が載る場合、せん断力図は左上から右下へ傾く直線になります。
曲げモーメント図は両端でゼロとなり、中央付近で最大となる滑らかな放物線です。
図の形が計算結果と合わないと感じたら、反力や荷重の符号を見直すとよいでしょう。
切断法による符号の考え方
続いては、断面を切って内力を求める切断法の考え方を確認していきます。
左側部分を取り出す場合
切断法では、知りたい位置で部材を切断し、左側または右側の一部分だけを取り出して釣り合い式を立てます。
左側部分を取り出す方法は、左端から順にせん断力図と曲げモーメント図を作成するときに使いやすい手順です。
左側断面に正のせん断力を仮定するなら、矢印は上向きに描きます。
正の曲げモーメントは、切断面で反時計回りに描く約束がよく使われます。
この向きに仮定して釣り合い式を解き、結果がプラスなら仮定した方向が正しかったことになります。
マイナスなら、実際の向きは仮定と逆です。
左側部分について鉛直方向の釣り合いを立てる場合、上向きを正として考えます。
反力の和から下向き荷重の和を引き、最後に切断面のせん断力を含めてゼロになるよう整理します。
数式では、ΣV=0として扱います。
右側部分を取り出す場合
右側部分を取り出しても、最終的なせん断力と曲げモーメントの値は同じになります。
ただし、切断面に描く内力の矢印や回転方向は、左側部分の場合と反対です。
右側断面で正のせん断力を描くなら下向きとなります。
正の曲げモーメントは、右側部分では時計回りに作用する向きです。
ここを左側の図と同じ向きにしてしまうと、作用反作用の関係が崩れます。
左側と右側のどちらを選んでもよいものの、同じ断面内で向きを混在させないことが欠かせません。
釣り合い式と符号の読み替え
構造力学では、水平力の釣り合い、鉛直力の釣り合い、モーメントの釣り合いを用います。
はりの問題では、通常は鉛直方向の力とモーメントの釣り合いが中心です。
時計回りを正にするか、反時計回りを正にするかは、最初に決めればどちらでも構いません。
ただし、問題を解く途中で基準を変えると、計算は合っていても図が逆になるおそれがあります。
特に、モーメントの釣り合い式では、支点からの距離と荷重の向きを同時に確認してください。
符号だけを見るのではなく、力がどちら側でどのように回転させるかを図で追う姿勢が大切です。
計算途中で負の値が出た場合は、式を消してやり直す必要はありません。
仮定した内力の向きと実際の向きが反対だったと読み替え、図の符号と整合するかを確認しましょう。
単純支持ばりの計算方法
続いては、単純支持ばりを例に、せん断力と曲げモーメントの計算方法を確認していきます。
中央集中荷重を受ける場合
長さLの単純支持ばりの中央に、下向き集中荷重Pが作用するケースを考えます。
左右対称であるため、左支点と右支点の鉛直反力はどちらもPの半分です。
左端から中央までの区間では、せん断力は常にプラスPの半分となります。
中央の集中荷重を越えると、せん断力はPだけ下がり、マイナスPの半分に変化します。
したがって、モーメント図は中央まで直線的に増加し、中央から右端へ向けて直線的に減少します。
最大曲げモーメントは中央で発生します。
中央集中荷重を受ける単純支持ばりでは、最大曲げモーメントはPLを4で割った値です。
せん断力が正から負へ切り替わる中央位置が、モーメント図の頂点になります。
等分布荷重を受ける場合
長さLの単純支持ばり全体に、単位長さ当たりwの等分布荷重が作用する場合を考えます。
総荷重はwLとなり、左右の反力はそれぞれwLの半分です。
左端から距離xの断面を切ると、その左側に作用する等分布荷重はwxです。
このため、せん断力はwLの半分からwxを引いた式で表されます。
せん断力がゼロになる位置は、はりの中央です。
そこでは曲げモーメントが最大となり、その大きさはwLの二乗を8で割った値になります。
分布荷重では、せん断力が直線、モーメントが放物線になることを計算後の検算にも使えます。
| 荷重条件 | 反力 | せん断力図 | 最大曲げモーメント |
|---|---|---|---|
| 中央集中荷重P | 各支点でPの半分 | 二段の水平線 | PLを4で割った値 |
| 全長等分布荷重w | 各支点でwLの半分 | 右下がりの直線 | wLの二乗を8で割った値 |
| 片側集中荷重 | 荷重位置で異なる | 段差を含む水平線 | せん断力ゼロ付近で確認 |
集中モーメントが作用する場合
はりの途中に集中モーメントが作用すると、せん断力図には直接的な段差が生じません。
一方で、曲げモーメント図には集中モーメントの大きさに対応する段差が現れます。
例えば、正方向の外力モーメントが作用する位置では、内力としての曲げモーメント図が急に変化します。
集中荷重と集中モーメントを同じように扱うと、図を誤る原因になります。
集中荷重はせん断力を変え、集中モーメントは曲げモーメントを変えるという役割の違いを押さえましょう。
符号で迷いやすい場面と確認方法
続いては、せん断力とモーメント図で符号を間違えやすい場面と確認方法を解説していきます。
たわみ形状との照合
曲げモーメントの正負は、はりのたわみ形状と結び付けると確認しやすくなります。
単純支持ばりに下向き荷重が作用すれば、通常は中央が下がる形です。
この区間は正曲げモーメントとなり、モーメント図も正側に描かれます。
連続ばりの中間支点付近では、上へ反るような曲げが発生しやすく、負曲げモーメントとなります。
たわみの形を頭の中でイメージし、上側と下側のどちらが引張かを考えると判断が安定します。
モーメント図だけを暗記せず、部材の変形と応力から考えることが理解への近道です。
図の上下と符号の約束
曲げモーメント図を部材軸の上側に描くか下側に描くかは、教科書や会社の作図基準によって異なる場合があります。
一般的には、正曲げモーメントを下側に描く表現もよく見られます。
これは、引張側にモーメント図を描く慣習があるためです。
一方で、座標の正方向に合わせて正の値を上側へ描く資料もあります。
図の上下だけで正負を断定せず、問題文や凡例の取り決めを確認してください。
数値の符号、断面に描いた内力、たわみ形状の三つが一致しているかを見ると安心です。
モーメント図の上側と下側の表現には流儀があります。
試験、授業、設計図書では、その場で指定された作図ルールを優先し、凡例を明記することが重要です。
反力計算から始める重要性
せん断力図と曲げモーメント図は、支点反力が正しく求められていることを前提に作成します。
反力を誤ると、その後のせん断力とモーメントの値がすべてずれてしまいます。
まず鉛直方向の力の合計がゼロとなるかを確認し、次に任意の点まわりのモーメントがゼロとなるかを確かめます。
単純支持ばりでは、両端の曲げモーメントがゼロになることも有効なチェック項目です。
自由端をもつ片持ちばりでは自由端の曲げモーメントがゼロとなり、固定端で最大になりやすい特徴があります。
反力、せん断力、曲げモーメントを別々の作業にせず、連続した流れとして確認するとミスを減らせます。
せん断力とモーメント図のまとめ
せん断力と曲げモーメントの正負は、構造力学の計算で避けて通れない基本事項です。
せん断力は断面を上下にずらそうとする内力であり、曲げモーメントは部材をたわませようとする内力です。
左側断面を取り出す場合には、正のせん断力を上向き、正の曲げモーメントを反時計回りとして扱う方法が一般的です。
右側部分を取り出すときは、作用反作用の関係により矢印と回転方向が逆になります。
途中で符号の約束を変えないことが、最も基本的で重要なポイントでしょう。
また、集中荷重ではせん断力図が段差になり、等分布荷重では直線的に変化します。
せん断力がゼロとなる位置は、曲げモーメントが最大または最小となる重要な位置です。
正曲げでは下側が引張、負曲げでは上側が引張となるため、たわみ形状や材料の応力状態と合わせて考えると理解が深まります。
反力の釣り合い、せん断力図の形、モーメント図の形、端部条件を順に確認しながら、安定した作図と計算につなげてください。